平成29(2017)年度
におい・かおり環境協会賞
「かおり de 縁 JOY 農」~かおりでえんじょいのう~
企画者:自然処
場所:熊本県水俣市
訪問日時
2020年10月13日午前
訪問先
自然処 代表処長 塩根 嗣理 氏
自然処農縁 農縁長 湧川さやか 氏
柏木 敏治 氏 川遊び・ものづくり隊長
柏木 智恵子 氏 自然&植栽お楽しみ係
三瓶 彰治 氏 耕作ボランティア(福島県只見町在住)
企画の概要
ヒアリング内容
平成29年度 におい・かおり環境協会賞を受賞した自然処農縁を訪ねました。お邪魔した水俣市月浦地区は台地性緑化傾斜地が多く、畑作が盛んな土地です。特にみかんは隣接する袋地区とともに水俣みかん発祥の地とのこと。そんな中、自然処農縁は水俣病の舞台となった水俣湾に直接注ぐ小さな坂口川の近くにある水田の耕作放棄地での企画です。坂口川の水を生かし、同じような悲劇のないように、植栽地の運営だけでなく、地元の子どもたちと河川・海岸の環境調査を行い、川・磯遊び講座を開催し、海の清掃活動や地域の海を豊かにするビジョンづくりにも取り組んでいるとのこと。
水俣駅から車で約10分。現地には、のぼりが立てられていましたが、今回は15分程度かかりました。少し迷ってしまったので、案内板あるいはサインがあるともっとよいかもしれません。
代表の塩根さんから現況を伺い「7月の豪雨災害で芦北町にある事務所も被災してしまい、忙しく、数日前に久しぶりに草刈りをした。企画地については、特に大きな被害はなかった。」とのことでした。また、塩根さんから事前に履物について案内もありましたが、もともと水田であったため、雨が降ってしまうとぬかるむ土壌で普段からその土壌を活用しながら、その環境に適した植物を育成しているそうです。視察日当日は快晴でしたので、ぬかるみはありませんでした。
企画地には、日除けの場所、休憩所、手洗い施設やトイレなどがなく、訪問者や作業者にとっては厳しい環境と思われましたが、塩根さんからは、企画地には元々センダンの大木がありその木陰で自然を感じながら休憩する環境体験も活動の一部であり、トイレについても企画地から100mほど離れたところに農機具や資材管理用の小屋に併設されたトイレがあり利用できるとのことでした。また、手洗い施設については、農園体験時に単に泥を落とすだけならば企画地内の水路や坂口川の水を利用してもらい、衛生管理用の手洗い水は参加人数に応じて10ℓ~300ℓの貯水タンクに水道水を汲んで持参して対応しているとのことでした。
最初に「自然処農縁」で栽培しているイネ科のマコモダケを生で試食させていただきました。香りはあまり感じられませんでしたが、料理の際にトウモロコシの皮をむいた時のような、筍の皮をむいた時のような香りがあるようです。小峯先生からは「これは、生でスライスしてサラダにしてもいいかもしれない」との意見がありました。視察の最後に、マコモの葉とレモングラスのお茶をいただきました。マコモの微細な香りを通して自然を身近に感じてもらいたいという想いで、このお茶の販売を事業化し展開させたいと考えているそうです。あけび、グァバ、バナナなども味見させていただきました。
ポポー、フェイジョア、ナツメなどの樹木は成長していました。昨年度のアンケートでも、「大苗のブルーベリーやキンカンなどは、著しいカミキリムシの被害にあっています。一方、当方で増殖したり購入したりして・・アドバイザーがおられると植栽の充実がさらに図れると感じています」と、虫の被害とアドバイザーの必要性を記されていました。今回、カモミールやラベンダー類の草花が、過湿と高温でほとんど枯れてしまったので、植物の好適環境や管理手法のアドバイスが受けられるとありがたいとの意見もいただきました。
柑橘類は、熊本は産地でもあり専門家の指導も受けられているとのこと。甘夏、キンカン、レモンなどの柑橘類の樹木が、香りの散歩道として植えられていました。塩根さんも「香りの主軸としての柑橘」とおっしゃっていて、やはりさわやかな柑橘類が地域の香りとして根付いているようです。
企画時、およびアンケート時に書かれていたコンパニオンプランツ、バリアプランツ等についても、他の全国の企画地も苦労している問題点ですが、こちらも実際のところは難しいと塩根さん。最初はうまくいっていたとのことでしたが、周りの環境やその地域の生態系の影響により、思うように継続することが難しいと思われました。
柑橘類などの根元にビニール被覆材のかわりに、海岸域に自生するアマモを敷き、肥料としての効果も狙った海藻農法にも取り組んでいました。アマモの収穫量は減少傾向にあるようで、量の確保が難しいとのこと。こちらでは、柑橘類や一部の樹木に利用していました。
塩根さんは「地域と農林業の衰退を象徴する雑草の茂った耕作放棄地。Uターンして帰ってきて、その景色を見てなんとかしたいと思い、ここに香りの植物を植栽することで、活気ある新しい農的風景と散歩が楽しくなる道、農や生き物との触れ合いの場を創出していけないだろうかと考え、応募した」と企画への思いを語ってくださいました。資金面、労働面などの課題も伺い、現在、まだ取り組みへの挑戦途中とのこと。コロナ禍や豪雨の被害もありご苦労が多かっただろうと推測します。
地域と農林業の衰退を象徴する雑草の覆い茂った耕作放棄地。
その風景を目のあたりにしながらの散歩は、どこか足が重くなります。
ここに、香りの植物を植栽することで、活気ある新しい農的風景と散歩が楽しくなる道、農や生き物との触れ合いの場を創出していけないものでしょうか。
本企画では、香りの植物を農薬や肥料を代替するものとして活用、安全安心な食や農、よりよい環境、生き物と人の賑わいづくりを水俣の田畑と散歩道から発信していきます。