「みどり香るまちづくり 企画コンテスト」みどり香るまちの現場

平成26(2014)年度

環境大臣賞

くにたち路地庭プロジェクト 地域を結ぶ香りの路地庭みち

企画者:花と緑のまちづくり協議会(現くにたち花と緑のまちづくり協議会)

場所:東京都国立市

訪問日時

2020年9月17日午前

訪問先

国立市 東京都国立市

 国立市生活環境部 環境政策課 花と緑と水の係 係長 長南修弘氏

 国立市生活環境部 環境政策課 花と緑と水の係    岩﨑慶太氏

 地域住民ほか 片桐様(町内会会長)、飯島様(植栽に詳しい方)

 宇津野様(地域住民)、谷口様(地域住民)、伊藤様(実行委員長伊藤様の奥様)ほかお名前伺えなかった方含め7名

企画の概要

 通りかかった路地から風に乗って、ふと漂ってくる香り。

それは庭先に咲くきれいな花の香りだったり、雨に濡れた土の香りだったり、はたまたキッチンから香る家庭料理の香りだったり・・・。誰でも一度は、そんな路地の香りを体験したことがあるのではないでしょうか。


 路地の香りは、私たちの懐かしい記憶を呼び起こし、気持ちを豊かにしてくれます。香りの路地庭とは、裏通りの狭い道や袋小路などのいわゆる路地を活かした、どこか懐かしさを感じる花と緑の香りであふれた路地沿いの庭という意味の造語です。

 大正末期、田園都市計画の一環として開発された文教都市「国立のまち」。JR 中央線「国立駅」南口の幅員約44 メートルの大学通りから放射線状に広がる美しい街並みで知られています。そのイメージから、線路に分断・切り離されていた市内北地域に計画地はあります。

 しかし近年のJR 線の高架化に伴い、南北の通行が容易になり、利便性が格段に向上してきました。この市境界の地区には昔ながらの住宅が広がり、それらが細い路地でつながっています。表の大通りにくらべて目立たない存在の住宅街の路地沿いの民有地を緑化し、みどり香る「路地庭みち」をつくる本企画は、国立市のみならず、全国津々浦々の路地が存在するすべての場所で実現可能な取り組みです。

ヒアリング内容

 平成26年度環境大臣賞受賞の「くにたち路地庭プロジェクト 地域を結ぶ香りの路地庭みち」を訪問しました。国立市生活環境部環境政策課係長の長南さん、岩﨑さんに、応募までの経緯や、国立市の緑の取り組み、現在の状況などをお教えいただきました。また、“香りの路地庭みち”に、近隣住民の方々もお集まり下さり、お話を伺うことができました。


 大正末期に田園都市計画の一環として開発された文教都市「国立」。JR中央線国立駅南口の大学通りは放射状に広がる美しい街並みで知られています。企画地“地域を結ぶ香りの路地庭みち”は、国立駅北口から西の立川方面に約700〜800メートル、徒歩12〜13分ほどの住宅地にあります。企画は、昔ながらの住宅が広がる中の細い路地、住民の生活の道を利用した計画です。

 昔は畑が目立つ地域でしたが、50年くらい前から住宅が増えてきたそうです。数十年前から中央線連続立体事業とも絡む都市計画道路の一つ、西側立川市と東側国分寺市を結ぶ「北大通り」の整備が始まりました。広い通りができて、便利になった一方で、民有地の路地道が分断され、これまで17世帯一つだった地域が割れてしまいました。その17世帯のお宅の庭と道を景観と香りでつないでいます。


 国立市では平成25年から「花と緑のまちづくり事業」として緑化計画に取り組んでいました。当初から、公と民が両立しないと緑は残していけないだろうと考えていて、一つのテーマとして “民有地の活用”がありました。また、「道沿いガーデン」という安全緑地推進事業で、倒壊の危険性のあるブロック塀を生垣に変えることによって街の安全を高める。これを助成事業としてやっていたのですが、申請者が増えず、なかなか緑のまちづくり事業が進まないという悩みも抱えていたのです。ちょうどそんなとき、このコンテストがあることを知りまして。「香り」というテーマはおもしろい。単に緑を増やそうだけではなく、もう一工夫あれば、より楽しい取り組みになるんじゃないかということで、締め切り間近だったこともあり、急きょこのコンテストの企画に寄せるように、香りを取り入れることになったのです。


 国立市は、国立駅前の学園通りの印象や、一橋大学、JRをはじめ大きな敷地の研究所も多く、緑多い自治体のように思われていますが、じつは、公共の緑がとても少ない市だそうです。一方で、NPO法人「日本公開庭園機構」というオープンガーデンを推進する団体を立ち上げた方が、もともと国立市民の方だったそうで。今、全国にオープンガーデンに取り組んでいる地域が多くありますが、そのはじまりの一つが国立市にもあったようです。


 受賞時にいただいた樹木のうち、ローズマリー、ラベンダーは一部残っていましたが、受賞時に大量に植えたヒメイワダレソウは、繁茂しすぎて、私有地内や他の植栽にまで覆いかぶさりすべて撤去したとのこと。また、個人宅内に植えた、オガタマ・キンカン・ギンバイカ・コブシ・クチナシ等は元気に育っていました。壁面のつる植物、カロライナジャスミンやハゴロモジャスミン、モッコウバラたちは、うまく環境になじみちょうどよく成長しているようでした。

 地域での活動として、雑草をとる等の活動は続けられていましたが、積極的な活動は行われていないようでした。企画時に17世帯のまとめ役として活動されていた伊藤さんが昨年秋にお亡くなりになってしまったとのこと。視察途中で、伊藤さんの奥さまも「路地庭みち」に出てきてくださいました。住民の方々への企画の説明など、ご苦労も多かったようですが、具合が悪くなっても「メンテナンスしなければ」と路地庭みちの手入れをずっと気にされていたそうです。「お父さんの残したものを枯らしてはいけないと思い、なんとかやっています」とのこと。伊藤さんは、亡くなったあとも、この街の香りをつないでくださっているのかもしれません。


 この地区の周辺は昔ながらの住宅が広がり、それらが細い路地でつながっています。表の大通りにくらべて目立たない住宅街の路地沿いの民有地を緑化し、みどり香る「路地庭みち」をつくる。市と住民の協力なくしては実現できない難しい企画ですが、ぜひ国立市の「路地庭みち」が全国の路地が存在するすべての場所のモデルケースになってほしいと願います。

路地で複数の人が向かい合ってお話を伺っています。

企画地の路地にてお話を伺いました

路地の塀が緑化されています。

企画当時「路地みち」まとめ役だった伊藤さん宅。壁面はテイカカズラ

住宅の前に緑があります。

路地裏の一角、現状。(17軒のうちの、あるお宅の前)住民の方々、それぞれ愛情を注いでいることが伝わります

白い花に蝶が止まっています。

伊藤さん宅前のテイカカズラと蝶々

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