「みどり香るまちづくり 企画コンテスト」みどり香るまちの現場

平成26(2014)年度

におい・かおり環境協会賞

香りも楽しめる現代の日本庭園
~住宅街・日本庭園・多摩川をつなぐ香りの道~

企画者:セントスケープ・デザインスタジオ+高崎設計室/世田谷区役所みどりとみず政策担当部公園緑地課玉川公園管理事

務所/株式会社自然教育研究センター

場所:東京都世田谷区

訪問日時

2020年8月21日午前

訪問先

 世田谷区立二子玉川公園内 帰真園(東京都世田谷区玉川一丁目16 番1 号)

 香り風景デザイナー 小泉 祐貴子 氏

 高崎設計室 高崎 康隆 氏

 株式会社 自然教育研究センター  横田 明子 氏

企画の概要

 東京の西の玄関に位置する二子玉川は、多くの家族連れや小さい子どもからご年配の方まで老若男女が訪れ賑わう、東京の未来を担うエリアである。2013 年春の開園以来、市民の憩いの場として定着しつつある帰真園に、香りの日本庭園というユニークな彩りを加えて、四季折々の風景の美しさ、楽しさを五感で感じとってもらえる場所にしようという計画。「香り」をきっかけとした新しい東京の名所として、国内から訪れる方にも海外からのビジターにも、ユニバーサルに、日本文化の伝統や暮らしにひそむ美しさ・楽しさ・豊かさを発信できる場としていきたい。

<香りも楽しめる日本庭園>

 日本庭園という場にふさわしい「香り」の風景を作りだせるよう、日本に自生し、古典文学に登場する、古来より親しまれている香りの植物たちを中心に活用する。

<香りでつなぐ防災の道>

 現代の都市部につくられた日本庭園、という独自性で存在感を示す帰真園。駅二階から庭園までつながる遊歩道は、連続した藤棚で誘導される。遊歩道の終点正面にあるビジターセンター周辺から庭園入口、庭園の外周部に沿って「フジ」を象徴的に配置することで、フジ(藤・富士)をきっかけとした街への連続性を生み出す。また、駅から庭園外周部へと続く歩道は、近隣住民の災害時の避難経路にも指定されており、日ごろから散歩したくなるような場所をつくることで、緊急時の冷静な対応を促せるものと考える。

<地域に愛される日本庭園>

 日本の文化に根ざした香りの植物の面白さを体験してもらうイベントを企画するなど、楽しい五感の学びの場としての活用も展開していく。海外からの観光客も呼び込んで、日本文化発信の一拠点としていきたい。

ヒアリング内容

 二子玉川公園は東急・二子玉川駅東側の再開発で、平成25(2013)年に整備されました。国分寺崖線のみどりと多摩川の水辺に囲まれた場所に位置している自然豊かな公園です。二子玉川駅から二子玉川ライズ、リボンストリートを歩くと9分ほどで到着します。

 企画地の「帰真園」は、その園内に世田谷区として初めてつくられた本格的回遊式日本庭園です。日本庭園の集大成とも位置づけられる回遊式庭園は、もともとは室町時代における禅宗寺院や江戸時代においては大名により多く造営された形式で、帰真園という名称には、世田谷本来の自然に回帰するという意味が含まれているとのこと。

 約5800平方メートルの庭園は、多摩川の源流から下流まで、国分寺崖線のみどり豊かな丘陵と武蔵野の風景を表現した空間となっています。


 園内にある旧清水邸書院にて受賞後の取り組みや今後についてなどお話を伺いました。

 最初に、受賞後の取り組み、イベント開催の様子などを自然教育研究センター横田さんがスライドを使ってご説明くださいました。イベントは、絵本と日本庭園をテーマにしたものや、秋分の日の月見イベント、源氏物語の風景と香りをテーマにしたものなど、子どもから大人まで幅広く楽しめるものを企画。とくに小泉さんが主催する日本の伝統文化と香りを織り交ぜたイベントは盛況だそうです。これらのイベントは、環境教育、情操教育の場にもなっています。


 維持管理は、受賞時以降、区から毎年予算化されており、植栽作業や手入れは指定業者に任せています。(今年度の世田谷区の指定業者は石勝エクステリア)また、植栽体験ができるイベントにて来場者に植物を植えてもらうなどの行事や、東京農業大学の授業でも手入れ等を行っているそうです。


 庭園には、すぐそばのオフィスで働く方、近隣にお住まいの方から、県外の方も多くいらっしゃるそうで、大人から子どもまで集まります。

 ユニバーサルデザインを意識し、車いすの方でも来られるよう、階段を上らなくても楽しめるようなデザイン、車いすの方が方向転換できるスペースを多くの箇所に設計で取り込んでいます。実際に開催するイベントでも障がい者の方が来られ、楽しんでいただいているとのこと。


 香り風景デザイナーの小泉さんは、もともと「かおり」をテーマにした庭園を構想していたそうです。

 大学の修士論文では『ストレス負荷による蓄積疲労度と自律神経系指標の評価』を発表。株式会社資生堂にて、人と香りに関する研究に幅広く従事されており、博士論文『匂いの風景論 庭園における複合的感覚体験の分析』を執筆されるなど、学術的な研究に始まり、世界をリードする香料会社フィルメニッヒでは世界的な「香りの市場」におけるマーケティングに従事する等、香りとともに20年以上、さまざまな視点と独自のアプローチで「香り」を追求してきました。

 平成28年のみどり香るまちづくりコンテストの受賞式にも、特別講演として受賞後の植栽の成長を見守っているお話なども含め、「香り風景」を創り出すお仕事についてご講演いただいています。英国王立園芸協会から出版された『香り植物図鑑 花・葉・樹皮の香りを愉しむ』の翻訳もされていて、こちらの書籍も拝見させていただきました。


 ビル街にある公園ということで、ビル風、冬場の多摩川からの風や土壌が難しいせいもあり、うまく成長する植物が少なく、定着するものを選ぶようにするものの失敗も多いそう。

 帰真園のエントランス横のシロフジは、春から初夏にかけて甘いやさしい香りで私たちを出迎えてくれるであろうと想像します。道沿いに数十メートルにわたってシロフジが壁をつくっている景色は他ではあまり見たことがありません。受賞時の副賞でもシロフジに特化している企画はまれだろうと思われます。シロフジが満開の時期(4月の終わり頃から6月の初旬)にあらためて訪れたいです。フジの香りは癒やしの効果も大きいとのこと。

 今後の展開としては、今年で開園して8年目となりますが、花の名所としてはまだ実力不足のため、取り組みを継続しつつ、スイセンの名所となるように力を注ぎたいとのこと。


 こちらから、香りのエビデンスについての質問をさせていただきましたが、小泉さんも同じような悩みを抱えているようでした。植物の香りについて問い合わせをする、関心を持つ方は学生からご年配の方まで幅広くいらっしゃいますが、数値化も含めて、セミナーや資格制度など体系的なものがないことが残念とのこと。

 昨年度のアンケートでも同様の意見が寄せられており、これからの課題だと思いました。


 日本の文化に根ざした香りの植物の面白さを体験してもらうイベント、楽しい五感の学びの場としての活用もされており、「香り」と「日本文化」を発信するすばらしい取り組みについてうかがうことができました。

和室で、説明を受けている様子です。

左から小泉さん、高崎さん、横田さん、環境省職員2名

男女5名の方がいます。奥には木々が立ち並んでいます。

夏の香りと風景を楽しむ

幅広い道の右側に、木が茂っています。

庭の外周沿いのフェンスには副賞で贈ったシロフジが成長しています

水色の空が広く広がっていて、手前には木に囲まれた建物が見えます。

帰真園のパンフレット

植物ガイドです。説明が書かれています。

園内の植物紹介も充実している

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