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3.暴露の状況

(1)通常レベルの暴露

(1) 欧米諸国

 通常生活における暴露のほぼ90%以上は食事を通じて生じ、なかでも肉や乳製品等の動物性食品が主要な摂取源である。主要な工業国での調査によれば、一般にダイオキシン類と呼ばれているポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(PCDD)とポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の暴露量は、1~3 pgTEQ/kg/日とされる。なお、ダイオキシン類と同様な性質を有するコプラナーポリ塩化ビフェニル(コプラナーPCB)を加えると、2~6 pgTEQ/kg/日とされている5)

(2) 日本

 我が国での平均的な暴露量は、欧米諸国のレベルとほぼ同程度ないし低いレベルにある。
 厚生省の食品調査(1997年度(平成9年度)、マーケットバスケット方式)では、ダイオキシン類への暴露は0.96pgTEQ/kg/日となっており、また、3種類のコプラナーPCBを含めると2.41pgTEQ/kg/日である6)。なお、飲料水からの暴露はほとんど無視できるほど小さい。
 大気からのダイオキシン類の暴露量は、1997年度に環境庁及び地方公共団体が実施したモニタリング調査結果7)の平均値0.55pgTEQ/mをもとに、1997年度ダイオキシンリスク評価検討会報告書4)等の試算方法に準じて計算すると、0.17pgTEQ/kg/日である。また、コプラナーPCBについては、現状ではデータが少ないが、1997年度の環境庁の調査結果8)における濃度範囲は0.044~0.026pgTEQ/mであり、ダイオキシン類の濃度に比べて低いため、12種類のコプラナーPCBを加えても、暴露量は0.17pgTEQ/kg/日と変わらない。
 土壌からの暴露量は、全国的な土壌中濃度の現状、土壌の摂取量や土壌中ダイオキシン類の吸収率等必要な情報が必ずしも十分でなく、正確な推定が困難であるが、環境庁調査(1997年度)9)をもとに、土壌中のダイオキシン類の濃度を20pgTEQ/g、コプラナーPCBの濃度を2.2 pgTEQ/gとすると、ダイオキシン類の暴露量は0.0022~0.019 pgTEQ/kg/日程度、12種類のコプラナーPCBを加えた暴露量は0.0024~0.021 pgTEQ/kg/日程度が見込まれる。
 これらの各経路からの暴露量を合計すると、ダイオキシン類で1.15pgTEQ/kg/日程度、コプラナーPCBを加えると2.60pgTEQ/kg/日程度が日本人の平均的な暴露量と考えられる。(図1
 このような暴露の結果として、人体の残留レベルは体脂肪中に10~30pgTEQ/g脂肪(体重では2~6 ngTEQ/kgに相当)になっていると考えられる5)。このレベルも主要工業国と同程度である。
(3) 母乳中のダイオキシン
 母乳を飲む乳児の一日摂取量は、諸外国のデータによれば体重当たりにすると成人と比較して大きく、我が国での最近の調査によれば、平均的にはダイオキシン類で概ね60pgTEQ/kg/日程度である10)
 一方、母乳中のダイオキシン濃度は過去20年間で低下しているという報告がいくつかの国でなされており、我が国においても、厚生科学研究による大阪府の保存母乳サンプルの調査結果では、1973年から1996年の間にダイオキシン類及び3種類のコプラナーPCBで半分以下に低減している。(図2

(2)事故による暴露及び職業暴露

 事故による暴露や職業暴露により、通常レベルよりはるかに高い暴露を受けることがある。

(1) 事故による暴露

 地域的な事故汚染例として、米国・タイムズビーチの汚染やイタリア・セベソにおける化学品工場爆発事故等が知られている。セベソにおいては、2,3,7,8-TCDDの血清レベルは最大56,000pgTEQ/g脂肪であり、Aゾーン(高汚染地域)及びBゾーン(中汚染地域)でのそれぞれの中央値は450pgTEQ/g 脂肪及び126pgTEQ/g脂肪である12)
 食品のPCB汚染による中毒が、日本(1968年)及び台湾(1978年)において発生している。いずれも熱媒体として用いられたPCBとともに、極少量のダイオキシン類が食用油に混入したことによると言われている13,14)

(2) 職業暴露

 職業暴露の事例としては、2,4,5-トリクロロフェノール(2,4,5-TP)及びその誘導体の合成と使用にかかわる化学工場内での2,3,7,8-TCDDの暴露による中毒例が知られている。これらの事例の疫学調査において高濃度暴露労働者の血中2,3,7,8-TCDD濃度のレベルを推定すると、140~2,000pgTEQ/g脂肪とされている15)。この推計値は通常人口集団の血中レベルの10~100倍である。
 廃棄物焼却に伴う、ダイオキシン類への労働者の過剰暴露の事例としては、欧米での顕著な事例の研究が見当たらないが、最近我が国において行われた大阪府能勢町の廃棄物焼却施設に関連した調査では、比較的高い値が示されている16)

注) ダイオキシンの毒性等量は、I-TEF(1988)、WHO-TEF(1993)、WHO-TEF(1997)など用いる毒性等価係数により 若干異なるが、本文中には各引用文献に記載されていた毒性等量をそのまま 表記している。


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