第4節 チャレンジ25という将来世代への約束

1 チャレンジ25を実現する国全体の制度

 IPCCが「地球温暖化は疑う余地がない」と断定しているように、地球温暖化問題は待ったなしの状況です。

 一方、世界同時不況から脱するための取組は、まさにこれから正念場を迎えます。このため、新たな持続的な需要と雇用を確保することが求められています。

 このような状況を踏まえ、今こそ、環境関連投資等の思い切った政策を行うことで、経済発展を牽引し雇用を創出する必要があります。さらには、このような政策を通じて、社会のあり方全体を未来に向けて持続可能なものに変えていかなければなりません。

(1)新成長戦略(基本方針)

 「リーマンショック」の傷跡など、私たちの前には大きな課題が迫ってきています。しかしながら、環境大国、科学・技術立国というわが国が元来持つ強み、個人金融資産(1,400兆円)や住宅・土地等実物資産(1,000兆円)を活かしつつ、アジア、地域を成長のフロンティアと位置づけて取り組めば、成長の機会は十分存在します。このような観点に立ってまとめられた「新成長戦略(基本方針)」では、グリーン・イノベーション(環境エネルギー分野革新)による環境・エネルギー大国戦略がその筆頭に掲げられています。

 新成長戦略に掲げられた施策を総合的に実施することにより、2020 年までに50兆円超の環境関連新規市場、140万人の環境分野の新規雇用の創設といった経済成長を目標としつつ、低炭素社会への転換を図ります。

(2)地球温暖化対策(低炭素化促進)のための税制全体のグリーン化

 環境税の取扱いを含め、税制のグリーン化も重要な課題です。平成22年度税制改正大綱では、個別間接税に関連し、「グッド減税、バッド課税」という考え方に立ち、地球規模での課題に対応した税制の検討が行われました。

 地球温暖化対策のための税については、中央環境審議会グリーン税制とその経済分析等に関する専門委員会において審議が行われました。環境省では、平成21年度においても地球温暖化対策税の創設について要望しました。また、平成22年度の所得税法等の一部を改正する法律附則において、「当分の間規定する税率の取扱いを含め、平成23年度の実施に向けた成案を得るよう検討を行うものとする」と規定されました。

(3)地球温暖化対策基本法の制定と対策の推進

 わが国の地球温暖化対策の基本的な方向性を明らかにするために、地球温暖化対策基本法案を平成22年3月に閣議決定し、国会に提出しました。


地球温暖化対策基本法案(平成22年3月12日閣議決定)の概要

 また、同法では、地球温暖化対策に関する基本的な計画(基本計画)を定めることとしていますが、まずは2020年25%、2050年80%削減を実現するための具体的な対策・施策の一つの絵姿、及びその場合の経済効果を提示するため、2010年(平成22年)3月31日に「地球温暖化対策に係る中長期ロードマップ(環境大臣試案)」を発表しました。今回の試案は、今後国民の御意見を伺いながら、より充実したものとなるよう精査していく予定です。

 そして、そのような道筋を踏まえ、すべての国民が力を合わせて「地球と日本の環境」を守り、未来に引き継いでいくためのチャレンジ25を推進する国民運動「チャレンジ25キャンペーン」を展開します。


諸外国における温暖化対策に関連する主な税制改正の経緯


地球温暖化対策に係る中長期ロードマップ(概要)〜環境大臣小沢鋭仁試案〜


チャレンジ25キャンペーン

2 チャレンジ25につながるさまざまな主体の取組

 このような政府の取組と相前後して、民間企業などあらゆる主体で地球温暖化に対する問題意識が高まり、さまざまな二酸化炭素削減の取組が始まっています。

 二酸化炭素の排出量の推移を部門別にみると、商業・サービス・事務所等を含む業務その他部門及び家庭部門では、二酸化炭素排出量は増加傾向にあるのですが、これらの部門は、現状で削減対策ができていないだけに、エネルギー使用のムダやムラが潜んでおり、まだまだ対策の余地があるものといえましょう。


 対策の余地という観点では、製品製造工程等の最も主要と思われる二酸化炭素排出過程のみならず、原材料調達過程(上流側)や製品の出荷・物流過程、使用、廃棄等(下流側)での排出にも留意し、サプライチェーン全体で可能な対策を講じることも非常に重要です。

 上流から下流までをトータルでとらえるという考え方を国全体に拡げると、さまざまな産業で原材料調達などを環境配慮度合いの低い海外に依存せざるを得ない場合もありますし、大量に二酸化炭素を排出して製造された製品が輸入されることもあります。一方で、国内では、環境配慮型の工程で製造された製品や、製品そのものが環境性能が高いというものも多数あり、そのような製品が輸出されて、海外での排出削減に貢献している場合も多数あると考えられます。これらをトータルで捉えて、わが国の産業全体として、世界全体でみて二酸化炭素排出を削減できるような産業構造とすることが望まれます。


 地球温暖化に問題意識を持ち、生活や事業活動から排出される二酸化炭素を削減したい人々(個人、法人とも)に対して、利用するさまざまな商品やサービスからの二酸化炭素排出量の情報提供、すなわち「見える化」は、その行動を強く後押しします。また、人々の地球温暖化に対する問題意識の高まりに呼応して、二酸化炭素の排出削減に取り組む姿勢が、企業や商品のブランド価値を高める時代になってきました。このような状況を背景として、例えばカーボン・オフセット付き商品サービスを提供することにより、自社ブランドのイメージを向上させることも狙って、海外から買い取った二酸化炭素排出権を国に寄付し、カーボン・オフセットを行う企業が増加中です。


オフセット・クレジット(J-VER)制度について

 また、大胆に街ぐるみで住宅や商業施設からの二酸化炭素排出削減に取り組む事例も現れてきました。埼玉県越谷市では、独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)を施行者とする「越谷レイクタウン」事業において、環境共生のまちづくりがなされています。


越谷レイクタウン土地区画整理事業


 これらの取組事例のように、企業が自主的に二酸化炭素排出権や割高なグリーン電力を購入したり、民間主導で二酸化炭素削減を目的とした大型プロジェクトが実行されたりするようになってきたということは、それだけ地球温暖化対策の意義が人々の間で浸透してきたことの現れであり、同時に環境を保全しながら経済をも発展させるための具体的な方法論が産み出されてきたことの現れであると考えられます。

 地球温暖化対策の取組は、わが国一国にとどまるものではありませんが、そのために、人々の文化や豊かさが犠牲になるようでは、継続的に対策を行うことはできないでしょう。生活水準を落とさずに対策を行うには、革新的な技術が必要です。そして新成長戦略にも掲げられているとおり、わが国の環境技術は、今後の日本経済にとり最大の強みであり、世界の二酸化炭素排出削減に貢献できるものであるといえるほどのすぐれたものと考えられます。

 しかしながら、それぞれの国情や激しい国際競争の実態にかんがみると、全世界にわが国の製品や技術を普及させることは、必ずしも容易ではありません。わが国のもつ省エネルギー技術などの移転・普及に向けては、当該国の国情に応じた最適な技術の特定・開発や、技術の維持・管理のための人材育成、適切な資金支援や法制度整備を行っていく必要があります。こうした取組を促進するためにも、鳩山イニシアティブを通じ途上国支援の仕組みを有効に活用するとともに、日本が世界に誇るクリーンな技術や製品・インフラ・生産設備などの提供を行った企業の貢献が適切に評価される仕組みの構築など、相手国とウィン−ウィンの関係をもって進めることも検討の視野に入れるべきでしょう。

 他方で、わが国の産業界は、世界に先駆けてさらなる環境技術の高度化を追求し、率先してそのようなトップランナーの生産技術を導入することも忘れてはなりません。

 これらには技術的に大きなチャレンジがありますが、こうしたチャレンジを克服していく過程で、今後のわが国の経済を強力に牽引する「輸出商品」が誕生することにつながると考えられます。


有機ELラウンジ


「見える化」によるソリューション
−企業の利益創出と二酸化炭素排出量削減の両立に向けて−


 電気・ガスなどのエネルギーは無形のため、通常、使用量を目で見ることはできないのですが、これをセンサー等を使用して「見える化」することにより、いつ・どこで・どのくらいのエネルギーを使っているか、より詳しい分析を行うことが可能となります。従来、二酸化炭素削減対策がむずかしいと思われてきた、業務民生分野であるオフィス・家庭などでも、電力消費量を「見える化」することで、意外とかなりのムラ・ムダが見つかるものなのです。

 近年では、顧客の工場やオフィス等で、この目に見えない使用エネルギー量を「見える化」し、それによって見えたムダ・ムラを指摘、改善をアドバイスするといった事業も始まり、それを利用した省エネ・環境対策活動が活発化してきています。

 製造業においても、より細かなエネルギー計測を行い、設備ごと・生産ラインごとに「見える化」を行うと、意外とまだまだ改善の余地があることが分かります。また、年々二酸化炭素排出量が増えてきている民生業務分野では、さらに省エネの改善余地があることが想定されます。多店舗型業態の企業は店舗に注目されがちですが、企業全体を捉え、物流・倉庫・工場等、エネルギー使用量の多い拠点の管理も行うことにより、更に二酸化炭素排出の削減余地が出てくることが見込まれます。

 「見える化」からの省エネ活動は、先進的に京都市立の幼稚園・小中高等学校において「京都モデル」として活発なエコ活動として取り組まれており、大きな省エネ効果を出しています。さらには「見える化」を利用した環境教育により、持続可能な社会に向けた人づくりへの取組が始まっています。学校を起点とし、家庭・地域へ波及していくことにより、さらなる省エネ・環境対策活動の広がりが期待されます。


「見える化」による改善の事例


3 温室効果ガスの排出が削減された将来世代の暮らし

 あらゆる主体の参加による地球温暖化対策が功を奏して温室効果ガスの排出が削減された社会、低炭素社会というのはどのような社会なのでしょうか。

 望ましい社会経済の姿は人ぞれぞれ、一つではありません。例えば、環境省では、「脱温暖化社会に向けた中長期的政策オプションの多面的かつ総合的な評価・予測・立案手法の確立に関する総合研究プロジェクト(以下「2050年脱温暖化社会プロジェクト」という。)」において、将来像に幅を持たせ、経済発展・技術志向型のビジョンAと地域重視・自然志向型のビジョンBを想定して、それぞれエネルギーサービスの需要を含むその具体的な姿を描きました。

 一方、技術革新の観点から将来像を想像することもできます。平成20年度に、中央環境審議会地球環境部会において取りまとめられた低炭素社会の具体的イメージでは、例えば下図のような社会像が示されており、低炭素社会の実現に向け、[1]カーボンミニマム、[2]豊かさを実感できる簡素な暮らし、及び[3]自然との共生の実現を基本理念として、あらゆる主体が取組を進めていくことが必要とされています。


低炭素社会構築に向けた2つの社会ビジョン


低炭素社会の具体的イメージ まち



前ページ 目次 次ページ