環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第3章>第2節 ライフスタイルイノベーションが促す社会変革

第2節 ライフスタイルイノベーションが促す社会変革

1 ライフスタイルイノベーションが促す脱炭素型の地域循環共生圏

第1節では、私たちの日々の暮らし、働き方、余暇の過ごし方を変えていくこと、すなわちライフスタイルを転換していくことにより、経済活動に大きなシグナルを与え、CO2排出量等の削減等の環境保全に寄与し社会変革を促していくことができる可能性について概説してきました。

加えて、食の地産地消や住まいにおける再生可能エネルギーや木材の利用等地域資源を持続可能な形で利用するライフスタイルは、環境保全に加え、地域の経済循環を促し、地域の農林水産業など地域産業の持続可能性にも寄与するとともに、今後気候変動の影響が顕在化することが予想される中、豪雨災害等による停電や流通が滞った場合などにも対応することが可能です。働き方改革の動きや集団による感染症の広がりを防止する観点等から、テレワーク等の柔軟な働き方も広がりつつあります。さらに、本章では、より健康的な暮らしづくりという観点から、断熱性の高い省エネ住宅や森林浴等の自然体験の有用性などについてもふれてきました。このように環境に配慮したライフスタイルをレジリエントなものにつなげていくという視点も重要です。

一方、私たち一人一人の行動は経済社会や職場などのルール、インフラなど周囲の環境により様々な制約を受けています。環境に負荷が少なく、品質の高いモノやサービスが便利に、手の届く価格で入手可能でなければ、個人の力だけで大きな変革を起こすこともできません。そのため、私たちが、無理なく、便利に、すぐにでも持続可能で脱炭素型のライフスタイルを選択できるような社会や経済をつくっていくため、国民、企業、政府、地方自治体、金融機関等による様々なステークホルダーとの協働が必要です。

地域循環共生圏を創るために、各分野において革新的な取組(イノベーション)が求められています。第五次環境基本計画では、経済社会システム、ライフスタイル、技術といったあらゆる観点からイノベーションを創出することを求めています。

例えば、IGESの研究者らが取りまとめた「ライフスタイルのイノベーションへ向けたEBPM」によれば、ライフスタイルのイノベーションは「個人の単なる意識や選択ではなく、製品・サービスの消費とそれに関連する生活時間、雇用、娯楽、社会的つながり等を含めた生活様式を社会技術システムと一体的に転換することを目指すもの」とされています。

すなわち、ライフスタイルイノベーションに当たっては、個人の積極的な選択に加え、国民一人一人が快適で利便性の高い脱炭素型のライフスタイルが選択できるよう、本章で紹介した事例のような企業、行政、国民等によるライフスタイル転換を促す取組との連携、協働が必要不可欠です。そして、このようなイノベーションを通じて、環境保全、社会福祉、経済の活性化等を同時に実現する脱炭素型の持続可能な地域づくりである「地域循環共生圏」の創造を促すことができると考えられます。

ライフスタイルイノベーションが、具体的にどのような形で地域循環共生圏づくりにつながっていくかについて、図3-2-1、図3-2-2のとおり図示しました。一人一人の個人の積極的な取組と、衣食住、エネルギー・交通サービスを提供するモノづくりやサービス等の地域の多様なビジネスとが協調し、さらには原材料等を提供する農林水産業を活性化させ、地域の自然資源や地球環境保全に貢献します。また、個人の一人多役などの働き方、ワーケーション、エコツーリズムといった余暇の過ごし方が、地域の枠を超えた都会と地方との交流を通じて、持続可能な地域づくりに貢献することができます。

図3-2-1 ライフスタイルイノベーションが促す地域循環共生圏(衣食住編)
図3-2-2 ライフスタイルイノベーションが促す地域循環共生圏(ワーキング・余暇・レジャー編)

環境省では、生活者目線で地域循環共生圏づくりを広げる、すなわち一人一人や1社1社の取組により脱炭素型の持続可能な地域づくりを進める「森里川海プロジェクト」を展開してきました(図3-2-3)。

図3-2-3 つなげよう、支えよう森里川海プロジェクト

森里川海が本来持つ力を再生し、その恵み(清浄な空気、豊かな水、食料・資材等の恵みを供給する力や自然災害へのしなやかな対応力、再生可能エネルギー等)を引き出すことで、森里川海とその恵みが循環する社会をつくります。私たちの暮らしは森里川海の恵みに支えられているだけでなく、日々の暮らし方を変えること、それが企業や行政等の取組と協働することを通じて、森里川海を支えることができ、それが社会変革への原動力となります。

コラム:脱炭素型ライフスタイルのための選択肢

世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑えるためには、私たちのライフスタイルをどのようなものにすればよいのでしょうか。

先にふれた1.5℃ライフスタイルレポートでは、様々な低炭素型の暮らしの選択肢がどの程度の割合で導入されるかに係る採用率を考慮した上で、カーボンフットプリントの削減量を仮の想定で試算しています。日本における特定の低炭素型ライフスタイルの選択肢の総合的影響を評価したところ、約30の選択肢を65-75%の採用率で導入すると2030年までに2℃目標(ネガティブ・エミッション技術の大規模利用を想定)及び1.5℃目標(ネガティブ・エミッション技術の大規模利用に依存しない)が達成できることが試算されています。2050年目標を達成するには、一層多様な低炭素型ライフスタイルの選択肢と、一層革新的な製品・サービスの供給システムを整備することが必要になってきます。したがって、一般市民の行動変化を促進することと並行して、低炭素製品・サービスや、低炭素ソリューションを支えるインフラ設計を含む、有効かつ魅力的な解決策を早急に開発し、広範囲に提供しなければならないともしています。

IGESの研究は、ライフスタイルが温室効果ガス(GHG)排出量や気候変動問題に及ぼす影響を明らかにし、低炭素ライフスタイルによるGHG削減の可能性を評価することを目的としています。どのようなライフスタイルであれば、持続可能で脱炭素型かつ生活の質を更に高めていくことができるのか、地域や個人個人の多様な状況を踏まえ、社会全体で未来の在り方を考えていかなければなりません。そして、持続可能で脱炭素型のモノやサービスが無理なく、便利に、手の届く価格で、すぐにでも広がるよう、新しい生産消費システムと暮らしの在り方を実現することができれば、消費者と生産者のどちらにもメリットがあります。

日本における低炭素型ライフスタイル選択肢の一人当たりカーボンフットプリント削減効果の推計値の比較

2 気候変動をはじめとした地球環境の危機に対応する社会変革に向けて

第1章で述べたとおり、私たちは、気候変動をはじめとして海洋プラスチック汚染、生物多様性の損失等環境の危機的な状況に直面しています。このような中2020年という年は、脱炭素社会づくりに向けた国際的枠組みのであるパリ協定が本格的に運用される年であり、また、海洋プラスチックごみ問題や生物多様性保全の観点からも危機的な状況に対応するため更なる取組を強化していく転換点です。

現在の大量生産、大量消費、大量廃棄の経済・社会システムを見直し、さらには、温室効果ガスの排出量の実質ゼロ、海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにする社会変革が求められています。この社会変革は、決して国民に我慢を強いるものではなく、むしろ、心身ともに健康でより豊かな生活を送ることのできる持続可能な社会づくり、すなわち環境・経済・社会を統合的に実現するSDGsの達成に向けて取り組むことが重要です。

このような社会変革を確実に進めていくためには、第2章で述べた政府、地方自治体、企業、金融機関等各主体における率先した取組が求められます。例えば、自治体がバックキャスティングの視点に立って、率先してゼロカーボン宣言を行い、2050年に向けた取組に向けた意欲を示すことを通じて、当該地域内外の企業、市民、団体等の取組を動機付ける新しい動きも始まりました。

これらの主体のパートナーシップのもと、地域の課題を解決するために、地域の多様な資源を活用し、経済社会システム、ライフスタイル、技術といったあらゆる観点からイノベーションを創出して、脱炭素社会や地域循環共生圏の実現につなげることが必要です。

また、私たちの個人のライフスタイルを帰因とする温室効果ガスの排出量は全体の6割に相当する量になっています。第3章においては、このような社会の動きと併せて、環境保全と深く関わりのある私たち個人個人のライフスタイルを変えていくことが社会変革に大きく寄与し得ることについて紹介しました。個人が環境とのつながりを意識した日常生活での選択や行動をとっていくライフスタイルの変革と衣食住等のモノづくりやサービス等の地域の多様なビジネスの動きが協調することで、地域循環共生圏を構築していくことができます。

このように気候変動の危機等に対応する社会変革に向けては、政府、地方自治体、企業、金融機関、NPO、研究機関や個人等あらゆる主体が率先した取組を行うとともに、関係主体間の連携・協働することで、脱炭素の持続可能な社会を共創していくことが必要不可欠です。

2020年という年を、各主体のそれぞれが持つ経験、知恵、技術を結集して、具体的な行動を通して社会変革をしていく、持続可能な未来に向けた分岐点にすることが求められています。