環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部>第3章 一人一人から始まる社会変革に向けた取組>第1節 脱炭素型の持続可能な社会づくりに向けたライフスタイルイノベーション

第3章 一人一人から始まる社会変革に向けた取組

第1章で紹介したとおり、世界は気候変動、海洋プラスチックごみ汚染、生物多様性の損失等の危機的な状況に直面していると言えます。このような危機的状況をもたらしたのは、経済・社会システムに起因するものであると同時に、物質的な側面等での利便性の高い生活を追い求めてきた私たちのライフスタイルと実は切り離して考えることはできません。

本章では、私たちの一人一人のライフスタイルと環境とのつながりを述べながら、持続可能な未来に向けたライフスタイルについて、様々な事例の紹介等を通じて論じていきます。

第1節 脱炭素型の持続可能な社会づくりに向けたライフスタイルイノベーション

私たち一人一人の日々の暮らしと環境は、どのようにつながっているのでしょうか。

私たちは日々の暮らしの中で、様々な製品やサービスを購入、使用、不要になったものを捨てています。こうした製品の製造や加工、流通やサービスの提供、ごみを処理する過程においても、CO2などの温室効果ガス(GHG)が排出されています。

こうした様々な過程を通じて私たちの消費が気候変動へもたらす影響を消費ベースで把握するのが「カーボンフットプリント」という考え方です。カーボンフットプリントの考え方では、私たちが消費する製品やサービスのライフサイクル(資源の採取、素材の加工、製品の製造、流通、小売、使用、廃棄)において生じる温室効果ガスの排出を把握することで、地域内で生じる直接的な温室効果ガス排出量だけでなく、輸入品も含め、日本国内での消費がもたらす世界全体における気候変動へのインパクトを明らかにすることができます。

我が国の温室効果ガス排出量を生産ベースで見ると、家計関連に関する排出量は、冷暖房・給湯、家電の使用等の家庭におけるエネルギー消費によるものが中心となり、家計関連の占める割合は小さくなります(図3-1-1)。なお、ここで言う生産ベースとは、日本国内で発生した排出量であり、発電や熱の生産に伴う排出量を、その電力や熱の消費者からの排出として計算した電気・熱配分後の排出量のことです。その一方で、消費ベース(カーボンフットプリント)で見ると、全体の約6割が家計によるものという報告もあります(図3-1-2)。

図3-1-1 生産ベースから見た我が国の温室効果ガス排出源の内訳
図3-1-2 消費ベース(カーボンフットプリント)から見た我が国の温室効果ガス排出量

生産ベースの温室効果ガス排出量は対象期間が2015年度で、消費ベースは2015年であり、それぞれ対象期間が異なるため、一概な比較はできませんが、このように、とらえ方を変えるだけで、私たちのライフスタイルが気候変動等の環境問題に大きな影響を与えていることが見えてきます。

公益財団法人地球環境戦略機関(以下「IGES」という。)が、フィンランドの研究機関との共同研究により「1.5℃ライフスタイル─脱炭素型の暮らしを実現する選択肢─」(以下「1.5℃ライフスタイルレポート」という。)を取りまとめています。これは、パリ協定に対応した一人当たりの家計消費のカーボンフットプリントの目標と現状を整理し、解決策を評価した報告書です。

1.5℃ライフスタイルレポートでは、日本を含む5つの国の一人当たりのライフスタイル・カーボンフットプリントの現状とパリ協定の1.5℃の努力目標及び2℃目標を実現するために必要な削減目標を示しています(図3-1-3)。この図から、私たち日本人の平均的なライフスタイル・カーボンフットプリントで最も大きいのが住居によるもの、次いで移動、食となり、レジャー・サービス、その他の消費財となっています。

私たちは日々の生活の中で、移動手段、住居とエネルギー、食べ物、レジャーなどの様々なモノやサービスについて、自らのニーズを満たすものを利便性、入手可能性、価格、ブランド、デザイン等の観点から選んでいます。

図3-1-3 一人当たりライフスタイル・カーボンフットプリントおよび削減目標とのギャップ

そのモノやサービスが、どのような過程を経て生産、提供され、消費や廃棄段階にどのような環境や地域への影響を与えるのかも考慮して選んでいくことができれば、環境負荷のより少ない経済活動や持続可能な地域づくりを促し、カーボンフットプリントを大きく削減できる可能性があります。

消費者基本計画(2015年3月閣議決定)において、「地域の活性化や雇用なども含む、人や社会・環境に配慮した消費行動」であるエシカル消費を促進することが求められているとしています。今日では、世界中から様々なモノやサービスが供給され、手軽に選択できるようになっており、ライフサイクルを通じた環境や社会に対する負担や影響が、消費者から見えにくくなっています。エシカル消費とは、このライフサイクルを可視化し、環境や人、社会に配慮した商品・サービスを積極的に選択することで、私たち一人一人が環境問題や社会的課題の解決に貢献していくことと言えます。

エシカル消費の範囲は多岐にわたり、エコマーク商品、リサイクル製品、持続可能な森林経営や漁業の認証商品といった「環境への配慮」、フェアトレード商品、寄付付きの商品といった「社会への配慮」、障害者支援につながる商品といった「人への配慮」に加え、地産地消や被災地産品の応援消費等も、エシカル消費に含まれると考えられています。

社会全体が持続可能なライフスタイルへと転換していくためには、私たち一人一人がこうしたモノやサービスを選択していくとともに、同時に消費者が選択しやすいような多様な選択肢の提供と必要な情報提供を行うなどモノやサービスを提供する製造者、小売店、サービス提供者による取組や地方自治体、政府の支援等も重要になってきます。

また、私たち個人の取組としては、消費者としての立場だけでなく、働き方(ワーキング)を含めた暮らし方全体を通じても環境問題や社会的課題の解決に貢献していくこともできます。快適性、利便性を向上しつつ、脱炭素型のライフスタイルへの変革が必要です。

以下では、持続可能な経済活動や社会づくりを促すライフスタイルについて、分野ごとに環境とのつながりを整理するとともに、具体的な事例を通じて考えていきます。

1 衣食住

衣食住は私たちの日々の暮らしにとって欠かせないものである一方、カーボンフットプリントをはじめとした環境負荷も大きなものとなっています。以下、衣食住の中でも温室効果ガスの排出量の多い住まいから順にそれぞれで私たちが取り組めること、私たちの暮らしを豊かにしながら環境保全に資する企業や行政等が取り組むことについて紹介していきます。

(1)住まい
ア 住まいにおける環境とのつながり

住まいは私たちの日々の暮らしの拠点であり、身体を休め、快適に暮らすために最も重要な場所です。

住まいは、建設段階から、使用段階、解体段階等でのCO2排出や化学物質の利用、建設廃棄物の発生等の様々な環境への影響が生じます。その他の資産と比較して耐久年数が長いため、利用している間の環境負荷を削減することが特に重要になります。

住まいと環境とのつながりとしては、CO2排出に加え、資源の利用と室内環境、室外環境等の観点があります。資源の利用については、例えば、地域外の木材ではなく、地元産の木材を選ぶことで、建築資材の輸送にかかるCO2排出量が抑えられ、地域の持続可能な森林管理や林業の活性化にもつながります。建築資材に木材等の自然由来の資材を活用することで、解体時の廃棄物を再利用できるだけでなく、部屋の湿度を一定に保つなど良好な室内環境にもつながります。家の建築資材を工夫することは、住まいのライフサイクルにおける環境負荷や地域活性化にもつながります。敷地内の庭に草木や池を作ることにより地域の生物多様性にも貢献ができます。

以下では、私たちが取り組むことができることとして、住まいの省エネルギー化、再生可能エネルギーの利用、家づくりと住まい方を通じた持続可能な地域づくりに焦点を当てて紹介します。

イ 住まいの省エネルギー化

住まいのCO2排出量では、暖房、給湯、照明・家電等が大きな割合を占めており、地球温暖化対策計画では、2030年度削減目標の達成に向けて、これらの「住まい」の対策により約1,161万kLの省エネルギーを見込んでいます。

住まいに係る取組として、断熱性能の高い住宅の建築、既築住宅の断熱改修及び省エネ型の設備の導入により、暖房や冷房に必要なエネルギー量を下げていくことが重要です。

断熱性能が高い住まいは、健康面でもメリットがあります。住宅の断熱化による生活空間の温熱環境の改善が居住者の健康に与える影響を検証する調査・研究が進められており、断熱改修後に起床時の血圧が有意に低下したことを示す分析結果が得られています(図3-1-4)。また、調査対象等は異なりますが、厚生労働省は、「健康日本21(第2次)」において、40~80歳代の国民の収縮期血圧の平均値を平均4mmHg低下させることを目標(2022年度)としており、これにより、脳血管疾患の死亡数が年間約9,400人、虚血性心疾患の死亡数が年間約4,700人減少すると推計しています。

図3-1-4 住宅の断熱改修後の起床時の最高血圧と最低血圧

また、冬場の風呂場と脱衣所間の移動など、急激な寒暖差は血管を縮め、血圧を急上昇させます。この変化が、意識不明や心筋こうそく・脳こうそくなどを引き起こしたりすることを「ヒートショック」と言いますが、冬場は特に発生しやすくなります。家全体の断熱性が高いと寒暖差が小さくなり快適に過ごすことができるだけでなく、ヒートショックの予防にもつながります。

住まいの断熱性能の強化に関し、建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(平成27年法律第53号)が改正され、2021年4月から300m2未満の住宅を建築する際に、建築士が建築主に対して、設計している住宅が省エネ基準に適合しているか、適合しない場合には省エネ性能を確保するための措置について書面で説明することが義務付けられる予定です。また、分譲の戸建住宅、注文戸建住宅、賃貸アパートに対してトップランナー基準を定め、断熱性能の確保や効率性の高い建築設備の導入に誘導することとなりました。

住まいの省エネルギー性能を示すものとして、建築物省エネルギー性能表示(BELS)制度が導入されています(図3-1-5)。省エネルギー性能を星の数で5段階にランク分けされており、省エネルギー基準達成している家は二つ星で評価される仕組みになっています。このような形で、私たちが、省エネルギー性能を考慮して住宅を選択しやすい環境が整えられています。

図3-1-5 BELS (Building-Housing Energy-efficiency Labeling System)

環境省が実施した平成30年度家庭部門のCO2排出実態統計調査において、戸建の世帯は集合住宅と比べて平均延べ床面積が約2.4倍であり、エネルギー消費量は約1.7倍となっている一方、暖房消費量は集合住宅と比べ約3倍となっています(図3-1-6)。集合住宅は、居室の周辺が隣接の居室に囲まれており、周辺の熱が伝わりやすく、暖房消費量が少なくなっていると想定されます。

図3-1-6 建て方別世帯当たり年間用途別CO2排出量

また、他国と比較して家電製品によるCO2排出量が多いのも特徴です(図3-1-7)。冷蔵庫、照明、テレビ、エアコンの家電製品を各家庭で一斉に買い換えると、約307万t-CO2の削減となり、例えば、東京都内の全世帯約670万世帯が家電を買い換えた場合、2017年度家庭部門CO2排出量約1,700万トンの約18%に相当する量の削減となります。特に、照明に関しては、60形の白熱電球を電球型LED(Light Emitting Diode)ランプに切り替えた場合、消費電力を約85%抑え、ランプ寿命も約40倍長持ちするため、初期費用はかかりますが、ライフサイクルで考えると、大変経済的だと言われています。一つ一つの電気使用量が小さい照明でも、建物全体の照明を可能な限り切り替えることで、大きな節電効果につながります。

また、リビングで家族の団らんを楽しむことにより個々の部屋での冷暖房を減らす、入浴を連続して行うといったライフスタイルの工夫も重要です。

図3-1-7 世帯あたり用途別エネルギー消費量の国際比較

環境省では、地球温暖化対策の国民運動「COOL CHOICE」の一環で、既築住宅の断熱改修、高効率給湯器や高効率照明(LED・有機EL等)の導入、省エネルギー性能が高い家電製品への買換えを提案しています。断熱リフォームにより、天井・壁・床などの断熱施工や開口部の断熱施工(窓の交換、内窓設置、ガラスの交換など)をすることで外気の温度や熱を室内に伝えにくくできます。例えば、住宅から流入出する熱の多くは、窓などの開口部が原因であり、内窓の設置等により窓を断熱リフォームすることで、夏の冷房や冬の暖房を効率的に行うことができます。また、浴室、キッチン、洗面所、トイレなど住宅の水回りで、節水・節湯水栓、節水トイレ、高断熱浴槽などを選択すると、エネルギーの使用を控えられ、CO2の削減につながります。

また、電気自動車(EV)を活用して、自動車のエネルギー消費と家庭のエネルギー消費を一体的に管理して省エネルギーを進めることも可能になってきました。EVを蓄電池として住宅に設置した太陽光発電からの電気を充放電させることにより、家庭の電力の利用の平準化を図ったり、家庭の太陽光から発電した電気でEVを動かすことで移動の脱炭素化を図ることができます。停電時等もEVの蓄電池からの電気を利用できるなど災害にも強いライフスタイルも実現できます。

コラム:ナッジによる省エネライフスタイルへの転換

ナッジ(nudge:そっと後押しする)とは、行動科学の知見の活用により、「人々が自分自身にとってより良い選択を自発的に取れるように手助けする政策手法」です。環境省のナッジ事業として2017年度から日本オラクルや住環境計画研究所が5社の電力会社やガス会社の協力を得て、計30万世帯の家庭に対して、ホームエネルギーレポートを発送する事業を行いました。当該レポートは、発送先世帯のエネルギー消費量を平均世帯や省エネをしている世帯と比較して図で示し、平均世帯より省エネの場合は、にこにこマークを付けるといった「見える化」により「気づき」を与える内容となっています。また、行動の喚起につながるような、分かりやすい省エネのヒントが含まれています。2年間の継続した取組の結果、レポートを送付した各電力会社、ガス会社の世帯において毎月1~2.5%の削減効果が生じ、ナッジの効果が実証されました。

ホームエネルギーレポートの例
ウ ZEH、ZEH-M

私たちの住宅やライフスタイルのゼロエネルギー化に向けて、ZEH(ゼッチ)(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やZEH-M(ゼッチ・マンション)の導入が進んでいます。

ZEH及びZEH-Mは、外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した戸建住宅やマンション等の集合住宅で、「快適な室内環境」と「年間で消費する住宅のエネルギー量が正味でおおむねゼロ以下」を同時に実現できます。

徹底的な省エネや太陽光発電によって、光熱費を下げることができる点はもちろん大きなメリットです。ZEH化した住宅に蓄電システムを備えれば、停電したときにも電気を供給できるなど、災害に強い家としても力を発揮できます。更なるメリットとして、温度差のある部屋の間を移動したときに起こりやすいヒートショックのリスクが低減されるなど、住宅の高断熱化によって快適になるだけでなく、健康面のメリットも期待できます。

環境省・経済産業省・国土交通省は、2030年まで新築住宅の平均でZEHを達成するために、ZEHやZEH-Mの新築・改修を支援することにより、ZEH及びZEH-Mの普及を図っています。新しく建てる住宅や集合住宅はZEH化することで、省エネルギー化を図りつつエネルギーを創出し、夏は涼しく、冬は暖かい快適な生活を実現できます。

エ 再生可能エネルギーの選択及び導入

我が国では、温室効果ガスの9割をCO2が占めており、そのほとんどがエネルギー起源となっています。再生可能エネルギーの導入により、化石燃料の使用を抑え、温室効果ガスを排出しない形でのエネルギー利用が可能となります。

2016年から電力の小売全面自由化が始まり、家庭や商業店舗等の消費者が、電力会社や料金メニューを選択できるようになりました。これにより、消費者は、再生可能エネルギー由来の電気を中心に販売する電気小売事業者から電気を購入できるようになりました。このように、消費者が、再エネ由来の電気の割合の多い事業者を選択することにより、再エネの需要が高まり、再エネの普及・拡大を促すことにつながります。

また、自らの住宅に太陽光発電や太陽熱温水器等の再生可能エネルギー設備の導入と蓄電池や電気自動車等の蓄エネ機器の設置が考えられます。これにより、電気や熱を自給することが可能になるとともに災害時の停電時にも使うことができるようになります。

東京都、名古屋市や長野県では、建物ごとに太陽光発電や太陽熱温水器の設置した場合のエネルギー供給可能量等を分かりやすく説明したポテンシャルマップを公表しています。太陽光発電の初期投資の費用は、段階的に下がっていることから消費者個人でも導入しやすくなっています。

このような中、地方公共団体や地域の事業者が出資して再生可能エネルギーによる電気を販売する地域新電力の取組が広がっています。地域新電力の中には、地域で発電された再生可能エネルギーによる電気を販売するだけでなく、その収益を地域の公共交通機関等の社会福祉の向上等に還元するような取組を行っているところもあります。また、地域レベルで再生可能エネルギーの発電設備を設置し、電気を供給販売する地域新電力から電気を購入することで、地域内での経済循環の活性化が期待されます。

事例:太陽光発電設備の共同購入の取組(神奈川県)

神奈川県では、2019年度から太陽光発電設備をより安価に購入できる共同購入事業を実施しています。これは、太陽光発電設備の購入希望者を募り、一括して発注することで、スケールメリットを活かし、通常よりも安い費用で導入できる全国初の取組です。

この事業は、県が公募の上、選定したアイチューザーと協定を締結して行われています。

事業の流れとしては、まず、県がアイチューザーとともに県民に対して購入希望者を募集するなどの広報を行い、アイチューザーが募集事務や問合せ対応等を行います。

また、アイチューザーが、信用力、工事資格、消費者対応、メンテナンス能力等の基準を満たした施工事業者を入札で選定します。落札した施工事業者は、購入希望者に対して個別に現地調査を行った上で詳細見積もり等を提示します。その後、購入希望者は太陽光発電設備を購入するかどうかを最終決定します。

この事業の特徴は、関わった者の全てにメリットがあるということです。まず、購入希望者は、市場価格より約20%程度安価に太陽光発電設備を設置できます。次に、施工事業者は、営業経費を削減できるほか、設置工事を計画的、効率的に行うことができます。また、アイチューザーは、削減された経費の中から収益を上げることができます。最後に、県は、補助金などの行政コストをかけずに価格低減を促し、太陽光発電設備の設置を進めることができます。神奈川県では、この共同購入事業を実施することで、太陽光発電の更なる普及拡大を目指しています。

共同購入事業の仕組み

事例:エネルギーの地産地消による地域の課題解決(めぐるでんき)

めぐるでんきは、東京ローカルからはじまるエネルギーの地産地消を目指し、地域を元気にすることを目的に、再生可能エネルギー発電事業者から調達した電気の販売事業を展開しており、2019年4月から、地域応援プラットフォーム「めぐるスイッチ」を開始しました。

めぐるスイッチは、消費者がめぐるでんきに支払う電気代の一部を地域に根ざした持続性のあるプロジェクトに資金を還元していくことにより、地域の共感と支援を増やしていくことを目的としています。地域の様々な課題に取り組むプロジェクトを募集し、2019年度は、板橋区のママコミュニティや古民家保存利活用、ものづくり交流の場の設立を目指す団体等、全9プロジェクトを採択・支援しており、子育てママの社会復帰支援とママと社会をつなぐ地域小冊子の発行や大正6年築造の商家を利活用した地域レストラン等の住人活動がより積極的になっています。

同社は、電気代がめぐって地域の豊かさにもどってくることで、地域のコミュニティが創出され、それが地域の課題解決につながっていくことを目指しています。

めぐるでんきの事業イメージ、おむすびをテーマにした地域レストラン
オ 家づくりと住まい方を通じた地域循環共生圏の創造に向けて

私たちの家づくりや住まい方は、地域の木材や再生可能エネルギー等の地域資源の持続可能な利用等を通じて、地域循環共生圏づくりに貢献するものになります。例えば、中山間地域において、地域の木材を利用した家造りに加え、薪ストーブを住宅に設置し、地域の里山の薪を利用することは、地域の持続可能な里山や森林の管理につながります。薪ストーブ利用によって生じる灰は、農地の肥料として活用することもできます。また、再生可能エネルギーによる電気の購入等により再生可能エネルギーの地産地消を促すこともできます。このように、私たちの住み方と地域資源の循環とを結び付けること、そのような住まいづくりを進める企業や行政等との連携・協働により、地域循環共生圏の創造につなげることができます。

事例:地域の自然の恵みを活かし、循環する丁寧な暮らしをつくる「循環の家」(アトリエデフ)

長野県を拠点に住宅の建築やリフォームなどを請け負うアトリエデフでは、人と環境に優しい丁寧な暮らしを実践する「循環の家」づくりを進めています。自然の循環に還ることのできる安心安全な自然素材の活用を徹底し、100年住み続けられる自然と共生する家づくりを行っています。

国産の無垢材、長野県東御市の土と無農薬の藁を使った土壁、国内産の木の断熱材、岩手県産の木酢液や青森ひば油などを加えた天然接着剤等を使用し、化学物質は一切使っていません。土壁は、調湿作用や蓄熱・蓄冷に優れ、使い終われば自然に戻るものです。建具、キッチン、風呂等にも木材をふんだんに使い、職人の手で作ります。建築資材における木材の使用率は一般的な家と比較して1.5倍から2倍ほどになります。住まいのエネルギーは太陽熱、薪ストーブ、薪ボイラー、太陽光等を積極的に取り入れます。また、庭に小さな畑を設け、家族みんなで野菜づくり等を楽しみ、安全安心でおいしい食事が実現できるようなライフスタイルを支援しています。

日本の山を守り育てることを経営理念としている同社では、山の課題にも向き合っています。長野県小谷村では、積雪により根元が曲がった根曲がり杉の利用価値がなく山が荒れていくという課題がありました。根曲がり杉を材として利用することで森の管理・育成につながるというストーリーを顧客に伝え、積極的にこの杉を家づくりに使うことを選択できるようにしています。

自社モデルハウス「循環の家」では、自然と共生する暮らし体験ができるイベント等を実施しています。「家づくり」における素材や技術、「暮らし」に必要なエネルギーや食材の調達において、「循環」を意識した住まいを体験してもらうことで、自然から離れた生活をしている人たちにとっても生活の基本である土や山の恵みを身近に感じてもらい、これからの暮らしや自然環境とのつながりを見直す機会になることを目指し活動しています。

この取組は、2019年の環境省の第7回グッドライフアワードで実行委員特別賞を受賞しました。

アトリエデフの「循環の家」
(2)食
ア 食と環境とのつながり

食は、私たちの健康的な暮らしのために欠かすことのできない大事なものであるとともに、美味しい食は私たちの生活を豊かにするものです。食の生産から加工、廃棄に至るまでのライフサイクルにおいては、CO2や廃水の排出、農薬や化学肥料の使用による環境負荷、農地への転用に伴う森林開発、食品廃棄物といった環境負荷が生じる可能性があります。

例えば、平均的な日本人の食事に伴うカーボンフットプリントは年間1,400kgCO2eと試算されています(図3-1-8)。その中でも、肉類、穀類、乳製品の順でカーボンフットプリントが高く、特に肉類は少ない消費量に対して、全体の約1/4を占めるほどの高い温室効果ガス排出原単位となっています。肉類は飼料の生産・輸送に伴うCO2排出に加え、家畜の消化器からのCH4発生等から、その他と比較して高い排出原単位となっています。また、穀類は米が水田からのCH4発生等から、他の作物と比較して高い排出原単位となり、我が国では米を多く消費するため、カーボンフットプリントが高い傾向にあります。

図3-1-8 日本人の食に関連するカーボンフットプリント及び物的消費量の割合(2017年)

また、国連食糧農業機関(FAO)によると、1990年から2015年までの25年間で、日本の国土面積の3.4倍に当たる約1億2,900万haの森林が減少しています(図3-1-9)。森林の減少は、人口の増加、食料や土地に対する需要の拡大等により、森林が伐採され、農地等に転用されることなどにより起きるとされています。大規模な森林減少が起こっているのは熱帯、とりわけ南米やアフリカですが、1990年代と比較すると、2010年から2015年までの5年間にかけてはこれらの地域における森林減少速度は大幅に低下しています。しかしながら、非持続的な森林施業、林地の転用が引き続き存在するなどの課題が残されています。

図3-1-9 1990年と2015年を比較した森林面積の増減(国別)

私たちが、環境に配慮されたものや地域の環境をより豊かにできるものを積極的に選んでいくことにより生産者側の取組を応援していくことができます。例えば、生産、加工、運搬段階でのCO2を削減する観点での、地域で生産された野菜、果物や地域内で加工された食品等を購入すること、生産段階での環境配慮を促し、生物多様性豊かな里地里山づくりを応援する観点から、有機農産物を始めとする環境に配慮した食品を購入することなどがあります。また、私たちの調理の段階で無駄なく使い切ること、食べ残しを減らすなどにより食品廃棄量を削減することも重要です。

イ 食品の地産地消

我が国の食料自給率は、カロリーベースで2018年度で37%となり、残りの約6割を多くの国や地域から多種多様な農畜水産物・加工食品を輸入しています(図3-1-10)。その輸送に伴う食料の輸送量に輸送距離を乗じた指標として「フード・マイレージ」があります。これは、1990年代から英国で行われている「Food Miles(フードマイルズ)運動」を基にした概念であり、「生産地から食卓までの距離が短い食料を食べた方が輸送に伴う環境への負荷が少ないであろう」という仮説を前提として考え出されたものです。比較データが古いものであることに留意する必要がありますが、我が国の人口一人当たりの輸入食料のフード・マイレージは、2010年には6,770t・kmと試算されています。諸外国と比較すると、2001年のアメリカ1,051t・km、イギリス3,195t・km、フランス1,738t・km、ドイツ2,090t・kmと比較すると高い水準となります。

図3-1-10 我が国の総合食料自給率

フードマイレージを少なくするためには、地域で生産された旬の農林水産物を新鮮なうちにいただく地産地消が重要で、食の安全・安心にもつながります。

また、地域で生産した青果物等を地域で加工、販売することで、地域内での経済循環を高め、食に関する産業の活性化も促すことができます。地域の伝統的な農産物を学校給食の食材として使用することで、地域の風土や文化を学ぶ食育にも寄与します。

ウ 有機食品の選択

農業は、自然界における生物を介した物質の循環に依存し、またこのような循環を促進する機能(以下「農業の自然循環機能」という。)を内包しています。例えば農産物を収穫した後の葉やわらを家畜の餌として利用したり、その家畜のふんから堆肥を作り、その堆肥で農産物を育てるようなサイクルです。

この農業の自然循環機能を発揮し、化学的に合成された肥料や農薬を使用せず、環境への負荷をできる限り少なくした有機農業で生産された農産物や、これらを原料にした有機加工食品などの有機食品は、その生産・加工に大変な労力が掛かりますが、消費者の食の意識の高まりにより、ニーズは年々増しています。

有機食品であることを示しているのが、「有機JASマーク」です(図3-1-11)。2000年から日本でスタートした有機食品の検査認証制度に基づき、厳しい基準をクリアした食品だけに貼られるもので、いわば、有機(オーガニック)食品の証しです。

図3-1-11 有機JASマーク

有機食品など、環境に配慮した食品を購入することは、環境に配慮した農業を行っている農業者を応援することはもちろん、人や社会、環境に配慮した消費行動(エシカル消費)の拡大につながります。

事例:木更津市のオーガニックのまちづくり(千葉県木更津市)

千葉県木更津市では、持続可能な未来を創るため、地域、社会、環境等に配慮し主体的に行動しようとする考え方を「オーガニック」と定義し、木更津市の持つ地域資源を活かしながら人と自然が調和した持続可能なまちづくりを目指しています。2016年12月に施行した全国初となる「オーガニックなまちづくり条例」を推進する計画として「オーガニックなまちづくりアクションプラン」を打ち出し、環境・経済・社会の統合的向上を図るため、市民が主体となる様々な取組を行っています。

例えば「経済」の分野では、「経済循環を高める食×農プロジェクト」のもと、域内消費の拡大に取り組んでいます。食や健康に対する消費者の意識向上に着目し、地産地消による消費者からの市内の一次産業を後押しする目的から、有機米の栽培に着手し、生産促進のため学校給食に提供する取組を開始しました。単に有機米を学校給食に提供するだけでなく、生産者と児童が有機米を使用した給食を一緒に食べるイベントを行い、生産地と消費者の距離を近づけることで取組の推進力を高めています。

また、2016年より毎年オーガニックシティフェスティバルを市内で開催しており、昨年は1.8万人が来場し、市の一大イベントとなっています。ほかにも月1回、木更津ナチュラルバルを木更津駅前広場で開催し、オーガニックな食のイベントとして多くの市民に親しまれています。

市民だけでなく、木更津市では市内の企業と連携して、「オーガニックアクション宣言企業」という登録制度を実施しています。市と企業が一緒にオーガニックなまちづくりの実現に向けた取組を考えたり、企業が実施する取組を紹介するなど、官民が連携して持続可能なまちづくりに取り組んでいます。

そのほか、環境分野では「木更津発 脱炭素化プロジェクト」、社会分野では「支え合いによる防災・減災プロジェクト」を柱に据え、市民一人一人が「自立・循環・共生」を意識したライフスタイルを実践する持続可能なまちづくりに取り組んでいます。

第2期オーガニックなまちづくりアクションプランの全体イメージ、オーガニックシティフェスティバル
エ 食品ロス

FAOによれば、世界の栄養不足人口は、7億8,900万人(2014年から2016年までの3か年平均)と推計されています。SDGsでは、2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させるターゲットが設定されています。我が国の食料自給率はカロリーベースで約4割、生産額ベースで約7割となっており、残りは海外から輸入しています。その一方で、本来食べられるにもかかわらず廃棄されている食品ロスは、2017年度の推計で612万トン発生しています。このうち、約半分の328万トンは、食品関連事業者、残る284万トンは家庭からのものであり、食品ロス削減のためには、食品関連事業者の取組の推進と消費者の意識改革の両方について取り組む必要があると言えます(図3-1-12)。

図3-1-12 我が国の食品ロスの大きさ

2019年5月に、「食品ロスの削減の推進に関する法律」(令和元年法律第19号)が成立し、同年10月に施行されました。この法律は、食品ロスの削減に関し、国、地方公共団体等の責務等を明らかにするとともに、基本方針の策定その他食品ロスの削減に関する施策の基本となる事項を定めること等により、食品ロスの削減を総合的に推進することを目的としています。同法律により、政府は、関係大臣及び有識者を構成員として内閣府に設置された食品ロス削減推進会議において、食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針案を作成し、閣議により決定することとされ、都道府県及び市町村は基本方針を踏まえ食品ロス削減推進計画を策定することが努力義務とされました。また、国民の間に広く食品ロスの削減に関する理解と関心を深めるため、10月が「食品ロス削減月間」、毎年10月30日が「食品ロス削減の日」と定められました。

環境省では、「食品ロスポータルサイト」で、消費者、地方公共団体、事業者等の様々な関係者が身の回りの食品ロスについて知り、削減するために有用な情報をまとめています。消費者向け情報では、各個人ができる取組として、食品の購入時には事前に冷蔵庫の中の在庫を確認したり、すぐに食べる商品は陳列順に購入すること、調理時には食べきれる分だけ作る、食材の使い切りの工夫などについて紹介しています。また、地方公共団体向け情報では、飲食店等で使用可能な食品ロス削減の啓発資材について、事業者向け情報では、商習慣の見直しやフードバンクの活用等の取組等について紹介しています。

事例:食品ロス削減とフードバンク活動支援を目指す公民連携(横浜市、クラダシ)

2020年2月、神奈川県横浜市資源循環局とクラダシは、公民連携により、社会貢献型フードシェアリングプラットフォーム「KURADASHI」を活用して、市内の食品ロス削減とフードバンク活動支援の同時達成を目指す取組を開始しました。フードシェアリングとは、何もしなければ廃棄されてしまう食品を消費者のニーズとマッチングさせることで、食品ロスを減らす仕組みです。

本取組に賛同する市内の食品メーカー等が、納品期限切れ等の理由で廃棄される商品をクラダシに協賛価格で販売します。クラダシが、その商品をKURADASHIで販売することで、消費者は食品ロスの削減に貢献しつつ、食品を安価で購入することができます。購入代金の一部は、横浜市内のフードバンク団体に寄附され、団体の活動資金となります。横浜市は、この取組のスキームづくりをクラダシと行うとともに利用者を増やすための広報を行っています。

消費者が買い物するだけで事業者の食品ロス削減につながるだけでなく、フードバンク団体の活動支援など社会貢献もできる取組として期待されます。

本連携のスキーム図

事例:食べて応援!「台風被害支援リンゴ」(オイシックス・ラ・大地)

オイシックス・ラ・大地では、台風で被災した地域の農作物を販売することにより被災農家を支援する取組を推進しています。この取組において、通常は廃棄されてしまうことが多い台風の被害を受けた農作物を消費者に届けることにより食品ロスの削減に貢献するとともに、売上の一部を支援金として被災地に寄付しています。

2019年10月に台風19号が各地で甚大な被害をもたらした際には、青森県や長野県の被災農家のリンゴ約2万5,000個をインターネットを通じて販売し、全国の消費者から多くの反響があり、被災農家への応援メッセージが寄せられました。同社によるアンケートでは9割以上の購入者が被災した生産者の応援をしたいという理由で購入したと回答し、食を通じて台風で被災した地域の支援をしたいという需要があることが分かりました。

同社では、今後、地方自治体等とも連携しながらこうした被災地支援での食の有効利用や食品ロスの削減を更に進める予定です。

台風被災地支援の概要
オ 日々の食を通じた地域循環共生圏の創造に向けて

これまで述べた、私たちの毎日の食の選択、すなわち、地域で取り組まれる有機農業で生産された旬の農産物等を積極的に選んでいくことが、農産物の地域内流通や地域の中での環境保全型農業を支えることにつながります。例えば、学校給食等によって一定量の安定した需要を作り出すことは、供給側の生産を促すことになります。フードバンク等によって食品ロスを減らしながら、地域における子供の居場所などの食材として活用できるようにしていくことは、食を通じた地域の他世代の交流にもつながります。また、地域の豊かな里山や里海等を保全・再生していくため、里山・里海がもたらす食の恵みを商品化し販売することを通じて、生態系サービスの価値を発信するとともに、得られた資金で保全活動に活用していくことも可能です。

私たちの日々の食生活の選択及び地域農家や企業、行政等との連携・協働により、地域循環共生圏の創造に寄与することができます。

事例:肥前鹿島干潟の再生に向けた認証制度の設立(鹿島市ラムサール条約推進協議会)

佐賀県鹿島市は、県の西南部に位置し、東には有明海が広がり、西は多良岳山系に囲まれ自然環境に恵まれたところです。有明海では、二枚貝(アゲマキ)の激減などの漁業不振が深刻であることから、長年漁業不振の解消につながる環境保全策を講じるとともに、環境保全を通じて有明海を見つめ直す機会づくりを進める必要性が認識されていました。しかしながら、干潟の保全・再生のためには、定期的に人が干潟に入り、底泥を柔らかくする活動等、「里海」を保全・再生するための活動や労力の確保が必要です。そこで、2015年5月に「肥前鹿島干潟」がラムサール条約に登録され、市内の機運が醸成されたことを一つの契機として、鹿島市ラムサール条約推進協議会では、ラムサール条約湿地を活用したブランド認証制度を設立し、継続的な「里海」の保全・再生のための資金や労力を確保する取組を開始することとしました。

協議会では、肥前鹿島干潟のワイズユース(賢明な利用)を進める、一定の基準を満たした商品について認証し、販売しています。認証対象品には、ムツゴロウ等水産物の加工品のほか、河川清掃等で得られたヨシを原材料とした堆肥を用いて生産した農産物などがあります。例えば、むつごろうを頭から丸ごと食べる「丸干しむつごろう」や農産物では「肥前鹿島干潟ラムサール米」があります。また、豊富な商品開発の実績があり、自社販売が可能な「道の駅鹿島」や民間企業と連携して、商品を開発をしています。これらの商品の売上の一部を「肥前鹿島干潟基金」にて管理・運用することにより、肥前鹿島干潟の保全等に活用しています。

この協議会の中に、食料品の購入頻度の高い女性をターゲットとした商品開発を行うため、全委員を女性とした「女性のためのワークショップ」を新規に設立しました。このワークショップにより、商品開発に関する意見交換を行いマーケティングに活用しているほか、人材の育成・獲得にも活用しています。

認証商品「おいすたーくん」、認証商品の販売棚(道の駅鹿島)、女性のためのワークショップ「干潟でヨガ」
(3)衣服
ア 衣服と環境とのつながり

私たちが毎日着る衣服、私たちの個性も表現することのできるファッションは私たちの質の高い生活を楽しむ上でもとても重要なものです。

衣服を製造するアパレル産業の市場規模は年々拡大しています。我が国でも1990年から国内市場規模は減少している一方で、国内供給量はほぼ倍増しており(図3-1-13)、衣服の家庭における購入単価と輸入単価が減少しています(図3-1-14)。

図3-1-13 国内アパレル供給量の推移
図3-1-14 衣料品購入単価・輸入単価の推移

衣服のサプライチェーンは、原材料から紡績、染色、デザイン、裁断、縫製、販売となります。このサプライチェーンの中で衣服は環境に対して様々な影響を与えています。

衣服の素材である繊維には、化学繊維と天然繊維があり、それぞれの生産、紡績、染色段階で、環境負荷が生じます。天然繊維は生産に大量の水を要することや農薬等の使用、毛皮目的での動物の捕獲による生物多様性の損失等、また化学繊維は石油を主原料とすることや繊維によっては生分解性でないなどの環境面における負荷が存在します。国連環境計画(UNEP)によると、衣服関連の産業を通じ世界の廃水の20%、CO2排出量の10%が排出され、衣服の洗濯によって年間約26万トンのマイクロプラスチックが海に排出されていると言われています。また、消費者のニーズを満たすため、新たな衣服を短い期間で大量に生産して販売するファストファッションという経営手法、アパレルの大量在庫を前提とする商慣行や、ブランド価値棄損を回避するためのメーカーによる未使用品の焼却等、衣類の廃棄問題も世界的に顕在化しつつあります。エレン・マッカーサー財団によると、世界では毎秒トラック1台分の衣類がリサイクルされずに廃棄されていると言われています。

2018年12月、世界的に有名なファッションブランド43社が中心となり、ファッション業界気候行動憲章が発表されました。パリ協定の目標とも整合するこの憲章は、2050年までに正味でゼロ・エミッションを達成するという業界のビジョンを盛り込むとともに、生産段階の脱炭素化から、気候に優しく持続可能な素材の選択、輸送の低炭素化、消費者との対話と意識の向上に至るまで、拡大可能な解決策の促進に向けて金融関係者や政策立案者と連携し、循環型ビジネスモデルを模索することで、署名団体が取り組むべき課題を定めています。今後、ファッション業界における温室効果ガスの排出削減に向けた取組の推進が期待されます。

事業者のサプライチェーンにおける取組を促すため、消費者である私たちが環境に配慮した取組としてできることがあります。環境ラベルが付いた衣服を購入すること、衣服の衝動買いを控えること、素材等の品質に応じた洗濯を行うこと、着なくなった衣服をリサイクルやリユースすること、衣服のシェアリングサービスを利用すること等です。以下では、個人の選択により環境負荷の少ない衣服、ファッションづくりを促していくこと、さらにはより豊かな地域づくりを促すことができる方策を紹介します。

イ 衣服の選択

衣服の選択に当たって、素材となる繊維が環境に配慮したもの及び衣服の製造工程等が環境に配慮したものを選ぶことが望ましいと言えます。環境に配慮した繊維としては、有機農業等で生産されたコットン(綿)・麻・シルク等の天然繊維、また、生分解性を有していたり、リサイクル素材を使用した化学繊維等があります。例えば、有機農業で生産されたコットンは、通常のコットンよりも知識や労力が必要となるため、大量生産が困難です。しかし、農薬や化学肥料を使用しないという点では、環境負荷が軽減された繊維です。

また、製造工程等については、染色・加工・縫製の各工程における水・エネルギー・化学物質の消費や廃棄物を抑えられ、廃水処理等による環境負荷が軽減されていること、廃棄時のリサイクルがしやすいデザインになっていることが重要です。

このような選択をするためには、環境に配慮した衣服かどうかを示す環境ラベルが一つの判断基準となります。環境ラベルは、「生産」から「廃棄」にわたる環境評価項目で基準を設定したり、リサイクル繊維の含有率を基準としたり、一定の基準を達成しているものに付けられています。

例えば、環境ラベルの一つに、オーガニックテキスタイル世界基準(以下「GOTS」という。)があります(図3-1-15)。GOTSは、繊維製品を製造加工するための国際基準で、オーガニックのコットンやウール、麻、絹等の原料から、環境的・社会的に配慮した方法で製品をつくるための基準を定めています。GOTSのラベルやタグが付いた衣服は、原料から製品まで全ての工程が第三者から検査・認証されているものです。

また、日本で代表的な環境ラベルとしては、エコマークがあります(図3-1-16)。エコマークは、ライフサイクルを考慮した厳しい基準をクリアし、公平な審査を経て認定を受けた商品だけに付けられており、衣服にもエコマーク認定を受けた商品があります。

図3-1-15 GOTSのロゴ
図3-1-16 エコマーク

事例:衣服における環境影響や持続可能性等の見える化(リバースプロジェクト、ローランド・ベルガー)

アパレル業界やフットウェア業界等の持続可能な製品生産のために設立された、米国の非営利団体Sustainable Apparel Coalitionは、アパレル業界やフットウェア業界向けに、製品のライフサイクル全体における環境影響や持続可能性を評価するツールとして「Higg Index」を開発しました。Higg Indexを用いることで、企業は自らの企業活動が与える環境影響等の自己評価を通じて、より環境に負荷の少ない取組を促す契機となります。日本のアパレル産業等の中には、Sustainable Apparel Coalitionに参加する企業も出てきました。

リバースプロジェクトはローランド・ベルガーと連携して、Higg Index の取組を参考に、2020年4月から自社製品の環境影響等を定量的に評価し、その商品のタグに環境影響等に関する点数を表示する取組を開始しました。素材(Product)、工場(Factory)、ブランド(Brand)の三つの項目で基準を設定し、素材生産時のCO2削減や水質汚濁防止への取組、工場での生地生産段階での環境保全や労働安全衛生の取組、ブランドでは衣服等の最終製品製造・販売段階でのSDGsに関する取組がされているかを評価します。

これにより、オーガニックコットンを使ったTシャツ等の衣服、バッグ等を点数化することで、消費者により分かりやすく製品のライフサイクルにおける環境影響や環境配慮の取組を情報として伝えることができます。

リバースプロジェクトとローランド・ベルガーは、他のアパレル業界等と連携して、消費者に環境影響等を見える化するスコアリングの仕組みづくりを検討しています。

スコアリング付きの製品タグ
ウ 衣服の利用(リユース、リサイクル)

エレン・マッカーサー財団によれば、2015年に新しい衣服を生産するために使用される繊維の73%(約3,900万トン)がリサイクルされずに焼却・埋立処分されたと言われています。

まだ着られる衣服はリユースショップでの買い取りやフリマアプリでの出品を活用することで、古着として国内や世界で必要とする人々に再利用してもらうことが可能となります。

廃棄する衣服は、地域又は販売事業者によって資源回収・集団回収していることがあります。回収した衣服はリサイクルの工程を経ることにより、再生繊維として生まれ変わります。これにより、新たな繊維を生産する必要がなくなるため、製造段階でのCO2や生成に係る消費エネルギー、繊維生産のための石油資源等を削減することができると言われています。ただし、ライフサイクル全体で見た際には、リサイクルまでの輸送距離等の条件を考慮する必要があります。

そして、衣服の廃棄量を減らすためには、購入した衣服を長く着続ける工夫も必要です。素材等に応じた洗濯により衣服の劣化を防げます。また、衣服の修理サービスを利用したり、自ら修理することで、お気に入りの衣服を長持ちさせられます。

衣服のリユース、リサイクルにより、衣服の廃棄・生産に係るごみの最終処分量・処分費用の削減、新たな衣服の製造に必要な天然資源投入量の削減につながります。

事例:羽毛製品のリサイクル(一般社団法人Green Down Project)

羽毛製品が広く普及し、大量に販売・消費される一方で、廃棄される羽毛製品も年々増加しています。一般的に製品としての寿命を迎えた羽毛製品は、家庭から排出され、その多くが廃棄物として処理されます。

一般社団法人Green Down Projectでは、世界に先駆けて100以上の会員企業や団体との協業によって、羽毛製品から羽毛を取り出し、GREEN DOWNとして再生することで、環境を守りながら、安全できれいな羽毛を安定的に供給する羽毛循環システムの実現を目指して、不要になった羽毛製品の回収・リサイクルを行っています。

まず、個人や団体・企業からの不要になった羽毛製品をGreen Down Projectメンバーのアパレルショップ等で回収します。回収された羽毛製品は、羽毛とそれ以外の素材に解体され、羽毛の洗浄を行い、リサイクルされた羽毛を使って、GREEN DOWN商品として販売されています。

羽毛の解体・洗浄作業においては、地域貢献と障害者就労支援として、分業体制をとっています。一般社団法人Green Down Projectでは、障害者雇用を通じて社会の持続的発展につながる社会的事業を推進していくことも一つの目標としています。

羽毛循環サイクル社会のイメージ

事例:制服を活用した3Rで広がる「おさがりの輪」「笑顔の輪」「地域の輪」(制服リユース リクル)

石川県金沢市の「制服リユース リクル」は、中古の制服や体操服等をメンテナンス後にクリーニング等に出し、低価格で販売(リユース)、ダメージのある制服をバッグ等の商品にリサイクル、必要なときだけ活用できる制服やスーツのレンタル事業を実施しています。制服という資源を循環させることで、ごみの減量化に加え、家計の負担軽減にもつながります。また、障害者や高齢者、若い母親などを積極的に雇用する環境を整え、地域住民の働きがいも創出しています。

2019年9月時点で、リユース品は4,000点を超え、取扱品は制服や体操服だけでなく、学用品にまで広がっています。制服廃棄を減らし、地域経済社会と循環型社会の形成に貢献するという点は、環境と社会、経済の統合的課題解決を目指す事例と言えます。

この取組は、2019年の環境省の第7回グッドライフアワードで実行委員特別賞を受賞しました。

制服リユースリクル店内写真
エ 衣服を通じた地域循環共生圏の創造に向けて

環境に配慮した衣服を選択していくこと、衣服のリユース、リサイクルの取組に個人が参加していくことなどにより、衣服のライフサイクルに渡る環境配慮の取組を促していくことが可能です。このようなライフサイクルに渡る取組は、様々な企業間や地域との連携、協働が必要になってきます。糸や生地の生産段階から地域の農業等と連携しながら製造、販売を行っていくことで、衣服の生産、販売を通じて地域の課題解決にも資する地域循環共生圏の創造に寄与できる可能性があります。

事例:オーガニック製品を通じた環境保全と社会貢献(アバンティ)

アバンティでは、オーガニック製品を通じた地球環境の保全と社会貢献を目的として、1990年から、糸、生地から製品まで、一貫した国産でのオーガニックコットン衣類の企画製造販売を行っています。

同社は製品の製造工程において徹底した環境負荷の低減に取り組んでおり、例えば、大量の水の使用と廃水を排出する生地の染色は極力行わず、素材そのものの色合いを活かした製品づくりを手掛けています。特定非営利活動法人日本オーガニックコットン協会(JOCA)では、オーガニックコットンであることを示す「JOCAタグ」を発給していますが、アバンティの日本製製品には、このJOCAタグが付いています。

さらに、現在ほぼ0%である日本の繊維自給率を引き上げるとともに、オーガニックコットンの生産を通じた持続可能な地域づくりを応援していくため、「国産綿プロジェクト」として、福島県の南相馬市など日本全国約20か所の耕作放棄地等で日本の在来種である和綿の栽培に取り組んでいます。生産者、支援者、消費者をつなぐことで、復興の力とするなど社会問題の解決にも取り組んでいます。

同社では、海洋プラスチックごみ問題へ対応するため、表には生分解性のある羊毛、そして肌に当たる部分はオーガニックコットンのフリースの生産、販売も始めています。また、裁断クズ等を使って再生木綿紙を作り、タグや名刺に使っています。

羊毛とオーガニックコットンを使用したリアルフリース、南相馬市でのコットン収穫イベント集合写真

2 移動・交通と輸送

(1)移動・交通と輸送
ア 移動・交通、物流と環境とのつながり

これまで見てきた衣食住に加え、通勤、通学や買い物等の日常生活や旅行の中で移動することは、私たちの暮らしにおいて必要不可欠な活動です。

私たち一人が1km当たり移動する際のCO2排出量は、移動手段によって大きく差が生じます(図3-1-17)。また、モータリゼーションにより、多くの人が自家用車による移動を行うようになっています。例えば、自家用車の保有台数は都市部では増加傾向が緩やかになっている一方で、地方部では大幅な増加が続いています(図3-1-18)。

図3-1-17 輸送量当たりの二酸化炭素の排出量(旅客)
図3-1-18 三大都市圏と三大都市圏以外の乗用車保有台数の推移

移動、交通に伴う環境負荷を削減するためには、まず移動の必要性や距離を少なくすることが考えられます。テレワークやテレビ電話等により移動の必要性を削減すること、病院、商業施設、公共施設等が集約している場所に住むことにより、移動の距離を少なくすることなどが考えられます。

次に、日々の移動において低公害で低炭素な移動手段を選択することが重要です。そのためには移動手段である交通手段そのものの環境負荷を極力低減されたものを選択すること、公共交通機関の選択により一人一人の輸送量当たりの環境負荷を削減することが必要です。また、一つの交通手段における乗車率を上げることも重要です。

環境省では、地球温暖化対策の国民運動「COOL CHOICE」の一環で、エコで賢い移動方法を選択し、よりCO2排出量の少ない移動を呼びかける「smart move(スマートムーブ)」を推進しています。

公共交通機関にアクセスしやすい地域では、日々の移動における公共交通機関の利用を増やし、公共交通機関にアクセスしにくい地域では、自家用車をエコカーへ乗り換えるなど、地域の特性に応じた環境に優しい移動方法が考えられます。自転車や徒歩での移動は、CO2を出さないため最も環境に優しい移動方法であり、健康の増進にもつながります。

また、交通に関連して、私たちの生活に必要な物を運ぶ物流の環境負荷を下げていくことも重要です。

以下では、環境に負荷の少ない移動手段の選択の視点から次世代自動車及び公共交通機関の選択を促す次世代モビリティサービスや物流における取組について紹介します。

イ 次世代自動車への転換

次世代自動車は、ハイブリッド自動車、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、燃料電池自動車、クリーンディーゼル自動車等のNOXやPM等の大気汚染物質の排出が少ない、または全く排出せず、より燃費性能が優れている自動車です。

政府では、「成長戦略フォローアップ」(2019年6月閣議決定)において、2030年までに新車販売に占める次世代自動車の割合を5割~7割にするとの目標に基づき、次世代自動車等の普及に取り組んだ結果、2018年度における新車販売に占める次世代自動車の割合は、約38.4%となりました(表3-1-1)。

表3-1-1 日本の次世代自動車の普及目標と現状

次世代自動車の普及を促す施策として、車両導入に対する各種補助、エコカー減税等の税制上の特例措置、インフラ設備設置費用の一部補助、燃料等供給設備に係る固定資産税の軽減措置等の税制上の特例措置を実施しています。

環境省、国土交通省及び経済産業省は、次世代自動車を導入しようとする公共機関、民間事業者及び国民向けに関連情報を取りまとめた次世代自動車ガイドブックを作成・公表しています。また、例年6月に環境省が主催している「エコライフフェア」において、次世代自動車の展示等を行い、普及啓発を図っています。

事例:ミライのクルマ

環境省は、「東京モーターショー2019」に、[1]植物由来の新素材「セルロースナノファイバー(CNF)」を用いた、木から作る軽量化した自動車、[2]窒化ガリウムを用いたパワーエレクトロニクスで駆動する超省エネ電気自動車を出展しました。

CNFを用いた各種部品を搭載した軽量化自動車「Nano Cellulose Vehicle(NCV)」は、研究機関、企業等のサプライチェーンで構成されたコンソーシアムにより開発され、量産化を目指した仕様では世界初となるCNF活用部品を搭載したコンセプトカーです。

CNFは、鋼鉄の5分の1の軽さで5倍以上の強度を有する次世代高機能素材で、樹脂・金属・ガラス素材の代替素材として活用することが可能と言われています。コンセプトカーでは、ドアトリム、ボンネット等の部品にCNFを活用して、部品単体では最大で5割程度の軽量化を、車体全体で1割以上の軽量化を実現しています。また、CNFは森林資源や農業廃棄物等の植物性資源から生産可能なカーボンニュートラルな素材であるとともに、プラスチックの代替素材としての可能性を有しています。さらに、車体軽量化に伴う燃費改善による走行段階、素材製造段階から廃棄・リサイクル段階までのライフサイクル全体でCO2排出量を約1割削減する見込みです。

次世代パワー半導体材料として期待されているGaN技術を電気自動車の各機器に応用した次世代モビリティ「All GaN Vehicle(AGV)」は、ノーベル物理学賞を受賞した天野浩教授主導の下、研究機関と企業のオープンイノベーション体制で開発を行っています。電気効率98%を超える超高効率のGaNインバータは高周波モーター駆動を可能とするため、従来のモーターで課題となっていた電磁ノイズを低減し、快適なキャビン空間を実現しています。また、GaNは、あらゆる電気機器に搭載されている半導体のエネルギー損失を抜本的(10分の1程度)に低減する次世代素材です。インバータ、コンバータ、充電器などに窒化ガリウム技術を適用させ、徹底的に電気ロスを削減することで、電費性能の20%改善(対従来技術)、パワーモジュールの体積を従来の30%低減を目指しており、電池パック数の削減や電気系統の小型化が可能となり、車のデザイン自由度が飛躍的に向上できます。さらに電気ロスの削減と電気系統の小型化・軽量化により、従来のパワーエレクトロニクス技術に対して走行時のCO2排出量を約2割低減させる見込みです。

Nano_Cellulose_Vehicle(NCV)、All_GaN Vehicle(AGV)
ウ 次世代モビリティサービス

(ア)MaaS

欧州自動車産業の潮流を現す「CASE」という言葉があります。CASEとは、「Connected(接続)」、「Autonomous(自動化)」、「Shared & Service(シェアリング&サービス)」、「Electric(電動化)」という4つのトレンドの頭文字を表しています。人工知能(AI)やIoTを活用したモビリティサービスや電気自動車のシェアリング、自動運転等の自動車のイノベーションにより、自動車産業は変革を迎えると言われています。

近年、世界的に、CASEを活用した低炭素かつ高い利便性を実現できる次世代モビリティサービスの導入に向けた動きが活発化しており、日本でも取組が進められています。

例えば、ICTを活用することにより自家用車以外の全ての交通手段による移動を一つのサービスとして提供するMaaS(Mobility as a Service)の取組が活性化しています。従来では、バスや電車等、利用に当たっては個別で検索・予約・決済が必要でしたが、MaaSでは移動手段全てを一元的なサービスとすることで、一括して検索・予約・決済を行うことができます。MaaSの実現により、ICTを活用して、自家用車以外の様々な移動手段を組み合わせた移動サービスを提供できるため、誰もがシームレスで自由な移動が可能となります。また、自家用車から公共交通へのシフトを促すことにより、CO2排出削減等の環境負荷低減につながることが期待されます。

経済産業省と国土交通省では、2019年4月よりMaaS等の新しいモビリティサービスの社会実装に挑戦する地域等を応援する新プロジェクト「スマートモビリティチャレンジ」を開始しました。具体的には、スマートモビリティチャレンジ推進協議会を立ち上げ、地域ごとにシンポジウムを開催するなど、地域や企業等の取組に関する情報共有を促進し、ネットワーキングを進めています。先駆的取組に挑戦する地域に対する事業計画策定や効果分析等の支援に加え、全国各地の新たなモビリティサービスの実証実験を支援し、地域の交通サービスの課題解決に向けたモデル構築にも取り組んでいます。

環境省では、「ローカルSDGs『地域循環共生圏』ビジネスの先進的事例とその進め方」において、MaaS等の新しい技術の活用による、地域循環共生圏の構築に当たって必要不可欠な脱炭素型で高齢者や子育て世代に優しい地域交通手法の目指す姿とそれに資するソリューション例について整理しました(図3-1-19)。

図3-1-19 脱炭素型で高齢者や子育て世代に優しい地域公共交通手法の先進事例のまとめ

この中で例えば、MaaSの活用や相乗り等により、住民、観光客の移動需要をなるべく1台の自動車に集約する需要のバンドル化、福祉、医療、通勤・通学、買い物等多様な移動のニーズと既にある移動手段を組み合わせるマルチタスク化の方策により中山間地域でも公共交通の採算性を向上させる可能性のある方策も示しています。

(イ)グリーンスローモビリティの活用

グリーンスローモビリティは、電動で時速20km未満で公道を走る4人乗り以上のモビリティで、地域住民の生活の足、観光地内での移動、駐車場から施設又は施設から施設への移動、地域のブランディング等の多様な場面での活用が始まっています。

環境省・国土交通省は、地域交通の大幅な低炭素化と、ラストワンマイルの確保、観光振興、中心市街地の活性化など地域が抱える課題の解決を同時に図ることのできるグリーンスローモビリティの導入を推進しています。例えば、高齢化が進む郊外の住宅団地等において、グリーンスローモビリティを導入することで、買物や通院等の目的での移動負担が軽減されます。

これらの新しいモビリティサービスの普及により、自家用車から魅力の高い公共交通機関への転換が図られ、ひいては交通の脱炭素化が期待されます。また、図3-1-19に示したような、活気ある地域づくりと一体となって、企業や行政等が連携・協働して便利・快適で低炭素な環境に配慮した交通・物流の仕組みを構築していくこと、個人がそのような交通を積極的に利用していくことで、地域循環共生圏の創造に寄与することができます。

コラム:電気自動車特化型のカーシェアリングサービス(REXEV、小田原市、湘南電力)

小田原市では、官民連携により、再生可能エネルギーの導入促進と災害に強いエネルギー源の分散化、エネルギー利用の効率化を進め、持続可能なまちづくりに取り組んでおり、2020年6月からREXEV、小田原市、湘南電力が協働して、小田原市内で電気自動車のシェアリングサービスの実証を開始予定です。

小田原市内に電気自動車と充放電機器を駅前施設、民間の事業所、市役所等に段階的に導入し、一般市民や観光客が利用するカーシェアリングを行います。電気自動車には湘南電力から再生可能エネルギーによる電気が供給されるとともに、電気自動車の蓄電池は充放電制御により電力の需給調整等にも活用することが想定されます。

これにより地域における再生可能エネルギーの需要を創出することで、更なる再生可能エネルギー設備の導入を促すとともに、カーシェアリングにより人の流れをつくり出すことで、地域経済活性化への波及効果が期待されます。また、災害時には、電気自動車の蓄電池に蓄えられた電気を活用することで、地域の防災機能の強化につながることも期待されます。

カーシェアリングの事業イメージ

事例:日本で広がるMaaSの取組(MONET Technologies、未来シェア)

MONET Technologiesは、「MONETプラットフォーム」を構築し、車や人の移動に関するデータを活用して需要と供給の最適化や運用の効率化を図るなど、移動課題解決を通じた持続可能な地域社会の実現を目指しています。特に、地方型MaaSに重点をおいており、免許を返納した高齢者など、公共交通の少ない地方部で課題となっている移動弱者向けのモビリティサービス導入に取り組んでいます。

愛知県豊田市や広島県福山市等では、自治体と連携の上、主に中山間地区や移動不便地域において、MONETのシステム導入により地域交通の最適化や既存交通の高度化に貢献しています。また、交通以外の医療、観光等の他のサービスと連携することによる新たなモビリティサービスも生み出しています。その一つが、長野県伊那市とフィリップス・ジャパンとの協業により試行が始まっている「モバイルクリニック実証事業」です。看護師が医療機器などを搭載した車両「ヘルスケアモビリティ」に乗車し患者の自宅付近などへ訪問し、患者が、車両内のテレビ電話を通して、病院・診療所にいる医師のオンライン診療を受けることができる取組です。

未来シェアでは、公共交通・移動分野のスマート化技術の社会実用を目指し、乗合タクシー・バス等向けにルート計算・配車システム「SAVS」を提供しています。SAVSは、様々な利用者からの複数の乗車要求と、乗合送迎車両の運行状況を統合的にAIで分析し、最適な配車・ルートをリアルタイムに計算することで、乗合車両の配車決定と運行ルート計算を人手を介さずに自動で行うことが可能となります。SAVSの最大の強みは、高度なマルチエージェント・シミュレーション技術により、過疎地から都市圏までスケールフリーの展開が理論的に可能な点で、大規模な都市公共交通の自動運転化にも対応できる将来性が期待されます。

2016~2020年に全国30地域以上で、自治体、電鉄・福祉・観光事業者等の実証事業に、システム提供者として参画しています。2017年にNTTドコモと提携し、「AI運行バス」と称する同社の実証実験へも技術協力したり、観光分野ではJTBと連携したクルーズ船外国人乗客向けサービス,東急電鉄と連携した伊豆MaaS実験など、観光型MaaSにも取り組んでいます。

MONET Technologiesの事業概要
配車システム「SAVS」の仕組み
エ 輸送と個人の暮らしとのつながり

地球温暖化対策計画で定められた温室効果ガス削減目標である運輸部門の28%削減の達成のためには、運輸部門のCO2排出量の1/3以上を占める物流分野におけるCO2削減は極めて重要です。

ここでは物流に関して、「再配達」と「貨客混載」の取組に焦点を当てて紹介します。

インターネットを利用することで、誰でも、時間や場所に関係なく、電子商取引(EC)等で欲しい商品等を購入できるようなりました。

ところが、宅配便の取扱個数が増加する一方で(図3-1-20)、取扱個数の約2割が再配達されています。再配達に伴いCO2排出量は年間約42万トンに達し、物流業界のドライバー不足や長時間労働の原因にもつながっています。

図3-1-20 宅配便の取扱個数

環境省では、経済産業省と国土交通省と連携して、「COOL CHOICEできるだけ1回で受け取りませんかキャンペーン~みんなで宅配便再配達防止に取り組むプロジェクト~」を推進しており、環境省のウェブサイト上で、宅配便を送る際や受け取る際に実践できる個人での取組として、送り先の都合を確認すること、宅配事業者の営業所やコンビニエンスストアでの受取、宅配ボックス、宅配ロッカーの活用を提案しています。

今後もEC利用の増加と労働人口の減少が予想される中で、2018年5月、宅配事業者、EC事業者、国(経済産業省、国土交通省、環境省)の三者で構成された「宅配事業とEC事業の生産性向上連絡会」を開催し、同年11月に、宅配・EC事業者双方のサービス・生産性の向上を目指し、再配達の削減に向けた事業者の取組事例集を取りまとめました。

また、あらかじめ指定した場所(玄関前、宅配ボックス、車庫、物置等)に非対面で荷物を届けるサービスである「置き配」の実施を促すため、宅配事業とEC事業の生産性向上連絡会の議論より派生した「置き配検討会」が開催され、対応策等について検討が行なわれています。

また、宅急便の需要が高まり続ける一方で、深刻なドライバー不足が課題となっています。また、バス事業者は利用者減少から路線維持が課題となっている事業者もいます。

そこで路線バスで宅配便の荷物を併せて輸送することで、人と物を効率的に輸送し経済性を高める貨客混載の取組が各地で始まりつつあります。この貨客混載は、減少が続く利用者収入以外からの輸送収入によるバス路線の収益向上、宅配便輸送の効率化、さらにトラックが輸送していたエリアを路線バスがカバーすることで運行自動車が減り、CO2排出量の削減につながる可能性があります。

事例:事例 置き配サービス(日本郵便、Yper)

日本郵便では、従来より事前に配達郵便局に「指定場所配達に関する依頼書」を提出することで、宅配ボックスなど指定の場所で荷物等を受け取ることができる置き配(指定場所配達)を行っており、2019年3月から配達予告メール等から個別のゆうパックの受取場所をご指定いただけるようサービスを拡充しました。また、Yperの置き配バッグ「OKIPPA」と同梱の配送員向けプラカードを設置することで、指定場所配達の依頼書を提出しなくても、不在時に置き配の利用が可能となります。

OKIPPAには、シリンダー式南京錠が付いており、サービス利用者以外がバッグを空けることができません。また専用ロックのワイヤーによりドアノブ等に設置されるため、持ち去られることがなく、通常の平箱はもとより、大きな荷物も入れることができます。

なお、日本郵便は、2018年12月に東京都杉並区で1,000世帯を対象とした実証実験を行い、OKIPPA利用により再配達が約61%削減されるという、高い再配達削減効果を実証しています。また、日本郵便とYperでは、2019年6月24日から8月26日に、置き配体験モニターキャンペーンを実施しました。このキャンペーンは、より多くの方に置き配の利便性を体験してもらう目的で実施され、置き配モニターに当選した10万世帯に、OKIPPAが無料で提供されました。

置き配バッグOKIPPA

事例:路線バスの貨客混載「ヒトものバス」(岩手県北自動車、ヤマト運輸)

2015年6月、岩手県北自動車とヤマト運輸は、路線バスで宅急便の荷物をあわせて輸送する貨客混載を開始しました。

バス利用者と宅急便の荷物を一緒に運ぶ「ヒトものバス」は、盛岡市と宮古市を結ぶ「都市間路線バス(106急行線)」で、座席数を減らし後部座席に荷台スペースを設けた車両を使い、1日1本で運行しています。バス車両に専用の荷台スペースを設置して運行するのは全国初の取組です。

ヒトものバスの運行により、岩手県北自動車では、新たな収入確保による路線維持につながり、ヤマト運輸では、荷物の量が少ない中間便を「ヒトものバス」で運ぶことで、業務効率化とCO2削減等の環境対策につながっています。

ヒトものバス

3 働く

(1)働くことと環境とのつながり

私たちにとって働くということは、生活の糧として所得を得るということに加え、自らの能力を活かした、自己実現を通じた生きがいづくり、さらには地域や社会の課題を解決する商品やサービスの企画や製造等に携わることにより、持続可能な地域づくりを担うことにつながります。環境との関係は、職員の通勤や営業等の移動に加え、事業活動全体のサプライチェーンによって生じる環境負荷、事業活動の生産・提供する物やサービスによる環境保全への貢献があります。

2017年3月に働き方改革実現会議が決定した「働き方改革実行計画」では、柔軟な働き方がしやすい環境整備として、時間や空間の制約にとらわれることなく働くことができる「テレワーク」を推奨しています。テレワークは、移動に伴うCO2排出量の削減やペーパーレス化等の環境保全効果が期待されています。

気象災害や感染症等のリスクへの対応の観点から、テレワーク等の柔軟な働き方を進めていくことも重要です。

事業活動のサプライチェーンによって生じる環境負荷については、通勤や営業等に伴う環境負荷は移動・交通と輸送と重複する部分があるため、以下では、それ以外の個人としての働き方といった視点で、最近取組が広がりつつあるSDGsの視点等を企業の本業で取り入れることや多様な働き方について紹介します。

(2)働くこととSDGs

近年企業においては、SDGsを「本業」を通じて、社会の課題を解決し、持続的に成長・発展していくための道しるべとして捉え、環境、経済、社会の観点を取り入れながら事業を展開していく動きが広がっています。

環境省では2018年6月に中小規模の企業・事業者を対象とした「持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド」(2020年3月改訂)を発行しました。本ガイドでは、SDGsの活用により、企業イメージの向上による多様性の富んだ人材確保につなげていく、また新たな事業機会の創出等を図っていくための具体的な取組を紹介しています。

2019年7月に公益社団法人経済同友会が取りまとめた「企業と人間社会の持続的成長のためのSDGs~価値創造に向けて、一人ひとりが自ら考え、取り組む組織へ~」においては、SDGsを企業経営や組織変革のツールにするためには、組織を構成する一人一人の個人の動機付けと活性化が最も重要であるとしています。そのためには、経営者がSDGsを深く理解し、自らが伝道師となって語り、伝え、それを企業戦略、事業計画、目標に落とし込むこと等を通じて、個々の社員が、経営層から現場まで、自分の役割や仕事、行動を通じて、自社の存在意義と持続可能性への貢献に資する価値創造に自発的に取り組めるような組織文化にしていくことが鍵になるとしています。このようにSDGsを企業が企業戦略として取り組むことで、そこで働く人たちが組織の歯車ではなく、価値創造の担い手として自覚を持って働くことができれば、一人一人がよりやりがいや幸福感を高めながら、環境保全にも寄与する働き方ができると言えるでしょう。

SDGsが広がりつつある中、環境省では、「ローカルSDGs『地域循環共生圏』ビジネスの先進的事例とその進め方」を取りまとめました。ここでは、地域においてSDGsを実現する取組を展開している企業の成功要素を整理しており、その成功を担った組織の個人がどのような役割を担ったかについても触れています。以上のような取組の中で、環境、経済、社会の視点を統合して、企業による価値創造、イノベーションにつなげていく働き方が広がっていくことが期待されます。

(3)地域循環共生圏の創造につながる多様な働き方
ア 副業や他業を通じたイノベーション、持続可能な地域づくりへの貢献

気候変動時代において環境・経済・社会の課題を解決するためには、私たち自身が地域循環共生圏づくりの担い手になっていくことも重要です。

環境省では、2019年度から地域循環共生圏の実現を目指して、環境課題を中心とした地域課題の解決に主体的、継続的に取り組む若手リーダーを育成するため「持続可能な地域の未来づくりに向けたSDGsリーダー研修」を始めています。地方自治体・民間企業・NPO等に勤務する、おおむね35歳以下の社会人を対象に、2泊3日の合宿形式で、講義、現地視察、グループワーク、プレゼンテーション等を行い、業種や分野を超えた人々の連携・協働によって環境・経済・社会課題の同時解決やパートナーシップ構築に自ら取り組む地域の次世代リーダー育成を行うものです(写真3-1-1、写真3-1-2)。

写真3-1-1 先進事例の視察
写真3-1-2 グループワークでの討議

また、環境・経済・社会の地域課題の統合的な解決を目指し、それぞれの地域で地域循環共生圏のビジョンを形成するために、地域の未来づくりに関心のある若手を対象としたSDGsローカルツアーも開始しました。

SDGsローカルツアーでは、ソーシャル&エコ・マガジン「ソトコト」と協働して、全国10か所で、若手によるSDGsの取組、地域の可能性、観光以上移住未満とも言われる「関係人口」などを取り上げ、地域の未来について考えるセミナーを開催しています。セミナー会場を地域づくりに取り組んでいる地域の「関係案内人」のいる場所とすることで、セミナーの開催後も、参加者が継続的、自発的に集まって地域の未来づくりについて検討し、具体的な活動に発展していけるようにしています。

地域循環共生圏の創造を進めていくためには、地域のニーズを明らかにし、地域の資源を最大限活用し、地域の様々な関係者のパートナーシップを構築しながら経済社会や技術のイノベーションを進めていくことが必要です。そのために働き方のイノベーションも重要であり、最近は複数の仕事や役割を組み合わせる働き方も注目されています。

2017年の就業構造基本調査における副業者の比率は、2012年と比較して2017年には、非正規、正規の職員・従業員とも増えています。さらに現在就いている仕事を続けながら、他の仕事もしたいと思っている追加就業希望者は、特に正規の職員・従業員で伸び率が高い状況になっています。

このような状況の下、「働き方改革実行計画」は、新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、第2の人生の準備等の多様な観点から「副業」や「兼業」の普及を促進していくことを提示しました。これに基づき、2018年1月に副業・兼業の促進に関するガイドライン及び副業・兼業に関する規定を盛り込んだ「改訂版モデル就業規則」が制定されています。

地域の課題を解決するイノベーションのためには、多様な専門知識や技術を有する者が、地域の課題解決のために、それらを活用、アレンジをしていくことも有効です。地域外からの知識や技術を事業者間で協力しながら獲得するオープンイノベーションも有用と考えられます。少子高齢化や人手不足が進む人口減少社会では、兼業による人材リソースの活用も求められていくでしょう。

また、地方へ移住する人たちの中には、環境に負荷の少ない心豊かな暮らしを求めて、有機農業や林業など自然資源を維持する仕事に関わりながら、自らの生きがいを追求する働き方を実践している人たちが増えています。中山間地域では、集落での生活を営むためには里山、農地、共有林や水路の管理など様々な地域資源の維持活動が必要不可欠で、そのために担い手の確保も重要です。特に気候変動により台風が強大化する中、山林の維持管理が行き届かなければ、倒木によるライフラインの寸断により停電等の生活への直接的な悪影響が生じる状況になっています。

一方、中山間地域の急傾斜地などの小規模な農地や林地などにおける農林業活動は一般的に収益性が低い状況です。このような場所においては、それぞれの活動から「小さな利益」を得ながら、複数の仕事を組み合わせる多業が必要不可欠です。

2015年8月に閣議決定された「国土形成計画」は、集落の生活の維持に関して「『半農半X』等の多業(ナリワイ)による生活を積極的に評価することによって、人口減少下においても集落での生活を維持できる可能性がある」と述べています。このようなことから中山間地域では、移住者の新しい暮らしへのニーズ、集落の維持や生活・生計の維持双方の観点から「多業」が求められる状況になっています。

半農半X研究所の塩見直紀氏は、「環境問題」を「生き方」を通じて解決する観点から、「半農半X」というライフスタイルを提案しています。「半農半X」を持続可能な農ある暮らしをしながら、与えられた才能(個性や長所等)を生かしたクリエイティブな仕事をしていくことと定義しています。島根県では、半農半Xを島根らしい田舎のライフスタイルとして提案推進するとともに、農業就業人口の減少に伴い中山間地域において耕作放棄地が拡大する中、農業の担い手としても位置付けています。

事例:長野県における一人多役(長野県)

長野県では2015年に策定した地方創生戦略である「長野県人口定着・確かな暮らし実現総合戦略~信州創生戦略~」において、人生を楽しむことができる多様な働き方・暮らし方の創造を基本方針の1番目に位置付けました。金銭的、物質的な豊かさから心の豊かさをより重視し、長野県で暮らし、働くことで人生を楽しみ、生きがいを持つことができる社会をつくるため、農ある暮らしと好きなこと・やりたい仕事を両立させる新しいライフスタイルなど、長野県ならではの「一人多役」を実現する多様な働き方、自然と共生し人と人とが支えあう暮らし方を促進し、発信するとしています。

これを踏まえ、長野県では、県内の「一人多役」の実践者を紹介する冊子を作成することを通じて、一人多役のライフスタイルを広く発信しています。また、北信州(長野県飯山地域)をモデル地域として、自然や人とつながりながら、やりたいこととやるべきことを組み合わせた自分流の働き方、暮らし方を考える場づくりをしています。例えば、長野県には、夏は農業、冬はスキー場といった季節雇用の求人が多い地域もありますが、これらを組み合わせて年間を通して仕事ができるようなライフスタイルの実現を支援しています。

また、一人多役のライフスタイルの実現には小さな農業、林業を実践しやすい環境を整えることも重要です。移住者向けの農ある暮らしのための学びの場づくりを行ってきたほか、2019年から農業未経験者の小さな農業の実践を支援する農ある暮らし応援事業を開始しています。

林業については、2018年度から長野県の森林づくり県民税を活用して、県民協働による里山の整備・利用事業を開始し、専業の林業事業者だけでなく、副業的、自伐型で里山を管理する担い手の人材育成及び森林管理の取組も支援しています。さらに、エコツーリズムといった森林の多面的な利用を担う人材育成も進めています。このような形で進める「一人多役」は、自己実現をしながら、地域の自然資源管理の持続可能性や、中山間地の暮らしの価値を高める働き方を促すものとなっています。

長野県での一人多役ライフスタイル説明会

事例:島根県による半農半Xの取組(島根県)

島根県では、2010年より半農半Xの働き方支援の取組を展開しています。県外からの1年以内の移住者で、65歳未満で一定規模(販売金額が50万円)以上の営農を予定する半農半X実践者に対して、就農前研修経費、定住開始後の営農に必要な経費、営農を始める際に必要な施設経費の助成を行っています。2020年3月末時点で、74人を半農半X実践者として認定し、そのうち68人が県内各地で半農半Xに取り組んでいます。家族を含めるとこれまで119人が定住・定着しています。

半農半Xのパターンは下表のとおりで、半農半農雇用(自営+他農業法人での雇用)が最多で、中にはより農業に特化し、認定新規農業者へ移行する者も出ています。

島根県が2015年に行ったアンケート調査結果では、実践者の大半が自然環境に満足するとともに、移住前よりも幸福感が増大していました。さらに、地域の中核である農業法人で欠かせない戦力になっているほか、実践者一家の移住により、地域の寄り合いが復活するなど高齢化が進む集落が活性化するなどの、地域貢献に寄与する事例もでています。

半農半X実践者の農作業の様子、島根県の半農半X実践者数(2020年3月末時点)
イ ワーケーション等関係人口としての複数拠点での働き方

都会のオフィスを離れて自然豊かなリゾート地などで休暇と組み合わせて、情報通信端末等を活用したテレワークも行うワーケーションの取組など「関係人口」を創出、拡大する取組が近年注目されています。「関係人口」とは、特定の地域に継続的に多様な形で関わる者のことであり、地方とのつながりを築き、地方への新しい人の流れをつくるため、内閣府を中心に関係人口を拡大させる取組が進められています。例えば、都市住民と地域とをつなぐ中間支援組織としてプロフェッショナル人材戦略拠点を拡充したり、地方での副業・兼業等に要する移動費に対する補助の仕組みが導入されています。

このような関係人口を拡大する取組の一つであるワーケーションは、「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語です。普段とは異なる環境で仕事をしつつ、別の日や時間帯に休暇を取ったりすることで、自らの業務に対するモチベーションを向上させ、創造性や生産性を高めることができます。また家族や友人と過ごす時間を増やすことなどにより、個人としてのワークライフバランスを図ることのできる働き方にもなり得ます。また、滞在先の地域にとっても関係人口が増え、地域の活性化にもつながります。ワーケーションの全国的な普及を図るため、2019年11月に全国65の自治体が参加する「ワーケーション自治体協議会」が設立されました。

ワーケーション等関係人口の創出・拡大を地域循環共生圏の創造につなげていくためには交流等を行う場所の利用により地域の自然資源の維持保全に寄与すること、交流等で地域資源や地域課題に触れ、地域課題解決のための取組に参加するなどがあります。前者については、森林空間利用が広がることで、都市と地方の交流が進み、森林の持つ様々な価値の理解が促進され、森林の整備・保全につながっていくことが考えられます。

林野庁では、健康、観光、教育等の多様な分野で森林空間を活用して、山村地域における新たな雇用と収入機会を生み出す新たなサービス産業として「森林サービス産業」の創出・推進に取り組んでいます。このような産業が創出・推進されることで、具体的には、山村のサテライトオフィスや研修・宿泊施設で両親が仕事をしながら、家族で森林浴等の健康づくり、自然探勝、トレッキング等の自然体験を楽しんだり、さらには子供たちも、森のようちえんや木育等森林を通じた体験活動、学びの場を体験したりすることができるようになります。森林総合研究所の調査によれば、森林浴により、神経系での脳活動や交感・副交感神経活動がリラックスすること、内分泌系でコルチゾール濃度等が低下し、ストレスが減少すること、免疫系では、NK(ナチュラルキラー細胞)活性が向上することで、体全体の抵抗力を高め病気になりにくい体を作る効果があると評価する研究成果も報告されています。

また、これらの森林サービス産業を地域の担い手が提供することで、地域に雇用が生まれるとともに、森林を持続可能な形で維持管理することにもつながります。

後者については、後述のユニリーバ・ジャパンが始めている、TeamWAA!のような取組が始まっています。

さらに、都市部と地方部に二つの拠点を持ち、定期的に地方部で過ごしたり、仕事をしたりする二地域居住は、継続的に地域循環共生圏の創造に関わることができる可能性のあるライフスタイルです。二地域居住者が農林業や地域活動等に携わる場合、当該居住者を雇用する企業にとっては、農山村のことを理解する従業員の拡大により地域の課題解決に向けた新規ビジネスの展開につながる可能性があります。受け入れ側にとっては、人口減少する地域コミュニティの活性化や、遊休農地の解消や新たな仕事の創造に寄与します。二地域居住も休日半農、平日半X等により環境保全型の多業を実現できる可能性のある暮らし方と言えます。

国土交通省が2018年に取りまとめた「二地域居住推進の取組事例集」の中には、南房総市のNPO法人南房総リパブリックの取組を紹介しています。二地域居住者が求める古民家が無断熱のものが多く都市居住経験者を遠ざけることになっていることから、DIYエコリノベーションワークショップを実施し、古民家の断熱改修を実践するワークショップの開催など環境に配慮した二地域居住を推進する取組も始まっています。

事例:企業の地域における新しい働き方(ユニリーバ・ジャパン)

ユニリーバ・ジャパンでは、社員のウェルビーイング(幸福度)を向上させながら、地域との人材交流をはかり、新しいイノベーションやビジネスモデルを生み出せるような働き方を推進しています。同社は2016年7月、誰もがいきいきと自分らしく働き、豊かな人生をおくれるような新しい働き方として、働く場所と時間を社員が自ら選択できる「WAA」(Work from Anywhere and Anytime)を導入しました。働く場所は会社のほか自宅やカフェなどでも良く、平日の5時から22時の間で自由に勤務時間や休憩時間を決めて働くことができます。工場、営業の一部を除く全社員が対象で、理由を問わず、期間や日数の制限もありません。WAA導入後の社内調査では、30%の社員の生産性が向上し、33%の社員が幸福感があがったと回答しています。

2019年からは、この仕組みを更に発展させた「地域 de WAA」が始まっています。これは、ユニリーバ・ジャパンと自治体の連携による新しいワーケーションの仕組みです。自治体は、ユニリーバ・ジャパンの社員にコワーキングスペース(ネット環境が整い、働くことのできるスペース)と宿泊場所を提供します。また、社員に関わってもらうことを希望する地域課題や仕事を提示し、自治体の課題解決のために貢献した場合は宿泊費を負担します。つまり、社員が当該自治体で自社業務をしつつ、空き時間を活用して、地域の課題解決に貢献できるようにしているのです。

例えば、宮崎県新富町での地域 de WAAでは、町の小学6年生が携わる地元の産物を朝市で売るというプロジェクトの成功に向けて、ユニリーバ・ジャパンの社員がマーケティングや営業のポイントを伝授しました。町役場の職員にリーダーシップ研修も実施しています。こうした活動は、本業における商品開発や営業等の経験等を活かして地域の役に立てるということで、社員のモチベーションや自信の創出にもつながっています。

さらに、静岡県掛川市では、ユニリーバ・ジャパンの本業の環境配慮を高める取組の実証実験を始める予定です。また、掛川市の森里川海の豊かな自然環境が人材育成のために最適とのことで、社員のリーダーシップ研修や新人研修も行われています。

このようなWAAの取組は、社外にも広がっています。ユニリーバ・ジャパンの新しい働き方に賛同する企業・団体・個人によってTeam WAA!というネットワークが形成され、Team WAA!が地方自治体と連携する取組も始まっています。

このような企業とコミュニティの新しい働き方は、地域と都会のお互いの資源を活かしながら、双方の課題解決に資する地域循環共生圏の地域づくりにつながるものと言えます。

掛川市のコワーキングスペース
掛川市での森の中での研修の様子

4 レジャー・余暇

(1)レジャー・余暇における環境とのつながり

私たちは、レジャー・余暇で自然とふれあうことで、精神的な休息や自然への感性を得るなど人生を豊かにすることができます。近年では、世代や性別を問わず、多くの人々がレジャー・余暇において、海・川・公園等の自然や温泉を楽しみたいと考えています(図3-1-21)。

図3-1-21 性別・年代別の国内旅行のニーズ

自然とのふれあいは、自然環境への知識を深めるのに加え、環境と私たちの生活を見つめ直し、環境問題を自分ごと化して考える機会でもあります。登山、ハイキング、キャンプ、シュノーケリング、バードウォッチング、自然観察等は、豊かな自然の恵みを享受するものであり、その恩恵がなければ楽しむことができないものです。

地域ぐるみで自然環境や歴史文化等の地域固有の魅力を観光客に伝えることにより、その価値や大切さが理解され、保全につながっていくことを目指していく仕組みを「エコツーリズム」と言います。観光客に地域の資源を伝えることによって、地域の住民も自分たちの資源の価値を再認識し、地域の観光のオリジナリティが高まるとともに、地域社会そのものが活性化されていくと考えられます。

近年では、環境に配慮した取組や地域の自然資源を活用した宿泊施設等も増えており、環境保全に取り組んでいる場所へ旅行することが、持続可能な地域づくりや自然資源の維持につながる可能性があります。

一方、自家用車による旅行、それに伴う観光道路の渋滞等はCO2排出や大気汚染の原因になり、登山に伴うごみのポイ捨て等は自然環境に負担をかけることとなります。自然環境の受入れ容量を超える過剰な観光客の来訪により、自然環境や生活環境への負荷が生じる可能性もあることに留意が必要です。

以下では、私たちがレジャー・余暇における自然を享受できる取組や私たちの選択により持続可能な地域づくりを促すことのできる取組を紹介します。

コラム:健康で自然とのつながりを感じる「ライフスタイル」を促すスマートフォンサービス

岐阜県美濃加茂市は、エムティーアイと協働して、2020年夏頃より、地域の自然環境の保全活動や地域資源を活用した取組を行う「情報発信者」と市民の「利用者」をつなぎ、人・モノ・資源・お金を循環させることができるプラットフォームであるスマートフォンサービスの導入による地域循環共生圏づくりの取組を始める予定です。具体的には、健康で自然とのつながりを感じる「ライフスタイル」を実現するために、行政や企業、NPO、市民団体、地域が発信する健康や自然に関するイベント情報や地域資源を活かした特産品の情報を住民に届けます。

市民は、本サービスを通じて日々更新される街の情報を得るとともに、地域の魅力も再発見することができます。また、市民の防災意識の向上のために、平常時に防災イベントなどの発信も行います。

2021年以降は、サービス内で利用できるポイント制度の導入や、里山保全などの活動を地域内外の企業が支援できる仕組みの導入を行うとともに、他地域でも活用できる汎用的なプラットフォームとして発展させる予定です。

スマートフォンサービスを活用した事業イメージ
(2)国立公園と新宿御苑における自然の恵み等の享受
ア 国立公園満喫プロジェクト

自然とふれあうことにより、私たちは深い感動や安らぎを得ることができます。我が国の国立公園内は、自然の景観だけではなく、野生の動植物、歴史文化等の魅力に溢れています。さらに日本の国立公園の特徴として、森林、農地、集落等の多様な環境が含まれており、ほとんど手つかずで残された自然を探勝できる一方で、自然と人の暮らしが織りなす景勝地で歴史や文化にふれることもできます。

環境省では、2016年3月に政府が公表した「明日の日本を支える観光ビジョン」に掲げられた10の柱施策の一つとして、国立公園満喫プロジェクトを実施・推進しています。2015年に490万人であった訪日外国人の国立公園利用者を2020年に1,000万人とすることにより、国立公園の所在する地域の活性化を図り、自然環境の保護と利用の好循環を実現することを目標としています。先行的、集中的な取組を進める公園として、阿寒摩周、十和田八幡平、日光、伊勢志摩、大山隠岐、阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、慶良間諸島の8つの国立公園を選定し、民間活用によるサービスの向上や受入れ環境の整備、国内外への強力な情報発信等の様々な取組を進めており、得られた知見を他の国立公園へと展開しています。

具体的な例としては、地域の自然資源を活用した多様な宿泊サービス提供の取組として、環境省のキャンプ場等にて、国立公園の雄大な自然をはじめ、その場所でしか体験できない上質な宿泊体験を提供するために、民間事業者のノウハウを取り入れたサービスの提供や地元自治体・民間事業者等と連携したグランピングの取組を進めています。2019年度は、5つの国立公園でグランピングの取組を行っており、例えば大山隠岐国立公園では、国立公園の優れた自然景観と「神楽」を核とした地域独自の文化をコンテンツとしたグランピングが実施されました。

また、国立公園における保護と利用の「好循環」の実現のため、地元自治体・民間等との連携により、入域料の収受やツアー料金への上乗せ等の利用者負担による保全の仕組みづくりを進めています。阿蘇くじゅう国立公園では、農閑期の牧野(草原)において登録ガイドによるバイクトレッキング等のツアーが開始され、ガイド料金の一部を草原の維持費用に補填する取組が行われています。

イ 新宿御苑の取組

国が管理する国民公園の一つである新宿御苑は、都心にありながら約60haの面積を有し、豊かな自然や庭園が楽しめる場所です。近年は来園者が増加しており、2019年1月から12月末までの1年間では約245万人の人々が訪れています。

新宿御苑では、訪日外国人観光客への対応を含む来苑者の一層の満足度向上を目指し、2019年3月から開園時間の延長を行ったほか、桜や菊花壇、紅葉の時期のライトアップ、民間カフェの導入、キャッシュレス決済の取組等を進めてきました。また、新宿御苑インフォメーションセンターを中心に国立公園等に関する展示設備の設置やPRコンテンツの作成等を行うとともに、新宿御苑自体の魅力向上に向け効果的な園内案内や快適な滞在空間創出のための取組を実施しました。

図3-1-22 新宿御苑のレストハウスの民間カフェ導入イメージ
図3-1-23 新宿御苑のインフォメーションセンターのイメージ
(3)新・湯治

温泉は、森・里・川・海やその連関が形成する豊かな自然の恵みによって支えられる自然資源です。

古来より、日本人は温泉が持つ力に魅せられ、病気やけがの治癒を切に願う人、農閑期にいっときの骨休めをする人が集い、温泉地ができました。明治期以降に西洋医学が導入されてからは、治癒よりも保養・休養の場としての意味合いが大きくなり、観光地としての温泉地開発が進み、戦後はいわゆる「団体旅行」の宿泊地としての様相が強くなり、単なる宴会の場となり、旅館のみの滞在で終わる旅行者が増えました。

現在、我が国が、超高齢社会を迎える中、健康寿命の延伸、ワークライフバランスの確保、ストレスコントロールが重要な課題となっています。

温泉地が、温泉の力、また、自然や文化等の地域が持つ地域資源の力を十分に発揮し、訪れる人が心身ともにリフレッシュできるような場や機会を提供できれば、社会に活力を生み出すことができます。

温泉を利用することは、温泉資源の活用や維持だけでなく、私たちの心身の健康と休養、さらには地域の活性化につながります。

そこで、環境省では、現代のライフスタイルに合った温泉の楽しみ方を「新・湯治」と位置付け、多くの人が地域資源を楽しみつつ心身ともにリフレッシュすること、温泉地ににぎわいを創出することを目指して取組を進めています。「新・湯治」では、温泉地訪問者が、温泉入浴に加えて、周辺の自然、歴史・文化、食などを生かした多様なプログラムを楽しみ、地域の人や他の訪問者とふれあい、心身ともに元気になることを提案しています。また、「新・湯治」の考えに賛同する地方自治体、団体、企業等の多様な主体によるネットワークである「チーム新・湯治」を発足し、主体間の連携によってこれまでになかった新しい取組の展開を期待しています。2020年3月末時点で300団体等が参加しています。環境省が主催するセミナー等を通じて、温泉地における様々な取組をチーム員に共有しています。

事例:温泉地×働き方改革で新しいスタイルの滞在(和歌山県、白浜町、三菱地所)

温泉地では、土日祝日に利用客が集中しがちで、繁忙期と閑散期の差が激しいなどの課題がありました。テレワークやワーケーションといった企業の働き方改革の中で温泉地を活用する新しいスタイルの滞在が進んでいます。

東京から飛行機でのアクセスも良く、吉野熊野国立公園の豊かな自然環境や白浜温泉などの温泉地を有する和歌山県は、積極的にワーケーションの推進に取り組んでいます。和歌山県・和歌山県白浜町・三菱地所で協定を締結し、白浜町のITビジネスオフィスの1室を三菱地所が内装整備を行い、2019年5月にワーケーションオフィス「WORK×ation Site 南紀白浜」として開設しました。豊かな自然と温泉に囲まれたオフィスは、テナント企業に開発型合宿やオフサイトミーティングなど様々な形で活用されています。

白良浜、WORK×ation Site 南紀白浜、白浜温泉(崎の湯露天風呂)
(4)レジャー・余暇を通じた地域循環共生圏の創造に向けて

私たちが地域に訪れ、滞在し、地域資源の恵みを享受することは、新たな地域の需要を生み出し、地域の自然資源を活かしたビジネスを応援することにつながります。

例えば、滞在する宿泊施設やレストラン等の飲食店は、一定規模の食や木材、エネルギー等のニーズを生み出します。この需要サイドである宿泊施設等が、地域産の有機農産物を積極的に仕入れることで、地域の環境保全型農業等の持続可能なビジネス活動を支援することにつながります。また、環境に負荷の少ないライフスタイルを紹介したり、地域の資源を活用した環境に負荷の少ない製品を生産する現場を観光拠点とすることにより、訪問者がライフスタイルを見直す契機となる可能性があります。また事業者側にとっては、観光による新たな収入を生み出し、事業性を向上させることもできます。

このような個人のレジャー・余暇の過ごし方及び地域の企業や行政等との取組との連携・協働が地域循環共生圏の創造に寄与することができます。

事例:日本におけるBIO HOTEL(おとぎの宿米屋)

「BIO HOTEL(以下「ビオホテル」という。)」は、ドイツ南部・オーストリア西部を発祥とし、宿泊者の健康と経営・サービスにおける環境配慮基準の達成を規約とし、欧州のビオホテル協会の認証を受けたホテルのことを言います。ビオホテルでは、有機農業により生産された農産物等を使った料理を提供し、コスメやシャンプー等のアメニティも植物由来で化学物質を使用しておらず、再生可能エネルギーを使用した経営がされています。このようにビオホテルの取組は、地域の環境保全や持続可能な農業に資するものに一定の需要を生み出すことを通じて、周辺地域の持続可能性を向上させることも目指しています。

日本でも、ビオホテル協会の公認を受けた「一般社団法人日本ビオホテル協会」が認証したビオホテルがあります。その一つが福島県須賀川温泉にある「おとぎの宿 米屋」です。

おとぎの宿 米屋では、地域産を中心とした有機食材の料理や飲料、国際的なオーガニック認証を受けたシャンプー等のアメニティを提供しています。天然温泉が楽しめることに加え、温泉熱を活用して給湯や冷暖房のエネルギーを供給する設備を導入しており、熱源に係るCO2排出量を約7割削減し、これまで燃料としていた灯油を一切使用せず稼働しています。

また、おとぎの宿 米屋には、近隣エリア及び東北地方の有機栽培・自然栽培生産者、加工食品生産者、醸造元等から、積極的に農作物・畜産物の供給提案があり、おとぎの宿 米屋で必要な農産物への作付け計画を行っており、定期的に生産者が集まる会合を開催し、今後の方針や生産者間の情報交換を実施するなどコミュティを形成しています。また、有機栽培等環境再生型農業経験者を雇用し、近隣の耕作放棄地を活用した農作物栽培に加え、農業経験者と共に障害者の活躍の場を提供する農福連携にも取り組んでおり、おとぎの宿 米屋を通じて、有機農業等の取組が広がっています。

おとぎの宿 米屋 露天風呂「月」

コラム:KURKKU FIELDSで体験するサステイナブルな未来のかたち

2019年11月、KURKKUは、千葉県木更津市にある約30haという広大な土地に、農場、食肉加工場、レストラン、野外アート作品等を備えたサステイナブルファーム&パーク「KURKKU FIELDS(以下「クルックフィールズ」という。)」を開業しました。

クルックフィールズでは、サステイナブルな未来を体験できるコンテンツが様々用意されています。例えば、農場では有機JAS認証を取得したオーガニックな野菜の栽培、ハム・ソーセージ工場では、獣害対策のため駆除されたイノシシ等の加工肉の提供、また、養鶏場では、広い平飼いの環境で飼育された鶏による卵を提供するなど、生産、加工、消費が一体となった素材のストーリーを感じられる場づくりが行われています。また、フィールド内に生産地・生産者・消費地が一体として存在するため、市場に出るまでに捨てられる野菜の活用や消費者の体験や気づきを生産側に還元するなど、料理人にとっても大変クリエイティブな環境になっています。

また池の水を太陽光発電の電力を活用したポンプでくみ上げ、植物や微生物など自然の力を利用した水質浄化システム「バイオジオフィルター」を場内に整備し、微生物が分解した養分を植物が栄養素として吸い上げ多様な生態系が育まれており、フィールドにおける排水も同様に浄化するなど、水の循環によって自然のバランスが保たれていることを体感することができます。

クルックフィールズでは、訪れる人に、サステイナブルをライフスタイルの中に取り込んだモデルを分かりやすく紹介しています。クルックフィールズに訪れ、普段の生活の中で意識していなかった自然とのつながりを実感することで、サステイナブルであることが未来のかたちとしてより良いことであるという気づきを与えることを目指しています。

クルックフィールズの全体像、養鶏場の様子