環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部>第4章 東日本大震災からの復興と環境再生の取組>第1節 放射性物質汚染からの環境回復の状況

第4章 東日本大震災からの復興と環境再生の取組

2011年3月11日に、マグニチュード9.0という日本周辺での観測史上最大の地震が発生し、それによって引き起こされた津波によって、東北地方の太平洋沿岸を中心に広範かつ甚大な被害が生じました。また、東京電力福島第一原子力発電所の事故によって大量の放射性物質が環境中に放出され、被災した多くの方々が避難生活を余儀なくされました。

東日本大震災から9年が経過し、これまで除染や中間貯蔵施設の整備、特定廃棄物の処理、帰還困難区域における特定復興再生拠点区域の整備等の復興・再生に向けた努力が続けられてきました。2020年3月までに、帰還困難区域を除いて、全ての避難指示解除準備区域と居住制限区域の避難指示解除が行われました。帰還困難区域については、JR常磐線の全線開通にあわせて、双葉町、大熊町、富岡町の帰還困難区域に設定されている特定復興再生拠点区域の一部区域の避難指示解除が初めて行われました。

ここでは、被災地における復興・再生に向けたこれまでの取組を概観します。

第1節 放射性物質汚染からの環境回復の状況

1 空間線量率の状況

航空機モニタリングによる、2019年9月時点の東京電力福島第一原子力発電所から80km圏内の地表面から1mの高さの空間線量率の平均は、2011年11月時点と比べて約78%減少しています。東京電力福島第一原子力発電所事故によって放出された放射性物質は、主にヨウ素131、セシウム134、セシウム137で、半減期はそれぞれ約8日、約2年、約30年となっています。放射性物質の物理的減衰と降雨等の自然要因による減衰効果を考慮して、2011年8月時点と比較して2年後に約4割、5年後に約5割減少すると推定されていました。放射線量の減少は、この推定を上回るペースで進んでおり、除染の効果や降雨等の自然現象の影響等によるものと考えられます(図4-1-1)。

図4-1-1 東京電力福島第一原子力発電所80km圏内における空間線量率の分布

2 水環境における放射性物質の状況

環境省では、2011年から福島県及び周辺地域の水環境における放射性物質のモニタリングを継続的に実施しています。公共用水域(河川、湖沼、沿岸)のうち沿岸では、2018年度までの全期間を通じて、水質から放射性セシウムは検出されていません。河川及び湖沼については、2013年度以降、福島県以外の水質では放射性セシウムは検出されておらず、福島県の水質においても、検出率及び検出値は減少傾向にあります(図4-1-2)。また、地下水中の放射性セシウムについては、2011年度に福島県において検出されたのみで、2012年度以降検出されていません。

図4-1-2 福島県及びその周辺における公共用水域の放射性セシウムの検出状況

3 東京電力福島第一原子力発電所事故により放出された放射性物質に係るモニタリング

東京電力福島第一原子力発電所事故により環境中に放出された放射性物質のモニタリングについては、政府が定めた「総合モニタリング計画」(2011年8月モニタリング調整会議決定、2019年2月改定)に基づき、関係府省、地方公共団体、原子力事業者等が連携して実施しています。また、放射線モニタリング情報のポータルサイトにおいて、モニタリングの結果を一元的に情報提供しています。

4 野生動植物への影響のモニタリング

東京電力福島第一原子力発電所の周辺地域での放射性物質による野生動植物への影響を把握するため、関係する研究機関等とも協力しながら、野生動植物の試料の採取、放射能濃度の測定、推定被ばく線量率による放射線影響の評価等を進めました。また、関連した調査を行っている他の研究機関や学識経験者と意見交換を行いました。

5 野生鳥獣への影響と鳥獣被害対策

東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、放射線量の高い帰還困難区域等においては、農業生産活動等の人為活動が停滞し、狩猟や被害防止目的の捕獲を行うことが難しい状況となり、イノシシ等の野生鳥獣の人里への出没が増加し、農地を掘り返したり、家屋に侵入したりする被害が発生しています。

これらの鳥獣をこのまま放置すれば、住民の帰還準備や帰還後の生活、地域経済の再建に大きな支障が生じるおそれがあることから、2013年度から帰還困難区域等において、イノシシ等の生息状況調査及び捕獲、捕獲個体の最終処分を実施しており、2019年度は、5町村(福島県富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村)でイノシシを計2,136頭、アライグマ、ハクビシンを計667頭捕獲しました。