環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第2章>第4節 地域循環共生圏の創出に向けた地域の資源循環

第4節 地域循環共生圏の創出に向けた地域の資源循環

1 地域における資源循環の取組

第2節で述べた再生可能エネルギー資源、第3節で述べた自然資源に加えて、家畜ふん尿、食品廃棄物、下水汚泥、プラスチック、金属等の循環資源も「地域循環共生圏」の創造に不可欠な地域資源です。循環資源は、技術的・経済的に可能な範囲で環境負荷の低減を最大限考慮することで、狭い地域で循環させることが適切なものはなるべく狭い地域で循環させ、広域で循環させることが適切なものについては循環の環を広域化させるなど、各地域・各資源に応じた最適な規模で循環させる必要があります。

循環資源を最適な規模で循環させ効率的に利用していくには、各地域における既存のシステムや産業・技術、人的資源や社会関係資本を最大限に活用しつつ、課題や機会の掘り起こし、実現可能性調査の支援、優良事例の全国的共有等を引き続き進めていく必要があります。また、これまで行われてきた地域内での様々な循環の取組や仕組みに、広域化、一体的処理等の新たな視点を盛り込むことも重要であり、地方公共団体の行政区域にとらわれず、循環資源の特性や周辺地域の状況に応じた広域的な処理(適正規模での収集・処理)を行う、特定の拠点に循環資源を集中させて資源の性質や需要に応じた処理を行う、同じ性状の循環資源をまとめて処理することで規模の経済を働かせるといった対応を考えていく必要があります。

さらに、地方公共団体等が策定している廃棄物処理計画や個別のリサイクルの取組を単独で行うのではなく、様々な主体が連携して地方公共団体の枠を超えた統合的な計画づくりを行うことも考えられます。

廃棄物等の適正な処理を前提としつつ、循環資源そのものや地域の特性等に対しての従来からの見方や捉え方を変えることで、これまで未活用であった循環資源を最適な規模で循環させることができ、廃棄物処理施設や最終処分場の安定確保や廃棄物処理の効率化が可能となるのみならず、新たなビジネスによる雇用創出や地域活性化等にも結び付くことが期待できます。

事例:山口県における食品廃棄物の飼料化

山口県では年間19万トンの食品廃棄物が発生しており、そのほとんどが焼却処理・埋立処分されていることから、有効利用の推進が課題となっています。特に製造業と比較して小売業等の食品関連事業者における再生利用が進んでいないことから、これを推進するためのモデル事業を実施しました。

モデル事業の概要

この事業では、食品小売事業者から食品廃棄物を一体的に収集運搬して飼料化し、当該飼料を近郊の養鶏場で利用して得られた卵を小売店に還元する実証を行いました。事業を通じて、収集運搬の効率化等によるリサイクルコストの縮減や飼料・卵の品質確保、消費者の受入れ可能性といった課題と成果を把握することができました。

実証事業で得られた知見も踏まえ、食品廃棄物等の再生利用等実施率の向上や、環境教育、農畜産物のブランド化、地産地消等の地域での複合的な価値を作り出すことを目指しています。

事例:福岡県南筑後地域におけるプラスチックのリサイクル

福岡県南筑後地域(筑後市、八女市、柳川市、大川市、みやま市、大木町、広川町)では、焼却ごみを大幅に削減するため、焼却ごみの容積の半分を占め、焼却時の温室効果ガス排出量が大きいプラスチックの分別・リサイクルに取り組んでいます。この事業の特徴は、自治体が手を組み、広域で容器包装以外のプラスチックも含めた全てのプラスチックの資源化・地域循環を目指していることです。

触媒を活用した最新油化技術(HiCOP方式)により良質な再生油を生成

2018年4月には、産学官で組織したプラスチックリサイクル研究会に参加していた民間事業者が、大木町内に一時選別資源化施設を建設し稼動を始めます。当初の持込みは、柳川市、みやま市、大木町、八女市の一部に限られますが、将来的には7市町全域でのプラスチックの完全リサイクルを目指しています。

同施設に持ち込まれるプラスチックのうち、容器包装プラスチックは、選別・ベール化して容包装リサイクル協会に引き渡すほか、それ以外のプラスチックは再生油に戻して地域のボイラー燃料として利用します。

廃プラスチックを徹底回収し、選別・資源化することで、焼却による温室効果ガス排出削減と地域での新たな雇用創出、経済の循環を狙ったこの取組は、SDGsにつながる取組として注目されます。

今後は、普及啓発や環境学習、環境価値をPRする地域振興策を展開するとともに、プラスチックの広域循環を軸に他の焼却ごみの資源循環へも取組を広げていくことを目指しています。

事例:都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト

2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会では、都市鉱山を活用してメダルを製作する「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」が進められています。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下「組織委員会」という。)では、プロジェクト参加事業者である株式会社NTTドコモ、一般財団法人日本環境衛生センター、環境省、東京都と協力し、プロジェクトを通じて、オリンピック・パラリンピックの金・銀・銅メダルを合わせて約5,000個製作する予定です。

このプロジェクトは、日本全国の国民が参加してメダル製作を行う国民参画形式により実施します。過去にもメダルの原材料の一部としてリサイクル金属が活用された例はありましたが、国民が参画し、メダルを製作することを目標に使用済小型家電の回収を行い、集まった使用済小型家電から抽出された金属でメダルの製作を行うプロジェクトは、オリンピック・パラリンピック史上、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「2020年東京大会」という。)が初めてとなります。

郵便局に設置された回収ボックス

プロジェクトが開始された2017年4月以降、2018年1月末までの使用済小型家電回収量は、全国参加自治体による回収(携帯電話を含む小型家電回収)約8,915トン、株式会社NTTドコモによる回収(携帯電話を回収)約266万台となっています。2018年3月時点で、全国で小型家電リサイクルを実施している自治体の約8割に当たる1,425自治体がこのプロジェクトに参加しています。また、組織委員会と環境省では日本郵便株式会社と連携し、2018年3月に、全国約3,000か所の郵便局に携帯電話の回収ボックスを設置しました。

競泳の松田丈志選手は、「モノが溢れている現代で、都市鉱山を国民から集め、アスリートの努力の結晶とも言えるメダルを作成することは、オリンピック・パラリンピック開催国として、環境への配慮、国民の積極的な参加を促す意味でも大変良い形だと思います。誰もが一度は手に触れてみたいと思うメダルを、このような形で作成することは、国民の環境への意識を高めていく取組にもつながり、その意識は東京2020大会後も残っていくと思います」(組織委員会ウェブサイトより抜粋)とコメントしています。 本プロジェクトを通じて、2020年東京大会後も小型家電リサイクル制度が我が国の循環型社会として定着する「レガシー」となることが期待されています。

都市鉱山からつくる! みんなのメダルプロジェクト

事例:ホップ農家を助けたい!「ホップ和紙開発プロジェクト」(岩手県立遠野緑峰高等学校)

岩手県遠野市は日本一のホップの栽培面積を誇っています。しかし、近年は生産者の高齢化や後継者不足によりホップ生産量が大幅に減少し、ピーク時の約1/7にまで減少しています。ホップは、ビールの原料として毬花(きゅうか)が使われていますが、200トンを超えるそれ以外のほとんどが焼却処分されていました。そこで、岩手県立遠野緑峰高等学校は、ホップ生産者の農業所得を向上させ、若い担い手を育成していくことを目指して、2009年からホップを使った新たな付加価値製品の開発に着手しました。ホップの蔓(つる)は13メートルにも達し、多量の繊維を含んでいることを生産者から聞き、失敗を繰り返しながら試行錯誤の末、2014年に、捨てられていたホップ蔓から繊維を抽出しホップ繊維100%使った和紙づくりに成功しました。さらに、2017年4月には化学薬品を一切使用しないで無漂白繊維によるエコなホップ和紙の製造工程を確立させました。

回収したホップ蔓(つる)と遠野緑峰高校草花研究班ら

これまでに、ホップ農家を中心に30名ほどで結成された「ホップ和紙を育てる会」(以下「育てる会」という。)と協同で観光施設「伝承園」に和紙工房を立ち上げ、「ホップ和紙」を使った、名刺、しおり、コースター等が商品化され、販売されています。また、2017年度には、地元の木材加工業者との連携でホップ和紙を使い、遠野物語をあしらった切り絵ランプシェードが開発されました。この製品は、市内の20店舗を超える商店街に設置されており、観光客やお客様にホップ和紙の魅力を伝えています。

さらに、2015年度からは、ホップ和紙による卒業証書の製作依頼を受け、市内三つの小学校と遠野緑峰高等学校の児童生徒一人一人が紙を漉(す)き、世界に1枚だけのオンリーワン証書で卒業し世代間交流を通した環境教育活動にも力を入れています。

この高校生の活動によって、新規の若手ホップ生産者が育てる会に加入しホップ和紙の産業振興を着実に進めており、ホップ生産者の生産意欲の向上や同市の観光産業の活性化及びその担い手の存続維持に貢献しているほか、学校の教育教材としての活用など新たな和紙文化の創造に向けて奮闘しています。

この取組は、2018年2月の第3回全国ユース環境活動発表大会でグランプリ(環境大臣賞)を受賞しました。