環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成24年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第4章>第4節 愛知目標の達成に向けた世界への貢献

第4節 愛知目標の達成に向けた世界への貢献

 私たちの暮らしは、日本国内のみならず、世界各地の生物多様性の恩恵に支えられています。私たちが輸入し利用している食料や木材、医薬品、そして化石燃料も、生物多様性の産物です。生物多様性は、同時に、その土地に住む人たちの暮らしの基盤となっており、食料等の供給に加え、災害の発生防止、文化の形成等のさまざまな恩恵をもたらしています。さらに、生物多様性は、酸素の供給や気候の安定化等、地球環境を健全な状態に保つことに寄与しています。

 しかしながら、世界の生物多様性は、さまざまな努力にもかかわらず、依然として失われ続けており、このままでは将来世代の暮らしに支障を及ぼすおそれがあります。こうした危機感の中、2010年(平成22年)10月に愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)では、生物多様性の保全や持続可能な利用等の努力を世界的に一層促進するため、2011年以降の新たな世界目標である「愛知目標」が採択されました。現在、我が国を含む各締約国や関係国際機関等により、愛知目標の達成に向けた取組が進められています。

 この節では、愛知目標の達成に向けた我が国の国際貢献についてご紹介します。

1 はじめに

(1)世界の生物多様性の現況

 世界の生物多様性は、保全のための多くの努力が行われているにもかかわらず、依然としてさまざまな危機に瀕しています。世界の森林は毎年520万ヘクタール減少しており、その面積は九州地方よりも大きく、日本の国土面積の約14%に相当します。また、世界のサンゴ礁は19%がすでに失われており、効果的な対策が実施されなければ、今後10~20年間に15%が、20~40年間に20%がさらに失われると予測されています。動物や植物等の生物種については、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリスト2011によると、評価の対象となった59,508種のうち32%に当たる19,265種が絶滅のおそれがあると評価されています。人類は、この数百年間で、種の絶滅速度を自然状態の1,000倍に加速させたと推定されています。

 2010年(平成22年)5月に生物多様性条約事務局が公表した「地球規模生物多様性概況第3版(GBO3)」では、生物多様性を構成する生態系、種、遺伝子のすべてについて、損失が継続していると評価しました。また、損失を引き起こしている直接的な要因として、生息地の損失と劣化、過剰利用と非持続的な利用、過剰な栄養素の蓄積等による汚染、侵略的外来種、気候変動を挙げ、これらによる影響は、継続あるいは増加しているとしました。さらに、このまま損失が続き、生態系が「ある臨界点(a tipping point)」(図4-4-1)を超えると、生物多様性が劇的に損なわれ、それに伴い広範な生態系サービスが劣化する危険性が高いと警鐘を鳴らしました。その上で、人類が過去1万年にわたって依存してきた比較的安定した環境条件が来世紀以降も続くかどうかは、次の10~20年間の行動により決定づけられると指摘し、生物多様性の損失を引き起こしている要因を減らすため、緊急に取り組む必要があると世界に呼びかけました。


図4-4-1 転換点の概念図

(2)愛知目標

 2002年(平成14年)のCOP6において、「生物多様性の損失速度を2010年までに顕著に減少させる」という「2010年目標」を含む戦略計画が採択され、この目標の達成に向けた努力が世界各地で行われてきました。しかし、上述のGBO3により「2010年目標は達成されず、生物多様性は引き続き減少している」と結論付けられました。

 全世界が危機感を共有する中、2010年目標の目標年にあたる2010年(平成22年)10月に開催されたCOP10では、目標の空白期間を生じさせることなく、2011年以降の新たな世界目標である「生物多様性戦略計画2011-2020及び愛知目標」が採択されました(図4-4-2)。生物多様性戦略計画2011-2020及び愛知目標は、2050年までの長期目標(Vision)として「自然と共生する世界」の実現、2020年までの短期目標(Mission)として「生物多様性の損失を止めるために効果的かつ緊急な行動を実施する」ことを掲げています。あわせて、短期目標を達成するため、5つの戦略目標と、その下に位置づけられる2015年又は2020年までの20の個別目標を定めています。なお、「愛知目標」という言葉は正式には20の個別目標を指しますが、慣例的に「生物多様性戦略計画2011-2020及び愛知目標」全体を指すものとして使われているため、これ以降の記述では、「愛知目標」と記載することで便宜的に「生物多様性戦略計画2011-2020及び愛知目標」全体を表すこととします。


図4-4-2 生物多様性戦略計画2011-2020(愛知目標)

 生物多様性の損失を止め、臨界点を回避するばかりではなく、生物多様性を回復し、健全な状態で将来世代に引き継ぐためには、愛知目標が達成されなければなりません。2010年(平成22年)12月に開催された第65回国連総会では、愛知目標の達成に貢献するため、2011年(平成23年)から2020年(平成32年)までの10年間を、国際社会のあらゆるセクターが連携して生物多様性の問題に取り組むべき重点期間として「国連生物多様性の10年」とすることを採択しました。

 我が国は、本年10月8日から19日までの日程でハイデラバード(インド)において開催されるCOP11の開会まで、COP10議長国を務めます。我が国は、議長国と締約国の両方の立場から、愛知目標の達成に向けて、生物多様性国家戦略の改定に取り組む等国内施策の充実を図ることはもちろんのこと、途上国の能力養成等を支援するとともに、我が国で古くから培われてきた自然との共生の考え方を基に提唱したSATOYAMAイニシアティブを推進する等、積極的に国際貢献を行っています。我が国の国際貢献について、次項以降で詳しく説明します。

2 支援の取組

(1)いのちの共生イニシアティブ

 COP10で採択された愛知目標に基づき、今後は各国において、生物多様性国家戦略の改定をはじめとした、目標達成のためのさまざまな取組を着実に積み重ねていくことが求められています。ところが途上国では、科学的な知見や知識・経験の不足、また政府内で生物多様性の重要性に関する理解が浸透していないこと等により、取組が遅れているという現状があります。

 このため、COP10ハイレベルセグメント(閣僚級会合)において、菅総理大臣(当時)は愛知目標の達成に向けた途上国の努力を支援することを目的とした「いのちの共生イニシアティブ」を表明しました(2010年から3年間で総額20億ドルを支援)。このイニシアティブを通じて、日本型の国立公園管理手法を活用した保護区の管理能力の向上、SATOYAMAイニシアティブと連携した持続可能な自然資源の利用、微生物の保全・培養能力の構築といった遺伝資源へのアクセスと利益の配分などの分野で支援を行い、愛知目標の達成に向けた国際貢献を進めています。

(2)生物多様性日本基金

 「生物多様性日本基金」は、「いのちの共生イニシアティブ」の一環として、COP10で議長を務めた松本環境大臣(当時)から表明されました。この基金の目的は、生物多様性条約事務局を通じて、愛知目標の達成に向けた、途上国の能力養成を支援することです。条約事務局内に基金を創設し、我が国から平成22年度及び23年度にそれぞれ10億円と40億円の拠出を行いました。

 愛知目標を達成するためには、各締約国において愛知目標を踏まえた国別目標の設定を行い、生物多様性国家戦略に組み込んでいくことにより、国レベルで生物多様性関連施策を強化していくことが最も重要な課題となっています。これを受けて、生物多様性日本基金を活用し、主に途上国を対象として、生物多様性国家戦略の改定作業を支援する能力養成事業が進められています。2011年3月からこれまでに、世界各地で地域別の能力養成ワークショップが計15回開催され、延べ162カ国の締約国から650名以上の政府担当者が参加しました(図4-4-3)。


図4-4-3 生物多様性日本基金を活用した国家戦略改定支援ワークショップの開催状況(2011年)

 この一連のワークショップでは、生物多様性国家戦略の見直し・改定を行う際に重要となる視点や優良事例の紹介を行うほか、参加国間の経験共有や交流の機会を提供しています。また、生物多様性版スターンレビューといわれる「生態系と生物多様性の経済学」(TEEB: The Economics of Ecosystems and Biodiversity)の活用を進めることや、農林水産業や国土開発等、環境以外の分野の政策に生物多様性の観点を盛り込むこと等も扱うことにより、社会全体における生物多様性の主流化につながることが期待されています。

 さらにワークショップの企画運営において、関連する国際機関や地域機関、NGOとの連携・協働が重視されています。これにより、生物多様性にかかわる様々な主体間の国際レベル・地域レベルの連携強化が進み、この事業を中心として波及的な効果が広がっているといえます。中でも、地域レベルの活動の核となる機関の掘り起こしと連携体制づくりに力が入れられてきました。世界全体で取組を進めていくためには、社会経済の状況や自然環境に共通性がある地域のまとまりごとに、経験共有や技術協力等を行うことが効果的です。そのためには、地域に根ざした活動を行う機関を特定し、中核的な役割を担わせることが重要です。例えば東南アジア地域では、ASEAN生物多様性センターが挙げられます。生物多様性日本基金は、こうした地域機関の育成にも役立てられています。

 そのほかの事業としては、政策決定に影響力を持つ各国の国会議員及び外交団を対象として、COP10及びカルタヘナ議定書第5回締約国会議(MOP5)の主要な成果について普及啓発を行う説明会が世界各地で開催されています。また、愛知目標に関連した「国連生物多様性の10年」や貧困削減と開発についての取組に係る途上国支援も進めているほか、国連開発計画(UNDP)との協働プロジェクトであるSATOYAMAイニシアティブ推進プログラム(COMDEKS)に資金拠出しています。

 生物多様性日本基金を活用した事業の成果については、条約事務局のウェブサイトやニュースレター、機関誌等の媒体を通じて広報されており、COP10議長国としての日本の国際貢献が広く世界に発信されています。

(3)名古屋議定書実施基金

 世界各地の遺伝資源は、医薬品や機能性食品、化粧品、育種、その他の研究開発等に幅広く利用されており、人類の福利の向上に貢献しています。遺伝資源が、それを保有する国(主として途上国)から利用したいと考える国(主として先進国)の企業や研究者に円滑に提供され、その遺伝資源を用いて開発された製品の販売等から得られた利益を提供国に適切に配分し、提供国の生物多様性の保全や持続可能な利用に役立てる仕組みをABS(遺伝資源へのアクセスと利益配分、Access and Benefit-Sharing)といいます(図4-4-4)。


図4-4-4 ABS(遺伝資源へのアクセスと利益配分)の仕組みの概要

 COP10では、ABSに関する名古屋議定書が、長年の交渉の末、愛知目標と並び採択されました。また、愛知目標においても、個別目標の16として、2015年までに名古屋議定書を各国で施行することが盛り込まれました。ABSについては、生物多様性条約においても三つの目的の一つとして掲げられ、基本的な仕組みが定められていますが、名古屋議定書はその実施のために必要な提供国及び利用国のとるべき具体的な措置を規定したものです。しかし、特に途上国においては、名古屋議定書に対応した国内制度の構築や、ABSの取組への原住民等の社会や利害関係者の参加促進、遺伝資源の保全や持続的な利用のための能力構築や普及啓発が必要とされています。

 このため、我が国は、COP10期間中に、ABSに係る途上国支援のために10億円を拠出することを表明しました。これを受け、2011年(平成23年)3月17日に、名古屋議定書の早期発効及び効果的な実施を目的とした名古屋議定書実施基金(NPIF)が世界銀行に設立され、同年4月27日に我が国からの拠出を行いました。NPIFは地球環境ファシリティGEF)によって運営されています。同年5月24日~26日に開催された第40回GEF評議会では、我が国からの提案や評議会からの意見を踏まえ、NPIFに関する支援活動内容、プロジェクトや資金管理の仕方、作業計画等が承認されました。支援活動内容は、[1]ABS国内制度の発展、[2]民間セクターの参画や遺伝資源の保全等への投資の促進、[3]遺伝資源に関連する伝統的知識への適正なアクセスを確保するための原住民等の社会の能力構築、[4]普及啓発、[5]知識と科学的基盤の強化、の5項目となっています。また、資金拠出については、各国政府に限らず、民間セクターからも受け入れることとしました。

 2011年(平成23年)12月13日には、NPIFの第1号プロジェクトが承認されました。同プロジェクトでは、パナマにおいて、ガン等に対して治療効果のある化合物の発見、有効な化合物の発見と生物多様性の持続可能な利用を推進する技術の移転、遺伝資源のある保護区の保全や関連研究所の能力構築を通じた利益配分、ABS国内制度の構築を実施する予定です。実施主体は、パナマ環境庁(ANAM)、科学・先端技術サービス調査機関(INDICASAT)、パナマ大学、スミソニアン熱帯研究機関、国連開発計画(UNDP)、エーザイ・インク(エーザイ株式会社の米国子会社)等で構成される産官学連携プロジェクトとなっています。

 NPIFは、遺伝資源を利用した製品共同開発、遺伝資源の持続可能な利用や評価・保存、遺伝資源が多く存在する生息域の保全、遺伝資源に関連する伝統的知識の情報のデータベース化と有効利用等、途上国における幅広いプロジェクトに活用できる可能性があります。今後も、パナマのプロジェクトのように、国や国際機関、民間セクター等の多様な主体によるNPIFの活用あるいはNPIFへの拠出等の積極的な参画によって、遺伝資源の保全や持続可能な利用が促進されるとともに、名古屋議定書の早期発効及び効果的な実施に貢献することが期待されます。

3 政策と科学の連携強化

(1)生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)

 愛知目標の達成には、生物多様性や生態系サービスの現状や変化を科学的に評価し、それを的確に政策に反映させていくことが重要です。このため、世界中の研究成果を基に政策提言を行う政府間組織して、「生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム」(以下、「IPBES」という。)の設置について検討が進められてきました。IPBESは、気候変動分野の「気候変動に関する政府間パネルIPCC)」に例えて、「生物多様性版IPCC」と呼ばれることもあります。IPBESは、知見形成・科学的評価・政策立案支援・能力開発の4つを活動の柱とするもので、その設立により、科学的な見地から効果的・効率的な生物多様性保全の取組が一層推進されることが期待されています。

 IPBESは、2010年(平成22年)6月に釜山(韓国)で開催された国連環境計画(UNEP)の関連会合において、その設立の必要性が基本合意されました。2011年(平成23年)10月にはナイロビ(ケニア)において、設立に向けたIPBES総会第1回会合が、2012年4月にはパナマシティ(パナマ)においてその第2回会合が開催され、IPBESが正式に設立されました。

 我が国は、COP10議長国としての立場からも、IPBESの設立に向けて積極的な貢献を行っており、2011年(平成23年)7月、2012年(平成24年)2月には、国連大学及び南アフリカ政府とともに「IPBESに関する国際科学ワークショップ」を開催しました(写真4-4-1)。ワークショップでは、4つの活動の柱の一つである科学的評価に焦点をあてた活発な議論が行われ、その成果は参考文書として設立に向けたIPBES第1回・第2回会合に報告されました。また、会合会期中にワークショップの成果に基づき、科学的評価と知見形成に関するサイドイベントを開催したところ、多くの参加を得て、科学的評価とほかの活動の連携や、科学者と政策決定者との対話を促進するための議論が行われました。


写真4-4-1 IPBESに関する国際科学ワークショップ

(2)地球規模生物多様性情報機構(GBIF)等

 地球規模生物多様性情報機構(以下、「GBIF」という。)は、生物多様性情報の集積、共有、利用の促進を目的とした地球規模の生物多様性情報基盤です。GBIFは、地球規模の観測ネットワークであるGEO(Group for Earth Observation)の生物多様性ネットワーク(GEO-BON)の観測データ等の集積先になっています。また、GBIFの生物多様性情報は、生物多様性条約のクリアリングハウス(情報共有)メカニズムに貢献しています。GBIFは、これらの既存の役割に加えて、名古屋議定書の着実な実施や、IPBESによる知見形成や科学的評価の実施のための重要な基盤データを提供する役割が期待されており、今後、その重要性を増していくと考えられています。

(3)アジア地域における取組

 IPBESとGBIFに関係する、我が国が積極的に参画しているアジア地域の取組としては、東・東南アジア生物多様性情報イニシアティブ(以下、「ESABII」という。)と、アジア太平洋生物多様性観測ネットワーク(以下、「AP-BON」という。)があります。

 ESABIIは、東・東南アジア地域における生物多様性の保全施策の立案・実施に必要な情報の整備・提供や、分類学の能力向上を目的とするイニシアティブです。具体的な活動としては、絶滅危惧種や渡り性水鳥類等に係る情報の整備・提供や、輸出入管理等に必要な生物分類に係る研修の実施や識別マニュアルの作成等を行っています。我が国は2009年の設立当初よりESABIIの事務局を務めており、現在、ESABIIには、我が国を含む東・東南アジアの14か国と、GBIFや生物多様性条約事務局を含む3機関、AP-BONを含む3つのネットワークが参加しています。

 AP-BONでは、アジア太平洋地域における生物多様性保全に必要な科学的基盤の強化を目的として、生物多様性観測、モニタリングデータの収集・統合化等を推進しています。ESABIIと同じく、AP-BONについても、我が国が2009年の設立当初から運営を担っています。これまでアジア太平洋地域の専門家を対象とした国際ワークショップを開催するなど、生物多様性観測ネットワークの構築を支援しています。

4 日本から世界への発信 ~SATOYAMAイニシアティブ~

 人々の暮らしや生物多様性を守るためには、原生的な自然環境だけでなく、農業や林業などの人の営みを通じて形成・維持されてきた二次的な自然環境の保全も重要です。こうした自然環境にはそれに適応した多様な生物が生息・生育しており、生物多様性の保全上重要な役割を果たしています。これらの生物は、都市化、産業化、地域の人口構成の急激な変化等により、世界の多くの地域で危機に瀕しています。

 我が国においても、里地里山の管理や再活性化は、過疎化や地域に基盤を有する一次産業の衰退が進む中で長年取り組んできている課題です。人と自然との共生というビジョンを実現していくためにも、我が国は二次的な自然環境における生物多様性の保全とその持続可能な利用の両立を目指す「SATOYAMAイニシアティブ」を国連大学とともに主唱し、諸外国や関係機関と問題意識を共有しつつ、世界規模で検討し、取組を進めています。

 SATOYAMAイニシアティブを推進していくために、COP10期間中の2010年(平成22年)10月19日に発足した「SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(以下、「IPSI」という)」は、2012年(平成24年)3月13日から14日に開催されたIPSIの第2回定例会合において、9カ国の政府機関を含む51団体から16カ国の政府機関を含む117団体に増加しました。

 IPSIでは、SATOYAMAイニシアティブの理念(図4-4-5)に基づいた具体的な取組を進めていくために、定例会合のような参加団体間の情報共有だけでなく、協力活動の促進を行っています。2012年(平成24年)3月現在、IPSIの協力活動は22件になります。


図4-4-5 SATOYAMAイニシアティブの概念構造

 例えば、協力活動の一つとして、我が国、生物多様性条約事務局、国連開発計画(UNDP)、国連大学(UNU)との間で、「SATOYAMAイニシアティブ推進プログラム」(Community Development and Knowledge Management for the Satoyama Initiative、略称:COMDEKS)を平成23年6月24日に立ち上げました(図4-4-6)。途上国を対象に、地域コミュニティによる社会生態学的生産ランドスケープの維持・再構築のための現地活動を支援するとともに、その現地活動の成果に関する知見を集約・発信していきます。当プログラムは、SATOYAMAイニシアティブの理念に基づいた現地活動への支援を地球規模で展開する最初のプログラムであり、危機的な状況にある世界各地の二次的な自然環境の維持・再構築を通じ、生物多様性の保全とその持続可能な利用、さらに、そこに暮らす人々の生活の向上に貢献できると考えています。


図4-4-6 SATOYAMAイニシアティブ推進プログラム(CDMDEKS)のしくみ

 また、地球環境ファシリティ(GEF)事務局と我が国の間では、2011年(平成23年)12月にSATOYAMAイニシアティブに関する協力覚書の署名を行い、GEF第5フェーズの生物多様性戦略の下、SATOYAMAイニシアティブに関連した中規模や大規模を含むプロジェクトに対する支援の促進、連携活動の機会の探求等を実施することとしました。(写真4-4-2


写真4-4-2 GEFとのSATOYAMAイニシアティブに関する協力覚書の署名式

 さらに、平成23年3月11日に発生した東日本大震災で被災した東北沿岸地域における、里山、里地、里海の連環を通じた地域再生の可能性について議論し、地域の方々による復興に向けた取組に寄与することを目的とするシンポジウム「東日本大震災復興支援シンポジウム-里海・里地・里山の復興をめざして-」を同年8月5日に開催しました(写真4-4-3)。


写真4-4-3 東日本大震災復興支援シンポジウム─里海・里地・里山の復興をめざして─

 また、第4章第3節で紹介した家庭用プリンターの使用済みインクカートリッジの共同回収活動「インクカートリッジ里帰りプロジェクト」を実施している国内のプリンターメーカー6社は、IPSIが実施している東日本大震災復興支援活動と自然共生社会構築活動への支援を始めています。

 このようなIPSIのメンバーの拡大及び協力活動の活発化に伴い、SATOYAMAイニシアティブの一層の推進が期待されます。我が国は、東日本大震災で被災した東北沿岸地域の里山、里地、里海の復興を含め、二次的な自然環境の保全及び持続可能な利用に関して、IPSIを通じて世界の知恵を結集し議論するとともに、2012年(平成24年)に開催される国連持続可能な開発会議(リオ+20)、第5回世界自然保護会議(IUCN-WCC)、COP11の場を通じて世界に発信していきたいと考えています。