第3節 地域における人と自然の関係を再構築する取組

1 絶滅のおそれのある種の保存

(1)レッドリスト

 野生生物の保全のためには、絶滅のおそれのある種を的確に把握し、一般への理解を広める必要があることから、環境省では、レッドリスト(日本の絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)を作成・公表するとともに、これを基にしたレッドデータブック(レッドリスト掲載種の生息・生育状況等を解説した資料)を刊行しています。

 レッドリストについては、平成19年8月までに、第2次見直しが終了し、絶滅のおそれのある種は3,155種となっています(表5-3-1)。20年度から24年度にかけて、第3次見直しを実施しています。


表5-3-1 日本の絶滅のおそれのある野生生物の種数

(2)希少野生動植物種の保存

 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(平成4年法律第75号。以下「種の保存法」という。)に基づく国内希少野生動植物種にマルコガタノゲンゴロウ、フチトリゲンゴロウ、シャープゲンゴロウモドキ、ヨナグニマルバネクワガタ、ヒョウモンモドキの昆虫5種を追加し、国内希少野生動植物は、哺乳類5種、鳥類38種、爬虫類1種、両生類1種、汽水・淡水魚類4種、昆虫類15種、植物23種の87種となりました(写真5-3-1)。また、平成22年11月にはオガサワラオオコウモリの保護増殖事業計画を新たに策定し、合わせて48種について、生息地の整備や個体の繁殖等の保護増殖事業を行っています(図5-3-1)。また、同法に基づき指定している全国9か所の生息地等保護区において、保護区内の国内希少野生動植物の生息・生育状況調査、巡視等を行いました。


写真5-3-1 新たに捕獲・譲渡しが禁止される希少昆虫(5種のうち3種)


図5-3-1 主な保護増殖事業の概要

 絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(以下「ワシントン条約」という。)及び二国間渡り鳥条約等により、国際的に協力して種の保存を図るべき698種類を、国際希少野生動植物種として指定しています。

 絶滅のおそれのある野生動植物の保護増殖事業や調査研究、普及啓発を推進するための拠点となる野生生物保護センターを、平成23年3月末現在、8か所で設置しています。

 トキについては、平成22年3月に佐渡トキ保護センターの野生復帰のための順化訓練施設において、トキがテンに襲われ死亡する事故が発生したことから、トキの死亡事故にかかる検証委員会からの提言を受け、施設の改善、トキ保護増殖事業全体を現地で統括する責任者の配置等を行いました。その上で、20年、21年に引き続き、22年11月に第3回目、23年3月に第4回目の放鳥を実施しました。

 絶滅のおそれのある猛禽類については、良好な生息環境の保全のため、イヌワシ、クマタカ、オオタカの保護指針である「猛禽類保護の進め方」の改訂に向けた取組を進めました。また、平成23年1月に、絶滅のおそれのある種を含む鳥類等の風力発電施設における衝突について、鳥類等に与える影響を軽減できるよう、配慮すべき各種知見、資料、防止策等を「鳥類等に関する風力発電施設立地適正化のための手引き」として公表しました。

 沖縄本島周辺海域に生息するジュゴンについては、地域住民への普及啓発を進めるとともに、全般的な保護方策を検討するため、地元関係者等との情報交換等を実施しました。

(3)生息域外保全

 トキ、ツシマヤマネコ、ヤンバルクイナなど、絶滅の危険性が極めて高く、本来の生息域内における保全施策のみで種を存続させることがむずかしい種について、飼育下繁殖を実施するなど生息域外保全の取組を進めています(写真5-3-2)。


写真5-3-2 飼育下で産まれたツシマヤマネコ

 平成19年度から体系的な生息域外保全のあり方についての検討を行い、20年度には「絶滅のおそれのある野生動植物種の生息域外保全に関する基本方針」を、22年度には「絶滅のおそれのある野生動植物種の野生復帰に関する基本的な考え方」を取りまとめました。また、生息域外保全からの野生復帰技術の確立などを目的としたモデル事業(動物3事業、植物2事業)を実施しました。

2 野生鳥獣の保護管理

(1)科学的・計画的な保護管理

 長期的ビジョンに立った鳥獣の科学的・計画的な保護管理を促し、鳥獣保護行政の全般的ガイドラインとしてより詳細かつ具体的な内容を記した、「鳥獣の保護を図るための事業を実施するための基本的な指針」に基づき、鳥獣保護区の指定、被害防止のための捕獲及びその体制の整備、違法捕獲の防止等の対策を総合的に推進しました。

 狩猟者人口は、約53万人(昭和45年度)から約22万人(平成20年度)まで減少し、高齢化も進んでおり、被害防止のための捕獲に当たる従事者の確保が困難な地域も見られるなど鳥獣保護管理の担い手の育成及び確保が求められていることから、狩猟者等を対象とした研修事業や鳥獣保護管理に係る人材登録事業を実施しました。

 各地でクマによる人身被害が多発したことから、関係省庁と連携して都道府県に対する情報提供や注意喚起等を実施しました。

 特定鳥獣保護管理計画(以下「特定計画」という。)の技術研修会を開催し、都道府県における特定計画作成を促しました。関東地域、中部近畿地域におけるカワウについては広域協議会を、白山奥美濃地域のツキノワグマ及び関東山地のニホンジカについては連絡会議を開催し、関係者間の情報の共有を行いました。また、関東カワウ広域協議会においては、一斉追い払い等の事業を実施しました。

 適切な狩猟が鳥獣の個体数管理に果たす効果等にかんがみ、都道府県及び関係狩猟者団体に対し、事故及び違法行為の防止を徹底し、適正な狩猟を推進するための助言を行いました。

 出水平野に集中的に飛来するナベヅル、マナヅル等の保護対策として、生息環境の保全、整備を実施しました。また、渡り鳥の生息状況等に関する調査として、鳥類観測ステーションにおける鳥類標識調査、ガンカモ類の生息調査、コアジサシ等の定点調査等を実施しました。

 鳥獣の生息環境が悪化した鳥獣保護区の生息地の保護及び整備を図るため、浜頓別クッチャロ湖(北海道)、宮島沼(北海道)、片野鴨池(石川県)、漫湖(沖縄県)、谷津(千葉県)、浜甲子園(兵庫県)において保全事業を実施しました。

 野生生物保護についての普及啓発を推進するため、愛鳥週間行事の一環として石川県金沢市において第64回「全国野鳥保護のつどい」を開催したほか、小中学校及び高等学校等を対象として野生生物保護の実践活動を発表する「全国野生生物保護実績発表大会」等を開催しました。

(2)鳥獣被害対策

 野生鳥獣の生態及び行動特性を踏まえた効果的な追い払い技術の開発等の試験研究、防護柵等の被害防止施設の設置、効果的な被害防止システムの整備、捕獲獣肉利活用マニュアルの作成等の対策を推進するとともに、鳥獣との共存にも配慮した多様で健全な森林の整備・保全等を実施しました。

 農山漁村地域において鳥獣による農林水産業等に係る被害が深刻な状況にあることを背景として、その防止のための施策を総合的かつ効果的に推進することにより、農林水産業の発展及び農山漁村地域の振興に寄与することを目的とする鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律(平成19年法律第134号)が成立し、平成20年2月から施行されました。この法律に基づき、市町村における被害防止計画の作成を推進し、鳥獣被害対策の体制整備等を推進しました。

 近年、トドによる漁業被害が増大しており、トドの資源に悪影響を及ぼすことなく、被害を防ぐための対策として、被害を受ける刺網等の強度強化を促進しました。

(3)鳥インフルエンザ対策

 平成20年に策定した「野鳥における高病原性鳥インフルエンザに係る都道府県鳥獣行政担当部局等の対応技術マニュアル」に基づき、高病原性鳥インフルエンザウイルス保有状況調査を全国で実施し、その結果を公表しました。また、17年度から行っている人工衛星を使った渡り鳥の飛来経路に関する調査を継続するとともに、国指定鳥獣保護区等への渡り鳥の飛来状況についてホームページ等を通じた情報提供を行いました。

 平成22年10月以降、北海道、鳥取県、鹿児島県等全国各地において、野鳥や家禽の糞や死亡個体から高病原性鳥インフルエンザウイルスが検出されたことから、恒常的に実施しているウイルス保有状況調査や渡り鳥の飛来状況の把握等の取組に加え、都道府県等と連携して全国の野鳥の監視体制を強化しました。

3 外来種等への対応

(1)外来種対策

 外来生物法に基づき、97種類の特定外来生物(平成23年3月現在)の輸入、飼養等を規制しています。また、奄美大島や沖縄本島北部(やんばる地域)の希少動物を捕食するジャワマングースの防除事業、小笠原諸島内の国有林でのアカギ等の外来種の駆除のほか、アライグマ、アルゼンチンアリ等についての防除モデル事業等、具体的な対策を進めています。さらに、生物多様性条約第10回締約国会議COP10での情報発信、外来種の適正な飼育に係る呼びかけ、ホームページ(http://www.env.go.jp/nature/intro/)等での普及啓発を実施しました。

(2)遺伝子組換え生物への対応

 バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書(以下「カルタヘナ議定書」という。)を締結するための国内制度として定められた遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(平成15年法律第97号。以下「カルタヘナ法」という。)に基づき、平成23年3月末現在、172件の遺伝子組換え生物の環境中での使用について承認されています。また、日本版バイオセーフティクリアリングハウスhttp://www.bch.biodic.go.jp/)を通じて、法律の枠組みや承認された遺伝子組換え生物に関する情報提供を行ったほか、主要な輸入港周辺等において遺伝子組換えナタネの生物多様性への影響監視調査などを行いました。

4 動物の愛護と適正な管理

(1)動物の愛護と適正な管理

 動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)の適切かつ着実な運用を図るために策定された動物の愛護及び管理に関する施策を推進するための基本的な指針(以下「基本指針」という。)に基づき、各種施策を総合的に推進しました。これらの施策の進捗については毎年点検を行っており、このうち、飼養放棄等によって都道府県等に引取りや収容される動物については、平成21年度の犬猫の引取り数は16年度に比べ約35%減少し、返還・譲渡数は同じく約50%増加しました。殺処分数は毎年減少傾向にあり、約23万頭(調査を始めた昭和49年度の約5分の1)まで減少しました(図5-3-2)。


図5-3-2 全国の犬猫の引取り数の推移

 これらの動物の譲渡及び返還を促進するため、適正譲渡講習会を実施するとともに、都道府県等の収容・譲渡施設の増改築に係る費用の補助を行いました。さらに、マイクロチップによる個別識別措置を推進するため、普及啓発に係る事業を行いました。マイクロチップの登録数は年々増加しており、平成23年3月末現在累計約45万件となっていますが、犬猫等の飼養数全体から見ればまだ2%程度にすぎず、引き続き普及のための取組が必要です。

 広く国民が動物の虐待の防止や適正な取扱いなどに関して正しい知識と理解を持つため、関係行政機関、団体との協力の下、"ふやさないのも愛"をテーマとして、上野公園で中央行事「動物愛護ふれあいフェスティバル」を開催したほか、104の関係自治体等において各種行事が実施されました。

 愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(平成20年法律第83号。ペットフード安全法)は、平成21年6月に施行され、同法に基づき22年12月から製造されるペットフードに、原材料、原産国名、賞味期限等の5項目の表示が義務化されました。また、法律の内容と犬猫への適切な給餌方法について、講習会の開催やポスター・DVD等の作成により普及啓発を図りました。

5 遺伝資源等の持続可能な利用

(1)遺伝資源の利用と保存

 医薬品の開発や農作物の品種改良など、生物資源がもつ有用性の価値は拡大する一方、熱帯雨林の減少や砂漠化の進行などにより、多様な遺伝資源が減少・消失の危機に瀕しており、貴重な遺伝資源を収集・保存し、次世代に引き継ぐとともに、これを積極的に活用していくことが重要となっています。

 農林水産分野では、関係機関が連携して、動植物、微生物、DNA、林木、水産生物などの国内外の遺伝資源の収集、保存などを行っており、植物遺伝資源24万点をはじめ、世界有数のジーンバンクとして利用者への配布・情報提供を行っています。平成21年度には、新たに植物遺伝資源約5,000点等を追加しました。また、海外から研究者を受け入れ、遺伝資源の保護と利用のための研修を行いました。

 ライフサイエンス研究の基盤となる研究用動植物等のバイオリソースのうち、マウス、シロイヌナズナ等の27のリソースについて、「ナショナルバイオリソースプロジェクト」により、大学・独立行政法人理化学研究所等において、生物遺伝資源の戦略的・体系的な収集・保存・提供を行いました。

(2)微生物資源の利用と保存

 独立行政法人製品評価技術基盤機構を通じた資源保有国との生物多様性条約の精神に則った国際的取組の実施などにより、資源保有国への技術移転、わが国の企業への海外の微生物資源の利用機会の提供などを行いました。

 わが国の微生物などに関する中核的な生物遺伝資源機関である独立行政法人製品評価技術基盤機構生物遺伝資源センターにおいて、生物遺伝資源の収集、保存などを行うとともに、これらの資源に関する情報(分類、塩基配列、遺伝子機能などに関する情報)を整備し、生物遺伝資源とあわせて提供しました。

(3)バイオマス資源の利用

 第3章第4節(8)コを参照。



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