第2節 生物多様性を社会に浸透させる取組(生物多様性の主流化)

1 普及広報と国民参画

(1)生物多様性の普及広報

  生物多様性の恵みを将来世代にわたって享受できる自然と共生する社会を実現していくためには、私たちの日常生活や社会経済活動の中に生物多様性への配慮が組み込まれる必要があります。国民の「生物多様性」という言葉の認知度は、平成21年6月の内閣府世論調査では約36%で、16年の環境省調査から約6ポイント増加したものの、依然として低い状況となっています。

 このため、平成20年度に決定した生物多様性のコミュニケーションワード「地球のいのち、つないでいこう」や、国民一人ひとりが生物多様性に取り組む際のヒントとなる「国民の行動リスト」をさまざまな機会で普及広報しました。また、著名人による広報組織「地球いきもの応援団」は、多様な主体が主催するイベントに出演し、生物多様性の大切さを伝えたり、具体的な行動を促したりする取組にご協力いただきました。さらに、平成22年3月に日本人女性アーティストのMISIAさんが国連から「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)名誉大使」に任命されたことを受け、その活動支援を通じて、COP10と生物多様性に関する理解増進を図りました。また、エコプロダクツ2010(東京都)、メッセナゴヤ2010(名古屋市)などの環境総合展示会に参加し、生物多様性に配慮した事業活動や生物多様性の重要性などについて普及啓発を行いました。


写真5-2-1 エコプロダクツ2010

 毎年5月22日は、国連が定めた「国際生物多様性の日」です。国連の生物多様性条約事務局では、2008年(平成20年)から国際生物多様性の日の午前10時に、世界各地の青少年による学校の敷地等への植樹を呼びかけており、地球上を東から西へ植樹された樹木が波のように広がっていく様子を、「グリーンウェイブ」と呼んでいます。環境省、農林水産省及び国土交通省では、「グリーンウェイブ2010」として、この活動への参加を広く呼びかけ、全国で約1,600団体、111,000人が参加しました。また、国際生物多様性の日を記念する行事の開催を幅広く促すとともに、関連団体と連携し、植樹イベント等の記念事業を実施しました。

 2010年(平成22年)は国連が定めた「国際生物多様性年」に当たり、多様な主体からなる国家的な組織を設置し、国際年を記念するための行事を開催することが、国連により奨励されています。このため、22年1月に「国際生物多様性年国内委員会」を設置し、キックオフイベントをはじめとした記念行事を開催しました。

(2)地方公共団体、企業、NGOなど多様な主体の参画と連携

 都道府県及び市町村が、生物多様性基本法に基づく「生物多様性地域戦略」を定める際に参考となる基本的情報を示した「生物多様性地域戦略策定の手引き」を作成しました。また、平成22年度には全国7か所で策定を後押しする説明会を実施しました。生物多様性地域戦略は、平成23年3月末現在、北海道、栃木県、埼玉県、千葉県、愛知県、滋賀県、兵庫県、長崎県、熊本県、大分県、さいたま市、流山市、高山市、名古屋市、神戸市、北九州市で策定されており、多くの地方公共団体で策定に向けた検討が進められています。

 国内外の自治体が生物多様性に関する取組について情報交換し、今後の活動推進を図るため、愛知県及び名古屋市等の主催で「生物多様性国際自治体会議」がCOP10期間中に開催され、その成果はCOP10閣僚級会合で報告されました。

 企業をはじめとする幅広い分野の事業者が、生物多様性に配慮した事業活動を自主的に行う際の指針となる「生物多様性民間参画ガイドライン」について、各種セミナーやイベント等で普及広報を行いました。

 生物多様性の保全及び持続可能な利用等、生物多様性条約の実施に関する民間の参画を推進するため、経済界を中心とした自発的なプログラムとして設立された「生物多様性民間参画イニシアティブ」の取組に協力しました。

 世界の青年の交流と生物多様性に関する意識の向上等を目指し、COP10の関連会議として「生物多様性国際ユース会議in愛知2010」を開催しました。世界中から66か国の青年100名が会議に参加し、本会議の成果をCOP10の場において発表しました。

 地域の多様な主体による生物多様性の保全・再生活動を支援するため、平成22年度から「地域生物多様性保全推進事業」を開始し、全国20か所の取組の支援を行いました。また、平成20年度から開始した「生物多様性保全推進支援事業」については、全国25か所の取組の支援を行いました。

 2010年(平成22年)12月に、「地域における多様な主体の連携による生物の多様性の保全のための活動の促進等に関する法律(生物多様性保全活動促進法)」が制定されました。同法は、環境省、農林水産省、国土交通省の3省共管であり、地域の生物多様性を保全するため、市町村やNPO、地域住民、企業など多様な主体が連携して行う生物多様性保全活動を促進しようとするものです。2011年(平成23年)1月には、同法に基づく基本方針の検討に着手し、生物多様性保全活動の促進に関する検討会や、全国9か所(札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、岡山、高松、熊本、那覇)での意見交換会を開催しました。

 ナショナル・トラスト活動については、その一層の促進のため、引き続き税制優遇措置、普及啓発等を実施しました。

2 自然とのふれあい

(1)自然とのふれあい活動

 「みどりの月間」(4月15日~5月14日)、「自然に親しむ運動」(7月21日~8月20日)、「全国・自然歩道を歩こう月間」(10月)等を通じて、自然観察会等自然とふれあうための各種活動を実施しました。また、平成22年11月に「平成22年度自然公園ふれあい全国大会」を霧島屋久国立公園(鹿児島県域内)において開催しました。

 国立・国定公園の利用の適正化のため、自然公園指導員の研修を実施し、利用者指導の充実を図りました。また、パークボランティアの養成や活動に対する支援を実施しました。

 自然体験プログラムの開発や子どもたちに自然保護官の業務を体験してもらうなど、自然環境の大切さを学ぶ機会を提供しました。

 国立公園のビジターセンターなど全国84か所において、自然体験プログラムなどの体験を通して生物多様性の大切さを学び、理解を深める「全国自然いきものめぐりスタンプラリー」を実施しました。

 国有林野においては、森林教室、体験セミナー等を通じて、森林とのふれあいを楽しみながら理解を深める「森林ふれあい推進事業」等を実施しました。また、学校等による体験・学習活動の場である「遊々の森」や、国民による自主的な森林づくりの活動の場である「ふれあいの森」の設定・活用を推進しました。

 国営公園においては、ボランティア等による自然ガイドツアー等の開催、プロジェクト・ワイルド等を活用した指導者の育成等、多様な環境教育プログラムを提供しました。

(2)エコツーリズム

 グリーン・ツーリズムとの連携など地域の創意工夫を生かしたエコツーリズムを通じた地域活性化支援、エコツーリズムによる資源利用の適正化、エコツーリズムの実態調査・解析・伝播事業を行いました。また、各地の全体構想の認定や地元協議会への参画・助言等、エコツーリズム推進法(平成19年法律第105号)に基づき取り組む地域への支援等を総合的に実施しました。

(3)自然とのふれあいの場の提供

 ア 国立・国定公園などにおける取組

 国立公園の保護及び利用上重要な公園事業を環境省の直轄事業とし、利用拠点である集団施設地区における直轄施設の温室効果ガス排出削減やユニバーサルデザイン化と外国人旅行者のための標識等表示の多言語化、利用者が集中する地域における生態系への影響の軽減、適正かつ質の高い利用の推進のための施設等を重点的に整備しました。国定公園及び長距離自然歩道については、36都道府県に自然環境整備交付金を交付し、その整備を支援しました。長距離自然歩道の計画総延長は約26,000kmに及んでおり、平成21年には約6,300万人が長距離自然歩道を利用しました。

 イ 森林における取組

 保健保安林等を対象として防災機能、環境保全機能等の高度発揮を図るための整備を実施するとともに、国民が自然に親しめる森林環境の整備に対し助成しました。また、森林環境教育、林業体験学習の場となる森林・施設の整備等を推進しました。さらに、森林総合利用施設等において、年齢や障害の有無にかかわらず多様な利用方法の選択肢を提供するユニバーサルデザイン手法の普及を図りました。国有林野においては、自然休養林等のレクリエーションの森において、民間活力をいかしつつ利用者のニーズに対応した森林及び施設の整備等を行いました。また、国有林野を活用した森林環境教育の一層の推進を図るため、農山漁村における体験活動とも連携し、フィールドの整備及び学習・体験プログラムの作成を実施しました。

(4)都市と農山漁村の交流

 全国の小学校において農山漁村での1週間程度の長期宿泊体験活動の実施を目指す「子ども農山漁村交流プロジェクト」を推進し、子どもの豊かな心を育むとともに、自然の恩恵などを理解する機会の促進を図るため、新たに全国で25地域の受入モデル地域を指定しました。

 都市住民の農山漁村情報に接する機会の拡大、地域資源を活用した交流拠点の整備、都市と農村の多様な主体が参加した取組等を総合的に推進し、グリーン・ツーリズムの普及を進め、農山漁村地域の豊かな自然とのふれあい等を通じて自然環境に対する理解の増進を図りました。

(5)温泉の保護及び安全・適正利用

 ア 温泉の保護及び安全・適正利用

 温泉の保護、温泉の採取等に伴い発生する可燃性天然ガスによる災害の防止及び温泉の適正な利用を図ることを目的とした温泉法(昭和23年法律第125号)に基づき、温泉の掘削・採取、浴用又は飲用利用等を行う場合には、都道府県知事や保健所設置市長等の許可等を受ける必要があります。平成21年度には、温泉掘削許可232件、増掘許可26件、動力装置許可272件、採取許可1,012件、濃度確認1,389件、浴用又は飲用許可2,496件が行われました。

 温泉法の適正な施行を図るため、温泉の保護対策や温泉成分の分析方法等に関する調査・検討を実施しました。

 イ 国民保養温泉地

 国民保養温泉地は、温泉の公共的利用増進のため、温泉法に基づき指定された地域であり、平成23年3月末現在、91か所が指定されています。

3 教育・学習

 第6章第7節1を参照。



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