第3節 地球温暖化に対する世界の動き

 地球温暖化に伴う被害はすでに発生し始めており、適切な緩和策を講じ、その被害によるコストを最小限に食い止めることが必要です。一方、わが国だけが高い目標を掲げても地球温暖化を食い止めることはできません。この一国だけでは対処しきれない大きな問題に対し、国際交渉の場では、先進国と途上国、先進国の間、途上国の間と各国の間で短期的利害が一致せず、根気の要る議論が続けられています。

1 地球温暖化に対する国際社会のこれまでの歩み

 気候変動枠組条約に基づき1997年の気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)で採択された京都議定書では、温室効果ガス排出量を削減する国際的な取組は、まず先進国から始めることとして、京都議定書第一約束期間(2008〜2012年)中の先進国の温室効果ガス削減の数値目標を決めています。しかし、京都議定書には、米国が参加しておらず、また途上国に削減目標が課せられないため、削減目標を負っている国のエネルギー起源二酸化炭素の総排出量は、2007年時点で世界全体の約28%です。削減目標を負っていない途上国の経済発展に伴い、温室効果ガスの世界の排出量は今後も増え続けると予測されています。こうしたことから、今後、実効的な温室効果ガス削減を行うためには、京都議定書を批准していない米国やエネルギー消費の増大が見込まれる中国等の新興国を含む世界全体で地球温暖化対策に取り組んでいくことが必要です。

 2013年以降の温室効果ガス排出削減枠組みに関する国際交渉について、2007年(平成19年)12月にインドネシアのバリ島で開催されたCOP13において、バリ行動計画が採択され、2013年以降の行動の内容について、すべての締約国が参加して2009年のCOP15までに合意を得ることが決まりました。

 一方、2008年に開催されたG8北海道洞爺湖サミットでは、2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量の少なくとも半減を達成する目標を気候変動枠組条約の全締約国と共有し採択することを求めることについてG8間で共通理解が持たれました。そして2009年7月に開催されたG8イタリア・サミットで世界全体の排出量を2050年までに少なくとも半減することを再確認するとともに、この一部として先進国全体で80%以上削減することや、気温上昇を2℃以下に抑えるべきとの科学的知見への認識について、G8間で合意が得られました。その後、わが国としては、 2009年9月にニューヨーク国連本部で開催された国連気候変動首脳級会合において、鳩山内閣総理大臣より、すべての主要国による公平かつ実効性のある国際枠組みの構築及び意欲的な目標の合意を前提とした上で、わが国の中期目標として、地球温暖化を止めるための科学が要求する水準に基づくものとして、2020年までに1990年比25%削減を目指すものとする演説を行いました。また、2009年(平成21年)11月に日米両国首脳の間で発表された「気候変動交渉に関する日米共同メッセージ」において、2050年までに自国の排出量を80%削減することを目指すとともに、同年までに世界全体の排出量を半減するとの目標を支持することを両国で合意しました。

2 COP15の成果と残された課題

 わが国としては、京都議定書第一約束期間後の温室効果ガス削減について、すべての主要国による公平かつ実効性のある国際枠組みの構築及び意欲的な目標の合意を目指し、野心的な目標を率先して掲げるとともに、「鳩山イニシアティブ」による途上国支援により、COP15に向けた国際的な気運の醸成に貢献しました。COP15の政治合意において、わが国としては、米中を含む主要排出国が参加する公平かつ実効性のある枠組みを得ることを目指して交渉に臨み、また、適応、キャパシティビルディング分野などでの途上国支援の道筋を付けること等に尽力しました。

 平成21年12月7日から19日までデンマークのコペンハーゲンにおいて開催されたCOP15、CMP5(京都議定書第5回締約国会合)等の交渉では、前半の交渉官級の特別作業部会における議論、閣僚級での協議等を経て、17日夜から18日深夜にかけては30近くの国・機関の首脳級による協議・交渉が行われた結果、「コペンハーゲン合意」(Copenhagen Accord)が取りまとめられ翌日の全体会合で「条約締約国会議(COP)としてコペンハーゲン合意に留意する」ことが決定されました。また、2009年末に終了することになっていた枠組条約の下の長期的協力について話しあう特別作業部会(AWG-LCA)も、京都議定書の下で2013年以降の先進国の数値目標について検討する特別作業部会(AWG-KP)とともに作業を継続することとされました。

 以下、交渉の経緯について順を追って紹介しますと、交渉の前半では、まず、AWG-KP議長から、京都議定書の附属書を改正し先進国の次期削減目標を定める案が提示されました。京都議定書の附属書の改正を先議すべきと主張する多くの途上国は、この議長提案を歓迎しましたが、先進諸国は、京都議定書のみでは世界規模の温室効果ガス削減に不十分であるとして、京都議定書を締結していない先進国(米国)や同議定書の下で義務を負わない主要途上国(中国、インド等)の排出削減を含めた包括的かつ実効的法的枠組みを構築すべきと主張し、議長提案に反対しました。

 また、AWG-LCA議長からも提案がなされましたが、京都議定書の附属書の改正を前提とし、先進国を米国と京都議定書締約国に区別するものでした。その後、COP議長が、両AWGの報告を踏まえた新たな文書を提出して議論を進展させたいとの発言をしたところ、中国、インド、ブラジル等の主要途上国が、両AWGからの報告文書に基づき交渉をすべきと強く反発しました。先進国は、少数国会合の実施及び議長国デンマークによる新提案の提示を求めたのですが、途上国はAWG-LCA及びAWG-KPの議長提案をもとに議論することを主張し、議論は平行線状態となり、進展が危ぶまれました。

 わが国は、鳩山内閣総理大臣、小沢環境大臣より、日本は、すべての主要排出国が参加する公平で実効性のある枠組みの構築と意欲的な目標の合意を前提に、2020年までに90年比25%の削減を目指すことを改めて表明するとともに、「鳩山イニシアティブ」として、温室効果ガスの排出削減など気候変動対策に積極的に取り組む途上国や、気候変動の悪影響に脆弱な状況にある途上国を広く対象として、2012年末までの約3年間で1兆7,500億円(おおむね150億ドル、そのうち公的資金は1兆3,000億円(おおむね110億ドル))の支援を実施していく旨発表し、各国から歓迎されるとともに、交渉の進展に弾みを付けました。

 こうした中、17日夜の首脳晩餐会後、少数国による首脳級の会合が開催されました。鳩山総理をはじめ、オバマ米大統領、ブラウン英首相、ラッド豪首相、メルケル独首相、サルコジ仏大統領、中国、インド、ブラジル、南ア、小島嶼諸国グループやアフリカ諸国グループといった途上国地域代表等30近くの国・機関の首脳級が参加し、18日深夜になって、これらの国々の間で「コペンハーゲン合意」が取りまとめられました。

 その後、19日未明にかけて「コペンハーゲン合意」をCOP全体会合にかけたところ、先進国、小島嶼国、後発開発途上国を含め数多くの国が賛同し、その採択を求めましたが、数ヶ国が、同合意の作成過程が不透明であったこと等を理由に採択に反対したため、最終的に、条約締約国会議として「同合意に留意する(take note)」ことが決定されました。


 「コペンハーゲン合意」の主な内容は次のとおりです。

[1] 世界全体の気温の上昇が2℃以内にとどまるべきであるとの科学的見解を認識し、長期の協力的行動を強化する。

[2] 附属書I国(先進国)は2020年の削減目標を、非附属書I国(途上国)は削減行動を、それぞれ付表I及びIIの様式により、2010年1月31日までに事務局に提出する。

[3] 附属書I国の行動はMRV(測定/報告/検証)の対象となる。非附属書I国が自発的に行う削減行動は国内的なMRVを経た上で、国際的な協議・分析の対象となるが、支援を受けて行う削減行動については、国際的なMRVの対象となる。

[4] 先進国は、途上国に対する支援として、2010〜2012年の間に300億ドルに近づく新規かつ追加的な資金の供与を共同で行うことにコミットし、また、2020年までには年間1,000億ドルの資金を共同で調達するとの目標にコミットする。気候変動枠組条約の資金供与の制度の実施機関として「コペンハーゲン緑の気候基金」の設立を決定する。

[5] 2015年までに合意の実施に関する評価の完了を要請する。

 コペンハーゲン合意にはすでに110を超える国が賛同しており、そのエネルギー起源の二酸化炭素排出量の合計は世界の8割以上に相当し、コペンハーゲン合意は、今後の交渉の重要な基盤と位置付けていくことが重要です。(図2-3-1図2-3-2)。


図2-3-1 主要国の削減目標


図2-3-2 各国のエネルギー起源二酸化炭素排出量(2007)

 わが国も、コペンハーゲン合意に基づき、「コペンハーゲン合意」に賛同する意思を表明し、2020年の排出削減目標として、「90年比で25%削減、ただし、すべての主要国による公平かつ実効性のある国際枠組みの構築及び意欲的な目標の合意を前提とする」との内容を、2010年1月に気候変動枠組条約事務局に提出しました。この目標は、地球温暖化対策に向けて、わが国として、他の主要な国々の背中を押して意欲的な取組を促すために、率先して提示したものです。

 今後、2013年(平成25年)以降の次期枠組みについて、コペンハーゲン合意を基礎として、すべての主要国が参加する公平かつ実効的な国際枠組みが構築され、意欲的な目標が合意されるべく、リーダーシップを発揮していきます。


COP15とコペンハーゲン後の温暖化交渉の課題


 COP15とコペンハーゲン後の温暖化交渉の課題について、中央環境審議会地球環境部会の委員であり、COP15に全日参加された高村ゆかり龍谷大学教授のご意見を紹介します。


 「留意する」とコペンハーゲン会議(COP15)が決定したコペンハーゲン合意は、どのように評価できるのでしょうか。正式に採択できず「留意する」決定にとどまったことで、コペンハーゲン合意は、それに同意する国のみを拘束する政治合意となり、大多数の国が支持したといっても、この合意が自動的に次期枠組み交渉の基礎となるわけではありません。この点が、COPがコペンハーゲン合意を採択していた場合との基本的な違いと考えられます。

 これまでの交渉に照らしてみると、コペンハーゲン合意にはいくつかの前進点があります。第一に、先進国の削減努力と途上国の削減努力が一つの文書に規定され、「約束する先進国」と「約束しない途上国」という従来の二分構造を超えた合意となったことがあります。ここ10年ほどの間に急速に排出が増加した新興国の登場といった新たな事態に対して、ドグマティックな二分法を超えて、地球温暖化防止に向けてより効果的な枠組み構築への可能性を示しました。第二に、途上国の削減努力が、具体的かつ制度的に約束され、その進展と効果は国際的な監視の下に置かれることになります。削減目標の実施を約束する先進国と異なり、途上国は、削減行動を実施し、その行動を提出します。国際的支援を受ける行動は、国際的ルールにしたがって測定、報告、検証され、国際的支援を受けない行動は、その国の国内ルールにしたがって測定、報告、検証され、その結果が国際的な協議と分析の対象となります。ただし、国際的監視の程度と効果は、今後作成される指針いかんです。第三に、当面の、そして、2020年に向けた、先進国全体の資金目標が合意されました。2010〜12年の間に、先進国全体で、新規で追加的に300億米ドルを途上国の地球温暖化対策と適応策に提供します。そして、途上国の意味ある削減行動と実施の透明性を条件に、公的資金か民間資金かを問わず、2020年までに毎年1000億米ドルの資金・投資の動員を目指します。

 これらの前進の一方で課題も多いと考えられます。何よりも、上記の削減策と資金目標を除くと、COP15での合意が期待されていた次期枠組みの骨格となる事項の多くがなお未決着のままです。約束が法的拘束力のある約束かどうか、次期枠組みの最終的な法形式も合意には明記されていません。

 また、コペンハーゲン合意では、先進国の削減目標は、京都議定書交渉時のように、国家間の国際交渉によって決めるのではなく、各国が自発的に目標を決定し誓約する方式が示されています。こうした自発的誓約に基づく方式が、全体として地球温暖化防止の究極的な目的の達成を可能とする水準の削減を担保し得るか、そして、日本を含め米国以外の先進国が懸念する「削減努力の同等性」が確保されるかは不透明であると考えられます。

 世界の首脳が作成し、米国、新興国を含め国際社会の多数の国が賛同するコペンハーゲン合意は、なかなか進展しない温暖化交渉を進めるための貴重な手がかりです。コペンハーゲン合意で合意された事項を継続する交渉の文書に反映し、十分に明確でない事項やまだ合意されていない事項の交渉を進めて、いかに次期枠組みの最終的な合意を形成していくかが、今後の温暖化交渉の課題となります。



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