むすび 転換期を迎えた世界において我が国が果たすべき役割

 本年の環境・循環型社会白書の総説は、それぞれ低炭素社会と循環型社会の構築をテーマとし、自然共生社会と併せた統合的な取組による相乗効果も視野に含めながら持続可能な社会の実現について考察しました。これらの課題について国際社会は、今、極めて重要な転換期を迎えているとの認識を持つに至っています。それは、従来、ややもすると各国の利害対立から踏み出せずにいた国際社会が、共通の利益を理解し始めたということに加え、さらに実効性のある対策を早急に講じる必要のある「待ったなし」の状況を迎えていることを意味しています。

 この数年、廃棄物・リサイクルの問題は、科学的知見や認識、また経済社会活動の面で、これまでとは違った意識をもって世界中の人々に自覚されるようになりました。具体的な行動の必要性が地球的規模で理解され、これを受けた国際的な取組は既に一部で始まっています。我が国が2004年に提唱した3Rイニシアティブは、先進諸国で着実に取組が進み、アジア諸国でも3R対策の重要性は、共通に認識されるようになっています。

 他方で、主として途上国において急増が見込まれる廃棄物の排出やそれらの不適正処理に伴う環境や健康面の影響の懸念、資源の価格高騰や需給ひっ迫等に鑑みると、今後、廃棄物・リサイクル問題に関する諸対策の充実が世界的な規模で一層重要性を帯びることは論を待ちません。

 こうした認識の下、本年は、一昨年の我が国の廃棄物・リサイクル政策の改革の歴史、昨年の3R・廃棄物処理技術の発展と変遷に焦点を当てた考察を引き継ぎ、転換期を迎えた世界にあって国際的な循環型社会の構築を進める上で我が国が果たすべき役割という観点から検討を深め、大きく3つのメッセージを示しました。

 第一に、我が国における循環型社会の構築に向けた絶えまない前進です。特に循環型社会基本計画の重要なポイントの一つである地域循環圏を構築していく観点から、各種の地域循環圏のイメージを具体的に示すと共に先進的な事例を紹介しました。よりよいものが多く蓄積され、それを活かした豊かさが生まれる「ストック型社会」を形成し、循環資源の性質や地域の特質に応じて、また地域活性化の視点も踏まえつつ、適切な地域循環圏を構築していきます。

 第二に、我が国の経験をアジア循環圏の構築に役立てていくことです。し尿や生ごみの衛生的な循環システムが存在した江戸期の有り様や明治以降の我が国の制度的な進展や技術革新などを改めて振り返りました。アジア諸国は多様な社会的、経済的態様を示していますが、廃棄物問題を克服せずして、持続可能な発展はありません。アジア大の循環型社会の構築に当たって、様々な廃棄物問題を克服してきた我が国の経験は、こうした国々のニーズのきめ細かな把握を通じてより適切に役立てていくことができるものと考えます。現在、二国間政策対話や3R国家戦略の策定支援などアジアで共通のビジョンを共有するための基礎が構築されつつありますが、日本の経験を引き続き発信し、アジア循環圏の構築に向けてより効果的な国際協力を進めます。

 第三に、世界的規模での循環型社会の構築に向け、我が国が世界をリードしていくという決意です。我が国は、世界的にも最も先進的な位置にある、物質フロー情報とその政策活用の面から、先進国をさらに牽引していきます。今回、我が国がG8環境大臣会合の議長国となってとりまとめた神戸3R行動計画は、それぞれの国情に応じて資源生産性などの目標を設定していくことを促すこととしており重要な意義を有します。

 このように我が国は、アジアを中心とする開発途上国と先進国をうまくリードし、この転換期に責任のある舵取り役を果たしていかなければなりません。その際、我々の決断と行動が、将来世代のあらゆる選択に大きな影響を与えることを深く自覚し、将来世代が資源制約に端を発する社会不安や廃棄物問題に苦しむことのないようにする必要があります。我が国は、世界的な規模での循環型社会実現に向け、我が国ならではの「もったいない」の考え方やリサイクル・廃棄物処理の経験・技術をはじめとする世界の叡智を結集し、信頼に基づく国際的な協働関係を築き、低炭素社会、自然共生社会との統合的な取組を加速的に展開するなど、一層積極的に貢献していきます。



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