第11節 自然環境の保全に関する国際的枠組みの下での取組と新たな国際的枠組みづくり


1 生物多様性の保全

 国際的に重要な湿地の保全を推進するため、平成11年に開催された「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地の保全に関する条約」(以下「ラムサール条約」という。)の第7回締約国会議において、17年の第9回締約国会議までに、世界の条約湿地を倍増させることが決議されており、日本でも、国内のラムサール条約湿地を22か所以上に増加させることを目標として表明しています。このため、専門家による検討会を開催し、新たに登録するにふさわしい候補湿地について科学的見地から検討が行われました。
 アジア諸国の条約への加盟促進に努めるとともに、湿地管理に関するワークショップの開催など、渡り鳥のルート沿いの重要な湿地の保全のため、同地域における協力体制の一層の強化を図りました。
 米国、オーストラリア、ロシア、中国及び韓国との二国間の渡り鳥等保護条約等に基づき、各国との間で渡り鳥等の保護のため、アホウドリ、ズグロカモメ等に関する共同調査を引き続き実施するとともに、会議の開催等を通じて情報や意見の交換を行いました。
 平成13年より開始された第II期「アジア太平洋地域渡り性水鳥保全戦略」に基づき、シギ・チドリ類、ツル類及びガンカモ類の渡りルート上の重要生息地のネットワークへの参加を促進するとともに、同ネットワーク活動を推進しました。
 サンゴ礁の保全については、平成16年7月開催の「第10回国際サンゴ礁シンポジウム」において「危機にある世界のサンゴ礁の保全と再生に関する沖縄宣言」が採択され、その中で国際的にサンゴ礁の保全を主導する「国際サンゴ礁イニシアティブ(ICRI)」の活動の推進が求められました。これを踏まえ、サンゴ礁シンポジウムに引き続き開催されたICRIの総会において、17年7月から2年間のICRI事務局を日本とパラオ共和国が共同で引き受けることが決定されました。

2 森林の保全と持続可能な経営の推進

(1)問題の概要
 世界の森林は、陸地の3割を占め、面積39億haに及びますが、1990年(平成2年)から2000年(平成12年)にかけて、年平均940万haの割合で減少しました。特に、世界の森林の47%を占め、野生生物種の半数が生息するといわれている熱帯林においては、この間、毎年、本州の面積の3分の2に相当する1,420万haの天然林が失われたと推測されています。近年では、ロシア極東地域における森林の減少も懸念されています(図6-11-1)。


図6-11-1 世界の森林面積の年当たりの増減(1990〜2000年)


 森林消失の原因として、農地への転用、非伝統的な焼畑移動耕作の増加、過度の薪炭材採取、不適切な商業伐採、過放牧、プランテーション造成、森林火災等が挙げられます。その背景には、人口増加、貧困、土地制度等のさまざまな社会的・経済的要因が絡んでいます。特に近年では、違法伐採が問題となっています。

(2)対策
 平成4年の地球サミットで、森林原則声明及びアジェンダ21が採択され、それ以降、世界の森林保全と持続可能な経営に関する議論が行われています。
 平成13年に設置された「国連森林フォーラム」(UNFF)では、国家森林プログラムの策定等からなるIPFIFF行動提案の実施促進、国際協力の推進、すべての森林に関する法的枠組みの作成等について検討されています。
 平成14年のヨハネスブルグ・サミットにおいて日本とインドネシアが中心となって発足させた「アジア森林パートナーシップ」(AFP)では、アジアの持続可能な森林経営の促進を目的として、違法伐採対策、森林火災予防、荒廃地の復旧と再植林等について検討されています。16年8〜9月に開催された「AFPの強化を図るための地域ワークショップ」では、既存の違法伐採対策イニシアチブ間の調和等に関する作業計画の進ちょく状況が報告されました。また、16年12月に東京で開催されたAFP第4回実施促進会合では、木材の合法性を検証・確認するためのガイドラインの作成、信頼できる合法性確認システムの構築等について協力していくことが合意されました。この会合でオランダ政府など新たに5つのパートナーが加わったことにより、16か国の政府、EC、8国際機関及び9NGO等がAFPに参加しています。
 国際熱帯木材協定(ITTA)に基づき横浜市にその本部が設置されている国際熱帯木材機関(ITTO)においても、熱帯林における持続可能な森林経営等を目的とした活動が行われています。また、現行のITTAは平成18年末に終了するため、新たな協定の採択に向けて、協定改定交渉が行われています。
 また、森林の保全と持続可能な経営を評価するための基準・指標について国際的な取組が進められていますが、日本は、欧州以外の温帯林・北方林を対象とした「モントリオール・プロセス」に参加しています。
 違法伐採問題については、日本とインドネシアとの間で策定・公表した違法伐採対策のための協力に関する「共同発表」・「アクションプラン」に基づいた取組を進めています。また、木材を輸入している諸外国における取組状況等の調査を行っています。平成17年3月には、G8環境・開発大臣会合の議題の一つとして、違法伐採問題が取り上げられました。
 上記の取組のほか、ITTO、国連食糧農業機関(FAO)等の国際機関への拠出、国際協力機構(JICA)等を通じた協力、民間団体の植林活動等への支援、熱帯林における生態系管理に関する研究等を行いました。

3 砂漠化への対処

(1)問題の概要
 砂漠化とは、乾燥地域、半乾燥地域等における土地の劣化のことです。これには、土地の乾燥化のみならず、土壌の浸食や塩性化、植生の種類の減少等も含まれます。
 砂漠化の影響を受けている土地は、世界の陸地の4分の1に当たる36億haに達します。これは、乾燥地域、半乾燥地域等における耕作可能地の7割に相当します。そして、世界人口の6分の1に当たる9億人が砂漠化の影響を受けています(図6-11-2)。


図6-11-2 砂漠化の現状


 砂漠化の原因として、干ばつ等の自然現象のほか、過放牧、過度の耕作、過度の薪炭材採取、不適切な灌漑による農地への塩分集積等が挙げられます。その背景には、開発途上国における貧困、人口増加、対外債務の増加等の社会的・経済的要因が絡んでいます。

(2)対策
 「砂漠化対処条約(UNCCD)」の下で、国際的な努力が進められています。日本は平成10年に同条約を受諾しました。
 日本は、同条約により設けられている科学技術委員会へ貢献するため、砂漠化の評価と早期警戒の方法や、砂漠化対処のための伝統的知識の活用方法等について検討しています。
 また、同条約に基づくアジア地域行動計画の一環として、テーマごとに情報交換等を目的としたネットワーク作り(TPN)が進められています。日本は、「砂漠化のモニタリングと評価」をテーマとし、中国をホスト国とするTPN1、及び「干ばつの影響緩和と砂漠化の制御のための能力強化」をテーマとしモンゴルをホスト国とするTPN5に参加しています。
 さらに、平成16年6月には、同条約採択10周年を記念して、国民に対し砂漠化問題について普及啓発を行うため、「砂漠化対処の日シンポジウム」を開催し、砂漠化の進んでいる地域でのNGO等による取組を紹介しました。
 このほか、二国間協力として、JICA等を通じ、農業農村開発、森林保全・造成、水資源保全等のプロジェクト等を実施しました。例えば、ブルキナファソやマリにおいて砂漠化に対処するための農村開発の調査を実施しました。民間部門の活動に関しては、砂漠化対処活動を行っている民間団体に対し、(独)環境再生保全機構の地球環境基金等により支援が行われました。

4 国際的に高い価値が認められている環境の保全

 「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」に基づき世界遺産に登録された白神山地及び屋久島の自然遺産について、関係省庁・地方公共団体による連絡会議の開催等により適正な保全を推進し、開発途上地域の世界遺産登録地の保護対策のための調査を引き続き実施しました。また、平成16年1月に世界自然遺産として推薦した知床については、世界遺産委員会の諮問機関である国際自然保護連合(IUCN)による現地調査の受入れ等を実施しました。
 南極地域の環境を包括的に保護するための「環境保護に関する南極条約議定書」を適切に実施するため制定された南極地域の環境の保護に関する法律(平成9年法律第61号)に基づき、南極地域における観測、観光、冒険旅行、取材等に対する確認制度等を運用するとともに、ホームページ等を通じて南極地域の環境保護に関する普及啓発、指導等を行いました。また、平成16年9月にブエノスアイレスに設置された南極条約事務局の運営を支援したほか、南極地域で環境損害を生じさせた場合の責任について定める議定書附属書の作成に関する交渉へ参加する等、南極地域の環境の保護に関する国際的な枠組みづくりに貢献しました。

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