第10節 自然とのふれあいの推進


1 自然解説活動及び健全なふれあい利用の推進

 自然の営みに感動し、安らぎを得ることにより、自然を大切にする心、子どもたちの健全な心を育み、人間性を回復するとともに、自然との共生に関する理解を深めるため、自然とのふれあいを推進しました。
 「自然とふれあうみどりの日の集い」(4月29日)、「自然に親しむ運動」(7月21日〜8月20日 )、「全国・自然歩道を歩こう月間」(10月)等を通じて、自然観察会等自然とふれあうための各種の活動を実施しました。また、「自然に親しむ運動」の中心行事として、日光国立公園(栃木県塩原町)において第46回自然公園大会を開催しました。
 国立・国定公園の利用の適正化のため、自然公園指導員の研修を実施し、利用者指導の充実を図りました。また、自然保護事務所において約2,000名のパークボランティアの養成及びその活動に対する支援を全国23国立公園37地区で実施しました。さらに、自然解説活動における指導者育成のため、ビジターセンター等の職員の研修を実施しました。
 また、全国の国立公園等において、自然保護官(レンジャー)等の指導・協力の下、平成16年度は834名の小中学生を「子どもパークレンジャー」に任命し、国立公園のパトロール、自然環境の維持・復元活動等のレンジャー業務体験を通じて自然環境の大切さなどを学ぶ機会を提供しました。
 国有林野においては、森林教室、体験セミナー等を通じて、森林とのふれあいを楽しみながら理解を深める森林倶楽部(森林ふれあい推進事業)等を実施しました。
 子どもたちが川など水辺で自然体験活動を推進するための指導者の育成支援や情報発信を行うとともに、市民団体や行政・教育関係者が情報を交換し、地域におけるネットワーク形成等を促すためのブロック連絡会議を4か所で開催しました。また、漁場環境保全に関する情報の収集・提供及びボランティアによる海浜清掃活動の支援等を行いました。

2 利用のための施設の整備

(1)国立・国定公園等の利用施設
 国立・国定公園の核心となる特にすぐれた自然景観を有する広域な地域において、自然の保全や復元のための整備を一層強化するとともに、高度な自然学習や自然探勝のためのフィールドの整備(緑のダイヤモンド計画)を十和田八幡平国立公園八幡平地域ほか1地域において整備を進めました。
 国立・国定公園のすぐれた自然環境を有する集団施設地区及びその周辺地域で、自然環境を保全するとともに、時代に即した滞在型、高齢者・障害者対応型の公園利用を推進し、地域の再活性化を図るための総合的な施設の整備(自然公園利用拠点新活性化事業)を、日光国立公園那須地域ほか3地域において進めました。
 国立・国定公園において、大自然の中での暮らし、学び、冒険を通じて自然や地域との共生を体験するための参加・自主活動型の自然教育の拠点(ふれあい自然塾)を、玄海国定公園満越地区ほか1地域において整備を進めました。
 国立・国定公園の主要利用拠点において、子どもたちが生き物や自然の植生などとふれあい自然を学ぶことができる、自然ふれあい体験のための中核施設(エコ・ミュージアム)の整備を、釧路湿原国立公園温根内地区ほか3地域において進めました。
 自然公園等において、二酸化炭素の吸収源・貯蔵庫となる植生の復元、ソーラーや自然エネルギーを利用した施設の整備(環境共生推進特別整備事業)を推進しました。
 国立・国定公園において、自然環境の保全に配慮しつつ、自然とのふれあいを求める国民のニーズにこたえ、安全で快適な利用を推進するため、歩道、野営場、園地、公衆トイレ等利用の基幹となる施設を整備しました。

(2)ふるさと自然ネットワーク
 トンボやホタルなどの小動物が生息する身近な自然環境を保全活用し、生き物とふれあい自然の中で憩い自然の中に滞在・体験しながら自然を学ぶことのできる場づくりを推進しています。多様なメニューの中から地域のニーズにマッチした事業(1)ふるさといきものふれあいの里、2)ふるさと自然のみち、3)ふるさと自然塾、4)ふれあい・やすらぎ温泉地、5)ふるさと自然公園国民休養地)を選定し、整備するものです。
 平成16年度は、13か所において整備を実施しました。

(3)長距離自然歩道等
 自然公園や文化財などを有機的に結ぶ長距離自然歩道の整備、登山者の集中による植生荒廃等を招いている地域の登山歩道の整備を進めています。長距離自然歩道は、四季を通じて、安全で快適に利用できるよう配慮しつつ整備を行っており、平成16年3月末現在、計画総延長は約2万6,000kmに及びます。
 平成16年度は、引き続き北海道自然歩道の整備を行うとともに、老朽化した東北、首都圏、東海、中部北陸、中国、四国、九州の各自然歩道の施設について再整備を行いました。
 なお、平成15年における利用者数は、5,805万人に達しました。

(4)森林の多様な利用の推進
 主として都市近郊等における保健保安林等の安全快適な利用の促進を図るための施設整備につき助成等を行ったほか、保健保安林等を対象として防災機能、環境保全機能等の高度発揮を図る共生保安林整備事業を推進しました。また、国民が自然に親しめる森林環境の整備を行う森林空間総合整備事業等につき助成しました。
 国有林野については、自然休養林等のレクリエーションの森において、森林及び施設の整備等を行うとともに、利用者にレクリエーションの森の整備等への協力を求める「森林環境整備事業」を推進しました。
 また、スポーツ施設、保健休養施設等の総合的な整備により、人と森とのふれあいの場を創造し、あわせて地域の振興等に資するヒューマン・グリーン・プランを推進するとともに、家族等が気楽に自然とふれあえる場を提供する「森林ふれあい基地づくり整備モデル事業」を推進しました。
 また、国民が中心となった森林の整備等の活動の場として「ふれあいの森」の設定を推進するとともに、貴重な環境指標であり、次世代に残すべき遺産として選定した国有林野内の巨樹・巨木100本(「森の巨人たち百選」)の保護を図るための地域の取組に対する支援を行いました。
 森林環境教育、林業体験学習の場となる森林・施設の整備、フィールド及び指導者の募集・登録・情報提供、企画・運営者の育成や、学校林の整備・活用、民間団体等の企画力や教育手法の活用、都市部の子どもたちを対象にした山村滞在型の森林・林業体験交流活動等や、森林体験活動学習、人材育成等を行うモデル事業を推進するとともに、子どもたちの入門的な森林体験活動を促進する「森の子くらぶ活動推進プロジェクト」を実施しました。
 さらに、森林総合利用施設等において、年齢や障害の有無にかかわらず多様な利用方法の選択肢を提供するユニバーサルデザイン手法の導入を図るとともに、新たに里山林等を活用した健康づくりを行う「健康と癒しの森」推進モデル事業を実施しました。また、国有林においては、フィールドを学校等の体験学習の場として利用できる「遊々の森」の設定を推進しました。

(5)独立行政法人国立少年自然の家
 国立少年自然の家は、少年を自然に親しませ、団体宿泊訓練を通じて、少年が心身を鍛練するとともに、自ら実践し、創造する態度を身につけることを目的とする青少年教育施設であり、全国14か所に設置されています。平成16年度は、施設の整備や事業の充実を図りました。

(6)海岸などへのふれあい施設
 生物の生息・繁殖場所となる砂浜、干潟などの保全や創出を行う「エコ・コースト事業」を27か所で実施しました。

(7)河川等へのふれあい施設
 河川の高水敷やダム周辺等を公園、緑地、運動場等に利用するための整備を「河川環境整備事業」等により行いました。カヌーポートや水辺の楽校等の整備により、水辺での活動を促進し、親水レクリエーションの促進を図りました。

3 エコツーリズムの推進

 エコツーリズムの普及・定着を推進するため、平成15年11月に「エコツーリズム推進会議」を設置し、16年6月に次の5つの推進方策をとりまとめ、取組を開始しました。1)エコツーリズムの理念を分かりやすい形で普及するために「エコツーリズム憲章」を制定、2)全国のエコツアー情報(エコツアー、宿泊施設、交通機関の3分野)をインターネットで紹介する「エコツアー総覧」を開設、3)すぐれた取組を「エコツーリズム大賞」として表彰するため募集を開始、4)エコツーリズム推進のための基本的な手法やポイントをまとめた「エコツーリズム推進マニュアル」を環境省ホームページで公開、5)「モデル事業」では、採択された13地区において推進協議会設立などの取組への支援を行いました。

4 都市と農山漁村の交流

 都市部のニーズに応じた農村情報の受発信機能の充実・強化、農村におけるグリーン・ツーリズムビジネスの起業家等の支援・育成、地域ぐるみで行う受入れ体制や交流空間の整備等について、関係各省と連携しつつ総合的に推進しました。また、子どもたちの都市農村交流機会の増大を図るため、農村部における都市部からの小中学生の受入れ体制を整備し、修学旅行や夏休み、週末等を利用した農業・農村体験活動を促進しました。
 構造改革特別区域法(平成14年法律第189号)により、1)民間団体、民間企業等による市民農園の開設を可能とする、特定農地貸付けに関する農地法等の特例に関する法律(平成元年法律第58号)等への特例措置、2)農家民宿等にかかる消防用設備等にかかる消防法施行令の規定に対する柔軟な対応の容認等について規制緩和措置を講じ、パンフレットの配付、研修会等の開催により周知を図りました。
 山村においては、都市部の子どもたちを対象とした山村滞在型の森林・林業体験交流活動を実施するとともに、都市が山村で行う「ふるさと共生の森」の設定等森林と人との共生林の整備に向けた条件整備を実施するとともに、社団法人国土緑化推進機構等による「緑の募金」及び「緑と水の森林基金」を活用した森林整備等への取組を推進しました。
 漁港、漁村においては、親水機能を有する護岸やキャンプ場等の整備を行う「漁港交流広場整備事業」を全国50地区で、植栽や親水施設等の整備を行う「漁港環境整備事業」を全国76地区で実施しました。また漁業関係者と遊漁船業者等との協議会、海洋利用に関するルール・マナーの啓発、遊漁船業、ダイビング案内、釣り場等の管理運営等を行い、良好な自然環境の保全を図りながら、都市住民との交流を促進しました。

5 温泉の保護と利用

(1)温泉の保護と利用
 温泉法(昭和23年法律第125号)では、温泉を保護しその適正な利用を図ることを目的として、温泉を掘削又は増掘する場合や動力を装置する場合には都道府県知事の許可を、温泉を公共の浴用又は飲用に供する場合には都道府県知事又は保健所設置市長の許可を受けなければならない旨定めています。平成15年度の全国の許可件数は、温泉掘削583件、増掘17件、動力装置396件、浴用又は飲用2,660件でした。
 温泉の保護と利用をめぐる最近の諸問題について討議し、行政上の課題等を整理するため、「温泉の保護と利用に関する懇談会」を開催し、平成16年6月に中間報告を取りまとめました。
 また、平成16年7月以降、表示なく温泉に入浴剤を添加したり、井戸水や水道水を沸かしたものを温泉と称するなど、温泉をめぐる問題事例が発生したことを契機として、温泉事業者による利用者への情報提供について国民の関心が高まっています。
 こうした状況を踏まえ、全国の温泉利用施設を対象に実態調査を実施し、平成16年10月にその結果を公表しました。
 さらに、温泉事業者による表示のあり方など温泉に関する喫緊の課題への対応について検討を行うため、平成16年11月に中央環境審議会に「温泉事業者による表示の在り方等について」を諮問し、自然環境部会に設置された温泉小委員会での審議を得て、17年2月に答申がなされました。この答申の内容を踏まえ、同年2月には、既存の表示項目に加え、温泉成分に影響を与える項目を追加し、温泉事業者による温泉利用者への情報提供を充実させるための温泉法施行規則の改正を行いました。

(2)国民保養温泉地
 国民保養温泉地は、温泉の公共的利用増進のため、温泉法に基づき指定された地域であり、平成16年度末現在、91か所が指定されています。
 国民保養温泉地のうち、自然資源を活用し自然とふれあい心身をリフレッシュすることが期待できる温泉地として選定された「ふれあい・やすらぎ温泉地」において、自然ふれあい・温泉センター、歩道等の整備を行っており、平成16年度は5地区において実施しました。


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