第3節 社会をつなぐ環づくり


1 基盤としての環境情報


 「人づくり」や「しくみづくり」を進めていく上で、その基盤として重要な役割を果たすものに、環境に関するさまざまな情報があります。

(1)環境情報の効果
 ア 環境情報を受け取ることによる効果
 環境情報には、まず、環境問題に興味・関心を持つきっかけを与え、環境意識を高める効果があります。
 「環境の人づくり」では、知識の取得や理解にとどまらず、自ら主体的に行動できる人材を育むことを目標としています。しかし、そのためにはまず環境問題に興味・関心を持ち、環境意識を高めるというステップが必要であり、環境情報はそのきっかけを与えます。
 次に、環境情報には、環境保全行動を促進する効果があります。
 例えば、グリーン購入をしようとするとき、エコマークなどの環境ラベルが製品に付いていれば、環境負荷の少ない製品を選ぶことができます。また、グリーン購入を行う際には、環境負荷の削減に努める事業者から優先して購入するという考え方もあります。事業者が出している環境報告書を読むことによって、どの事業者が環境に配慮しているのかを知ることができ、その事業者の商品を購入することができます。
 また、環境情報は、人と人とをつなぐことによって環境保全行動を促進することができます。例えば、市民団体の活動などの環境情報を受け取り、その活動に参加することによって、一人では行うことのできなかった環境保全活動を行うことができます。
 イ 環境情報を発信することによる効果
 環境情報を発信すること自体が、自らの環境保全行動を促進します。
 例えば、事業者が排出している化学物質の量や廃棄物の量、温室効果ガスの量などを環境情報として発信するためには、自らの事業に伴う環境負荷の現状を把握しなければならず、また削減の方針を明確にし、実施している取組について整理する必要があります。それにより、効果的な環境管理を行うことができます。
 また、環境情報を公表することで、他社と比較して自社の環境保全活動を評価することも可能となり、環境負荷をさらに削減しようという動機付けになります。こうした企業の自発的な情報発信は、環境負荷の削減につながるだけでなく、企業の社会的な信頼性を高めることにもつながります。
 ウ 双方向で環境情報をやり取りすることによる効果
 双方向で環境情報をやり取りすることにより、相互の理解が深まり、より良い改善案が生まれることで、一方向で情報を受発信する以上の環境保全効果をもたらすことができます。
 例えば、環境報告書は一方向の情報発信であることが多く、読者のニーズを知ることが困難ですが、ある企業では、環境報告書を題材に一般市民と対話する場を設けています。こうした直接対話は、参加者の意見を企業の取組の参考にし翌年の環境報告書に反映させることができると同時に、企業に対する理解を深めることにもつながっています。

(2)発信されている主な環境情報
 政府や企業、市民団体などの各主体が、白書やパンフレット、インターネットなどを通じてさまざまな環境情報を発信しています。公的機関等が発信している環境情報のうち、インターネット上の環境情報を分野ごとにまとめたものが、表3-3-1です。


表3-3-1 インターネット上の環境情報

分野
内容・URL
発信者
情報の使い方
探す
学ぶ
行動
総合 環境政策一般 環境省    
http://www.env.go.jp/
環境政策一般 経済産業省
   
http://www.meti.go.jp/policy/environment/
環境統計集 環境省
   
http://www.env.go.jp/doc/toukei/
環境情報一般 (独)国立環境研究所
http://www.eic.or.jp/
環境情報一般 環境goo
http://eco.goo.ne.jp/
環境パートナーシップ 地球環境パートナーシッププラザ
 
http://www.geic.or.jp/geic/
環境配慮型のくらし 環のくらし 環境省  
http://www.wanokurashi.ne.jp/
Re-style 環境省
http://www.re-style.jp/
グリーン購入 グリーン購入ネットワーク  
http://www.gpn.jp/
環境教育 環境教育に関する情報 文部科学省、環境省
http://www.eeel.jp/
企業 環境報告書 環境省
   
http://www.kankyohokoku.jp/
地球温暖化 地球温暖化一般 全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)
http://www.jccca.org/
省エネルギーに関する情報 (財)省エネルギーセンター
http://www.eccj.or.jp/
新エネルギーに関する情報 (独)新エネルギー・産業技術総合開発機構
   
http://www.nedo.go.jp/
ごみ・リサイクル ごみ・リサイクル一般 (財)クリーンジャパンセンター
 
http://www.cjc.or.jp/
大気 大気環境・ぜん息 (独)環境再生保全機構
 
http://www.erca.go.jp/
自然環境 インターネット自然研究所 環境省
 
http://www.sizenken.biodic.go.jp/

注)探す:関連情報の検索を主目的としたページがある
  学ぶ:関連情報をより詳しく解説し、学習や研究に役立てることを主目的としたページがある
  行動:家庭や地域での環境保全活動をするための情報発信を主目的としたページがある
資料:環境省



(3)環境情報に望まれること
 環境情報の効果を最大限に発揮するため、情報の発信者は次の点に注意して環境情報の発信を行う必要があります。
 ア 環境情報の内容
 環境保全行動を促進するためには、一人ひとりの日常生活と環境保全とのつながりを身近な視点から伝えることや、環境の現状だけでなく、具体的な対策の始め方を発信していくことが重要です。
 また、環境情報を受け取った人がその情報を用いて製品や活動等を評価できるよう比較しやすい内容にする、発信者側へフィードバックができるよう問い合わせの窓口を設けるといった工夫が望まれます。
 さらに、一方的に都合の良い情報だけを発信するのではなく、ネガティブ情報(企業であれば事故や環境汚染物質の排出量など)も開示することによって、情報の信頼性を高めることも重要です。
 イ 環境情報の発信の方法
 目的に応じてさまざまな媒体を使い分けることが必要です。環境意識を高めるきっかけとしては、目に触れる機会の多いマスメディアやフリーペーパーなどの媒体があります。深く調べたり学んだりする場合は、情報量が多くアクセスしやすいインターネットがあり、企業の環境報告書なども、ほとんどがインターネット上で公開されています。
 また、図や写真などを用いて分かりやすく説明すること、受信者を惹きつけるような魅力的な方法で情報発信をすることなども求められます。
 なお、情報の受信者の側にも、多様な観点からの環境情報を受け取ることや、受け取った環境情報に基づき自ら主体的に考えることなどが求められているといえるでしょう。


2 環境パートナーシップの構築

(1)環境パートナーシップとは何か
 私たちの社会は、住民、企業、市民団体、行政などさまざまな主体から成り立っています。現在の環境問題は、その原因・影響が多岐にわたるため、その解決に当たって各主体の参加・協力が不可欠であることを第2章で見てきました。行政をはじめとする関係主体の個別の取組だけでは解決が困難になってきていること等を背景として、さらに取組を進めるために、パートナーシップ(協働)の重要性が指摘されています。これまで見てきた各主体の「人づくり」や「しくみづくり」の取組事例の中にも、その有効性を垣間見ることができます。
 環境パートナーシップは、地域や社会における環境問題の解決という共通の目的の下に、各主体が適切に役割分担しつつ、対等の立場において相互に協力して活動に取り組むことです。こうした取組が「環境の国づくり」の原動力となります。

(2)より効果的で継続的なパートナーシップ構築のために
 パートナーシップによって得られる効果はさまざまです。ここでは相乗効果を十二分に発揮させ、また継続させていくためには何が重要なのか考察することとします。
 ア 対等な関係の構築
 環境パートナーシップでは、参加する主体が「支援」や「一方的な協力」の関係ではなく、適切な役割分担により「対等」の関係を構築することが重要です。しかしながら、互いに相手の環境保全活動に対する認識や能力・保有する人材・資金等の資源、相手に期待することなどについての情報が十分に提供されず、また、共有されていない場合、相互不信に陥ったり、形だけのパートナーシップとなるなど、円滑な連携が図れない場合があります。
 特に、行政や企業がNPOとパートナーシップを構築する際に、下請的な活動をNPOが担うことがパートナーシップ活動と誤解されているような場合があります。このようなことは、特に行政において顕著であり、市民によるボランティア等による環境保全活動を、行政の手足として捉えたり、無償又は安上がりな労働力と捉えてしまう傾向が見られ、大きな障害となっているとの指摘がNPO等からなされています。
 対等な環境パートナーシップを築くためには、大きく以下の2つのポイントが考えられます。
 (ア)パートナーシップの目的を明確にする
 パートナーシップによる活動の実施に際しては、協働によって何を目指すのか、それぞれにどのようなメリットがあるのかについて、事前に認識を共有することが重要です。
 パートナーシップの中には、それぞれに異なる目的を有する主体が集まって緩やかなパートナーシップを構築することもあります。この場合であっても、最低限、各主体がその異なる目的について相互に理解をしていること、各主体のそれぞれの目的達成が他の主体の目的達成を阻害しないことを各主体が認識していることが必要です。
 目的や目標に合意ができていなければ、パートナーシップの目的である相乗効果が見込めないばかりか、パートナーシップそのものが成り立たなくなるおそれがあります。十分な協議は目的の明確化や責任の所在の確認だけでなく、相互理解や信頼関係の醸成にも役立ちます。
 (イ)補い合うべき資源を認識し、独自性を尊重しあう
 パートナーシップは、主体単独の取組では得られない相乗効果を期待して構築するものです。各主体の持つ機能や資源、得意分野・ノウハウの違いを認識し、それを生かすこと、補い合うことで、より大きな相乗効果が得られます。
 このためには、効果的な連携のためのパートナーを探しだすこと、それらのマッチングや調整を行うことが重要となることから、コーディネーターの活躍や情報拠点の充実が期待されます。
 また、相互に尊重しながら活動するためには、各主体がまず自分たちの活動の目的や理念を確認し、独自の活動を充実させることが不可欠です。独自の活動があって初めて、それらの成果やノウハウ等について相手に何かを提供することができ、さらに、相互の信頼関係を向上させます。

(3)パートナーシップ活動推進の基盤づくり
 これらのことを踏まえると、パートナーシップのより良い関係の構築のためには、パートナーを探し、結びつけ、コミュニケーション(相互理解)を促進するための情報提供・交換、コーディネーター、拠点・場の整備が必要と考えられます。
 ア 情報の提供・交換
 パートナーシップの構築には、情報が重要な役割を果たしています。環境保全活動を進める上で必要となる人材や活動に関する情報は、必要なときに必要な人や場にうまく伝わらなければ、効果的な活用ができません。したがって広報のような一方通行の情報提供に止まらず、既に活動を行っている人や、これから活動を行おうとしている人のニーズに応えることができる双方向の情報提供・情報交換が重要になっています。
 こうした要請に応えるものとして、インターネットや電子メールなどのITが重要な役割を果たします。ITを活用することで、時間や空間の制約なしに簡単に誰とでも情報を受発信することにより、必要に応じた情報の交換が可能となり、パートナーシップを深めることができます。
 イ 拠点機能の活用
 多様な地域のニーズに応じながら、さまざまな環境問題を解決するためには、各主体が持つ人材、情報等の必要な資源を集約することが重要です。具体的な問題の解決に際して、本気で取り組む意欲のある市民やNPO、企業、行政がそれぞれの垣根を超えて、資源を出し合いながら問題解決を図るプラットホームとしての拠点の役割は重要です。
 (ア)国と地域をつなぐ
 環境省では、環境パートナーシップ推進の拠点として平成8年から東京・青山で国連大学と共同で地球環境パートナーシッププラザを運営していますが、これに加えて、地域の拠点と国の拠点とを結ぶ広域型拠点として、平成17年10月に発足する地方環境事務所のブロックごとに「地方環境パートナーシップオフィス」(以下「地方EPO」という。)の開設を進めています。地方EPOでは、国設置の利点を生かして国や国際的な動向を地域に伝えると同時に、地域の情報が地域を越えて流通する結束点としての役割を果たすことが期待されています。
 (イ)地域の連携の活性化
 地域において身近な問題について連携を積み重ねることによって、各主体同士のつながりが顔の見えるつながりとなり、連携が強化されるばかりでなく、連携が広がる効果も期待されます。
 地域における自発的な活動を支援していくためには、各市町村レベルにおいて支援拠点を確保することが望まれます。地域における拠点施設の整備は、必ずしも新設される必要はなく、地域で独自に設けられている環境学習施設や学校、公民館等の既存の文教施設を活用することが考えられます。また、学校は地域コミュニティの中心であり、学校を核とした「環境教育」によって、地域コミュニティづくりを行う例もあります。
 (ウ)中間支援組織
 拠点機能には、「場」としての拠点だけでなく、各主体の役割や手法を調整し、主体同士をつなぐ「機能」としての拠点も重要です。NPOの中には各主体をつなぎ合わせるネットワークを構築することを目的に活動している団体も生まれています。参加している各主体の立場や分野を超えて、顔の見える信頼関係を構築し、各主体の活動情報や資源・ニーズなどの環境情報を交換・共有することでパートナーシップの機会を拡大したり、各主体の円滑な活動を促進していく「中間支援組織」の活躍が期待されます。

(4)パートナーシップの広がり
 これまで見てきたパートナーシップの構築のためのツールをうまく生かしながら、パートナーシップを効果的に成功させ、また、さらなる広がりをみせる取組が各地で始まっています。
 ア 学校を核として広がる地域の環境パートナーシップ
 東京都大田区では、毎年、区内の小学校を会場として環境啓発イベント「エコフェスタ ワンダーランド」を開催しています。このイベントは大田区内の学校、企業、NPO、行政等の各種団体の協働によって開催され、環境学習発表会、エコクッキング、エネルギーの実験など、学校や企業・市民団体等が取り組んでいる環境保全活動の紹介を通じて、区民が環境について楽しみながら学ぶことができる場として活用されています。
 また、参加企業のある大手企業は、このイベントによって築かれた連携を生かして、地元NPOや行政等と協働した環境教育イベントを企画・実施し始めています。こうした学校を核とした取組から、地域の行政、企業、市民団体等の各主体によるパートナーシップが構築されるなど、さらなる発展を見せています。
 今後、各地において、地域コミュニティの中枢機能を担う学校を活用し、環境保全の拠点として親子や地域住民の交流を図ることにより、環境パートナーシップが地域全体に広がることが期待されます。


写真 環境学習発表会 東京都大田区提供


 イ 市民団体の有機的な結合で広がる地域の環境パートナーシップ
 伊万里はちがめプラン(「はちがめ」は、カブトガニの佐賀県伊万里地方での呼び名。)は、生ごみや廃食油を捨てる側の料飲店組合・旅館組合を中心に、自分たちで出した生ごみを資源として有効活用させることを目指して平成4年に作られたNPOです。調査や研究段階では、佐賀大学、商工会議所などのさまざまな機関の協力を得て、12年に生ごみの堆肥化実験プラントの設置を実現させました。
 年々、参画する団体は増え、現在では生ごみの回収先も事業者だけではなく、一般家庭、保育園等、地域全体に及んでいます。作られた有機堆肥は、地域の農家に提供され、その堆肥を使った付加価値の高い有機農産物は、地域の飲食店、家庭などで食されています。
 主体間の連携による活動も次々に生まれており、農家と一般市民が結成した「菜の花エコプロジェクト」では、この堆肥を施して栽培された菜の花から菜種油を搾取して学校給食や飲食店に提供するとともに、廃食油を回収して、バイオマスディーゼル燃料として活用しています。学校との協働による「生ごみ堆肥化実験」等の環境教育や、伊万里はちがめプランを応援する市民との農作物の取引など連携が活発になっています。
 また、伊万里市では、行政や企業、NPO、研究者、教育機関等とが組織的に連携することにより、廃棄物対策・地域美化実践活動事業、地域環境創造活動事業をはじめとする4つの活動を掲げた「伊万里『環の里』計画」を進めており、伊万里はちがめプランは、この中で重要な役割を占める構成員として各主体と協働しながら地域の環境保全と活性化を図っています。(http://www6.ocn.ne.jp/~hatigame/


写真 たい肥づくり実習 NPO法人伊万里はちがめプラン提供


(5)パートナーシップ促進による社会全体への効用
 環境パートナーシップは、さまざまな効果をもたらすものですが、パートナーシップそれ自体は手段であり、目的ではありません。環境パートナーシップを通じて、市民の連携が生まれ、協働を通じた交流により、持続可能な社会の実現につなげていくことが重要です。
 ア 地域の活性化
 環境パートナーシップは、その取組や事業活動を通じて多くの活気あふれる市民の社会参画を促すことにより、環境保全を通じた市民活動を活発にし、「環境を核としたまちづくり」の推進をはじめとする地域の活性化を図る原動力となります。
 また、各地域が有する地域資源を住民自らが把握し、これらのパートナーシップを深めることにより、地域が一つの方向性を共有し、より良い環境がより良い地域を創っていくことにつながります。
 さらに、企業とNPOが連携することで、環境に配慮した経済社会システムを構築することや、NPOや地元企業による社会的・公共的な事業活動を通じて地域を持続可能な発展につなげる「コミュニティビジネス」を活性化させること等により、環境と経済の好循環が期待されます。
 イ 政策策定への市民参加
 市民と行政とのパートナーシップは、行政の縦割りなどの弊害を緩和・防止するとともに、社会的ニーズの多様化・複雑化に伴う行政サービスの限界を超えるために必要なものです。地域のニーズをくみ上げ、市民との協働により意思決定をし、市民とともに実行・運営し、評価を行っていくことは、より適切な環境政策を決定するだけでなく、市民が環境保全行動に自発的に取り組む社会を実現することにもなることから、これからの環境問題への対応のためには極めて有効な手段であるといえます。
 ウ 全国的・国際的な広がり
 これまで見てきた市民を中心とした環境パートナーシップ活動は、各地において取組が広がり、より一層活発になっています。「菜の花プロジェクト」では、平成13年から全国で、この取組を実践している人たちに呼びかけ、「菜の花サミット」を開催し、国内外の情報交換、資源循環型社会に向けての調査研究、政策提言活動などのネットワーク形成を行っています。また、平成16年から韓国の市民団体との交流を通じて韓国版菜の花プロジェクトが開始されるなど、日本国内のみならずアジアをはじめとする世界各地への広がりが模索されています。(http://www.nanohana.gr.jp/
 今後、こうした日本発の活動が世界各地に広がっていくことや、既に地球規模の活動を行っている環境協力、政策提言などの国際的なパートナーシップが活発になり、さらに発展していくことにより、世界中で持続可能な社会の実現が促進されることが期待されます。


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