第2節 新時代を築くしくみづくり


 持続可能な社会を構築するためには、第1節で述べた「人づくり」による自発的、主体的な環境保全行動を進めるとともに、社会全体や組織全体で環境に配慮させる「しくみづくり」を進めることが必要です。本節では、環境保全の「しくみ」のうち、新しい時代を築くための環境政策や環境行政の理念や考え方について考えていきます。


1 新しい時代を築くための環境政策


(1)これまでの環境政策
 高度経済成長期において激甚な公害や自然破壊が発生したことから、それらを防止する法制が整備されました。しかし、今日においては、環境問題の原因や影響は地球規模に広がり、複雑化するととともに、化学物質のリスクを予防すること等、新たな課題が生まれています。
 そのため、環境行政では、効果的かつ効率的に環境負荷の排出削減を進めるとともに、わが国全体の費用負担を公平性に配慮しつつ極力軽減し、環境保全と経済発展といった複数の政策目的を同時に達成するため、自主的手法、規制的手法、経済的手法、情報的手法などあらゆる政策手法を総動員し、それらの特長を生かしつつ、有機的に組み合わせるというポリシーミックスの考え方を活用することが必要です。
 ここでは、これまでの国内外の環境政策の検討を踏まえ、新時代を築くために検討されている環境保全の政策理念・政策手段・政策決定の視点としていくつかの例を挙げました。

(2)新時代を築くための政策理念
 ア 環境と経済の関係のあり方について
 環境と経済との関係については、環境問題への取組が、我が国の経済活性化、雇用創出などにもつながるよう、技術革新や創意工夫を生かし、環境と経済の両立にも資するような仕組みの整備・構築を図ることが重要です。
 さらに、環境を良くすることが経済を発展させ、経済が活性化することによって環境も良くなっていくような関係を築いていくことも重要です。環境を保全したい消費者の選択が、環境保全技術の革新や環境に配慮した機器・サービスの需要や市場を誘発します。また、事業者も将来性のある環境に関連したビジネスに一層投資することにより、環境に関連したビジネスが一層発展し、さらに環境が改善されるという環境と経済の好循環を生み出します。環境基本計画では、持続可能な社会を構築するために、環境的側面と経済的側面を統合的にとらえ、環境政策を展開していく「統合的アプローチ」を環境政策の基本的な考え方としています。
 (ア)環境効率性を高める
 環境効率性とは、経済活動の単位当たりの環境負荷で表される概念であり、これを指標として、可能な限り資源・エネルギーの使用を効率化し、経済活動の単位当たりの環境負荷を低減させる考え方です。循環型社会形成推進基本計画に掲げられた数値目標では、環境効率性を示す指標である資源生産性が採用されています。
 日本は、経済成長の過程で、環境技術の進展を背景として、環境負荷を着実に削減し、環境効率性を向上させてきました。図3-2-1のとおり日本の環境効率性は近年横ばい傾向ですが、各国と比較して高いことが分かります。しかし、二酸化炭素の排出量は世界で4番目(全世界の5.2%)で、石油の消費量では世界で2番目(全世界の7.4%)です。そのため、今後もエネルギー利用の効率化を通じてエネルギー消費原単位及びエネルギー消費当たりの二酸化炭素排出原単位を改善していくことが重要であるとともに、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済活動や生活様式を見直す活動量の観点が不可欠です。


図3-2-1 環境効率性の推移の国際比較


 (イ)環境に配慮した製品をつくる
 原材料の採取・製造・流通・使用・リサイクル(廃棄物の適正処理)という製品のライフサイクル全体を通して、できるだけ環境負荷を発生しないようにするためには、設計・生産段階で環境に配慮することが必要です。
1) 拡大生産者責任
  拡大生産者責任とは、製品が使用され、廃棄された後においても、その生産者が当該製品の適正なリサイクルや処分について物理的又は財政的に一定の責任を負うという考え方です。生産者が、製品設計の工夫、製品の材質・成分表示、廃棄後の引き取りやリサイクルなどを行うことにより、使用・廃棄後についても環境配慮を進めていくことが期待されます。循環型社会形成推進基本法(平成12年法律第110号)では、循環型社会の形成には、国、地方公共団体、事業者及び国民の適切な役割分担の下に、適切かつ公平に費用負担することが必要としていますが、廃棄物処理に伴う適切かつ公平な費用負担のあり方にはさまざまな議論があります。
2) 環境適合設計(エコデザイン)
  環境適合設計(エコデザイン)とは、持続可能な社会の実現を目的として、製品のライフサイクル全体における環境効率を高める設計や生産技術・システム管理のことをいいます。環境適合設計を進めることにより、資源の効率的利用、製造工程の効率改善、製品の長寿命化のほか、製品の差別化、コスト削減等の効果があります。国際標準化機構(ISO)では、平成14年に環境適合設計のための技術レポート(標準情報)を発行し、環境適合設計のガイドラインを定めています。
 (ウ)モノの販売から機能の提供へ
 「モノの消費や所有」にこだわらず、モノの持つ機能だけを提供することにより、経済活動において資源消費量を低減させる脱物質化の考え方があります。脱物質化を図るための具体的手段としては、製品の再使用(リユース)、賃貸(リース・レンタル)、改築・改装(リフォーム)、修理・修繕・維持管理(リペアー)等があります。また、維持管理を含む総合リースサービスやカーシェアリング等、製品の提供ではなく、機能の提供を行う、サービサイジングのビジネスモデルが注目されています。サービサイジングの導入により、1)モノの購入や所有のあり方を見直すことによる資源消費量の適正化・合理化、2)使用回数・時間等で料金を設定することによる使用量(活動量)の適正化、3)事業者が使用済み製品を回収することによるリサイクルの進展、4)製品の維持管理が伴うことや製品が廃棄されるまでの使用頻度の増加による製品寿命の有効活用、等の効果が期待されます。
 イ 環境と社会の関係のあり方について
 国連では、2004年に約64億人であった世界人口は、2050年までに約91億人に達すると予測しています。こうした人口の増加、社会経済活動の拡大や高度化が、エネルギーや資源の消費量を急速に増加させています。そのため、持続可能性の観点から社会構造のあり方について検討していく必要があり、また社会のあらゆる側面において環境に配慮することが求められています。
 また、日本においては、少子高齢化とともに人口が減少し、さらに過疎化が進行することにより、里地里山を管理してきた担い手が不足し、こうした二次的な自然環境の劣化が懸念されています。
 そのため、環境基本計画では、環境の側面、経済的な側面、社会的な側面の3つの側面を統合的に視野に入れた政策の展開が図られる社会でなければならないことを示しています。そこで、ここでは、環境と社会を統合した政策理念を考えていきます。ここでいう「環境と社会の統合」とは、社会のあらゆる場面において環境に配慮させていくことだけでなく、1)環境を保全することがより良い社会を創り出すことにつながるもの、2)環境問題と社会問題を統合的にとらえ対策を考える必要があるものとし、それらの例を紹介します。
 (ア)環境と貧困
 開発途上国では、労働力の確保、家族計画に関する知識不足などを原因とした人口の増加が貧困を加速させています。開発途上国における食料確保や燃料採取のための耕地開発、家畜の放牧、森林伐採等は、生存のために必要不可欠です。しかし、貧困や急速な人口増に対応するために、自然生態系の再生能力を超えて過度に環境に負荷を与え、それが深刻な環境劣化をもたらしています。劣化した環境から十分な資源や食料を得ることは難しく、さらに貧困に拍車がかかります。
 この環境と貧困の悪循環を断ち切るため、エネルギー、水資源、雇用、衛生・健康、農林漁業等に関する持続可能な発展のための総合的な戦略・政策を実施することが必要です。また、環境保全と貧困の解消を同時に達成する1つの手段として、持続可能な土地利用形態として農業と林業を複合経営するアグロフォレストリーや自然環境を保全しつつ、自然や文化を生かした観光と地域振興を両立させ、環境教育にも役立つ観光・旅行形態であるエコツーリズム等が挙げられます。
 (イ)環境と防災
 森林は、生態系保全、二酸化炭素吸収といった環境保全の役割のほか、洪水や渇水を緩和し、土砂の流出や崩壊を防止する等の防災の役割も果たしています。また、地球温暖化対策は、温暖化により増加することが予測されている熱波、干ばつ、集中豪雨等の異常気象による災害を予防することにつながります(第1章第2節参照)。さらに、国連環境計画(UNEP)が提唱した陸域活動からの海洋環境の保護に関する世界行動計画(GPA)では、サンゴ礁やマングローブ等が津波や台風などの自然の防波堤になるとして、これらの自然環境の能力を高めていくことが重要であるとしています。
 このように環境を保全することが、自然災害の発生を抑制するとともに、発生した災害の影響を緩和させる可能性があることから、環境保全を踏まえた防災対策を検討していく必要があります。
 ウ 環境を再生する
 自然の再生産能力を超えた天然資源の過度な利用や環境汚染などにより過去に損なわれた環境を積極的に取り戻し、環境を再生することが必要です。
 昭和初期には日本各地で身近に見られたメダカやタガメは、現在絶滅の危険が増大している絶滅危惧II類としてレッドリストに掲載されています。こうした現状を踏まえ、市民団体等によるビオトープをつくる取組や自然再生推進法(平成14年法律第148号)に基づく自然再生事業等により、失われた自然環境や環境の変化で絶滅のおそれのある生物の生息環境の再生が各地で行われるようになりました。
 さらに、湖沼については、市街地、農地等からの汚濁負荷削減対策の実施の推進、湖沼の水環境の適正な保全等のための措置を講じる「湖沼水質保全特別措置法の一部を改正する法律案」が第162回国会に提出されたことにより、水環境の改善が期待されます。また、都市においても、雨水や下水再生水の利用等による水循環の回復、湧水の保全・復活等を目指した活動が実施されています。

(3)新時代を築くための政策手法
 環境問題は、複雑な要因で発生し、影響が広範囲に及ぶことから、環境影響の発生の仕組みや影響の程度などについて科学的な不確実性が存在し、その場合の政策決定の考え方が重要になっています。
 また、規制や対策を実施する際には、多数の要因を考慮して実施すべき政策の優先順位を判断することや、各分野を横断して効果的、総合的な対策を推進することが重要です。
 ア 環境リスク管理
 環境リスク管理とは、科学的知見に基づき、環境への影響の発現の可能性や大きさなどを予測し、対策実施の必要性や緊急性を評価して、判断し、必要な対策を実施する考え方です。この考え方に基づき、潜在的に人の健康や生態系に有害な影響を及ぼす可能性のある化学物質が、大気、水、土壌等の環境媒体を経由して環境影響及び健康影響を生じさせるおそれについて定量的な評価を行い、その結果に基づいて適切な環境リスクの削減対策を実施しています。
 環境リスク管理には、科学的知見が限定され、不確実性の程度すら把握できずに、「予防」に関する考え方(イ参照)に基づいて当面の政策を検討する段階から、科学的知見が集積し、不確実性が限定され、その上で恒久的政策を実施する段階まで、問題の不確実性の度合いに応じてさまざまな管理を包含すると考えられており、公平性の観点、評価手法などにおいてもさまざまな課題があります。
 イ 「予防」に関する考え方
 環境影響の発生の仕組みや影響の程度などについて科学的な不確実性が存在する場合における政策決定の方法として、日本では「予防的な方策」を環境基本計画の中に位置付けています。環境基本計画では、発生の仕組みの解明や影響の予測が必ずしも十分に行われていないが、長期間にわたる深刻な影響あるいは不可逆的な影響をもたらすおそれが指摘されている場合には、完全な科学的証拠が欠如していることを対策延期の理由とはせず、科学的知見の充実に努めながら、必要に応じ、予防的な方策を講じることとしています。 このような「予防」の考え方の適用のあり方や枠組みについては、現在も国際的にさまざまな議論が交わされているところです。「予防」の考え方に基づいて取られる措置の内容についてはさまざまなものが想定されますが、その措置の内容については、ECや英国等では、下記の原則が伴うべきとされています(表3-2-1)。


表3-2-1 「予防」の考え方に基づく措置の考え方


 また、このような政策決定は、「科学的には十分に分からない」ことを前提とする社会的・政治的なものであるため、科学的確実性が高い場合に比べて、より高い透明性、説明責任及び利害ないし関心を有する者の幅広い関与(公衆関与)が必要であるとされています。

(4)新時代を築くための政策決定の視点
 ア 市民と環境を考える
 現在の環境問題は、私たちの経済、社会と密接な関わりを持って引き起こされることから、あらゆる主体が環境に対する自らの責任を自覚し、それぞれの立場に応じた公正な役割分担の下で行動することが必要です。欧州では、環境に関する、1)情報へのアクセス権、2)政策決定の参加権、3)司法へのアクセス権を保障したオーフス条約を採択しました。この条約は、平成13年(2001年)に発効し、現在34か国とECが批准しています。日本においても、パブリックコメントや協議会などさまざまな制度を活用して、市民の環境政策の参加を促していくことが必要です。市民とともに環境政策を決定していくことは、より適切な政策を選択するだけでなく、市民の環境意識を高め、市民が自発的に環境保全に取り組む社会も実現します。
 イ 地域で環境を考える
 地方分権の進展に伴い、地方の自己決定の範囲が拡大し、地方の自立性が高まることから、地方公共団体における環境行政の重要性が高まります。
 さらに、地域において地域資源の把握と主体間の連携を行うことにより、地域が一つの方向性(目標)を共有し、地域における各主体が、より良い環境、より良い地域を創っていこうとする意識・能力が高まります。こうして得られる地域全体としての取組意識や能力の高まりを地域環境力と呼びます。地域が健全性と活力を備えていくために地域社会のあり方を地域で考え、地域環境力を伴う持続可能な地域づくりを進めることが重要です。
 ウ アジアで環境を考える
 アジア地域で環境保全に取り組むことは、日本そして世界の環境保全の観点から重要になっています。
 酸性雨問題では、東アジア地域のめざましい経済成長やそれに伴うエネルギー消費が増加していることから、原因物質となる二酸化硫黄や窒素酸化物の排出削減対策を地域全体で総合的に進めていかなければなりません。
 廃棄物問題では、各国において廃棄物発生の最小化に最重点を置いて、資源を循環させ、廃棄物を適正に処理することが基本的な考え方です。しかし、国外で適正な再使用又は再生利用が行われる場合に限り、資源の有効利用や新たな一次資源の採掘・運搬等に伴う環境汚染の防止の観点から、国際的な廃棄物の移動は認められるべきです。そこで、環境汚染の防止を前提として、アジア各国が相互に連携し、域内における資源の再使用又は再生利用を促進することで天然資源消費量を抑制し、アジア域内の適正な資源循環システムを構築することが期待されています。
 さらに、アジア地域で活発化している企業活動において、日本市場や日本企業のサプライチェーン等を通じて、それらの企業の環境管理能力を向上させる可能性があります。アジアには日本市場向けの商品を扱っている企業が多く、例えば、日本の機械機器における平成15年のアジアからの輸入額については、7年と比較して約2.6倍に増加し、北米、ヨーロッパの倍以上になりました。そのため、日本における消費者及び企業が、有害化学物質を含まない製品の購入や部品の調達を進めることにより、アジア企業において製造工程が改善され、化学物質管理能力を促進させる可能性があります(図3-2-2)。


図3-2-2 日本における機械機器の各地域別の輸入額


 過去の深刻な公害を克服し、環境と経済が好循環する社会の実現に向けて先進的な取組を進めている日本が、リーダーシップを発揮して、アジア地域の環境保全を総合的かつ戦略的に推進していく必要があります。

2 「しくみ」としての日本の環境政策


 日本では、脱温暖化社会と循環型社会の構築に向けた「しくみ」として、次のような施策を行っています。

(1)脱温暖化社会の構築
 地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年法律第117号)では、京都議定書発効の際に京都議定書目標達成計画を定めることとしています。平成17年2月の京都議定書の発効を受け、同年4月、京都議定書の6%削減約束を確実に達成するために必要な措置を定めるものとして、「京都議定書目標達成計画」が策定されました。
 同計画では、地域・都市構造や交通システムの抜本的な見直し等によりエネルギーの効率的利用を構造的に組み込むことや、施設・主体単位で自らの活動に関連して排出される二酸化炭素の総体的な抑制を目指してさまざまな取組を行うこと、機器単体のさらなる省エネ性能の向上、普及を図ることなどが挙げられました。また、森林吸収源対策などの温室効果ガス吸収源対策を推進すること、京都メカニズムを適切に活用することなどが盛り込まれました。
 また、知識の普及や国民運動の展開を図ること、公的機関が率先して温室効果ガス削減に取り組むこと、サマータイムの導入など、各部門の個々の対策を横断的に推進するための施策についても、同計画に盛り込まれました。また、環境保全と経済発展といった複数の政策目的を同時に達成するため、自主的手法、規制的手法、経済的手法、情報的手法などあらゆる政策手法を総動員し、それらの特徴を活かしつつ、有機的に組み合わせるというポリシーミックスの考え方を活用することとしました。経済的手法は、市場メカニズムを前提とし、経済的インセンティブの付与を介して各主体の経済合理性に沿った排出抑制等の行動を誘導するものであり、地球温暖化対策の経済的支援策としての有効性も期待されており、その活用に際しては、ポリシーミックスの考え方に沿って、効果の最大化を図りつつ、国民負担や行財政コストを極力小さくすることが重要であり、財政的支援に当たっては、費用対効果に配慮しつつ、予算の効率的な活用等に努めることとされました。経済的手法の一つである環境税については、国民に広く負担を求めることになるため、関係審議会を始め各方面における地球温暖化対策に係るさまざまな政策的手法の検討に留意しつつ、地球温暖化対策全体の中での具体的な位置付け、その効果、国民経済や産業の国際競争力に与える影響、諸外国における取組の現状などを踏まえて、国民、事業者などの理解と協力を得るように努めながら、真摯に総合的な検討を進めていくべき課題とされました。

(2)循環型社会の構築
 循環型社会とは、天然資源の消費を抑制し、環境への負荷ができる限り低減される社会をいいます。具体的には、第1に製品等が廃棄物となることが抑制され、第2に排出された廃棄物等についてはできるだけ適正に循環的な利用がなされ、最後にどうしても利用できないものは適正に処分される社会のことです。
 近年の世界人口の増加や経済社会活動の拡大に伴い、世界的に資源の需要が急増し、その一方で廃棄物の排出量も増加しています。これを背景に、循環資源を含む資源や製品などの国際流通が活発化しており、その中で有害廃棄物を有価物と偽った不法な輸出や、循環資源の不適切な処理による環境汚染が問題となっています。資源の有効利用と環境保護を推進するためには、3R(リデュース、リユース、リサイクル)による循環型社会の構築を国際的に推進することが必要です。
 そこで、平成16年6月に米国ジョージア州シーアイランドで開催されたG8サミットにおいて、小泉総理大臣が3Rを通じて循環型社会の構築を目指す「3Rイニシアティブ」を提案し、各国首脳が合意しました。この合意に基づき、3Rイニシアティブを開始するための閣僚会合が、平成17年4月28日〜30日、東京で開催されました(第2部第7章第9節1参照)。


コラム 愛・地球博

 平成17年3月25日から9月25日までの間、愛知県で2005年日本国際博覧会(愛・地球博)が開催されています。愛・地球博では、メインテーマに「自然の叡智」を掲げ、環境に配慮した取組や環境保全の普及啓発を目的とした展示などを行っています。
 環境配慮の取組としては、例えば、日本館では、生ごみを使った燃料電池発電などのクリーン・エネルギーで電力のすべてを賄ったり、リユースを容易にするために建築物を解体しやすい設計とするなど、さまざまな取組を実施しています。それらの取組の一つとして、日本館では、ICタグを活用して情報を管理し、リユースに役立てようという実験的取組を行っています。リユース品は、残存価値に関する情報(使用頻度や劣化状態など)が不足しているため、価格が適正でなかったり、すぐに壊れるかもしれないという不安から活用されにくい場合があります。そこで、日本館では、エレベータ乗り場の操作ボタンや空調機器の吹き出し口などに名刺大のICタグを貼付し、リユース品の残存価値を把握するための情報を管理します。二次利用者を公募する際に、ウェブ上でICタグに入力された情報を公開することにより、二次利用者が安心してリユース品を買えるようになり、リユースの促進につながります(図3-2-3)。
 また、環境保全の普及啓発を目的とした展示として、環境省が出展している「ECO LINK(エコ・リンク)」では、私たち一人ひとりの行動が地球環境にとって大きな意味を持つことへの気づきを促し、地球温暖化をはじめとした地球環境問題への取組として、ライフスタイルの変革を促進することを目的とした展示を実施しています。

図3-2-3 ICタグの情報管理の仕組み



3 国と地方が連携した環境行政のあり方

 今日の環境問題の多くは、地方公共団体の行政区域にとどまらず、広域的な、さらには国際的な広がりを持ったものとなっています。また、私たちの身近な活動から発生する環境負荷が環境問題の原因となっていることから、その解決には地域住民と一体となった取組が必要です。このため、地方公共団体と国が連携して、環境問題に取り組むことが必要になります。
 政府では、近年地方分権などの行政改革を進めており、平成16年11月に政府・与党で「三位一体の改革について」をまとめたほか、12月に「今後の行政改革の方針」を閣議決定しました。これらの方針では、「民間にできることは民間に」「地方にできることは地方に」等の観点から、国と地方公共団体の役割を明確にして、国・地方を通じた簡素で効率的な行財政システムを構築することとしています。また、第2章第6節3で述べたように、規模の大きな地方公共団体は、環境基本計画の策定など、より環境行政に積極的に取り組んでいることから、市町村合併の進展に伴って、さらに地方における環境行政の進展を図ることが重要になります。
 これらの改革などを踏まえ、国と地方公共団体が一体となって前向きに環境問題に取り組む「しくみ」を構築することにより、地域において効果的な環境行政が実現するとともに、より良い環境がより良い地域を創る基盤をつくります。そのいくつかの例を見ていきます。

(1)地域における循環型社会づくり
 廃棄物の処理やリサイクルについては、平成15年に循環型社会形成推進基本計画が策定されるなど、近年、これまでの公衆衛生の向上や公害問題の解決から、日本全体として、さらには国際的な連携も視野に入れた循環型社会の形成という新しい課題に対する取組が求められるようになってきました。
 そこで、環境省では、平成17年度から、従前の廃棄物処理施設整備に係る補助金を原則廃止して、新たな循環型社会の形成を推進していくための交付金制度を創設しました(図3-2-4)。これにより、市町村において、都道府県及び国と構想段階から意見交換を行って循環型社会の形成を推進するための計画を作成し、3R(リデュース、リユース、リサイクル)を推進するための戦略的な目標を設定するとともに、広域的かつ総合的に施設整備を推進していくこととしました。地方の自主性・裁量性を発揮しつつ、国と地方が構想段階から協働して施策を推進することにより、日本全体として最適な循環型社会づくりを進めていきます。

図3-2-4 循環型社会形成推進交付金制度の概要


(2)魅力的な国立公園づくり
 自然公園は、傑出した自然の風景地で、自然とのふれあいの場である一方で、地域においては、重要な観光資源であるとともに、地域住民の生活の場でもあります。
 自然公園の管理については、平成12年に国立公園は国が管理することを基本に国と地方公共団体との間で許可権限を見直していますが、17年からさらに施設整備における両者の役割分担を明確にしました。国立公園については、補助金を廃止し国の直轄事業として実施する一方で、国定公園等については、現行の補助金を交付金化して地方公共団体の裁量性を高めることとしました。また、都道府県立自然公園等については、補助金を廃止し地方公共団体に委ねることとしました(図3-2-5)。


図3-2-5 自然公園整備のあり方


 国立公園では、今後も国の地方環境事務所(平成17年10月まで自然保護事務所)が中心となって国立公園の保護管理を進めていきますが、地方公共団体においても地域の観光資源や生活の場等を管理する観点から、引き続き国と連携することが必要です。さらに、国と地方公共団体が中心となって、各国立公園の地域的な特色や事情、求められるニーズを勘案して、公園の保護管理に必要な業務や受益者負担も含めた所要経費の分担のあり方等について地域の関係者間の合意を図ること等により、さらに質の高い魅力的な国立公園づくりを行うことができます。

(3)地方環境事務所の設置
 環境省においては、地域の実情に応じた機動的できめ細かな環境行政を展開するため、現行の自然保護事務所と地方環境対策調査官事務所を統合し、平成17年10月から全国7ブロックに地方環境事務所を設置することになりました。地方環境事務所には、地方支分部局として、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)や、自然公園法(昭和32年法律第161号)等に規定する権限を委任することができるようになり、地域での機動的できめ細かな対応が可能となります。この事務所を拠点として、地方公共団体、事業者、民間団体、地域住民等と連携しながら、廃棄物不法投棄対策、地球温暖化対策、外来生物対策など、国として軸足を地域に置いた環境施策の展開を進めます(図3-2-6)。


図3-2-6 地方環境事務所の設置場所と管轄区域



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