第6節 地域から創る


 地方公共団体は、一人ひとりや地域の各主体(企業や市民団体等)に対して、日常の生活や事業活動において生じる環境負荷の削減の実行を促す「しくみづくり」と「人づくり」の役割が期待されています。

1 地方公共団体における環境保全のしくみづくりの取組


(1)環境マネジメントシステムの導入・普及
 地方公共団体は、事業者や消費者としての性格も持つことから、環境マネジメントシステムを導入し環境負荷削減の取組について改善を図っていくことが有効です。
 また、地方公共団体は、地域の事業所の認証取得を支援するために、研修会の開催や講師の派遣や情報交換等を行う事業者連絡会の発足等、多様な施策を行っています。さらに、地域独自の環境マネジメントプログラムを策定し中小事業者への環境配慮の取組を促進する施策を5都道府県、26市区町村が行っています。こうした環境配慮のしくみを地域に広める施策についても、さらなる取組が期待されます。

◆環境ISO自己適合宣言と地域への取組
 近年、ISO14001認証とは違う形で環境マネジメントシステムを運用している地方公共団体も見られます。長野県飯田市は、平成15年1月に日本の地方公共団体で初めて、ISO14001の外部機関による審査登録から「自己適合宣言」型の環境マネジメントシステムへ移行しました。飯田市では、システムの透明性、客観性及び説明責任を確保するため、地域の企業や他の地方公共団体と相互に内部監査を行っています。また、飯田市は、市役所も一事業所として参加している「地域ぐるみ環境ISO研究会」が独自に考案した環境マネジメントシステム「南信州いいむす21」の普及にも取り組んでいます。多くの事業所が「南信州いいむす21」を導入し、実状に合わせて無理せずに計画を立てて環境改善活動を実施することで、地域ぐるみでの環境保全、環境改善に挑戦しています。

(2)条例や計画等による環境保全のしくみづくりの取組
 地方公共団体の環境保全に関する基本的な考え方や取組方針を明らかにした環境基本条例や環境基本計画の策定が、各地で進んでいます。近年、条例や計画等による環境保全のしくみには、公害防止などの地域における生活環境保全に加えて、地球温暖化防止に関する施策についても盛り込まれるとともに、環境負荷削減の取組がより実効性のあるものとなるよう、さまざまな工夫が見られます。
 ア 温暖化対策のしくみづくり
 東京都では、「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」が平成17年3月に改正されました。この改正では、1)「地球温暖化対策計画書」制度の強化(大規模事業者等に温室効果ガスの削減目標を定めた計画書を知事に提出することを義務付ける制度とし、都の指導・助言や都による評価・公表の仕組みを新たに規定)、2)「エネルギー環境計画書」制度の創設(電気供給事業者に、発電量当たりのCO2削減計画の提出、公表の義務付け)、3)「建築物環境計画書」制度の強化(大規模マンションの販売広告に環境性能の表示を義務付け)、4)省エネラベリング制度の創設(家電製品の販売店への義務付け)等、既存の制度の強化や新規制度の創設が盛り込まれました。この改正には、事業者の取組状況を都が定める評価基準によって明らかにし、社会が評価することで、事業者の確実な取組を確保する手法が導入されています。(http://www2.kankyo.metro.tokyo.jp/ondanka/index.html
 イ 環境創出協定
 岐阜県は、事業者、市町村及び県の三者で協定を締結し、より一層の環境負荷の削減を目指すとともに、豊かで快適な環境を創出する取組を行っています。この協定を締結した事業者は、1)公害防止対策、化学物質対策、廃棄物対策、さらに地球環境保全対策を県民に約束、2)維持管理目標値や将来目標値を設定、3)2)の目標達成に向け「環境創出行動計画」を策定し、その達成状況の結果を「環境創出活動報告書」として作成、4)協定内容、環境創出行動計画及び環境創出活動報告書をインターネットで公開、といった取組を行うことになります。
 この協定は、事業者の自主的な取組を促すもので、拘束力はありませんが、協定内容、数値目標及びその達成状況が公表されることで事業者の環境配慮の取組が住民にチェックされ、確実な取組が確保される仕組みとなっています。
 ウ パートナーシップ協定の締結
 青森県弘前市では、平成13年3月に市民参画の下策定された「弘前市環境基本計画(ひろさきアジェンダ21)」を推進するため、市民の自立した組織である「ひろさき環境パートナーシップ21」(以下「HEP21」という。)と「環境基本計画の推進に関するパートナーシップ協定」(以下「協定」という。)を締結しました。この協定には、市とHEP21の両者について役割と責務がそれぞれ明記されています。この協定に基づいた活動として、市とHEP21との協働による講座や講演会等の実施、HEP21による市民フォーラム等の開催等が行われており、市はHEP21の運営費を支出しています。
 相互の役割分担と責務を明記した協定を締結することで、計画に盛り込まれたさまざまな施策等について市民の側からも主体的に取組を進めていこうとしています。

2 地方公共団体における環境の人づくり


 地域における環境の人づくりは、地域にある自然的・社会的資源を学習素材として積極的に活用し、子どもから大人まで、いつでもどこでも人づくりに参加できるようにすることが望ましいと考えられます。また、地域における環境保全活動の担い手に加えて、環境教育や環境保全活動のリーダーを養成することも重要です。

(1)環境教育・環境保全活動のリーダーの養成
 静岡県では、環境教育・環境保全活動のリーダーを養成する「環境道場師範養成講座」を開講しています。この講座は、地域で積極的に環境保全活動や環境教育を行っているNPO、学識研究者等と行政が協力して企画運営しています。学習内容は、地球温暖化、廃棄物リサイクル、自然環境、環境調査、五感教育等広範なものです。また、単なる知識の習得ではなく、富士山麓にてNPOが運営する自然学校での体験学習や、里山における管理実習等の多様な現場活動の中で、学習者が実物に触れ自ら体験して感じ取る体験型プログラムが用いられています。この講座を通じ、自発的な環境教育・環境保全活動を促進するとともに、受講生のネットワークを作り活動の活性化を目指しています。

写真 環境道場師範育成講座 静岡県提供


(2)条例による環境教育の推進
 石川県では、「ふるさと石川の環境を守り育てる条例」(以下「条例」という。)を制定し、平成16年4月から施行しました。この条例は、自然とのふれあいの推進のため、「市町村、事業者及び民間団体との協働によるふれあいの機会の増進」「県、市町村、事業者及び民間団体が連携し自然体験活動の促進に取り組むために必要な体制の整備」等、県が4項目に関する措置について講ずるよう努めることを規定しています。

写真 いしかわ自然学校「里山あそび塾」 石川県提供


 こうした協働による自然とのふれあいの推進を条例に規定した背景には、平成13年度に開校した「いしかわ自然学校」の取組があります。「いしかわ自然学校」は、県、市町村、NPO等の民間団体、旅行業や宿泊業等の事業者が連携して、県内各地の多様な自然を「まなび舎」とし、幼児から大人までの対象ごとに、さまざまな主体の特色を生かした多彩な自然体験プログラムを提供しています。
 条例に環境教育を位置付け、地域の多様な主体の参画と協働により良好なパートナーシップを構築し、自然体験を通した環境教育を推進するしくみづくりを行っています。

3 地方公共団体の環境行政の体制


(1)地方公共団体における環境保全及び公害部門職員数
 ア 環境保全及び公害部門職員数の増減
 「地方公共団体定員管理調査」(総務省)によると、地方公共団体における全体の職員数は近年減少傾向にありますが、一方、同調査において「環境保全及び公害部門に従事する職員」として分類される職員数(以下「環境保全等職員数」という。)は近年増加傾向にあり、都道府県では6,710人、市区町村では7,808人となっています(平成16年4月1日現在)。分野別に見ると、都道府県では公害部門はほぼ横ばいですが環境保全部門が16年は6年の約1.4倍となり、両部門を合わせると、16年は6年から7%の増となっています。市区町村では、公害部門が減少傾向にありますが環境保全部門は大きく増加し、両部門を合わせると、16年は6年から6%の増となっています(図2-6-1)。


図2-6-1 都道府県及び市区町村の環境保全及び公害部門職員数


 イ 人口規模別に見る職員数
 市区町村を人口規模別に区分して、同調査における環境保全等職員数の割合を見ると、「0人」の団体は、人口1万人未満では89.4%、1万人以上5万人未満でも56.6%となっており、規模の小さい団体において、環境保全及び公害部門を専門に担当する職員がいない団体が多いことが分かります。一方、5万人以上10万人未満では「2〜5人」(49.1%)、10万人以上では「21〜50人」(26.8%)が最も多くなっており、規模が大きくなるとともに専門に担当する職員が増加しています(図2-6-2)。


図2-6-2 人口規模別に見る環境保全及び公害部門職員数


(2)環境行政の取組
 地域環境基本計画を策定している団体数は、都道府県及び政令指定都市ではすべての団体が策定済みとなっています。一方、市区町村(政令指定都市を除く)における策定団体数を人口規模別に見ると、図2-6-3のように、人口規模が大きくなるにしたがって団体数が増加していることが分かります。


図2-6-3 人口規模別に見る地域環境基本計画の策定状況


 地方公共団体においてISO14001の認証取得又は自己宣言を行っている団体数は、都道府県では42団体(89.4%)、政令指定都市では12団体(92.3%)です。市区町村(政令指定都市を除く。)における認証取得又は自己宣言を行っている団体数を人口規模別に見た場合も、地域環境基本計画と同様の傾向が見られます(図2-6-4)。


図2-6-4 人口規模別に見るISO14001の認証取得又は自己宣伝を行っている団体数


 上記で見たように、規模の小さい地方公共団体において環境に関する業務を専門に担当する職員がいない場合が多く、このような地方公共団体において、環境行政をどのように進めていくのか、ということが課題となっています。

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