第5節 市民団体から創る


 今日、全国各地において、市民が集まって環境保全に関するさまざまな活動が行われており、こうした市民の集まり(市民団体)が果たしている役割はますます大きなものとなっています。

1 自発的な環境保全活動の広がり

 市民団体による環境保全活動は広がっています。環境保全に取り組んでいる市民団体について正確な数は把握されていませんが、環境事業団(現独立行政法人環境再生保全機構)が平成15年度に「環境NGO総覧作成調査」を行った際、対象とした環境NGO(民間の非営利団体で環境保全活動を実施している団体)は11,075団体でした(ただし、統計には現れない小規模なものや、非継続の団体も存在し、これらを含めると正確な数は不明です。)。また、町内会・自治会等においても区域の環境美化、清掃活動、リサイクル運動など、地域の環境保全に関する自主的な取組が行われています。

2 市民団体による環境の人づくり

 「環境NGO総覧(平成16年版)」(独立行政法人環境再生保全機構)によると、環境NGOの活動分野は、「環境教育」が45.7%と最も多く、「自然保護」(44.7%)、「まちづくり」(28.9%)、「水・土壌の保全」(26.0%)と続いています(図2-5-1)。


図2-5-1 環境NGOの活動


 市民団体による環境教育・環境学習に関する活動内容は、教材開発、講師派遣、プログラム実施、 コーディネート等多岐にわたっており、環境教育・環境学習の対象も市民、学校、児童、企業向け等、個々に適したプログラムを提供しています。
 こうした市民団体による環境教育・環境学習は、一人ひとりに環境への配慮や自発的な環境保全活動を促す上で重要な役割を果たしており、さらなる取組が期待されます。

(1)市民団体が行う環境教育
 任意団体として活動している岩手子ども環境研究所は、岩手県葛巻町にある廃校を、持続可能な地域づくりを楽しみながら学ぶ場所「森と風のがっこう」として再利用し、伝統的な知恵や文化、自然エネルギーの利用等についての学ぶ場を設けています。「森と風のがっこう」では、伝統的な知恵や文化、自然エネルギーの利用等について学ぶ講座が開かれています。この「がっこう」には太陽光発電、風力発電、ペレットストーブ等自然エネルギーを体験できる施設があり、参加者に、自然エネルギーの利用について生活の中から考えてもらいます。また、葛巻町教育委員会と共催で、自然の中で子どもが遊びと学びを体験する「子どもオープンデー」を毎月開催しています。この講習会では、森の中へ出かけ、じっくり葉っぱを見て、触って、匂いを嗅ぐという、遊びの要素だけでなく観察し実感する要素も取り入れたプログラム等を行っています。(http://www5d.biglobe.ne.jp/~morikaze/


:写真 省エネルギー学習(手回し発電機) 森と風のがっこう提供


(2)環境学習の支援、コーディネート
 特定非営利活動法人(NPO法人)環境学習研究会は、東京都が実施した環境学習リーダー講座の修了生30名によって設立された団体です。この研究会による授業支援は、先生たちと一緒に授業を作ることに特徴があり、研究会のスタッフが事前に学校を訪問して授業の位置付けを確認し話し合いを行い、その後、先生と研究会それぞれが授業案を考えた上で授業内容を検討します。また、協賛企業との協働による教育も行われており、例えばごみをテーマにした授業を行うときは、協賛企業の一つである飲料メーカーの社員が授業を行います。
 また、この研究会では、環境ネットワークマガジン「ecok東京」を、都内の全小・中・高等学校に隔月で無料配布しています。この情報誌には、環境学習に活用できる情報や教材等を紹介するとともに、授業の事例なども掲載しています。単に情報を提供するだけでなく、掲載された内容を実践したい学校に対して、編集部である研究会が、コーディネートやアドバイスを行っています。(http://www.ecok.jp/

:写真 外部講師による授業 NPO法人環境学習研究会提供


3 市民団体によるしくみづくり


 環境保全活動に取り組む市民団体の中には、専門性を生かしてさまざまな提案や提言を行っている団体もあります。「環境NGO総覧」によると、環境NGOのうち「政策提言」を活動形態とする団体は17.7%となっています(図2-5-1参照)。
 地域で活動する市民団体の中には、地域における環境保全についてさまざまな提案や提言を行っている例が見られます。さらに、国レベルにおいても、国際交渉や政策立案過程での提言等の活動が専門的能力を有する団体により行われており、市民団体による政策提言の役割はますます重要になりつつあります。
 また、市民団体がその専門性を生かして行う、環境改善活動等のさまざまな取組は、一人ひとりにライフスタイルの転換を促すことに加えて、環境配慮が世の中に広がるしくみづくりにも寄与しています。

(1)政策提言や世論形成
 NPO法人気候ネットワークは、地球温暖化防止を主たる目的に、政策提言、国際交渉への参加・働きかけ、情報発信等を行っています。国への政策提言として、京都議定書の削減約束である6%削減を達成するための、国内の効果的な政策や具体的な手法等を提案しています。また、炭素税の早期導入に向けた研究・提言活動も行っています。
 国際交渉、国際世論形成への活動として、気候変動枠組条約締約国会議にスタッフやメンバーを派遣し、継続した監視、分析、アピール等を通じて政府や世論、国際社会に対して、脱温暖化社会が構築されるよう働きかけています。
http://www.jca.apc.org/kikonet/

(2)しくみづくりへの寄与
 NPO法人環境市民は、環境に配慮された製品やサービスを選択し購入する「グリーン購入」を行う消費者を育てる運動に取り組んできました。平成3年、環境市民の前身団体の一つ「ごみ問題市民会議」は、京都市内の全スーパーの環境対策や環境に配慮した商品の品揃えを調べ、日本で最初の地域版買い物ガイドを発行し、その後の各地におけるガイド作成のきっかけとなりました。平成6年には、他の市民団体と協力し、全国版の買い物ガイドを出版し、グリーン購入の普及に取り組みました。
 平成8年2月に、市民団体、企業、地方公共団体、環境庁(当時)、学識経験者等によって「グリーン購入ネットワーク(GPN)」が設立されましたが、環境市民は発足時から現在まで幹事を務め、現在は代表理事を務めています。このGPNの活動は、平成12年5月の国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法、平成12年法律第100号)の制定にもつながりました。市民団体の取組が国レベルのしくみづくりに寄与した事例です。(http://www.kankyoshimin.org/


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