第3章 新時代を築く「人」と「しくみ」づくり〜そして「環」づくりへ


 第2章では各主体におけるさまざまな環境保全の「人づくり」と「しくみづくり」の取組を見てきました。本章では、新時代における持続可能な社会を構築するための「人づくり」や「しくみづくり」について考察していきます。
 環境保全の「人づくり」と「しくみづくり」をさらに進め、あらゆる主体が連携する「環づくり」を発展させていくことにより、新時代における持続可能な環境の国づくりを実現することにつながります。

第1節 新時代を築く人づくり


1 環境配慮の行動ができる人づくり−「もったいない」の心を育む−


(1)環境教育の高まり
 今日の環境問題は、地球規模に及ぶ空間的広がりと将来の世代にわたる時間的広がりを持っています。このような理解や認識に立って、問題の本質や解決の方法について自ら考える能力を身につけると同時に、自ら進んで環境問題に取り組んでいく人材を育てていくことが求められており、このために環境教育が重要となっています。
 そのため、それぞれの主体で現状の認識と問題解決の意識を共有し、高めていくとともに、このような積極的な取組を進めていく「しくみ」が必要です。

(2)環境教育の推進の方向
 環境教育・環境学習の推進については、従来より環境基本法で定められ、各分野ごとに実施されていましたが、平成15年に環境教育・環境学習の推進、環境保全活動に取り組む意欲を高めていくための体験機会や情報の提供等の促進を目的とした環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律(平成15年7月法律第130号)が成立し、環境教育の推進、自主的な環境保全活動の促進に関するより具体的な法的基盤が整備されました。16年9月、同法に定められた事項を推進するため、環境保全活動や環境教育の実施に当たり重視すべき基本的な考え方、学校・地域・職場等のさまざまな場における環境教育の推進方策や人材育成、拠点整備のための施策等について定める「環境保全の意欲の増進及び環境教育の推進に関する基本的な方針」が閣議決定されました。

(3)人づくりが目指す人物像
 環境教育については、知識の取得や理解にとどまらず、自ら行動できる人材を育成することが大切です。環境教育を通じて、人間と環境との関わりについての正しい認識に立ち、自らの責任ある行動をもって、持続可能な社会づくりに主体的に参画できる人材を育成することを目指しています。こうした人材は、家庭や地域社会の一員としての責任を持って環境に配慮した生活や活動を進め、また、環境問題に積極的に取り組むことが期待されます。
 「もったいない」という言葉は、単にモノを使い惜しむだけではなく、モノが持つ本質的な値打ちや役割が生かされないことを惜しむ、という意味を持っています。ですから、エネルギーの無駄をなくすこと、リデュース・リユース・リサイクルによって、モノの持つ値打ちを余すことなく使い切ることは、「もったいない」の精神に通じるものです。「もったいない」という言葉に込められた精神を大切にし実践する「人づくり」を進めることによって、豊かさを維持しながら環境負荷を低減する社会の構築につながると考えられます。

2 人づくりの基盤


 環境教育を実施する現場では「取組方法が分からない」「適当な教材が少ない」などの声が聞かれます。環境教育を一層推進するためには、環境教育の実施に際しての具体的手法や環境教育を担う人材、環境教育を行うための情報や拠点の整備が必要になってきます。

(1)具体的行動に結びつくプログラムの整備
 環境教育を行うための具体的な活動のメニューが環境教育プログラムといえます。環境教育プログラムは、家庭、学校、企業、市民団体、行政等が連携、協力し、発達段階や理解力、テーマに応じて体験や遊びの要素を取り入れ、学習段階ごとのねらいを明らかにした体系的な整備を図ることが望まれます。また、プログラムは必要に応じて地域の特性に応じて作成、改良されることが重要です。
 環境教育プログラムの整備にITを活用することは大変有効です。さまざまな主体が作成した環境教育プログラムや指導資料は、インターネット等を通じて、検証や評価を行い必要な改訂を行うことで、最新の環境問題に対応できるだけでなく、多くの人に共有されることになります。企業等においては、パソコンやインターネット等のITを活用した「eラーニング」などの環境教育プログラムにより、発達段階や仕事の内容や責任の度合いに応じたきめ細かい社員教育を低コストで実施することができます。また、社員の受講管理や省資源化にも役立ちます。

(2)専門家や多様な人材の必要性
 環境教育を進める上では指導者をはじめとするさまざまな人材の役割が重要です。
 ア 指導者に求められる環境に係る知識や技能
 環境問題は、科学的知見に基づいて原因が追及され、対策が講じられるものです。そのため、指導者には環境に関する科学的な知識のほか、知見に基づく公平な態度と総合的な価値判断のできる能力が求められます。さらに、効果的な環境教育を進める上では、「関心の喚起→理解の深化→参加する態度や問題解決能力の育成」を通じて具体的行動を促し、問題解決に向けた成果を目指すという一連の流れにより実施できるような技法・手法が求められます。
 イ コーディネーターの必要性
 学校、企業等において環境教育を実施する場合には環境カウンセラーなどの外部の専門家を活用することが有効です。しかし、学校等の現場では専門家が十分活用されていないといわれており、その原因として、教育の場と環境教育を実施する適切な人材とをつなげるコーディネーターが不在であることが挙げられます。学校、企業等における具体的なニーズと、環境教育を行う能力のある専門家とをつなぐコーディネーター等を育成し、活躍の場を与えることが大切です。
 また、学校、企業等の環境教育を行う現場と専門家が出会う場を提供することも有効です。例えば、地域の環境保全活動実践リーダーと教職員が一緒に環境教育の研修を受けることにより、各主体の連携が促進されるとともに学校や地域における環境教育を、より充実させることができます。

(3)情報基盤の整備と提供
 環境教育の推進には、環境教育の教材を作成したり、環境学習を行う者が主体的に学習できるよう、必要なときに必要な形で正確な情報を入手できる情報基盤の整備が重要です。環境省及び文部科学省では、環境教育・環境学習に関する知識、場、教材、事例等に関するデータベースを構築しインターネットによる情報提供を始めました(http://www.eeel.jp)。
 また、環境保全活動や環境教育の現場では、環境教育等を実施するに当たって、信頼できる人材、実施する環境教育の内容に適切な人材などの人材に関する情報が不足しています。この課題の改善のため、人材を育成し、又は認定する事業に係る登録制度が「環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律」によって創設されました。登録された事業については、国が、人材育成プログラムや人材認定事業者に関する情報を収集・整理して、インターネット等を通じて情報提供することとしています。この制度により、それぞれの現場に適合した指導者の活用が進むことが期待されます。

(4)環境学習拠点の有効的な活用
 地域に根ざした体験学習等は、環境問題をより身近に感じさせ取組を促進させます。このため地域における環境教育の拠点の整備や活用が重要となっています。
 滋賀県立琵琶湖博物館は、従来型の展示の博物館ではない「参加型博物館」という基本理念の下に、訪れた人が琵琶湖を通じて自然と人との関わりや相互作用を学ぶことで、足元の自然や暮らしを見つめ直し、また地域での研究活動や行動を始めるきっかけづくりの場として設立された博物館です。館内には「琵琶湖と環境」や「身近な環境」といったテーマで、生態系、水質、ごみ問題等に係る展示があり、望ましい環境とは何かについて考え、新しい発見を促すよう、さまざまな工夫がされています。
 また、博物館における研究活動や交流活動も参加型となっており、あらかじめ登録した市民が身の回りの自然の観察結果を報告することで地域全体の環境の状況を把握するプログラムや、プランクトン観察やヨシ笛づくりを通じて湖の水質保全と生活排水の関わりを学ぶ体験学習等、地域における研究活動や交流活動の場となっています。(滋賀県立琵琶湖博物館 http://www.lbm.go.jp


写真 プランクトン観察 滋賀県立琵琶湖博物館提供


コラム 10万人の環境大臣をつくろう!〜我が家の環境大臣〜

 環境省では、家庭におけるさまざまな環境にやさしい行動を支援することを目的として、「我が家の環境大臣事業」を行っています。毎日の生活の中で、環境にやさしい行動を心がけることを宣言した家族を「エコファミリー」として登録し、その代表者には「我が家の環境大臣」として国の環境大臣から登録証が発行されます。「我が家の環境大臣」は家族に呼びかけ、環境にやさしい行動を促します。エコファミリーが行った取組はウェブ上で記録し、チェックできるほか、全国のエコファミリーとの間で、エコライフのアイデアの情報交換や家族の活動状況を表す「エコポイント」を競うなど楽しく取り組むことができます。(エコファミリーWebサイト http://www.eco-family.jp



3 国際的な取組


 環境問題の解決に取り組む上で、国内だけでなく国際的な視野に立って世界と協力していくことが重要です。こうしたことから、環境教育は、国際的な視点からも取り組む必要があります。
 ヨハネスブルグサミットで日本が提案した「国連持続可能な開発のための教育の10年」が、平成17年(2005年)から始まりました。持続可能な社会づくりを支えるのは「人」であり、そのための「人づくり」が重要です。環境保全活動のみならず、経済・社会のさまざまな局面において持続可能な社会を構築するために、識字教育、開発教育などさまざまな教育の取組を環境教育とつなげ、より人間らしい生き方のできる持続可能な社会づくりのための「人づくり」に取り組むこととされています。日本は、環境保全のための先進的な技術や、古くから環境と一体となった文化、社会を築いてきた経験を生かして、主導的な役割を果たすことが期待されています。


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