第3節 学校から創る


 持続可能な社会を構築していくためには、これからを担う子どもたちへの環境教育が極めて重要です。人間と環境との関わりについての正しい認識に立ち、自らの責任ある行動をもって社会づくりに主体的に参画できる「環境の人づくり」を進める上で、学校が果たす役割は大きなものとなっています。

1 学校における環境の人づくり


 学校教育においては、各教科や総合的な学習の時間等において環境教育が行われています。平成14年度から順次実施されている新学習指導要領においては、社会科、理科、家庭科等の各教科等における環境に関わる内容を一層充実しています。また、新設された総合的な学習の時間において、環境についての教科横断的・総合的な学習が実践されています。15年度の「総合的な学習の時間」における環境に関する学習活動の実施率は、小学校では49.6%、中学校では35.0%となっています。
 環境問題の現状やその原因について単に知識として知っているだけでなく、実際の行動に結びつけていく能力は、体験型の学習の中で自ら体験し、感じ、分かるというプロセスを繰り返すことにより、一層身に付けられると考えられます。したがって、小学校、中学校、高等学校等それぞれの発達段階に応じて、自然や暮らしの中での体験活動や実践活動を環境教育の中心に位置付けることが重要です。また、各学校において環境教育に関する全体的な計画を作成するなど、各教科、総合的な学習の時間を通じた総合的な取組を進めることが大切です。
◆体験を重視した教育
 福岡県二丈町立深江小学校は、「地域の豊かな自然への気づき」から「生き方への気づき」を呼び起こし、環境を大切にする態度を育てることを目標とする教育が行われています。
 平成16年度の5年生の学習は、「深江の人や生き物のための水辺を考える」学習に取り組みました。最初に、子どもたちは地域の海や川に出かけ、多くの生き物が棲んでいることに気づき、生き物がたくさん棲むことができる水辺にしたいという思いを持ちました。次に、地域の海岸など現地調査を行ったところ、多くの子どもが水辺のごみや川の水の汚れに気づきました。子どもたちは、「生活排水が川に流れ込み、その結果海を汚染している」などの原因を学び、「海に流れ込む水のろ過器の役目を持つ砂浜をきれいにしたい」などの意識が生まれ、解決方法を地域の人たちに提案するなどの交流活動を行いました。さまざまな気づきを得た子どもたちは、自分たちができることから活動を始めていく意欲を持つようになり、地域の環境改善のため、川の水質保全や浄化槽設置等を訴えるポスターやちらしの作成、海浜のごみ拾い等に取り組みました。生き物の現地調査、交流活動、環境改善の実践等、すべての段階において「体験」から学び、実際の行動へ結びつけています。

写真 川の生き物調査 福岡県二丈町立深江小学校提供


2 学校における環境負荷削減のしくみづくり


 自分たちの日常生活における行動がどういう形で環境に負荷を与えているのかなど、身近で具体的な事例を環境教育の題材として取り上げることは、環境問題を自らの問題として考える上での基盤になります。環境問題に対する理解や意識を高め、問題解決のために自ら実行しようとする意欲と態度を養うためには、学校における、こまめな節電・節水やごみの分別・リサイクル等の活動の実践が有効と考えられます。こうした取組を進める上で、具体的な目標を設定したり、節電・節水等の取組の効果を定量的に把握することは、児童生徒に問題への気づきや取組への動機を与えることにつながります。

(1)学校版環境マネジメントシステムに基づく取組
 いくつかの地方公共団体では、学校版環境マネジメントシステムの開発・普及などの取組を進めています。石川県では、環境省が策定した「エコアクション21(環境活動評価プログラム)」を学校で取り組みやすいように独自性を加えて再編集した「いしかわ学校版環境ISO」を策定し、モデル校を募集するとともに学校の取組の支援を行っています。
 石川県立大聖寺高校では、平成14年から「いしかわ学校版環境ISO」に基づく環境マネジメントシステムを構築し、「聖高エコプロジェクト(SEP)」に取り組んでいます。「京都議定書に挑戦!」のスローガンを掲げ、環境目標として、取組初年度の14年度に二酸化炭素を前年度比15%削減することとし、二酸化炭素排出要因であるエネルギー消費量、ごみ排出量、水・紙の使用量の4つを15%削減(対13年度比で15年度は20%、16年度は25%削減)することとしました。プロジェクトは、生徒SEP委員会が中心として取り組み、「二酸化炭素削減」「ごみ削減」等についてクラスごとの取組をチェックし結果を集計・発表する等、全校的な活動を行っています。チェック項目は「明るい日には窓側一列の照明を消す」「教室でのごみ分別と紙のリサイクルを正しく行っている」等、身近な環境負荷を削減する内容となっています。
 こうした全校生徒及び教職員による節電、節水、ごみの削減等の取組により、平成15年度の二酸化炭素排出量は対13年度比15.2%、可燃ごみ量は40.4%、紙使用量は44.9%削減しました(図2-3-2)。(http://www.ishikawa-c.ed.jp/~daisfh/index.html


図2-3-2 大聖寺高校の「地球環境のための教育活動目標」
  1. 全教科・科目において、環境に関する教材を取り入れ、実習や実験などを実施します
  2. 生徒会活動、ホームルーム活動、委員会活動などでは、環境保全の取り組みを行うように指導します
  3. 部活動においては、環境に配慮した活動を行います (ゴミの減量、省エネ、清掃活動など)
  4. 学校行事は環境負荷を考えて実施し、環境教育に積極的に取り組みます
  5. 教職員は生徒の模範となるよう、環境規範をもって行動します
  6. 教職員は環境に関して自ら学び、適切な環境教育が行えるように研修活動を活発にします
  7. 教職員は地球のために勇気をもって行動できるようにします
資料:石川県立大聖寺高校


(2)地方公共団体による取組の支援
 学校における環境負荷削減の取組に対して、地方公共団体が経費面から支援するしくみを構築している例も見られます。省エネ教育などの環境教育を行いながら学校にも取組の成果が還元されるとともに、地球温暖化防止にも貢献するものです。
 和歌山県では、「きのくにエコスクール事業」のアクションプランの一つとして、県立学校における光熱水費の節減が掲げられ、県立高校全48校で行われました。節減した光熱水費の3割は環境保全のため学校敷地内の植樹にあて、また、3割は学校が自由に物品購入などに使えます。さらに、15年度は節減したエネルギー量を二酸化炭素排出量に換算し、その削減量が多い上位校には報奨金が出されました。15年度は、二酸化炭素排出量の削減率が前年度比6%以上の学校が12校あり、全校で202トンの削減が実現しました。



コラム 学校のエコ改修

 現在、国内にある学校(幼稚園、小学校、中学校、高等学校、短期大学、大学及びその他)は61,631校あり、学校の建物面積は約3億m2、敷地面積は約26億m2に達しています(平成16年5月1日現在。文部科学省「学校基本調査」及び「公立学校施設実態調査」等)。学校施設の断熱性や遮熱性の向上を図ることや、太陽光発電や燃料電池の導入等を進めることは、学校からの環境負荷を削減することに大いに役立ちます。また、環境負荷削減の技術について児童生徒やその父兄の理解を深めることにつながると考えられます。さらに、地域在来の植物に配慮した緑化やビオトープづくり等により、屋外教育環境を整備することで、ヒートアイランド対策を進め、地域の生物多様性を保全することができるとともに、教材として活用されることも見込まれます。
 文部科学省、農林水産省及び経済産業省では、平成9年度よりエコスクールパイロット・モデル事業を実施しています。また、環境省では、「学校等エコ改修・環境教育モデル事業」を平成17年度から実施します。この事業では、学校施設のエコ改修により地球温暖化対策やヒートアイランド対策、改築に伴う廃棄物発生低減を行うと同時に、エコ改修の検討過程を含め地域住民や技術者が参加した環境教育を実施し、このしくみを全国に展開することを目指しています。これらの事業により、学校での環境負荷低減と教育環境の改善、環境教育と技術普及の促進を図っています。




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