第2節 家庭から創る
地球温暖化や廃棄物問題をはじめとする今日の環境問題の多くが私たちの日常生活や事業活動に起因していることから、日常生活の場である家庭における環境負荷低減の取組は極めて重要です。家庭は人を育てる原点ということができます。持続可能な社会を築くためには、その担い手となる「人づくり」を進めていくことが重要であり、家庭はその大きな役割を担っています。また、環境配慮型の行動が家庭を通じて社会全体に広がっていく効果も期待されます。
1 家庭からの環境負荷の現状
家庭におけるエネルギー消費は、世帯数の増加や家電製品の普及に伴い年々増加しています。家庭におけるエネルギー消費に起因する二酸化炭素の排出量は、日本全体のエネルギー消費に起因する二酸化炭素排出量の約14%を占めており(図2-2-1)、その量は、京都議定書の基準年である平成2年度(1990年度)から約3割も増加しており、他の部門と比較しても顕著な伸び率を示しています(第2部第1章図1-1-2参照)。
また、1人1日当たりのごみの排出量は1kgを超えており(第2部第4章図4-1-1参照)、家庭から排出される生活排水は、1人1日当たり約200〜250リットルといわれています。
2 家庭における環境保全の取組
私たちは日々の家庭生活の中で多くの環境負荷を発生させています。
家庭においては、電気、ガスなどのエネルギーや水、紙などの資源の節約によって無駄をなくすこと、家電製品や自動車などの購入時にできるだけエネルギー消費効率の高いものを選択するといった取組を継続して行うことで、全体として環境負荷削減の大きな効果を生むことになります。こうした家庭における取組には、ちょっとした心がけ次第で大きな効果を生むものや、少し視点を変えることで「質の高い生活を送ること」「生活を楽しむこと」と方向性が重なるものがたくさんあります。こうした取組の具体的な例としては、図2-2-2のようなものが挙げられます。家庭における環境保全の取組は、日常生活において「意識せずにとっている環境に負荷を与える行動」を「環境を意識した行動」に変える取組の積み重ねから成り立っています。まずは、比較的簡単にできる取組から始めることが大切です。
また、家庭における取組は、家族全員が一体となって協力することや、家族同士が環境に配慮した行動を相互に促すことが効果的であり、こうした行動は家庭における環境教育を一層促進するとともに、家庭内のコミュニケーションを活性化させる効果も期待されます。
コラム 先人の知恵に学び、実践する環境保全〜「ザ! 鉄腕! DASH!!」の可能性〜
テレビの人気バラエティー番組「ザ!鉄腕!DASH!!」では、番組の中でアイドルグループが体当たりで、放置され荒れた農村の再生を行っています。廃屋を再利用した家造り、農薬をできるだけ使わない有機農業、里山での炭づくりなど、昔は当たり前であった生活の知恵を、地域の人から学びながら、自らの手で楽しく実践しています。その他にも、家庭の節約術から、ソーラーカーづくり、廃船の再利用まで、遊び感覚を取り入れることで、手間暇をかけること自体を楽しみ、難しく考えずに環境を守ることができるという生活を紹介しています。先人の知恵やちょっとしたアイデア次第で、楽しく環境を守るライフスタイルが実現できることを示す一つのモデルといえます。
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3 家庭における自発的取組を支えるしくみ
(1)環境負荷量の可視化・定量化
企業や地方公共団体の中には、家庭における環境負荷削減のための具体的な取組方法を示すとともに、節約の効果を目に見える形で確認するため、家庭に「環境家計簿」を配付しているところがあります。環境家計簿は、家庭において電気、ガス、水道、ガソリン等の使用量を記録し、環境に配慮したライフスタイルの習慣付けを行うものです。単に配付するだけでなく、一定期間後に回収を行い、現状と改善の結果を把握し、家庭へその結果をフィードバックすることで一定の成果を上げている企業や地方公共団体もあります。
北九州市では、平成16年12月から17年1月までの2か月間「環境パスポート事業」の実証実験を行いました。この事業は、市民による空き缶や古紙等の回収、環境イベントの参加などの活動をポイント化することで、博物館の入場料や商品券として利用できる地域通貨に活用するとともに、個人や市民全体の取組の成果を通知表として示し、環境への貢献度を表すものです。15年度に環境省が行った調査によると、環境問題に対する考え方として「個人の行動がどの程度環境保全に役立つのかよくわからない」とする人が全体の約57%を占めています。具体的な行動のためには、環境負荷の量だけでなく、こういった個人の取組や行動が環境の保全にどの程度貢献するのかをより具体的に目に見える形で示していく仕組みの一層の充実が求められます。
(2)融資・補助等による支援
企業や地方公共団体、公益法人等において、省エネ家電や低公害車の導入、住宅の省エネ工事や家庭用燃料電池の設置等を促進するために、家庭を対象とした融資や補助による支援を行うものが数多く見られます(表2-2-1)。日本政策投資銀行では、平成17年度から、家庭・OA機器など省エネ法に基づく特定機器の省エネ基準を満たす機械器具(トップランナー機器)を取得してリースを行う事業等に対する低利融資制度を開始しています。今後、こうした事業の活用により、家庭やオフィスにおいて省エネ効果が大きいトップランナー機器が低コストで導入されることが期待されます。
表2-2-1 家庭を対象とした主な融資・補助等
注1:上記のほかに、雨水利用タンク、生ごみ処理機などについて、地方公共団体の補助を利用できる場合がある。
2:掲載した補助制度は変更になる場合がある。
資料:環境省
4 家庭から始まる人づくり
子どもたちが環境に関することを身に付けるための影響力についての調査では、「家庭」が上位を占めていることが示されています(
表2-2-2)。
家庭は生活に密着した形で環境との関わりを持っています。夫婦や兄弟・姉妹の間や、祖父母、親、子、孫といった世代の間で、水やエネルギーの利用、食事、買い物、ごみの排出、遊びなどを通じて、環境に配慮した暮らしの知恵を伝えることができます。また、家庭における「しつけ」の中にも「電気はこまめに消す」「歯を磨くときに水道を出しっぱなしにしない」「物を大切に使う」といった「もったいない」の心を育てるものは多く、家庭は「人づくり」の原点ということができます。
各家庭における環境負荷の削減に向けた取組を積み重ね、習慣付けることにより、学校や企業などの家庭外で学んだことを日々の暮らしに生かすことができ、また、家庭において学んだ生活の知恵を学校や企業などの家庭外での行動に生かしていくことができます。家庭における一つひとつの行動が、家族一人ひとりを通じて各主体へ広がっていくことが期待されます。