第4節 企業から創る


 今日、通常の事業活動に起因する環境への負担が増大している中にあって、企業は経済活動の主要な担い手であることから、その事業活動全般について環境配慮を組み込んでいくことが重要です。また、企業は、環境保全のための新たな技術開発などにより環境問題の解決に貢献し得る立場にあり、その能力を生かした積極的な取組が期待されます。

1 企業の環境保全の取組


 企業の環境保全の取組は、法規制の遵守にとどまらず、社会的な責任を意識して取り組んでいる例や、企業における最も重要な戦略の一つと位置付けて取り組む例も多く、自主的な取組がさまざまな成果をあげています。
 「平成15年度環境にやさしい企業行動調査」(環境省)によると、回答企業2,795社のうち57.1%の企業が二酸化炭素排出量の削減に取り組んでおり、また、環境に関する目標を設定又は検討中の企業のうち49.1%の企業が二酸化炭素排出量に係る具体的な削減目標を設定又は検討しています。さらに、経済団体連合会環境自主行動計画に基づき各業界団体が、温室効果ガスの削減について自主的な目標を設定し取組を行っています。
 環境配慮型の製品の開発や環境ビジネスの分野においても進展が見られます。例えば家電製品の省資源、省エネ水準はここ数年で大きく向上しています。ハイブリッド自動車に代表される自動車の燃費と加速性能等を両立させた日本の技術は世界でも高く評価されています。また、こうした環境配慮技術が盛り込まれた自動車の普及も進んでいます(図2-4-1)。


図2-4-1 国内四輪自動車総出荷台数に占める低公害車の割合


 さらに、近年の消費者・市民等の利害関係者の環境保全に対する意識の高まりによって、環境配慮に積極的に取り組んでいる企業は、「信頼できる」「その企業の製品を買いたい」と高く評価される傾向も見られます(図2-4-2)。


図2-4-2 環境配慮企業の印象(平成15年度)


 環境省が平成16年度に行った推計によれば、環境保全を考えた消費者の行動が需要や市場を誘発し、環境に配慮した製品や事業形態(環境誘発型ビジネス)の市場規模は2025年には約103兆円、雇用規模は約222万人になると予測されます(表2-4-1)。これらの市場が消費者の支持を受けて拡大するにつれて、企業が環境に関連したビジネスに一層投資を行うことでより一層のビジネスの発展につながり、さらに環境が改善されることが期待されます。


表2-4-1 環境誘発型ビジネスの市場規模及び雇用規模の現状と将来予測についての推計


2 企業における環境負荷削減のしくみづくり


 環境マネジメントシステムは、企業が環境配慮を確実に進展させる上で基盤となるものであり、多くの企業において積極的に導入が行われています(図2-4-3)。


図2-4-3 日本のISO14001登録審査件数の推移


 環境に配慮した経営を先進的、先駆的に取り組んでいるいくつかの企業は、経営方針の中で環境配慮の考え方を明確に示し、その実現のための戦略や具体的な目標、行動計画を策定しています。ある企業は、「環境負荷が自然の再生能力の範囲内に完全に抑えられている社会」を長期的に目指す姿とし、事業活動におけるすべての環境負荷について総量の削減目標を明確にした「2010年長期目標」を設定しています。この目標を踏まえ、「リユース部品使用量を20倍以上向上」など、全17の目標項目について「環境行動計画」を策定しています。
 また、いくつかの企業では、事業活動における環境配慮をすべての部門で徹底するため、環境目標の達成状況を業績評価基準の一つに位置付け、達成した成果を評価するしくみを構築しています。



コラム 環境の業績評価の取組

 ある企業は、環境保全活動は通常業務と切り離されたものであってはならないとの考えから、各個人・部門が上げた成果を評価する「環境業績評価」を平成14年度から導入しました。各部門の環境保全活動を適正に評価する項目として、「二酸化炭素排出量の削減」「廃棄物総量に対するリサイクル率の向上」「エコプロダクツの販売比率の向上」の3項目を定め、グループ全体で取組を進めています。この業績評価制度により、環境戦略が事業計画に組み込まれ、環境保全に関する業務も他の業務と同様に評価されるようになります。
 こうした環境配慮の取組をより確実なものにするため、事業所ごとの内部監査に加え、グループ企業や海外の事業所を含めた広範囲な監査体制を構築する例や、環境負荷に関わるデータの管理システムを構築することによって、監視を強化する例が見られます。ある企業では、国内外の生産子会社に「環境リスクマネージャー」を設置し、日常的な環境リスクの低減に取り組むとともに、社内の環境経営情報システムを活用し、各社の二酸化炭素排出量、廃棄物量、化学物質量等の環境データを収集・管理し、環境負荷に関するデータを共有することで、企業グループ全体の環境管理を強化しています。
 企業が自主的に測定・集計した環境情報の信頼性や透明性を高めるためには、第三者がデータ検証役や成果の監視役等として参画することが有効な手段となります。ある企業では、平成24年度までに二酸化炭素排出量を14年度比で6%削減するという目標について、基準年の排出量の測定を第三者機関である監査法人が検証し、NPOが目標の達成状況を確認することを協定により約束しています。



3 企業における環境の人づくり


 企業における環境教育は、社員の環境に関する意識を高め、事業活動に伴う環境負荷の削減や、環境配慮技術の研究開発に寄与することが期待されます。また、職場における環境教育は社会人への環境教育を行う有効な機会の一つであり、家庭や地域における取組につながることも期待されます(図2-4-4)。


図2-4-4 従業員に対する環境教育




コラム 企業における人づくり

 ある企業では、全社員に対して毎年行う環境教育に加え、新任の役職者に対する「階層別教育」、特に環境に関わる社員に対して行う「職種教育」等、目的別に多面的な教育を実施しています。環境に配慮した事業活動の中核を担う人材を育成する「環境キーマン研修」では、参加者自らが考え意見を出し合う「ディベート式の教育」を行っています。参加者は、「パソコンのリサイクルは必要か」という質問に対し、賛成・反対の立場に別れ、いろいろな利害関係者の立場で考え役割を演じながら企業がパソコンのリサイクルに取り組むメリットとデメリットを議論し、知識とともに思考力を深める教育を採り入れています。
 また、製品・サービスに関する環境教育は、例えば、開発部門に対しては、ハイブリッド自動車に代表される環境配慮製品が市場に受け入れられていること、販売部門には各種リサイクル法が施行され企業の義務が拡大してきたこと等、ビジネスとのつながりを明確にした事業特性ごとのプログラムを組んでいます。




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