海洋生物多様性保全戦略


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第5章 海洋生物多様性の保全及び持続可能な利用の施策の展開

5.社会的な理解及び多様な主体の参加の促進

 生物多様性基本法及び海洋基本法では、それぞれ国の責務の他に、地方公共団体、事業者及び国民24の責務について規定している。具体的には、地方公共団体はその管轄する区域の自然的社会的条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有し、国民は、海洋の恵みや生物の多様性の重要性を認識するとともに、生物多様性の保全及び持続可能な利用に努めることとされている。これらの多様な主体がそれぞれの責務に応じて、生物多様性の保全と持続可能な利用に取り組む必要がある。

 生物多様性の保全と持続可能な利用の重要性を社会に浸透させ、様々な主体の自主的な行動を促すためには、普及広報、環境教育等の積極的な推進が必要である。その際、単純な知識の伝達にとどまらず、自然を体感することも重要であり、国民が自ら体験し、保全の取組に参画する機会づくりが必要である。海洋の生物多様性に関しても、現状とそれが有する様々な価値、保全の必要性等について、学識経験者、漁業者、教育関係者、NGO、海運事業者等の海洋に関する知識や経験を有する関係者の協力を得つつ、科学的情報や知見、保全活動の参考となる事例等を発信し、国民に対する普及広報及び体験の提供に努める。前述の生物多様性の保全上重要度の高い海域や、希少な海洋生物の種等に関する情報を整備することは、海洋の生物多様性の重要性が社会的に広く認識されるためにも有効である。

 また、様々な関係者が相互に連携を図りつつ、主体的に保全や持続可能な利用に取り組むことが重要である。例えば、学識経験者、地域の自然に詳しいNGOなどが中核となり、地域において生物多様性の保全に関する活動を行っている人々が参加する市民調査などの取組が様々行なわれており、それらの取組の促進は重要である。また、その結果を広く公表し活用することが生物多様性に関する理解を更に促進することにもつながる。このため、このような地域が主体的に行っている生物多様性の保全に資する活動が継続又は拡充されるよう、「地域における多様な主体の連携による生物の多様性の保全のための活動の促進等に関する法律(生物多様性保全活動促進法、2010年12月成立)」に基づく支援センターの設置を促進するなどにより支援に努める。また、漁業者は海や海の生物に関する豊富な知識や経験を有し、それらの知恵を踏まえ、水産資源の激減や環境悪化を防止するために現時点での利用を控えるなど、中長期的な視点で資源管理を行ってきた。海洋の生物多様性の保全及び持続可能な利用についてこのような漁業者の伝統的知識と経験を尊重しつつ関係者すべての理解を高め、協調していく仕組みづくりも重要である。海洋保護区の管理の充実やネットワーク形成に向けても、地域の協議会等の場の整備などを通じて関係する様々な主体の協働と連携の推進を図る。

 さらに、行政のみならず、企業や国民がその社会的な活動の中で、生物多様性の保全と持続可能な利用の取組を内在化したり、これらの主体が連携して活動することができるような仕組みづくりが重要である。環境に配慮した商品に対する認証制度等は経済的な仕組みを活用した効果的な一つの手法である。農林水産業においては、生物の生息・生育等に配慮した方法で生産された農産物等について付加価値をつける取組が始まっている。例えば、水産資源に関しては海洋管理協議会(MSC)、マリン・エコラベル(MEL)ジャパンといった、持続可能な漁業による水産物の流通を進める民間主導の認証制度の取組などがある。生物多様性の価値が経済活動や社会生活の中で適切に評価され、保全を担う地域の活性化にも結びつくよう、このような認証制度による生物多様性の価値の商品への適切な反映及び制度への生産者の参加の促進や、地域の環境に配慮した商品に付加価値を付けるブランド化の取組、地域資源の持続可能な利用を行うエコツーリズムの推進等も重要である。また、このような商品について消費者が理解のうえで選択することができるための普及も重要である。


24生物多様性基本法では、「国民及び民間の団体の責務」(第7条)としている。
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