荒川の上流に位置する埼玉県秩父市と下流に位置する東京都荒川区。
ここから、森里川海とともに豊かに暮らす人々の記憶が詰まった絵本が生まれました。
森里川海のつながりを再認識すべく、地域のさまざまな世代の人々から話を聞きながら、そこに培われた暮らしの知恵や文化を振り返り、一冊の絵本にまとめ上げる。「つなげよう、支えよう森里川海」プロジェクトの一環として「ふるさと絵本プロジェクト」がスタートしたのは2016年のことだった。第一弾として制作されたのが、関東平野を流れる全長173kmの荒川流域を題材にした『ありがとう あらかわ』。荒川の豊かな流れが人々にどのような恵みをもたらしてきたのか、流域に位置する東京都荒川区と埼玉県秩父市がそれぞれ地域の記憶を呼び起こしながら制作を進めた。江戸時代から、秩父で伐採された材木が荒川をいかだで渡り、今の荒川区に点在した材木問屋から江戸の町に運ばれるなど、荒川区と秩父市は荒川の流れでつながってきた歴史がある。
荒川区では、区の生涯学習課が主宰する「荒川コミュニティカレッジ」の卒業生らが中心となり、区内を5つの地区に分けて懇話会や聞き書きを繰り返した。「下町らしい暮らしの情景や、都市の中で荒川の自然とどう付き合ってきたのかを老若男女から聞き取りながら、『五感体験アンケート集』を作っていきました。地域の人々が五感で体験したさまざまな記憶を共有しながら、私たちのふるさと・荒川がどんな場所だったのか再確認していく。忘れかけていた記憶がよみがえり、町の姿が再構築されていきました」と制作委員会メンバーの小寺千三郎さんは語る。
2019年3月に完成した絵本には、過去・現在・未来の荒川流域の暮らしが生き生きと描き込まれている。「制作過程でも活発な世代間交流がなされましたが、出来上がった絵本を活用して、さらにさまざまな世代が語り合える場をつくっていきたいと考えています。単に図書館などで読まれるだけでなく、この絵本に関わった多くの人たちが語り部となって読み聞かせをしながら、生きた絵本として地域の記憶を口伝えで次の世代に受け継いでいきたいですね」(小寺さん)
同時期に絵本を制作した秩父市との流域間での交流も進めながら、都市と地方のつながりをいっそう深めていきたいという。
↑『ありがとう あらかわ -荒川区-』より
↑『ありがとう あらかわ-秩父市-』より
秩父市版の制作は、「秩父まるごと博物館」や「鎮守の森コミュニティ推進協議会」のメンバーが中心となって進められました。荒川や地域の象徴・武甲山などの豊かな自然と人々がどのように付き合い、その恵みを受けてきたのか。市民たちが存分に語り合いながら地域の記憶を呼び起こしていきました。この絵本を通して、自然の循環の中で生きてきた人々のつながりを若い世代に、そして都市の人たちにも感じてもらえればと思います。
『《森里川海ふるさと絵本》ありがとう あらかわ』は、こちらからダウンロードできます