ビルは“ゼロ・エネルギー”の時代へ

コラム

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新築快適性と省エネを両立したスマートクリニック

東急コミュニティー技術研修センターNOTIAの外観の写真
飯田クリニックの外観

福岡県大牟田市の「飯田クリニック」は、1969年の開業以来「地域完結型の医療体制」を目指した泌尿器科と腎臓内科が連携する透析クリニックです。建物の老朽化により2014年に新築移転し、病院としての快適性だけでなく医療機器の高度化に伴い増大する環境負荷の低減を追求した「スマートクリニック」を実現しました。ZEB化事業に採択注)された建築設備では一次エネルギー消費量59%の削減を果たし、関係者の省エネへの取り組みは平成27年度省エネ大賞資源エネルギー庁長官賞を受賞しています。

今回は、「飯田クリニック」のZEB化について、電気・空調設備の設計・施工を担当したニューメディアエンジニアリングの永井様(代表取締役社長)と、放射空調設備の導入を担当した三建設備工業の成松様(技術統括本部 技術企画グループ 主査)、濱名様(技術統括本部 技術企画グループ 係長)にお話を伺いました。

注)「飯田クリニック」は平成25年度ZEB実証事業に採択されているが、当時はZEB Ready等のランクが設定されていなかった

※以後、法人格、敬称略

環境負荷が大きい高度医療を省エネ・省資源化

平成27年度省エネ大賞表彰式の写真
平成27年度省エネ大賞表彰式
写真右から、内記建築設計室、(株)今村組、
(医)飯田クリニック、三建設備工業(株)、
(有)ニューメディアエンジニアリング、(株)コゥ・テック

(司会者)

ZEBに取り組まれた経緯をお聞かせください。

(ニューメディアエンジニアリング)

新病院のコンセプト「スマートクリニック」とは、オーナーである 飯田院長が掲げた言葉でした。地元企業で編成された設計チームによる「スマートクリニックとは何か?」という議論の中で、オーナーが目指す「来院者が快適であり、且つ、医療の分野だからこそ環境に配慮した省エネ性能を兼ね備えたもの」という理想を追求した結果、新病院のZEB化に行きつきました。

(司会者)

採用した設備や技術の特徴をお聞かせください。

透析液の1次昇温に利用される太陽光集熱パネル
透析液の1次昇温に利用される太陽光集熱パネル

(三建設備工業)

透析クリニックでは純水をろ過することで透析液を製造しますが、使用量に対して約2倍の上水をろ過する必要があり、約半分の上水は汚染されないまま廃棄されてしまいます。飯田クリニックでは、ろ過後の排水を中水槽に貯めることで、トイレやビオトープ、屋上散水などに利用しています。

また、透析液は人間の体温と同じ温度まで昇温する必要があり、昇温には電気ヒータを用いるため、給湯用の電力消費量が大きいという問題がありました。この昇温に関するエネルギー消費量を削減するために、太陽熱とヒートポンプを組み合わせたハイブリッド給湯システムを導入し、透析液の1次昇温に利用することで給湯エネルギー消費を70%程度削減しています。一般的に、太陽光集熱パネルは30度程度の角度で設置することが多いのですが、透析液の昇温に必要なエネルギーは冬季に大きくなるので、飯田クリニックでは冬季の集熱効率が最大となる55度の角度で設置しています。

空調は水式放射空調システムを採用しています。透析患者は、1日に4時間以上ベッドの上で同じ姿勢のまま治療を受けるため、風が当たる空調を不快に感じる患者様も多く、布団をかけたりするなど、スタッフが対応に追われることも多いようです。一方で、放射空調であれば不快な風を感じることなく、大きな病室でもムラなく均一に空調することができます。冬季は太陽熱で作った温水も利用でき、空調のエネルギー消費量削減にも貢献します。

ハイブリッド給湯システム
ハイブリッド給湯システム

(司会者)

高効率設備システムを導入することで、透析治療に必要な水やエネルギーを省エネ・省資源化したんですね。

(三建設備工業)

透析液製造に必要な電力や水は、医療の領域として省エネ・省資源の対象から除外されることが一般的でしたが、医療機器のエネルギー消費量は大きい割合を占めているので、設備によって何かできないかという観点で医療設備の省エネ・省資源化に取り組みました。

一次エネルギー消費量を59%削減しつつ快適性も向上

透析室の内観の写真
透析室の内観
天井に放射空調パネルが設置されている

(司会者)

ZEB化したことによるメリットを教えてください。

(三建設備工業)

基準となる病院の一次エネルギー消費量に対し、建て替え後は59%程度削減できました。省エネ率が最も大きかったのは空調で、次いで給湯となりました。建て替えによって建物規模を2倍近くに拡大しているため、建て替え前後の水道光熱費を単純に比較することはできませんが、面積当たりの水道光熱費が安くなっていることは間違いありません。透析液の昇温に必要なエネルギー消費は冬季に大きくなりますが、太陽熱を利用することでピークカットができるようになり、電気の基本料金削減にも役立ちました。

また、放射空調を採用したことで室内環境の快適性も向上しています。患者様へのアンケートでも、冷暖房の悩みが減ったという声をいただきました。

外来待合室の見える化モニターの写真
外来待合室の見える化モニター
エネルギー使用状況をリアルタイムに表示

(司会者)

ZEB化を検討する上で課題はありましたでしょうか。

(三建設備工業)

高効率機器導入のための追加コストが一番の課題でしたが、ZEB補助金を利用することでZEB化に必要な追加コストを負担することなくZEBを実現することができました。飯田クリニックは延床面積が1,700㎡程度と、病院としては大規模ではありません。建物規模が大きくなるほど搬送動力も大きくなり、屋根面積の制約から再生可能エネルギーの利用も限られるので、大規模病院だとZEB実現はより難しいかもしれません。

(司会者)

竣工後に気づいた課題などはありますでしょうか。

(三建設備工業)

エネルギー計測の重要性を実感しました。当時は照明とコンセントの電力消費は分けずに計測することが多かったのですが、飯田クリニックでは照明とコンセントを分けて計測しています。また、階毎・ゾーン毎のエネルギー消費量を分かるようにしていたこともあり、エネルギー消費量が増えた場合にその原因を分析することができるようになりました。

(ニューメディアエンジニアリング)

計測結果をクラウド化してインターネット上で確認できるエネルギーマネジメントシステムを導入しています。どこからでもリアルタイムに計測データの確認・分析ができるため、竣工後、各設備の担当会社によるチューニングを速やかに行うことができ、省エネルギー最適化の早期実現に役立ちました。

高効率設備によって感染症対策と省エネルギーを両立

透析室内に追加設置された陰圧ブース
透析室内に追加設置された陰圧ブース
(写真はフレームのみ)

(司会者)

感染症対策として行っている取り組みを教えてください。

(ニューメディアエンジニアリング)

飯田クリニックでは透析患者は感染症リスクが高いことを考慮され、コロナ禍以前から感染症対策に取り組まれています。また、コロナ禍における追加的な対策として新たに陰圧ブースを増設され、もしもの時を心配される患者様のメンタルにも気を配られています。

(司会者)

換気量を増やすなど、設備の運用方法は変えているのでしょうか。

(三建設備工業)

換気量や湿度等の設定は特に変えていません。従来から外気処理空調機を利用して外気を取り入れており、室内の清浄度を確保しています。また、冬季の加湿も外気処理空調機を利用して行っており、ウイルスが活性化しにくい40%の湿度を保っています。換気や空調に関しては日本医療福祉設備協会のHEASという規格があり、その基準を満たしています。

(司会者)

最後に、病院のZEB化についてコメントをいただけますでしょうか。

(三建設備工業)

病院は緊急時にも使用する施設なので、エネルギー的な自立という観点からもZEB化の意義は大きいと考えています。ZEB化によってイニシャルコストは高くなってしまいますが、地球の将来を見据えた脱炭素社会の実現や、室内の快適性といった要素にも目を向けていただき、病院のZEB化が進むことを期待しています。

(ニューメディアエンジニアリング)

地方の設計会社や設備事業者はZEBの設計・建設に関わる機会が少ないです。その中で、補助制度を活用した取り組みはZEBの普及を後押しするために効果的と考えられますが、地方に存在する小規模な病院などにおいても採用しやすい技術を補助対象としていくことも重要だと思います。

(司会者)

省エネ性だけでなく、エネルギー自立性や快適性の観点からも病院におけるZEB化は重要ということですね。今後も病院におけるZEBの事例が増えていくことを期待したいと思います。本日はどうもありがとうございました。

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