ビルは“ゼロ・エネルギー”の時代へ

改修ZEB事例

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建物概要

改修
事例9
久留米市環境部庁舎福岡県久留米市

久留米市環境部庁舎の写真

外皮性能の向上や空調設備等の改修によって一次エネルギー削減率106%を達成し(創エネ含む)、日本における既設の公共建築物としては、初めての『ZEB』に認証

ZEBの分類
『ZEB』
  • 都道府県(地域区分):福岡県(7)
  • 新築/既築:既築
  • 延床面積:2,089㎡
  • 建物用途:事務所等
  • 一次エネ削減率(創エネ除く/含む):67% / 106%
久留米市環境部庁舎の写真

部間連携による施設全体を考えたZEB改修

 福岡県久留米市の「環境部庁舎」は、外皮性能の向上や空調設備等の改修によって一次エネルギー削減率106%を達成し(創エネ含む)、日本における既設の公共建築物としては、初めての『ZEB』に認証されました。

 建物の外皮断熱強化は、建物の構造を調査したうえで、効率的に室内温度低下を防止するようウレタン系断熱材やLow-Eペアガラスを導入し、空調設備のダウンサイジングによってイニシャルコストの低減、エネルギー消費量の削減を実現しています。さらに広い屋根面積を活用して、容量の大きい太陽光発電システムを導入することにより創エネを含んだ一次エネルギー削減率を大幅に改善しています。

 ZEB化の実施にあたっては、事前のZEB化可能性調査や担当部局のみならず複数部局の連携による効率化など、他の自治体にとっても大変参考になるスキームで導入を検討されている点が特徴的です。

 

ZEB化可能性調査の実施

 平成30年度に策定した「久留米市地球温暖化対策実行計画(事務事業編)」における『2030年までに温室効果ガス排出量2013年度比40%削減目標』に向けては、既存建築物のエネルギー消費量削減が重要であることから、ZEB化を試みました。

 一般的に既存建築物は、新築施設に比べて費用面効率面や施工における制約が大きく、コストパフォーマンスが悪いため、ZEB化が難しいと言われていました。しかし、久留米市ではそれらの固定概念にとらわれず、類似事例を徹底的に調査することで、既存公共建築物で全国初となる『ZEB』化を実現しました。

 ZEB化にあたっては、初めに市内の建築物を対象にZEB化可能性調査を実施しています。

 対象となる施設は、建築物のエネルギー消費割合が最も大きい空調設備の改修を予定している施設としました。既存建築物の場合、構造上ZEB化の可否を基本設計レベルで確認する必要があることから、対象となる施設を一括して調査することで、調査の効率化を図りました。

 ZEB化可能性調査では、以下の3つのステップで検討を行いました。

 

  • (STEP1)外皮性能及び設備について
     ①現状の調査  ②ZEB Ready を満たすために必要な改修内容の検討
  • (STEP2)再エネ設備等の導入について
     ①Nearly ZEB、または『ZEB』を満たすために必要な再生可能エネルギーの導入量の検討
  • (STEP 3)費用対効果等について
     ①CO2削減量の試算  ②国庫補助活用等を想定した投資回収年数の試算

 

 築年数20~50年の建物で、用途や面積も様々でしたが、対象施設全てでZEB化が可能という結果になりました。

 

ZEB化可能性調査の対象施設の調査結果の画像
ZEB化可能性調査の対象施設の調査結果

 

環境部庁舎のZEB化実現に資する技術

久留米市環境部庁舎の概要

 久留米市環境部庁舎は、RC造の1階が駐車場、2階が事務室、3階がテラスと特徴のある建物で、平成29年から庁舎として利用しており、残り耐用年数30年程度となっている建物です。

 

パッシブ技術による改修

 パッシブ技術では、大きく2つの考え方で外皮断熱の強化を行いました。

 一つ目は、1階が駐車場、2階事務室という建築物の構造に着目し、室内温度低下を防止する改修を導入しています。改修前の施設では、1階は吹きさらしになっており、2階床スラブ裏は吹付塗装のみになっていたことから、2階事務室の床から熱が逃げてしまっていました。そこで、改修後は2階の床裏スラブにウレタン系断熱材を吹き付けることで、断熱性能を強化し室内温度低下を防止しています。

 二つ目は、窓ガラスを断熱性の高いLow-Eペアガラスに交換することで、外部負荷熱を削減しました。特徴としては、カバー工法を使うことで、サッシ枠を流用しガラスのみを交換することで低コスト化を図っています。

外皮改修の様子の写真
外皮改修の様子

 

アクティブ技術による改修

 空調換気設備は、「吸収式冷温水機・ダクト用換気扇」から「電気式パッケージエアコン・全熱交換換気扇」に変更しました。外皮性能の向上による断熱により、空調のダウンサイジングを図ることができ、変更後の空調能力は、冷房44%削減、暖房36%削減となっています。改修が必要な設備を単体で見るのではなく、施設全体でのZEB化を検討した結果、低コストな対策を実施することが可能となりました。

 また、照明については、蛍光灯を全てLED照明に変更し、ニーズに応じてセンサ機能を使い分けています。例えば、事務室では手元が暗くならないよう照度センサを採用し、トイレでは換気扇と連動した人感センサを採用しています。結果として、照明設備の消費電力量は50%削減できています。

改修後の空調・換気設備の写真
改修後の空調・換気設備

 

創エネルギー技術の導入

 創エネルギーとしては、広い屋根という特徴を生かして、52.1kWの太陽光発電設備を導入しています。

 また、太陽光発電と合わせて蓄電池も設置しています。蓄電池は、停電時に自動運転で省エネモードへ切り替える設定にしており、施設の特定負荷(照明、空調、一部コンセント)に対して給電する仕組みとなっています。また、系統電力からは充電をしないような制御や、ピークカットの機能も設定しています。蓄電池は、環境省の「地域の防災・減災と低炭素化を同時実現する自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業補助金」補助を受ける要件にもなっており、導入によって施設のレジリエンス強化にも繋がります。

環境部庁舎の太陽光発電設備の写真
環境部庁舎の太陽光発電設備

 

改修ZEB化の成功要因

部局間連携に強み

 久留米市の取り組みでは、環境政策部局/施設管理部局である環境部と営繕部局である都市建設部が積極的に連携したことが、『ZEB』を実現できた成功要因の一つになります。特に、改修の計画段階から関連部局間で連携することで、単体設備の改修のみではなく総合的なエネルギー消費量の削減を検討できたことが『ZEB』の実現につながったと思います。

 また、改修によるZEB化について職員が強い思いをもって取り組みました。自治体としての省エネを新規建築物ではなく改修建築物に頼らざるを得ないという状況で、「改修によるZEB化はコストパフォーマンスが悪い」という先入観を取り払った上で詳細な検討を行うことが成功につながりました。環境部庁舎のZEB化では、下水熱利用等の追加的な設備を導入しておらず、通常の高効率設備の組み合わせで既存建築物のZEB化を達成した点も注目すべき点であり、他の既存公共建築物の参考になることを期待しています。

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