課題名

B-4 シベリア凍土地帯における温暖化フィードバックの評価に関する研究

課題代表者名

井上 元 (環境庁国立環境研究所地球環境研究グループ温暖化現象解明チーム)

研究期間

平成3−5年度

合計予算額

132,411千円 (うち5年度 56,935千円)

研究体制

(1) メタン濃度の測定と放出量の評価に関する研究

(環境庁国立環境研究所、北海道大学、千葉大学)

(2) 大気中二酸化炭素濃度の測定およびフラックスの測定に関する研究(環境庁国立環境研究所)

(3) 森林生態系における二酸化炭素貯留と収支の解明に関する研究

(農水省森林総合研究所、北海道大学)

(4) シベリア・ツンドラ地帯の凍土融解に伴う大気微量成分の放出に関する研究

(環境庁国立環境研究所、北海道大学、東京工業大学)

研究概要

 二酸化炭素やメタンなど温室効果ガスの増大による地球温暖化は、高緯度地帯で最も顕著に現れる。シベリアの凍土地帯は、地下の永久凍土の融解などその影響を最も強く受けると予想され、湿地の拡大・森林の減少(拡大)、さらには砂漠化など大きな変動の危険がある。その結果メタン発生量や二酸化炭素の吸収量が大幅に変化し、温室効果を更に促進する可能性が高い。このような気候変動のフィードバック効果による暴走的温暖化の危険性を評価するには、第一に森林や湿地におけるメタンや二酸化炭素の収支の現状を把握すること、第二にその中で二酸化炭素・メタンの収支を支配する要因を解析し、第三に将来の温暖化の気候条件下での収支を予測することが必要である。

 平成3年には研究の準備、平成4年には共同体制の確立、研究の対象・場所の確定を行い、平成5年にはメタンや二酸化炭素の収支やバイオマスの概略的把握を行った。その結果、西シベリアの世界最大の湿地はメタンの大発生源であることが明らかになった。シベリアのタイガは残された自然森林としては世界最大のものであり、地球規模の二酸化炭素の季節変動の大きな部分を担っていることが明らかになった。また、ツンドラ地帯の凍土には大量のメタンが貯蔵されていることが分かった。

研究成果

(1)西シベリアの大低地でメタンの放出量を接地逆転層内部のメタン濃度分布と逆転層形成からの時間とから推定する方法を開発した。また、航空機で渦拡散係数の測定と濃度分布の測定からメタン放出量の測定を行なった。その結果、メタンの平均的発生量は100-200mg/m2/dayであり、最もフラックスの大きくなる接地逆転層の消失する11時頃には250mg/m2/hrという大きな値にもなることが分かった。

(2)東シベリアのヤクーツクで大気中の二酸化炭素濃度の高度分布の連続モニタリングを開始した。データの解析方を検討し、ベースラインの変動と大気・植物相互作用の初歩的データを得た。

(3)ヤクーツクで林分調査、バイオマス調査、年輪解析、土壌調査、樹木のガス交換能の測定、二酸化炭素フラックスの測定手法の検討などを行ない、タイガの二酸化炭素貯留量と収支推定の初歩的データを得た。その結果、年間成長量は日本の1/3であること、葉量が少なく、幹に対する根の量が多いことなど、シベリアのタイガの特徴が明らかになった。

(4)ツンドラとタイガの各湿地でのメタンの発生量を測定し、ツンドラ地帯では50mg/m2/day、タイガでは平均500mg/m2/day程度であることがわかった。また、凍土中のアイスウェッジ中には大量のメタンが閉じ込められており、これは凍土形成時のメタン細菌によって生成したものであることが分かった。