課題名

K-2 地球温暖化対策のための京都議定書における国際制度に関する政策的・法的研究

課題代表者名

亀山 康子 (独立行政法人国立環境研究所社会環境システム研究領域環境経済研究室)

研究期間

平成12−14年度

合計予算額

58,232千円 (うち14年度 19,374千円)

研究体制

(1)京都議定書における国際制度に関する政策決定の日・米・欧比較分析

(独立行政法人国立環境研究所、静岡大学、神戸商科大学)

(2)農村地域からの温室効果ガス排出量の制御可能性とその効果の国際分析

(独立行政法人農業環境技術研究所、豊橋技術科学大学)

(3)京都議定書の吸収源活動評価に関わる政策決定の日・米・欧比較研究

(独立行政法人森林総合研究所、日本大学)

(4)炭素クレディットの国際市場形成に関する数理モデル分析

(独立行政法人国立環境研究所、大阪大学)

(5)CDMと排出権取引の相互作用に関するモデル分析(EFF課題として平成12年度のみ実施)

(独立行政法人国立環境研究所)

研究概要

1.序(研究背景等)

 地球温暖化抑制を目的として1997年に採択された京都議定書では、附属書I締約国(先進国と旧ソ連など旧計画経済国の総称)に対して、2008年から2012年までの5年間における温室効果ガス排出量に関する数量目標が決められた。また、国際排出量取引制度やクリーン開発メカニズム(CDM)の京都メカニズムや遵守手続き、森林吸収量算定方法等、幾つかの新しい国際制度が認められた。そのため、現時点(本研究開始時)では、数量目標に対する国の対応として、次の選択肢が考えられる。第1は、国内対策を推進して、国内の排出量を減らすことにより目標を達成する方法。第2は、吸収源の算定方法を自国に有利なものとなるように協議して、吸収源の拡大によって目標を達成する方法。第3は、京都メカニズムを用いて、国外から排出する枠を購入して目標を達成する方法。第4は、目標の達成をあきらめて、不遵守措置を受けるという選択肢である。また、京都議定書が国際法という点では、最後には、この議定書そのものから離脱するという選択肢も考えられる。

 ある国が上記のいずれ(または組み合わせ)を選択するかは、その国の対策の容易度(対策コストの大きさ)に加え、その国の政治における気候変動問題の重要度や世論の関心、国際レベルでの外圧の認識等、さまざまな要因によって決定されると推測される。また、このような各国の対応は、現在の附属書I国における温暖化対策の進展度合いのみならず、2013年以降の先進国の排出量目標の設定方法や途上国の参加方法など、今後の国際的取り組みの枠組みそのものを大きく変える可能性があることから、これらの諸制度に対する主要国の政策決定について十分な分析を行っておく必要がある。また、本研究計画時及び遂行中においては、京都議定書内の諸制度に関して詳細なルールを決定する国際交渉が進行中であり、この交渉にリアルタイムで成果をインプットしていく必要があった(この交渉の結果は2001年のマラケシュ合意となっている)。

 

2.研究目的

 京都議定書が有効に機能するためには、主要先進国の批准が必要となる。しかし、同議定書に対する先進国の態度は、温暖化対策に積極的な欧州から、2001年初めに議定書離脱を表明した米国までと、非常に多様かつ対照的となっている。本研究は、京都議定書で規定された国際制度を、有用性や効果、受け入れられやすさ等の点から評価し、問題点を指摘し、温暖化対策を国際的に推進していくために望ましい制度のあり方に関する今後の検討に寄与することを目的とする。

 このために、本研究では、京都議定書関連の国際制度に関する有効性の研究を行う。ここでは特に、排出量の数量目標設定という義務のあり方、京都メカニズム(中でもとりわけ排出量取引制度)、排出吸収量(農村地域及び森林)の算定方法、遵守措置を取り上げる。そして、これらの制度に関し、京都議定書やマラケシュ合意にて制度として成立するまでの過程やその後の動向、効果、等を研究する。また、議定書関連の国際制度に対する日・米・欧の態度及びその態度に影響を与えている諸要因について比較研究を行うことにより、それらの国際制度の波及効果を研究し、それらの国における気候変動政策との関連性を検討する。本研究で、とりわけ日・米・欧といった先進国が研究対象として選ばれているのは、京都議定書で排出量抑制義務が課せられたのが主に先進国であったこと、また、議定書関連の制度設計に際し主導権をとっていたのが先進国であったという事情による。さらに、複数の国を比較することにより、国ごとの特徴がより明確に示されることになった。

 

3.研究の内容・成果

 本研究は4つのサブグループに分かれて進められた。それぞれが関連する国際制度に関して専門分野から検討することになった。

 

サブテーマ

目標値

(国内対策)

京都

メカニズム

森林・農耕地部門

遵守措置

(1)京都議定書における国際制度に関する政策決定の日・米・欧比較分析

(2)農村地域からの温室効果ガス排出量の制御可能性とその効果の国際分析

 

 

(3)京都議定書の吸収源活動評価に関わる政策決定の日・米・欧比較研究

 

 

(4)炭素クレディットの国際市場形成に関する数理モデル分析

 

 

 

(5)CDMと排出権取引の相互作用に関するモデル分析(平成12年度のみ)

 

 

 

 

 ここで取り上げた4種類の制度に関し、複数のサブテーマで取り上げているものとそうでないものとの差はあるが、それぞれの専門性に応じて適切な国際制度を研究対象とした。

 以下、サブテーマごとに、研究の概要と成果を示す。

(1)京都議定書における国際制度に関する政策決定の日・米・欧比較分析

 京都議定書に対する今までの主要先進国の対応を評価し、今後の議定書の実施に向けてより有効な提案を出していくためには、各関係国の対策費用、政治的状況、環境政策やエネルギー政策など温暖化対策に関連する各種政策群、国際法の解釈等、幅広い状況を把握し、そこから総合的に結論を出していく必要がある。本研究は、京都議定書に対する日・米・欧の対応を、政治、経済、法律の各方面から分析し、各国の今までの京都議定書への対応を説明し、今後、それらの国が京都議定書の下での温暖化対策の取り組みに積極的になるために有効な国際制度のあり方について条件を見いだすことを目的とする。具体的には以下の研究を行った。

 (胴颪寮策決定過程の調査

 世界最大の温暖化ガス排出国である米国では、温暖化への態度が常に積極化しない直接的な原因として、化石燃料の埋蔵量が多く人口増加が今後も続くといった地政学的要因が、当時の大統領や連邦議員の考えといった時期的要因に影響を与えていることが挙げられるが、その背景には、連邦制度や大統領制など同国の政治制度的要因が、米国の消極的な姿勢をさらに強化させる方向に働いていることが分かった。米国が現状の政治制度を維持したまま積極的態度を取るためには、気候変動による被害が莫大となるといったことに関する明確な科学的知見の裏付けや、国の産業経済に負担を与えない低コストの対策を可能とする政策を講じる必要があるといえる。

 EUの政策決定過程の調査

 各国の決定の背景にある政治制度として、オランダでは、政治家の個人的アピールを必要とする選挙制度や、産業界や環境保護団体を含めたコンセンサス形成を重視した政策決定、ドイツでは、世論の関心の増減を忠実に反映する比例代表制の政治制度や、州に政策立案の権限を与えている連邦制度、イギリスでは、環境問題での自己アピールを生みづらい小選挙区制の選挙制度や、関連省庁が実質的な気候変動対策を決定する政策決定手続き、EU全体では、欧州統合に向けた動きとそれによる欧州委員会の政策決定能力の向上、がそれぞれ挙げられた。今後、欧州統合に向けた手続きの変化や加盟国からEUレベルヘの決定権の移行がさらに顕著になると予想されるが、その中で、今までの国際交渉で見られた欧州各国の強硬な積極性は薄れ、代わりに、欧州委員会を主体としたより現実的な決定が主体となるシナリオが導き出せた。

 F本の政策決定過程、日・米・欧の比較

 上記´△犯羈咾靴董日本では意思決定手続きの変化が日本の京都議定書への態度自体にも影響を及ぼしているといえる。具体的には、中央政府の政策立案過程におけるパブリックコメント期間の設定等、従来より国民の主張が国の決定に反映されるようになったことが、日本の気候変動問題に対する決定を、国外の圧力に対応する受身型の決定からより受動型の決定に変化させている。

 さじ変動レジームの国際政治と国内政策決定に関するワークショップ開催

 平成13年及び14年と2回にわたり、国連大学高等研究所との共催で「気候変動レジームの国際政治と国内政策決定に関するワークショップ」を開催した。地球温暖化政策に関係しているわが国の国内アクターと政治学者が一堂に会し、意見交換を行った。また、地球温暖化関連の政治学的視点からの研究を促進するために、手法やアプローチに関して意見交換が行われた。

 ッ狼絏甲伐縮簑蠅寮策決定要因に関する分析手法の整理

 社会科学の学問分野における既存の関連研究をレビューするとともに、今後の研究に適切な手法を考察した。特に国内レベルの政策決定者の行動や国際レベルの国の態度決定等を経済学的合理性以外の方法で説明する研究が増えつつあり、今後も同分野の研究に対するニーズが増えると予想される。

 国内制度としての上流型排出権取引制度

 日本国内での温暖化対策として排出権取引制度を導入する場合の方法について検討した。通常、排出権取引は、汚染物質あるいは原因物質の排出源に排出量に等しい排出権の保有を義務づける(下流型排出権取引)。しかし、日本の場合、化石燃料の輸入販売業者の数、すなわち上流型排出権取引における規制対象事業所数は約300あることから、上流型の方が政策としての有効性、確実性、効率性を意味する。また、排出権の配分に関しては、無償で配分すると、化石燃料の値上がりの程度によっては輸入業者が儲かってしまう可能性もあることや、さまざまな税が経済の効率性を阻害し環境規制が加わると相乗効果が発生すること等の理由から、排出枠は有償で配分し、入札収入の一部分は経済を効率化するための減税に使うほうがよい、と結論づけられた。

 Д櫂螢掘次Ε潺奪ス

 日米欧にて既に導入された、あるいは今後導入し得る炭素税と協定、協定と排出権取引、炭素税と排出権取引のポリシー・ミックスについて考察した。炭素税と協定に関しては、イギリスとデンマークが、企業が政府と排出量目標についての協定を結んでそれを達成することを条件に、炭素税率を軽減している。ドイツでは、1995年に産業界が自主的に削減することを宣言した。協定と排出権取引に関しては、協定の方が直接規制より効率的か否かは一概には言えない。イギリスは、協定の目標を排出権取引を使って達成することを認めた。この場合、協定の排出量目標の非効率性は、排出権取引によって解消されうる。炭素税と排出権取引に関しては、日本を含む多くの国で財源調達目的の税がエネルギーに対して課されており、炭素税を導入した国もある。それらの税は、二酸化炭素の排出量、すなわち、排出権需要を減らす効果がある。エネルギー税や炭素税と排出権取引を併用すると、エネルギー税や炭素税がない場合に比べて、排出権価格は小さくなる。以上のように、温暖化対策として国内に導入される政策は、多くの場合、他の政策と合わせて導入され、その背景にはさまざまな国内事情があることが分かった。わが国で温暖化対策に向けた政策を立案・導入する場合にもポリシーミックスという総合的判断が必要である。

 ┻都議定書の経済学的観点からの評価

 温暖化抑制のためには、温室効果ガスの排出を削減し、また二酸化炭素の吸収を増やさなければならないが、京都メカニズムを使うことができるので、各国の排出量目標は変化する。その点で不確実性が残されている。今後の交渉に関して、1990年というような過去の特定の年次ではなく、目標年次のBaU排出量(対策を採らなかった場合の排出量)を基準とした削減率について交渉する方法や、絶対的排出量基準を設定してそれに段階的に近づける方法が提案されているが、それぞれ●課題がある。

 京都議定書の国際制度の規範的分析

 京都メカニズム、森林吸収量の推定方法、遵守措置について、法学の観点から規範的分析を行った。これらは、地球温暖化防止のための第一歩としての意義は大きいが、その合意された制度には、温暖化防止という目的、さらには、その他の環境や人権の保護といった観点から見て懸念される点もある。京都メカニズムに関しては、市場経済移行国や発展途上国において費用対効果の高い方法で排出削減を実現できるが、それは同時に、先進国が国内における排出削減を行わずに、排出枠を「購入」して議定書の削減義務の達成が可能となることを意味するため、一人あたりの温室効果ガス排出量の先進国と発展途上国間の格差を拡大させ、先進国と発展途上国間に存在する経済発展の不平等を固定化し、さらには拡大させるおそれもある。森林等の吸収量については、排出量削減対策を先送りするという観点や不確実性の点から排出量削減が重視されるべきである。また、吸収量を含めるのであれば、「植生の劣化」等負の活動も同様に含めるべきである。遵守措置に関しては、国際法の進展という観点からは評価されているが、第2約束期間の排出量への上乗せといった罰則は、第2約束期問が不透明な現実では、効果的とは言えない。

 京都議定書、とりわけ京都メカニズムの国内的実施に関する主要国法制の比較

 2002319日にわが国の地球温暖化対策推進本部が決定した地球温暖化大綱は、ステップ・バイ・ステップアプローチをとっている。これまでの日本の温暖化対策は、基本的に、排出者の自主的なとりくみに委ねられてきたが、この間の排出傾向が減少の方向に転じていないことを考慮すると、第二ステップに向けて、適切な規制や、場合によっては経済的手法の導入を早急に検討する必要があるだろう。

 以上 銑の研究の結論をまとめ、以下の点で示唆及び成果が得られた。

 ゝ都議定書の国際制度に関して:合意された京都議定書の国際制度の全体像、京都メカニズムと遵守制度といった制度間の相互関連性、そして、合意の持つ法的含意を明らかにすることができた。これらの制度はどれ一つ取っても従来の環境関連条約にはなかった新しい制度であり、未だ試行段階にあるが、本研究の結果として言えることは以下のとおり。排出量数量目標の設定という手法に関しては、温暖化対策に向けた第1歩として評価され、数値目標達成に向けた動きが各国で見られるが、他方、米国等一部の国では、目標値の値のみならず目標値を設定すること自体に強い反発が見られた。京都メカニズムに関しては、どの国も積極的に取り組んでいると言え、今後の対策の主要な制度として利用できると予想される。森林や農耕地等による二酸化炭素吸収量に関しては、数量目標達成のために数合わせ的に導入された経緯があり、合意を促進した反面、多くの技術的、規範的課題を残した。遵守手続きに関しては、他の多国間環境条約の中では相当に綿密な洗練された手続きであり、今後の活動が期待されるが、その効果や評価に関して未知数が大きく実施を待つ状態である。

 ⊆舁弭颪瞭宛に関して:日本、米国、欧州の京都議定書に対する意思決定や国際制度設立に対応した動向を調査、分析することにより、京都議定書や地球温暖化対策一般に関する意思決定要因や今後の展望について理解を深めることができた。京都議定書という一つの国際条約に対してこれらの国のとっている態度は対照的であり、その理由としては、エネルギー供給や産業構造といった国情のみならず、「国」としての決定における行政府や議会の影響力の違いを始めとする国内の政治制度や決定過程における諸手続き、EU統合に見られる国際的地位の変化等さまざまな理由が指摘された。

 成果の公表に関して:これらの成果は、書物や検討会での委員としての活動、国際会議への参加等さまざまなルートを通じて公表された。また、京都議定書と他の国際レジームとの間の抵触可能性とその調整の問題や、2013年以降の国際制度のあり方と第一約束期間について合意された規則との関係等、今後検討が迫られるであろう政策研究課題もまた明らかになった。

(2)農村地域からの温室効果ガス排出量の制御可能性とその効果の国際分析

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 これまでの気候変動枠組み条約締約国会議のなかで、農耕地からの温室効果ガスの排出抑制や吸収拡大が議論されてきた。本研究では吸収源対策(アクティビティ)が農耕地土壌における温室効果ガス交換へ及ぼす影響について既存の数理モデルを用いて推計し、その影響に関して日本、アメリカおよびEU等でどのような違いがあり、それらの国と地域が農耕地の温室効果ガス吸収能に対してどのような戦略をとることが予測されるかを検討した。

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 数理モデルにはローザムステッドモデルとIPCCのモデルを用いた。検討したシナリオは以下のとおりである。

 

使用したモデル

検討したアクティビティ

二酸化炭素

ローザムステッドモデル

’精酳残渣の農地還元量を増加する

 

 

⇒機質肥料の施用面積を増大する

 

 

I垤無栽培の面積を増大する

亜酸化窒素

IPCCのモデル

と醂礎眩任陵用率向上(緩効性・コーティング窒素肥料の使用等)

 

 

ゲ斑槓鞠⊇萢施設の改良・増設(攪拌発酵処理施設の導入)

 7覯

 図1に二酸化炭素吸収に関するアクティビティを実施した場合の各国の農耕地土壌の吸収量を、図2に亜酸化窒素発生に関するアクティビティを実施した場合の各国の農耕地土壌からの発生量を示す。さらに、アクティビティ△砲茲覦〇晴獣眩波生量の変化を表1に示す。図1によると二酸化炭素に関して最も有効であったのは農作物残渣の土壌還元量を増大するアクティビティであった。ただし、アクティビティによる土壌炭素増加量は農耕地の面積に大きく依存する。また、表1によると肥料投入による亜酸化窒素の発生は二酸化炭素の固定に比べて小さいことがわかった。亜酸化窒素の排出に関しては、農業および畜産業に対して、二つの亜酸化窒素削減対策を検討した。その結果、肥料窒素の利用率向上では日本が米国およびEUに比べて有効であった。また、家畜糞尿処理施設の改良・増設についての対策を行った場合は、アメリカやEUにとって有効であった。

 また、図3に二酸化炭素吸収に関するアクティビティを実施した場合の各国の農耕地土壌の吸収量の各国の二酸化炭素削減目標量に対する割合を、図4に亜酸化窒素発生に関するアクティビティを実施した場合の各国の農耕地土壌の発生削減量を二酸化炭素吸収量に換算した場合の各国の二酸化炭素削減目標量に対する割合を示す。目標削減量に占める各アクティビティ実施による削減量の割合は、必ずしも土壌炭素増加量に比例しない。農耕地土壌に対するアクティビティを実施した場合、二酸化炭素に関してはEUが、亜酸化窒素に対してはアメリカが有利となる。

 これらの結果から、削減策の効果は、各国や地域における農業の特性および土壌種、気候、作物種によって違ってくることがわかった。しかし、アクティビティによる削減分を計上する上で最も有利となるのは広大な農耕地面積を持つ国、あるいは多くの家畜を保有している国といえる。よって、日本は農耕地に対するアクティビティを吸収源対策として考慮することに関してそれほど積極的になる必要はないといえよう。

  

1 二酸化炭素吸収に関するアクティビティを実施した場合の各国の農耕地土壌の吸収量(106tc

 

2 亜酸化窒素発生に関するアクティビティを実施した場合の各国の農耕地土壌からの発生量(103tN

 

 

1 シナリオ2実行時の亜酸化窒素発生量

亜酸化窒素発生量

 

 

N2O-t

Mt CO2 Eq

日本

558

0.17

アメリカ

17,924

5.56

カナダ

4,513

1.40

オーストラリア

3,564

1.10

EU

10,629

3.3

 

 

 

3 二酸化炭素吸収に関するアクティビティを実施した場合の各国の農耕地土壌の吸収量の各国の二酸化炭素削減目標量に対する割合(%)

 

4 亜酸化窒素発生に関するアクティビティを実施した場合の各国の農耕地土壌からの発生削減量を二酸化炭素吸収量に換算した場合の二酸化炭素削減目標量に対する割合(%)

 

(3)京都議定書の吸収源活動評価に関わる政策決定の日・米・欧比較研究

 日本、カナダ等のアンブレラグループの国々は、京都議定書のGHG削減目標を達成するために、吸収源としての森林を積極的に活用することを目指している。一方、EU諸国は森林を吸収源として利用する場合にはできるだけ制限を設けようというスタンスで交渉に望んでいる。森林の炭素吸収機能を活用しようとする側の理由としては、経済的に安価で既に確立している技術であることを上げている。一方、制限を設けようとする側は吸収源の非永続性、不確実性をあげ、さらに吸収源を利用することにより本来のGHG排出削減目標が骨抜きになってしまうことを理由としている。このように両者の吸収源に関するスタンスは全く異なっており、吸収源に関するルール作りは常に難航している。

 いま、各国の森林資源の状態を見てみると、EU諸国の森林の炭素吸収量は日本より少なく、EU全体を合わせても日本の3倍弱でありロシアと比べれば1/9、米国の1/3、カナダの1/2と圧倒的に少ない(図1)。このように一部の国にとっては他の国よりも何倍もメリットがあるようなツールを国際交渉に持ち込めば、軋礫が生ずるのは当然のことである。また、EU諸国の吸収源である森林資源の状況を詳細に見ると、京都議定書33項、34項の取り決めは魅力のあるものでなく、それらの国にとって活用の余地は少ない。

 さらに、木材輸入国と木材輸出国では森林・木材の炭素固定機能に対し異なった考えを持つ。スウェーデンやニュージーランドなど木材輸出国は、国の経済を維持するために積極的な伐採をせざるを得ないため、伐採に伴う森林からの排出量を減らすため、木材による炭素固定分を積極的に評価しようという考え方を打ち出している。このように京都議定書に定められている吸収源としての森林は、各国にとってかなり不公平な内容を伴っていると考えてよいだろう。

 したがって、第2約束期間では吸収源の取り扱いに公平性をもたらす方策を持ち込まない限り、第一約束期間と同様に議論は紛糾するであろう。そのためには、国土面積、森林率、1人あたり森林面積等により吸収源を活用できる上限値を設定するといったような、各国の森林資源の状態による不公平さを緩和するような仕組みを考案する必要がある。また、EUの幾つかの国では京都議定書と関係なく地球温暖化防止のために再生可能エネルギー利用の推進に力を入れてきていることから、バイオマスエネルギーの評価方法を吸収源と組み合わせることも、一つの方法であろう。

 

1 温帯林・北方林による炭素吸収量が多い上位10力国

 

(4)炭素クレディットの国際市場形成に関する数理モデル分析

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 エージェントベース・アプローチは、経済や国際関係に代表される多様な主体が複雑に相互作用するシステムを研究する手法である。エージェントとして多様な振る舞いをモデル化し、コンピュータを用いてシミュレートすることで、ミクロなダイナミクスとマクロな現象を関連づけることができる。同時に、人間の意思決定を再現する現実的なモデルを構築し、検証するには、実際の人間が参加するゲーミングが有効である。

 本研究では、エージェントシミュレーションフレームワークを構築し、国際排出量取引市場のシミュレーションプロトタイプを作成してきた。また、このようなモデルの構築、検証のためのゲーミングシミュレーションシステムを開発し、現実の人間をプレイヤーとした実験を行った。さらに単純化したモデルにおけるゲーム理論的解析も行った。

 ア.エージェントシミュレーション

 JAVAによるエージェントフレームワークを用いて構築された国際排出量取引シミュレーションについて実験を行った。シミュレーションモデルでは参加国を12の地域に分け、それぞれを独立した行動主体(エージェント)として考える。これら12のエージェントごとに異なる限界削減コスト(MAC)関数が推定されている。取引は中央の市場において期間ごとに決められた価格で行われるものとする。一回の取引における各エージェントの排出量売買高、国内削減量、および取引価格は、MACに基づく均衡条件から決定できるものとする。実験の管理をより効率よく行うため、階層的なサイクル構造を持つトランザクション制御を行えるようにし、実験結果をデータベースに蓄積した。また、ウェブアプリケーションを通じたリモート制御も可能とした。

 イ.ゲーミングシミュレーション

 上記エージェントシステムとネットワークを介して連携するウェブアプリケーションを用いて、人間がプレイヤーとして参加するゲーミングシミュレーションを行った。標準的なインターネットプロトコルを使用することにより、プレイヤーは使い慣れたウェブプラウザーを用いて、どこからでもゲームに参加することができるように構成した。プレイヤーとしては東京大学の学生が参加し、均衡価格やダブルオークション方式といった複数の取引モデルについてIBM飯倉システムプラザにおいて実験を行い、取引メカニズムの有効性やプレイヤーによる自発的な取引戦略の獲得等について研究を行った。この実験からは、ロシアを担当したプレイヤーの売り渋りによる市場の高騰が観察された。

 ウ.解析

 単純化したモデルを通じて、国際取引モデルについて考察した。特に、二期間二カ国というゲーム論的状況におけるコスト・ランドスケープや互いの戦略による相対的なインパクトについて考えた。日本とEUの間では、EUが強いマーケットパワーを持ち、自身に有利な戦略をとるようマーケットを支配した。一方、日本とロシアの間では、マーケットパワーが均衡し、互いに戦略を変化させつづけたため、学習は安定しなかった。

 まだ運用実績の乏しい複雑な社会システムを構築していく上で、その有効性や性質等をパラメータやルールそのものをさまざまに変化させて実験できるアプローチは強力な手法として期待される。また、排出量取引の正式運用の際には、こうしたシミュレーションやゲーミングシステムは、実施者や政策決定者のトレーニングやサポートにも有効に活用できる。シミュレーションやゲーミング、解析からなるエージェントベース・アプローチは社会科学における新たなパラダイムとして、今後ますます重要性を増すものと期待される。

 被験者を用いた排出権取引の実験

 京都議定書において定められた付属書B国の温室効果ガス排出目標達成の補完的手段の一つとして、排出権取引がある。この取引をどのような制度のもとで行うかは、京都会議以降の交渉で徐々に決められてきてはいるが、詳細については十分に決まっていない。本研究においては、排出権取引の具体的な制度の中で望ましいものを、被験者を用いた経済実験を実施することによって明らかにする。

 方法としては、自己の利益を最大化するように金銭的に動機づけられた被験者を用いて、複数の実験を実施する。各実験では異なるルール(制度)を用い、それらの結果を比較することにより、どの制度が望ましいのかを明らかにする。本研究では、特に取引の責任制度と取引方法に着目し、主に経済効率性と環境保全性の観点から、望ましい制度を明らかにする。責任制度とは、例えば削減の裏付けのない排出権が取引された場合、その責任を売り手が負う「売手責任制度」がよいのか、あるいは責任を買い手が負う「買手責任制度」がよいのか、という問題である。買手責任制度に関しては、国同士の取引の責任を果たすのが先で、京都議定書に対する責任は後、という「国先買手責任」と、京都議定書が先で他国は後、という「京都先買手責任制度」をデザインし、実験により比較した。取引方法に関しては、ダブルオークションと呼ばれる取引所取引と、国同士で個別に行う相対取引の二つを比較した。

 責任制度間で効率性を比較すると、まず買手責任制度の中では、国先買手責任制度の方が京都先買手責任制度よりも高い効率性を達成できることが分かった。これは、京都先買手責任制度のもとでは、各国が意図的にデフォルトを起こすインセンティブがあるからである。次に、売手責任制度と国先買手責任制度を比較すると、効率性の平均値に差は無かったが、売手責任制度では高い効率性を達成できる場合と低い効率性しか達成できない場合の大きく2つにはっきり分かれるのに対して、国先買手責任制度では大きく成功することも大きく失敗することもなく、ほどほどの結果が得られることが分かった。

(5)CDMと排出権取引の相互作用に関するモデル分析(EFF課題として平成12年度のみ実施)

 本研究では、京都議定書に規定されたCDM(クリーン開発メカニズム)が、南北間の技術移転の有効性を高めるために果たし得る役割について調査した。この研究では、成果が低く不満足なパフォーマンスの原因を明らかにするため、まず、既存の南北間の経験を基に、技術移転の問題を追及する。続いて、地球規模の気候変動問題に対処するための適切な技術移転の本質を明らかにすると同時に、技術移転の日本型モデルを開発した。これは、日本の技術移転に係わる政策決定プロセスの長所を生かすように設計されており、CDMが持つ潜在的可能性を利用するために、オランダ型戦略を参照しながら開発されたものである。

 日本型モデルでは、ODA利用に関し外務省や経済産業省、環境省からなる省庁合同運営委員会を設置する。また、国際協力銀行と、将来的に炭素排出量削減の義務を負う可能性のある、あるいは炭素排出量取引市場から利益を得る可能性のある企業等の民間部門が共同出資する「技術協力基金」を設立する。このように、政府資金であるODA以外は全て民間主体の組織を活用することにより、健全な自己資本体質を維持する。このようなモデルを実現させるためには、途上国においては受け入れ環境の整備が、先進国においては気候変動を緩和するための民間部門投資と技術知識を統合する枠組みが必要である。

 

4.考察

 本研究期間中も終了後も、現実の交渉は進展している。京都議定書採択の1997年から6年。実際の主要先進国における京都議定書に対する対応は次のとおりである。

 

 

国内排出量削減対策

京都メカニズムの利用

森林吸収量等への依存

遵守措置

京都議定書からの離脱

備考

日本

×

 

京都議定書の目標値達成に向けてあらゆる手段を講じる(京都メカニズムの利用、吸収量への依存)

米国

×

×

×

京都議定書の数量目標達成困難、途上国参加しないのは不公平として離脱。

EU

×

 

京都議定書の目標値達成に向けて意欲。排出量取引制度確立。森林吸収量算定には消極的。

本研究成果からの指摘

気候変動抑制を推進する方法としてある程度効果あり。合意が困難なのが難点

費用効果の点から推進されるべき公平性の点からは問題あり。

不確実性の点から望ましくない。国によって差が大きい。バイオマスエネルギーを評価するのも一案

今後の成果に期待

京都議定書にも課題は多いが、京都議定書を前提に動き出したものも多い。

 

=制度を支持/利用 ×=制度を不支持/利用せず △=関心を示す

 

 本研究成果と上表に見られる現実の動向のまとめとして、京都議定書の制度及び京都議定書そのものに関し、以下の示唆が得られた。

(1)排出量削減目標の設定は、各国の温暖化対策を促進する上で、ある程度効果が認められた方法である。ただし、数値に対して不満を持つ国はあり、米国のように数値目標自体を受け入れ困難な国もある。また、数値を厳しくする代わりに京都メカニズムや森林吸収量を含める等さまざまな「抜け穴」が用意されたことも問題として指摘されている。今後の取り組みにおいては、目標を再度設定するのも一案であるが、上記の問題点を克服する必要がある。

(2)京都メカニズム、とりわけ排出量取引については、各国で前向きに導入が検討されている。京都議定書から離脱した米国においても、本制度に関しては関心を持っている。京都議定書採択前には消極的だったEUにおいても実施に向けた動きが見られており、今後も、対策を費用効果的に進めるための手段として期待される。ただし、国内にて導入する場合には、炭素税等他の政策とのポリシーミックスとして考える必要がある。また、国際的には、各種シミュレーションの結果、EUがマーケットパワーを持つこと、あるいは、ロシアが最大の売り手として価格を吊り上げる等が予想されており、わが国においても戦略的な対応が迫られている。

(3)森林吸収量の算定に関しては、諸点から問題が指摘されている。伐採時点で大気に放出されるという非永続性や不確実性等に加え、国家間で偏在していることから不公平性が問題となる。農耕地における二酸化炭素や亜酸化窒素の吸収・発生量に関しても、農耕地の広い国が結果的には有利な状況となっている。二酸化炭素のみならず、亜酸化窒素やメタン等の温室効果ガスを含めることは、測定における不確実性のみならず、国ごとの差異の幅を格段に広げることにもつながる。2008-2012年での取り扱いに関してはマラケシュ合意で一応の合意を得たが、その後の扱いに関しては公平性をもたらす方策を持ち込まない限り再度議論が紛糾すると予想される。

(4)遵守措置に関しては、多国間環境条約の中でも一段進歩した内容となった。画期的な手続きとして期待されている半面、排出量目標を超過した国への罰則が2013年以降の義務が決まっていない状況では効果が疑問視される等課題は残されており、現段階では評価は困難である。

(5)京都議定書全体については、課題は少なくなく、米国の離脱を招く状況にあるが、少なくとも2年間の交渉を経て全ての主要国で合意できる唯一の文章であったという点に関しては評価に値するだろう。また、上記(1)−(4)の制度が同議定書によって設立され、これらのうちいくつかは効果的な制度として受け入れられ、既に動きが見られていることから、世界各国の温暖化対策の動力源となっているとも言えるだろう。問題は、課題とされている点について今後いかに改善していけるか、ということである。京都議定書の長短所をしっかりと把握しておくことは、2013年以降の温暖化対策に関する議論に不可欠である。

 

5.研究者略歴

課題代表者:亀山康子

1967年生まれ、東京大学教養学部卒業、学術博士、

現在、独立行政法人国立環境研究所社会環境システム部環境経済研究室主任研究員

主要論文:

Y. Kawashima: " Comparative Analysis of Decision-making Processes of the Developed Countries towards CO2 Emissions Reduction Target", International Environmental Affairs, Vol.2 No.2, 95-126 (1997)

Y. Kawashima: "Japan's decision-making about climate change problems: comparative study of decisions in 1990 and in 1997", Environmental Economics and Policy Studies, Vol.3, 29-57 (2000)

Y. Kawashima: "Japan and Climate Change: Responses and Explanations", Energy and Environment, Vol.12, No.2&3 167-180 (2001)

 

主要参画研究者

(1): 亀山康子(同上)

 

(2): 谷山一郎

1953年生まれ、北海道大学農学部博士課程単位取得、

現在、独立行政法人農業環境技術研究所食料生産予測チーム長

主要論文:

I. Taniyama, T. Imagawa, T. Ohkuro, Y. Shirato, E. Fujiwara, T. Zhang, H. Zhao, T. Wang: "Evaluation of Management for Combating Desertification in Horqin Sandy Land, China", in Adeel, Z. ed., Integrated Land Management in Dry Areas, UNU Desertification series No.4, 79-92, United Nations University (2001)

・谷山一郎: 「土壌環境への影響」環境省地球温暖化問題検討委員会影響評価ワーキンググループ編、地球温暖化の日本への影響、146-150(2001)

・波多野隆介・岡崎正規・藤井國博・楊 宗興・谷山一郎・乗木新一郎・木村眞人: 環境負荷と物質循環−モニタリング・モデリング−、土肥誌、72, 824-832 (2001)

 

(3): 天野正博

1946年生まれ、名古屋大学農学研究科修士課程修了、農学博士、

現在、早稲田大学人間科学部教授

主要論文:

 M. Amano: "Trends of forest resources in the world and their relations with global warming", Farming Japan, Vo1.35-1, 10-19 (2001)

Noble, I., M. Apps, R. Houghton, M. Amano and et. al.: "Implications of Different Definitions and Generic Issues, Land Use, Land-use Changes, and Forestry", IPCC, Cambridge University Press, 53-126 (2000)

Sedjo, R. A., M. Amano & Y. Yamagata: "The operationalization of the Kyoto Protocol with a focus on sinks: A perspective for Japan", 森林総合研究所研究報告、Vol.1 No.2, 151-161 (2001)

 

(4): 山形与志樹

1961年生まれ、東京大学教養学部卒業、博士(学術)、

現在、国立環境研究所地球温暖化研究プロジェクト・吸収源評価研究チーム総合研究官

主要論文:

山形与志樹、水田秀行:「京都議定書にかかわる国際制度設計:マルチエージェントシミュレーションの役割」システム/制御/情報、Vol.46 No.09, 569-577 (2002)

・山形与志樹、水田秀行:「地球温暖化リスク管理に関する国際制度シミュレーション」シミュレーション、Vol.21 No.1, 30-38 (2002)

Y. Yamagata and H. Mizuta: "Agent-based simulation of the International C02 Emission Trading: Emergent behavior of countries", The 6th International Conference COMPLEX SYSTEMS <Complexity with Agent-based Modeling, Tokyo, Japan (2002)

 

(5): マリック=アミン=アスラム(エコ・フロンティア・フェロー)

現在ENVORK(パキスタンにある研究所)所長

主要論文:

Aslam, Malik Amin: Equal Per capita Entitlements: A Key to Global Participation on Climate Change," in Kevin Baumert et al eds. Building the Kyoto Protocol, options for protection the climate, 175-202 (2002)