課題名

B-51 CH4、N2Oのインベントリーの精緻化と開発中核技術の内外への普及

課題代表者名

稲森 悠平 (環境省 独立行政法人国立環境研究所 循環型社会形成推進・廃棄物研究センター バイオエコエンジニアリング研究室)

研究期間

平成12−14年度

合計予算額

258,049千円 (うち14年度 85,527千円)

研究体制

(1)固定燃焼装置におけるN2O対策技術および産業活動起源のCH4、N2Oインベントリー推定に関する研究

(経済産業省 独立行政法人産業技術総合研究所)

(2)自動車のN2O排出総量推計とその低減手法の中核技術の汎用化と普及に関する研究

(国土交通省 独立行政法人交通安全環境研究所)

(3)バイオ・エコシステムを活用した生活系・事業場系排水のCH4N2O抑制対策中核技術の汎用化と普及に関する研究

.丱ぅ・エコシステムを活用した生活系・事業場系排水のCH4、N2O抑制対策中核技術の汎用化と普及に関する研究

(環境省 独立行政法人国立環境研究所)

CH4、N2O放出抑制のための土壌活用処理手法の運転操作・管理条件の確立化に関する研究

(環境省 独立行政法人国立環境研究所)

CH4、N2O放出抑制のための水生植物等を活用した処理手法の運転操作・管理条件の確立化に関する研究

(環境省 独立行政法人国立環境研究所)

(4)廃棄物処理分野におけるCH4、N2O排出抑制中核技術の汎用化と普及に関する研究

(環境省 独立行政法人国立環境研究所)

(5)下水道施設を活用したCH4、N2Oの排出抑制中核技術の汎用化と普及に関する研究

(国土交通省 国土技術政策総合研究所)

(6)農耕林地におけるCH4、N2Oの発生・吸収量の評価とその発生抑制技術の確立に関する研究

.▲献△稜盛銘呂砲けるCH4、N2Oの発生量の評価とその発生抑制技術の確立に関する研究

(農水省 独立行政法人農業環境技術研究所、独立行政法人農業技術研究機構野菜・茶業研究所、
北海道大学、千葉大学、北海道立根釧農業試験所、岡山県農業総合センター)

東アジアの森林土壌におけるCH4、N2O収支の評価に関する研究

(農水省 独立行政法人森林総合研究所北海道支所、北海道大学、東京農工大学、名古屋大学)

(7)家畜及び家畜糞尿処理過程に由来するCH4、N2O排出量推定の精緻化と開発中核技術の内外への普及に関する研究

(農水省 独立行政法人農業技術研究機構畜産草地研究所)

(8)東南アジア地域における反芻家畜からのCH4発生の抑制の中核技術の汎用化と普及に関する開発

(農水省 独立行政法人農業技術研究機構九州沖縄農業研究センター)

(9)CH4、N2O抑制対策中核技術の汎用化、普及手法の最適化とインベントリーの精緻化、充実化のための総合評価に関する研究

(環境省 独立行政法人国立環境研究所、東北大学、筑波大学、早稲田大学、東北学院大学)

研究概要

1.序(研究背景等)

 地球温暖化対策において取り組むべき重要課題となるCO2に加えてCH4N2OHFCPFCSF6を含めてバスケットアプローチによる削減目標がCOP3で設定された。しかし、これらのGHGのなかで特にCH4N2Oの各排出源における排出量推計精度は極めて低いのが現状であり、これらの推計精度の低さが、効率的なGHG削減アクションプランの作成のネックとなっている。このような背景からIPCCにおいてもCH4N2Oの各排出源分野において排出量推計精度確保のための専門家会議を開催し検討を行うとともに、インベントリープログラムの重要性に鑑みインベントリータスクフォースを設置し、その技術支援ユニット(TSU)が日本で設置された。したがってTSUの活動に対して科学技術的裏付けを与える研究は我が国として極めて緊急かつ重要な位置づけとなっている。

 ここで対象とするこれらCH4N2OCO2に比べ、各々20-30倍、300-400倍と著しく高い温暖化ポテンシャルを有しており、その対策は重要である。これらのガスはエネルギー分野、工業プロセス分野、農業分野、汚水・廃棄物分野などの幅広い分野から排出されているが、各分野における対策技術とCH4N2O発生との関係をみると、管理条件、運転操作条件等の変化と連動して大量に排出されたり、排出量が抑制されたりすることが明らかとなりつつある。

 本研究ではこれらの点を鑑み、普及可能な中核技術としての削減対策技術の抽出および開発を推進すると同時に、これらの特性の定量化、解析評価を行うことで、インベントリーの精緻化と充実化を図った。また、世界人口の約60%を占め、CH4N2Oの大きな排出ポテンシャル、すなわち潜在力を有していると考えられるアジア地域の開発途上国を視野に入れる必要があることを考慮して、CH4N2O対策中核技術の普及の可能性とインベントリーの精度の向上と充実化の研究を強化し、各分野で開発されつつあるCH4N2O削減中核対策技術と最適管理・操作条件等の検討評価と国内はもとよりアジア地域の開発途上国への対策技術の普及とその導入・対費用効果の解析評価を強化、かつIPCCインベントリー構築への貢献を重要な位置づけとした。

 

2.研究目的

 本研究では不確実性の高いCH4N2Oの人為発生源におけるインベントリーの精緻化とそれぞれの分野における対策技術の確立と普及における方策のあり方を世界人口の60%を占め、今後も急速な人口の伸びが予想されるアジア地域の開発途上国を視野に入れた検討を行ったが、各分野における研究目的を以下に示す。

 燃焼および燃料の漏洩分野では固定発生源からのN2O削減に関して分解触媒の開発を行うとともに、固定発生源からのN2Oおよび燃料漏洩に係るCH4排出量のインベントリーの推計精度の精緻化を図った。自動車分野では各国のN2O総排出量を同一の手法で評価し、N2O推計精度をより明確化するために、国別に異なる走行モード間におけるN2O排出量相関値の把握からN2O排出量推計の精緻化を図り、N2O排出削減対策技術の実効性を検討した。生活系、事業場系排水処理分野では生活系、事業場系排水のバイオ・エコエンジニアリング処理からのCH4N2O排出量推計の精緻化と抑制対策技術の実証的検討による内外への普及を目指した中核技術の確立および開発途上国への適用のための簡易技術化をEFF制度の活用を含めて検討した。廃棄物分野では最終処分場からのCH4排出量、有機性廃棄物リサイクルおよび産業廃棄物処理・処分プロセスからのCH4N2Oの排出量推計の精緻化と最終処分場における排出抑制対策中核技術の確立を図った。下水道分野では窒素、リン対策としての高度処理および汚泥処理の高度化に対応したCH4N2Oの排出係数の整備を行い、排出量推計の精緻化を図り、地域における生ごみ等の有機性廃棄物を下水道施設へ受け入れ、CH4発酵処理、発生CH4の有効利用による削減手法の検討を行った。農耕林地分野ではアジアの農耕林地に係るCH4N2Oの排出、吸収量を水田、畑地、森林土壌、草地および農業残さの燃焼過程により明らかにし、当該地域に適した畑地からのN2O抑制対策技術の開発を図った。畜産分野ではアジア地域における家畜由来CH4排出量の簡易測定方法を開発し、当該地域で多く飼養される、瘤牛、水牛からの排出量の推定精度を確保するとともに、CH4排出量が高いと考えられる東南アジア地域における普及可能な抑制技術と糞尿処理に由来するCH4N2Oの排出量推定の精密化を図った。これらの各分野における要素研究を総合化し、評価するために本プロジェクト研究により開発、実証的検討が成された対策技術の削減効果を評価する上で重要なCH4N2Oインベントリーおよび各分野における対策技術の効果的な普及整備のためのコスト・効率性・汎用性等を考慮し、コストを基本とし、環境への影響等を考慮した対策技術の総合評価を行い、CH4N2Oインベントリーの精緻化を個々の対策の実現および国内外への普及の可能性を検討した。

 

3.研究の内容・成果

(1)固定燃焼装置におけるN2O対策技術および産業活動起源のCH4N2Oインベントリー推定に関する研究

 N2O分解触媒について、調製方法や担体の種類、共存ガス成分の影響について調べた。種々のRh/MOx触媒の中で、Al2O3ZrO2担持触媒は水蒸気とNO2が共存しても比較的高い活性を示すことがわかった。また、種々の鉄−ゼオライト触媒について検討し、酸素共存下におけるN2O分解には鉄−フェリエライトが適することを明らかにした。N2O選択還元触媒については、鉄−ゼオライトが炭化水素によるN2Oの還元に有効であること、中でもFe-BEACH4による還元に高活性を示すことを明らかにした。NOx選択還元触媒については、Ag/Al2O3−エタノール系についてN2Oの副生状況を調べた。またメタノールによるNOx還元では、フェリエライト系触媒がNOx除去率が高く、N2Oその他の含窒素化合物の副生が少ないことを明らかにした。N2Oインベントリーについては、流動層形式の下水汚泥焼却炉6基のN2O排出濃度を12週間連続測定し、N2O排出係数を求めた。N2O濃度は炉の運転状態で変化し、短時間のサンプリングで決定したN2O排出係数は必ずしも炉のN2O排出量を示さないことがわかった。得られたN2O排出係数は湿汚泥基準で3501,416(平均792g-N2Ot-WS-1、乾燥汚泥基準で1,6726,643(平均3755g-N2Ot-DS-1であり、IPCCの推奨値に比べかなり大きな値となった。また、N2O排出濃度は焼却炉のフリーボード温度でほぼ決定されることが確認された。この知見を基に、全国17基の下水汚泥焼却炉の運転データを解析し、フリーボード最高温度からN2O排出濃度を推定し、排出係数を計算した。その平均値(容量勘案値)は733g- N2Ot-WS-1で、実地調査した焼却炉の平均値とほぼ一致した。石炭の採掘段階で放出されるCH4量の推定を行った結果、露天炭鉱ではCH4フラックスの測定を行ったが、測定限界に達せず、剥土作業前後には既にCH4放出が行われていることが推察された。坑内採掘の場合、平均切羽深度別の単位出炭当りのCH4量を求めた。その結果、深度を増すとCH4量も増えることが確認され、一定の関係を導くことが出来た。

 

(2)自動車のN2O排出総量推計とその低減手法の中核技術の汎用化と普及に関する研究

N2O排出総量を計算する上で、自動車分野のN2O排出原単位はばらつきが大きく不確かである。不確かな理由は触媒の劣化、排ガス量測定時の走行モード、外気温度影響などの幾つかの要因が複雑に絡み合いN2O排出量を変動させているためと考えられる。

 そこでそれらの要因が実車のN2O排出量に与える影響を実車実験から定量的に明らかにし、それぞれの影響を補正することにより自動車から放出されるN2O総排出量推計値精度の向上を図ることを試みた。その結果、ー嵶陲料加(触媒劣化)がN2O排出原単位を増加させる現象を定量的に把握した。触媒車のN2O排出量は、85,000km走行すると新車時の3倍以上に増加し、その増加率は直線的である。したがって保有車両を走行距離、または車齢ごとに分類し、劣化係数でN2O排出量を補正すれば、より精度の高いN2O総排出量を得ることが可能となる。⊆村屬料行実験から、自動車のN2O排出量は始動時の暖気特性や触媒温度が外気温度条件に影響されるため冬に低く、夏には高く排出されている結果を得た。従って、より精度の高い総排出量推計には、季節ごとの気温に対する排出係数と自動車保有台数から各都市のN2O総排出量をそれぞれ求め、集計する必要があるといえる。G喀侘迷定結果の解析から、排気ガス規制の強化により増加しつつある新触媒のN2O排出量が従来の床下型触媒に比べて非常に低く、新旧触媒型式による排出量レベルの大別が可能である。これから新旧触媒型式の装着比率により自動車N2O排出総量の経時推移を推計することが可能であり、自動車N2O総排出量は急速に減少していくことが予測される。ぜ動車N2O排出実態を明らかにするためにオンボードN2O排出量測定装置の開発を行い、実路走行実験を行った。その結果、これまでに知られていなかった再始動時に特異的なN2O排出領域が存在していることを見いだした。この再始動時に排出されるN2O排出量は冷始動モードの2.5倍にも及ぶ。したがって確度の高いN2O排出総量推計には従来の測定モードを見直すとともにより現実的なN2O排出量測定モードの策定が不可欠であるといえる等の自動車N2O総排出量推計精度の向上を図るうえで必要となる数多くの資料を得た。

 

(3)バイオ・エコシステムを活用した生活系・事業場系排水のCH4N2O抑制対策中核技術の汎用化と普及に関する研究

.丱ぅ・エコシステムを活用した生活系・事業場系排水のCH4N2O抑制対策中核技術の汎用化と普及に関する研究

 当該分野でのCH4N2O排出は微生物反応に起因することに注目し、排水処理システムにおける有用微生物の挙動についての知見を集積するとともに、これらの有用微生物の積極的な導入による処理プロセスの高度効率化およびCH4N2O削減効果等について検討すると共に、実際の合併処理浄化槽を用いて、CH4N2O削減効果等に関する実証評価を行った。さらに、産業系排水や、生態工学活用型排水処理システムについても、汚水処理特性とCH4N2O発生特性、そしてその削減手法等について検討を進めた。その結果、生活排水処理汚泥のnosZ遺伝子は、他の環境中のnosZ遺伝子と異なるクラスターを形成し、微好気条件下でもnosZ mRNAを発現している微生物の存在が示唆された。また、有用硝化脱窒細菌であるAlcaligenes faecalisを包括固定化担体として生活排水処珪プロセスに導入することにより、特に低水温時において硝化能・窒素除去能等の低下とN2O放出を抑制する上で極めて効果的であることが明らかとなった。さらに、実証的検討として、浄化槽における硝化液循環の影響・効果として、N2O放出速度は、循環型と非循環型は同程度を示したが、CH4放出速度は非循環型が循環型の値を大幅に上回った。これらの結果から、富栄養化の防止およびGHG排出抑制の観点から、生物処理における硝化液循環は排出抑制手法として効果的であることがわかった。産業廃水からの生物学的窒素除去プロセスにおいて、塩濃度は特に硝化過程からのN2O発生に大きな影響を及ぼすとともに、嫌気好気循環型活性汚泥法を用いて連続運転を行った結果、塩濃度の上昇がN2O発生量に直接的・間接的に影響をおよぼし、場合によってはN2O発生量が急激に増加する可能性が示唆された。アジァ地域の開発途上国で多用されているものの、CH4N2O排出実態が不明であった生態工学的排水処理システムである土壌トレンチ、人工湿地、ラグーンシステムからの排出量に関して中国、タイでの観測を含めて知見を収集し、インベントリーの精緻化を図った。また、排出係数の大きく、今後の急速な普及が予想される土壌トレンチシステムについては土中への微量通気といった簡便な排出抑制手法を確立した。

 これらの検討結果から、今後、バイオ・エコシステムを活用した排水処理として重要な富栄養化対策とGHG排出抑制対策が両立することが明らかになるととに、これまでが知見が極めて不足していた生態工学的処理システムからのCH4N2O排出係数に関して有用な知見の集積が成された。

 

CH4N2O放出抑制のための土壌活用処理手法の運転操作・管理条件の確立化に関する研究

 水生植物植裁・土壌処理システムは初期投資が少なく、維持管理に熟練を要しないことから開発途上国において多用されている。しかしながら、土壌を媒体とし、アシ、ヨシ、マコモ等を活用する植裁浄化手法からは場の条件設定の適正さの有無によっては温室効果ガスであるCH4N2Oの排出特性に差の生ずることが知られており、このような排水処理システムの整備に伴う温室効果ガス排出量の増加が懸念されている。一方、植物の茎を通して根圏部さらに土壌中へ供給される空気により微視的な好気環境が形成され、発生したCH4の酸化が促進されると考えられている。本研究では上記の点に注目して、水生植物植裁・土壌処理システムヘの流入負荷の違いがCH4N2O排出量に与える影響およびCH4酸化に係るCH4酸化細菌の土壌中での挙動についての解析評価を行った。

 その結果、植裁の違いを比較検討する上で、植裁浄化手法で一般的に用いられるアシおよびマコモを選定したが、生活排水処理として一般的なBOD負荷である50200mgL-1の範囲では、処理性能はほぼ同程度であり、処理水質の面からは大きな差異が認められなかった。しかしながらCH4排出量は流入負荷に関係なくマコモの植裁系が高い傾向を示し、特に、流入負荷が高い系でその傾向は顕著であった。一方、N2O排出量は流入負荷が高い場合においてマコモ植裁系で増加する傾向が見られたもののCH4ほど顕著な差異が見られなかった。ここで、CH4排出量の傾向と同様に処理システム内に存在するCH4生成菌数もマコモ植裁系がアシ植裁系に比べて大きくなった。ここでマコモ植裁系の場合、CH4酸化細菌は土壌表層付近に多く存在するが、アシ植裁系の場合、マコモより根が深く発達するため、CH4酸化細菌が土壌深部にも多く存在する事が明らかになった。これらがアシ植裁系とマコモ植裁系におけるCH4排出量の違いの一因と考えられ、温室効果ガス抑制対策としてのアシ植裁の有用性が示された。

 

CH4N2O放出抑制のための水生植物等を活用した処理手法の運転操作・管理条件の確立

 人工湿地は低コストの排水処理手法として広く活用されており、中国においても生態工学的重要な位置づけにある。建設費、維持管理費が低廉なことから今後も多く活用されていくものと考えられるが、原理的にGHGとしてのCH4N2Oの排出が考えられる。

 本研究では、これらの点を鑑み、人工湿地処理システムとして代表的な地下浸透方式(SF)と自由水面方式(FWS)に注目して、これらの排水処理特性と温室効果ガス排出特性を検討した。その結果、SF湿地は排水処理においてFWS湿地よりも良好な排水処理性能と高い安定性を示すと共に、CH4N2O排出量も低くなる傾向を示した。これらの違いは、ORP(酸化還元電位)およびCH4N2Oの垂直濃度の測定から、湿地内の嫌気域がCH4発生の原因であり、また、FWS湿地とSF湿地は、土壌のORPとの関係が同じであることに起因することが明らかになった。さらに、SF湿地においては水面上の乾いた土層にCH4酸化細菌が集積され、CH4の減少に対して重要な役割を果たし、CH4排出量が低減することが明らかになった。FWS湿地とSF湿地の両湿地において根圏域が硝化の重要な場であることが明らかになり、硝化プロセスは、FWS湿地ではN2O排出の重要な要因の一つであること、またSF湿地ではN2O排出の重要な要因ではないことも明らかになった。

 これらの検討を踏まえて、水生植物種、湿地媒体の種類、湿地水位ならびに水量・汚濁負荷などの処理システムの運用パラメータが人工湿地における汚染物質除去とGHG排出に及ぼす影響を調べた結果、有機物除去に対しては、湿地媒体と水量・汚濁負荷が湿地の性能を決定する重要因子であると認められ、CH4N2O排出量に関しては水生植物種の違いが大きな影響を与えることが明らかになった。また、CH4N2Oに関する植栽植物の刈り取りの影響を検討した結果、伐採を行った地点では伐採直後に明らかなCH4排出の上昇が検出され、その後CH4排出量は低下し、伐採しなかった地点よりも少なくなった。10℃以下の条件ではCH4排出量は再度、伐採をしなかった地点よりも高くなるものの全体としての排出量は低く、水中に高いCH4濃度が観察された。一方、N2Oはいずれの湿地システムでも伐採直後に低下したが、FWS湿地では数日間、近辺よりも高い濃度を示した。FWS湿地とは逆に、SF湿地ではヨシを伐採した地点からのN2O排出量は常に低い傾向を示した。

 

(4)廃棄物処理分野におけるCH4N2O排出抑制中核技術の汎用化と普及に関する研究

 廃棄物最終処分場からのCH4放出量をより正確に把握することを目的として、廃棄物統計に基づく処分場からのCH4放出量推定の精緻化と、処分場からの地表面CH4放出量の現場観測手法の開発を試みた。主な有機性の産業廃棄物である紙くず、木くず、動植物性残さおよび有機汚泥について、中間処理過程における廃棄物の質と量の変化を重量および炭素量ベースで追跡し、産業廃棄物処分場における年間CH4放出ポテンシャルを求めた。中間処理を経ない直接埋立以外に、生分解性有機炭素量がほとんど変化しない脱水等の中間処理を経て埋め立てられる廃棄物を放出量推計に含めることは重要であり、また、我が国では未評価である有機性汚泥由来のCH4放出量は現在の放出量報告値の6割に相当することを示した。有機性汚泥について、発生業種別フローより推計したCH4放出ポテンシャルは、業種を分けないフローでの推計値に比べて約1万トン程度小さくなった。この差は、廃棄物フロー把握の細分化が必ずしもCH4放出量推計の大幅な精緻化につながらないことを示すが、排出量が大きい廃棄物では全体的な精度向上という点で無視できない。処分場地表面におけるCH4放出地点は処分場内部熱の放出や微生物代謝により加温されているという仮定に基づき、サーマルビデオカメラでスクリーニングしたホットスポットにおいてCH4フラックスの計測を行った結果、複数の場所ならびに時期に観測された100を超えるホットスポットでフラックスが検出されなかったのは1割以下で、無作為に抽出した地点では7割以上においてフラックスが未検出であったことから、仮定ならびに手法の有効性が示された。さらに観測された地表面温度とCH4フラックスの間の相関関係より、地表面温度分布と限られたフラックス測点により埋立地全体の地表面CH4放出量を求める簡便な手法を示した。また、処分場への品目別廃棄物埋立量の経年記録から推計したCH4放出量と実測値から求めた放出量を比較し、今後のCH4放出量推計の精緻化の方向を示した。

 

(5)下水道施設を活用したCH4N2Oの排出抑制中核技術の汎用化と普及に関する研究

 下水処理場の水処理プロセスと汚泥焼却プロセスから排出されるCH4およびN2Oについて、その排出制御技術の信頼性と安定性の評価に必要な実験を行った。研究では、水処理プロセスと汚泥処理プロセスの2つに分けて行った。

 水処理プロセスでは、CH4に関して嫌気、無酸素槽のある嫌気-好気法、循環型硝化脱窒法(循環法)と対象としての標準活性汚泥法(標準法)との比較解析実験を行い、抑制効果を検討した。結果としては、循環法で抑制効果が高く、嫌気-好気法と標準法はほぼ同程度の抑制効果であった。N2Oに関しては、硝化速度と発生するガスの関係について検討を行った。結果としては、期間平均で100mg N2O-Nm-3程度の排出があり、期間最大値は450mg N2O-Nm-3であった。期間中は、管理状態や処理の状態により、反応槽内でのN2O生成量はかなり変動する結果であった。しかし、処理が安定している期間は、N2O生成量を低く保つことが可能であり、その量は高くても55.3mg N2O-Nm-3であった。近年、下水処理施設の省エネルギー等を目的にした硝化抑制運転や、窒素の除去を目的とした生物学的硝化脱窒プロセスが普及しているが、このような処理では水温に応じた適切な運転管理により、不完全な硝化が進行するような状況を生じさせないことが必要である。これらの結果から全国の総排出量は、0.75Gg-N2Oyear-1であると推計された。

 汚泥処理プロセスは、下水汚泥焼却炉に関するN2O排出量調査を行った。結果としては、N2O濃度は炉の運転状態で変化し、短時間のサンプリングにより決定したN2O排出係数は必ずしも炉のN2O排出量を示さないことが明らかになった。また、得られたN2O排出係数は湿汚泥基準で、3501,416g-N2Ot-WS-1、平均値792g-N2Ot-WS-1であり、IPCCDefault値にくらべかなり大きな値となった。焼却炉においては、N2O排出濃度は焼却炉のフリーボード温度でほぼ決定されることが確認された。この知見をもとに、全国17基の下水汚泥焼却炉の運転データを解析し、フリ・一ボード最高温度からN2O排出濃度を推定し、排出係数を計算した。その結果、フリーボード最高温度の変動幅は実地調査した焼却炉と同様であり、N2Oも大きく変動していると推定された。また、17基の排出係数の平均値(容量勘案値)は733g- N2Ot-WS-1で、ほぼ実地調査した焼却炉の平均値と一致した。この数値と活動量である流動焼却炉による汚泥焼却量である380万トンより、流動焼却炉に対するN2Oのインベントリーは2.81Gg-N2Oyear-1となる。また、総焼却容量ベースでは、調査した17基で1.5t- N2Oday-1であり、全国の流動焼却容量の15%程度であることから、全国の流勤焼却炉は潜在的には、3.6Gg- N2Oyear-1N2O排出量があることも推定できた。

 

(6)農耕林地におけるCH4N2Oの発生・吸収量の評価とその発生抑制技術の確立に関する研究

 .▲献△稜盛銘呂砲けるCH4N2Oの発生量の評価とその発生抑制技術の確立に関する研究

 アジアの農耕地からのCH4N2Oの発生に関するインベントリーを精緻化するため、日本と中国においてN2OCH4の発生・吸収量の測定を実施し、その広域評価手法を検討した。また、不耕起栽培による水田からのCH4発生量軽減技術を検討した。さらに、バイオマス燃焼に関するインドとの共同研究を実施した。

 その結果、以下の成果を得た:)務て擦離織泪優畑からのN2O直接発生の排出係数(施肥窒素量に対する発生割合)は2.77.8%と比較的高い値であった。一方、間接発生量はIPCCデフォルト値よりも著しく低かった。∨務て仕貮瑤料霖呂らのN2O直接発生の特性と排出係数(0.050.23%)および施肥によるCH4吸収フラックスの低下を明らかにした。2色土のトマト施設栽培におけるN2O直接排出係数は0.1%以下であり、農耕地の排出係数としては極めて低い値であった。づ攵軛罎任N2O発生や微生物活性の特性と、アンモニア態窒素添加によるCH4酸化活性やCH4吸収速度の抑制効果を見出した。DNDCモデルに全炭素に占める微生物炭素の比を組み込むことにより、わが国の畑土壌に広く分布する黒ボク土からのN2O発生予測に適用可能であることを示した。Υ存の実測および統計データから、平成10年における日本の農耕地からのN2O発生量は7.89GgNyr-1と推定し、その不確実性と今後の課題を示した。Э綸弔良垤無直播栽培は開始当初はCH4発生抑制効果を示すが、数年以上継続するとCH4発生が多くなった。中国長江以南の水田地帯において、CH4発生量の削減に冬期の排水が重要であること、畑地からのN2O排出係数は0.130.40%と小さかった。中国東北部の草地と湿地におけるCH4N2O発生量の変動には土壌水分と温度の変化など環境要因が強く影響していること、また、両者のあいだにトレードオフ関係のあることを明らかにした。インドにおけるバイオマス燃焼実験から、各種ガスの排出係数を求めた結果、多くのガスについてIPCCで使用されている値よりも大きかった。

 これらの成果より、アジア諸国の農耕地からのGHG発生インベントリーに対し重要な基礎データを追加したと同時に、広域評価手法の改良と開発から、その精緻化に寄与するものであった。

 

 東アジアの森林土壌におけるCH4N2O収支の評価に関する研究

 国内の森林におけるCH4吸収量とN2O発生量に関する研究は遅れており、測定実績が限られている。北海道と関東地方、琵琶湖周辺に限られていたCH4吸収、N2O生成フラックス観測を全国規模でおこない、そのフラックス形成メカニズムを解明することを目的とした。北海道から沖縄までに設置した30点以上の試験地においてCH4およびN2Oフラックス観測をおこなった。CH4平均吸収速度は、0.14mg-Cm-2d-1(沖縄・南明治山)から5.15mg-Cm-2d-1(加波山広葉樹林)の範囲を示した。北海道の観測値は1.57±0.85mg-Cm-2d-1と低く、本州以南は2.13±1.21mg-Cm-2d-1と高かった。各生態系間のCH4平均吸収速度は、表層5cmの土壌のCH4酸化能と高い正の相関を示した。東海地方の試験地の土壌において、CH4吸収量と水溶性アルミニウム濃度の間に負の相関、CN比との間に正の相関が認められた。土壌に1mM5mMのアルミニウム水溶液を添加した場合CH4吸収量が抑制され、5mMの抑制量の方が大きかった。この結果より、水溶性アルミニウムがCH4吸収量を抑制する物質のひとつであることが示された。また、山火事跡の土壌では水溶性アルミニウムが増加し、CH4酸化を抑制している可能性が示唆された。N2Oフラックスは地温の上昇にともない指数関数的に増加した。N2Oの年間放出量は流域によって0.030.8kg-Nha-1yr-1と大きく異なった。高N2Oフラックスの森林ほど土壌の硝酸態窒素濃度が高く、また深部にまで硝酸態窒素が到達していた。室内実験の結果から、高N2Oフラックス地では低N2Oフラックス地に比べると、窒素負荷に対してより鋭敏に反応し多くのN2Oを生成した。河川中の硝酸態窒素濃度とN2Oフラックスの間には正の相関が認められ、河川の硝酸態窒素濃度から流域スケールのN2O放出量推定する手法が有効であると考えられた。森林の窒素過剰に伴うN2Oの放出係数は3.1%と見積もられた。

 

(7)家畜及び家畜糞尿処理過程に由来するCH4N2O排出量推定の精緻化および排出抑制中核技術の汎用化と普及に関する研究

 家畜由来CH4排出量の簡易測定法として六フッ化イオウ(SF6)法を利用可能とするとともに、水牛からのCH4発生量を実測しインドネシア国の水牛からのCH4排出量の推定精度の精緻化を検討した。さらに、家畜排泄物の処理(汚水処理、堆肥化)過程から排出されるGHGの測定精度の精緻化と排出量削減技術について検討した。その結果、.船礇鵐弌舎,砲茲CH4の測定値(X)SF6法による値(Y)との問には、Y=1.08X r=0.93との関係が認められ、SF6法によりCH4発生量を推定できることが示された。⊃綉蹐らのCH4発生に関する係数(EF)10-12%と推定され、飼料構成により大きく異なることが示唆された。D禺疏道料(稲ワラ)を給与している水牛からのCH4発生量として34.2gkg-DMI-1を用いて、インドネシアの水牛からのCH4排出量を推定すると166Ggyear-1であり、インドネシアからのCH4排出量の約3.5%と試算された。け水処理過程から発生するCH4は投入汚水中の全有機体炭素の0.20.05%と極めて低かった。N2Oの放出は、20℃で従来法では処理窒素の約5%と高かったが、間欠曝気法では温度条件によらず投入汚水中の総窒素の0.04%に抑制され、間欠曝気法がCH4N2O排出抑制に効果のあることが確認された。ζ擇糧邂藾幹間中(8週間、20kg80kgの増体期間)に畜舎内で発生するCH4およびN2O量を汚水浄化と堆肥化処理を基本として糞尿処理を行うケースで算定すると、それぞれ270438g- CH4・頭-1および16.549.7g  N2O-N/-1となった。発生抑制には、N2Oについては間欠曝気法の適用、CH4については堆肥化を好気的条件で行うことが有効と考えられた。堆肥化過程から発生するN2Oは、現場で広く採用されている堆積型(投入窒素の3.95.9%を放出)と比べて強制通気型(投入窒素の約0.5%)では大きく低減し、堆積規模や日照などの要因により発生係数が六きく変動することも確認された。CH4の発生も堆肥型(投入有機物の0.240.28%〉と比べて強制通気型(通気量大で0.001%)で大きく低減すると考えられた。

 

(8)東南アジア地域における反芻家畜からのCH4発生の抑制の中核技術の汎用化と普及に関する開発

 東南アジア地域における実用性の高い反芻家畜からのCH4放出量低減技術を提示する目的で、高消化性品種の利用、穀類の併給および粗飼料の化学的処理について検討した。

高消化性の新品種として、暖地型牧草のギニアグラス「ナツコマキ」とトウモロコシ「ゆめそだち」を、既存品種として暖地型牧草のバヒアグラス「ペンサコーラ」とトウモロコシ「セシリア」をそれぞれホルスタイン種乾乳牛4頭ずつに給与し、CH4発生量を比較した。飼料中の可消化養分総量(TDN)含量は、新品種の方が210%高く、養分供給量が増加した。その結果、総CH4発生量および乾物摂取量(DMI)当たりのCH4発生量は、いずれも高消化性品種の方が少なく、消化性を改善した新品種の利用によるCH4発生量の低減が実証された。また、ホルスタイン種泌乳牛4頭に対し、イナワラ、イナワラに玄米または玄米とその他の穀類を給与し、牛からのCH4発生量ならびに泌乳量を測定した。その結果、穀類の増給1kgにつき乳量が約2kg増加し、牛乳1kg当たりのCH4発生量が約2.5L低減した。したがって、穀類の単価が乳価の2倍程度までであれば、穀類の使用に伴う支出増加よりも乳量の増加による収益増加が上回り、現在の東南アジア地域でも十分に利用可能であると考えられた。

 さらに、イナワラを原料に無添加のサイレージ、イナワラに尿素を原物あたり3%添加したサイレージおよび乳酸菌とセルラーゼの混合物を原物あたり0.0035%添加したサイレージをホルスタイン種乾乳牛4頭ずつに給与し、CH4発生量を比較した。その結果、化学的処理により乾物および可消化養分総量(TDN〉の摂取量当たりCH4発生量が少なくなった。これらの化学的処理により粗飼料の栄養価が高まり乳量が増加したことから、現状の乳価水準であれば経済的なメリットもあると判断された。

 以上の結果から、東南アジア地域の泌乳牛からのCH4発生量を抑制する給与技術としての高消化性品種の利用、穀類の併給および粗飼料への化学的処理は実用性が高く、経済的にも収入を増加させるので、現地に普及しうる技術であると考えられた。

 

(9)CH4N2O抑制対策中核技術の汎用化、普及手法の最適化とインベントリーの精緻化、充実化のための総合評価に関する研究

 本研究プロジェクトで検討されているCH4N2Oの排出抑制対策技術をモデルケースとし、温室効果ガスの費用対効果や削減ポテンシャルを算出し、間接影響も含め対策技術の適用可能性を総合評価する手法を開発した。まず、各対策技術に対する費用対効果を検討した結果、畜産における飼養技術の改良は、導入により収益も増加することがわかった。また「汚泥の燃焼方法の変更」「基肥の変更」では200300g-CO2・円-1、「補助燃料ガスの燃焼装置への吹き込み」「生活排水処理の変更」は10g-CO2・円-1未満となった。国内の削減ポテンシャルは、「乳牛の生産性向上」「肥育牛の生産性向上」「自動車触媒の改良」「汚泥の燃焼方法の変更」で1,000Gg.CO2を超えることが明らかになった。ここで、対策技術を実用性、適用性という観点から定量化が困難な波及効果等を考慮した総合評価手法を開発した。

 評価は、対策技術固有の特性を評価するフェーズと、受入地域の特性を評価するフェーズに分離し、前者では、「実施要件」「温暖化」「事業への影響」「環境影響」「経済・社会への影響」といった共通の評価項目それぞれに、35段階程度のポイントを与えて評価することとした。後者では、前者に対応する分野で評価項目を設定し、地域における問題の重要性をポイント化し、重み付けに利用し、地域における対策技術の価値を評価できるようにした。温暖化以外の影響も含めた総合評価では、公的統計の主成分分析から、「温暖化」「都市環境」「農業環境」「経済社会」について、86力国の地域における問題の重要度を示すポイントを算出した。日本と中国のポイントを用いて総合評価を行ったところ、両国とも「生活排水処理の変更」といったインフラ整備および環境改善に係る分野での評価が高いものとなり、「ポイント化と重み付けの手法」の導入により、対費用効果のみでは評価が困難であった地域特性を反映しつつ、温暖化以外の影響を含む総合評価の可能性が強化された。

 インベントリの精緻化・充実化を目的とした各排出源における排出係数の不確実性の評価を行うために、IPCCGood Practice Guidanceに示された不確実性評価を基礎とし、本プロジェクトの各サブテーマでの成果を導入することで、プロジェクトの推進により排出量推計の不確実性がどれだけ低減したかを評価するシステムを検討した。ここで、従来の排出量推計の不確実性は、一般に過小評価される傾向にあることから、過去の不確実性評価の結果と最新の研究成果に基づく不確実性評価を直接比較すると、研究の進展により不確実性が増大する可能性があり、最新の知見に基づいて過去の排出量推計の不確実性を再評価し、それを基準とした上で、研究成果の不確実性低減効果を評価することとした。これらにより、客観的な不確実性の比較評価が可能となった。また、本手法の開発を通じて、現在のIPCCの不確実性評価を用いた場合、今後の研究の進展によって低減されうる不確実性(測定誤差等)と、研究が進展しても低減されない不確実性(実際の分布の分散が大きい場合)が混同される、という課題も明らかになり、この低減される不確実性・低減されない不確実性について綿密に吟味する必要があることが明らかになった。

 

4.考察

 本研究ではCH4N2Oの排出が考えられる人為的排出源について、不確実性の高かった排出インベントリーの精緻化と排出抑制対策技術の開発およびこれらの評価手法の検討をアジア地域の開発途上国を視野において実施した。

 インベントリーの精緻化に関して、固定燃焼装置で排出係数の大きな汚泥焼却炉および鉱山からの詳細な排出特性、これまで排出係数に大きな誤差を与えていた自動車からの排出に与える環境因子の影響が明らかになった。農業分野では水田、畑地からの排出係数がアジア地域を含めて精査され、これまで不明確であった森林土壌からの排出係数が国内30カ所に上る測定点からの観測で整理された。また、家畜からの排出量推計に関してon siteで測定可能な簡易手法が開発され、アジア地域で大きな割合を占める水牛からの排出量推計が可能となった。廃棄物の分野では埋め立て履歴から精度の高い排出量の推計手法が明らかにされ、排水処理の手法に応じた排出係数の精緻化が図られた。特に本分野ではアジア地域の開発途上国で多用されているが、IPCC GuidelineにおいてもDefault値が不明確であった生態工学的排水処理手法からの排出に関して知見の集積が図られ、人為的排出源の多くの部分でインベントリーの充実化が成された。抑制対策手法の開発に関して、固定燃焼装置および自動車について触媒の性能が評価されたが、特に自動車では新しく普及しつつある排ガス用触媒がN2O削減に効率的であり、この触媒の普及により自動車からの排出量が大きく削減されることが予想された。農業分野では特に、東南アジア地域の乳牛飼育に注目して、現地で調達可能な飼料の変更による排出抑制手法が開発された。廃棄物分野では埋立地の覆土のCH4削減効果が評価された。また、排水処理において運転管理条件において富栄養化対策手法とGHG排出抑制手法が両立すること、および生態工学的手法において植裁の重要性が明らかになるなど実行可能な排出抑制手法の提示が図られた。

 さらに本研究では各サブテーマにおいて検討された排出抑制手法と新たに得られたインベントリーの総合的な評価を行う事を重要な位置づけとしていた。まず第一に各分野での抑制対策手法を対象として、本来目標の生産量等を加味した対費用効果を明らかにすると共に我が国における削減ポテンシャルを明らかにした。その結果、一部に対策手法の適用により生産量も増加すると行った関係も見いだされた。しかしながら、これらの評価にその適用が及ぼす影響について削減ポテンシャルだけでなく、本来目的への影響やその他、波及効果を含む幅広い視点から評価を行うために、関連する評価項目を抽出し、それぞれの評価基準を設定し、各項目における評価結果をポイント化し、さらに受入地域の経済状況等による重み付けを組み合わせることによる総合的評価手法を開発した。これらにより、対策技術と受入地域の特性を考慮しつつ、各サブテーマで開発されつつある対策技術に対して、単にCH4N2O削減量あるいは削減に係るコストだけではなく、当該対策技術の適用における社会経済的影響など国内外への適用に関する指標を数値化して示すことが出来た。これらの検討により、ポイント制による評価手法の客観性、現実性が確保され、実用化すべき対策技術の重点化を図る上で有用な支援ツールとなるものと考えられた。また、各排出源におけるインベントリー評価では、IPCCGood Practice Guidanceに示された不確実性評価を基礎とし、排出量推計の不確実性がどれだけ低減したかを評価するシステムを検討した。これらを基に排出量に関する知見の集積により充実化が図られたインベントリーの不確実性の改善効果を評価したが、今後の研究の進展によって低減されうる不確実性(測定誤差等)と、研究が進展しても低減されない不確実性(実際の分布の分散が大きい場合)が混同される、という課題も明らかになり、この低減される不確実性・低減されない不確実性について綿密に吟味する必要のあることが明らかになった。

 上記のように本プロジェクトでは3力年の研究推進によりCH4N2Oの人為発生源に対して、アジア地域を視野に入れた排出インベントリーの精緻化および実行可能な排出抑制手法の提示といった所期の目標を達成できたものと考えられた。

 

5.研究者略歴

 

課題代表者:稲森悠平

1947年生まれ、鹿児島大学大学院農学研究科修士課程修了、現在、環境省独立行政法人国立環境研究所 循環型社会形成推進・廃棄物研究センター バイオエコエンジニアリング研究室 室長

主要論文:

1) He, Y. W., Mizuochi, M., Kong, H. N., Inamori, Y. and Sun T. H. : Nitrous oxide emissions from aerated composting of organic waste, Environ. Sci. and Thech., 35, 232-238 (2001)

2) Park, K. Y., Lee, J. W., Inamori, Y., Mizuochi, M. and Ahn, K. H. : Effects of fill modes on N2O emission from the SBR treating domestic wastewater, Water Sci. Tech., 43, 147-150 (2001)

3) Kong, H. N., Kimochi, Y., Mizuochi, M. Inamori, R. and Inamori, Y. : Study on the characteristics of CH4 and N2O emission and method of controlling their emission in the soil trench wastewater treatment process, Sci. Total Environ., 290/1-3, 59-67 (2002)

 

主要参画研究者

(1)宮寺達雄

1948年生まれ、東京大学理学部卒業、現在、独立行政法人産業経済省資源環境技術総合研究所 エネルギー利用研究部門 燃焼反応制御研究グループ長

主要論文:

1) T. Miyadera : Selective reduction of NOx by ethanol on catalysts composed of Ag/A1203 and Cu/Ti02 without formation of harmful by-products, Appl. Catal. B, 16, 155-164 (1998) .

2) Y. Ukisu, T. Miyadera : Catalytic Dechlorination of PCDD/Fs under Mild Conditions, Organohalogen Compounds, 54, 119-122 (2001) .

3) T. Nobukawa, K. Kita, S. Ito, T. Miyadera, S. Kameoka, K. Tomishige, and K. Kunimori : Studies in Surface Science and Catalysis. 142. 557-564 (2002) .

 

(2)後藤雄一

1953生まれ、京都大学理部卒業、現在、国土交通省独立行政法人交通安全公害研究所 エミッション技術研究室長

主要論文:

1) 後藤、成澤:貨物用自動車液化天然ガス機関の燃料供給法に関する研究,自動車技術会論文集, 33,125-132(2002).

2) 後藤、佐藤 : 筒内直接噴射式天然ガス機関の燃焼改善と排気特性に関する研究−吸気絞りと排気再循環(EGR)の効果−, 日本機械学会論文集(B), 67,257-265(2001)

3) Y. Goto and Y. Tsukamoto : PM Measurement with Partial Dilution Tunnel - Influence of Sampling Line on PM Measurement - , 2001 SAE Fall Fuel & Lubricant Meeting, SAE Paper No. 2001-01-0737 (2002) .

 

(3)Preeti Dass(EFF)

1968年生まれ、インドヴィクラム大学博士課程修了、ヴィクラム大学環境計画、植物科学研究所、現在2001年度エコ・フロンテイア・フェロー

主要論文:

1) Billore, S. K., Singh, N., Sharma, J. K., Dass, P. and Nelson, R. M. : Horizontal subsurface flow gravel bed constructed wetland with Phragmites Karka in central India, Wat. sci. Tech., 40, 163-171 (1999)

2) Singh, N., Kaur, K., Dass, P. and Billore, S. K. : Greenhouse gas emission from municipal waste of Ujjain city, Central India, ANACON-98, Conference-Exposition on Analytical Sciencies & Instrumentation, Mumbai (1998)

3) Billore, S. K., Singh, N., Ram, H. K., Sharma, J. K., Singh, V. P., Nelson, R. M. and Dass, P. : Treatment performance of a molasses based distillery effluent in a biofilm-reed bed constructed wetlands in Central India, 7th International Conference on Wetland System for Water Pollution Control, Florida, USA (2000).

 

(4)桂 泙(EFF)

1967年生まれ、中国清華大学大学博士課程修了、清華大学水汚染防止研究所、現在2001年度エコ・フロンティア・フェロー

主要論文:

1) Huang, X., Gui, P. and Qian, Y. : Performanance of submerged membrane bioreactor for domestic wstewater treatment, Tsinghua Sci, and Tech., 5, 121-127 (2000)

2) Gui, P., Xu, K., Mizuochi, M., Inamori, R~., Tai, P., Sun, T. and Inamori, Y. : The emission of greenhouse gases from constructed wetland for wastewater treatment, 7th International Conference on Wetland System for Water Pollution Control, Florida, USA (2000)

3) Gui, P., Huang, X., Wang, C. and Qian, Y. : Influence of the operation parameters on membrane filtration, Environ. Sci., 20, 38-41 (1999)

 

(5)山田正人

1965年生まれ、京都大学大学院工学研究科博士後期課程修了、現在、環境省独立行政法人国立環境研究所循環型社会形成推進・廃棄物研究センター 主任研究員

主要論文:

1) Yamada, M., Ono, Y., and Somiya, S.: Accumulation of Freshwater Red Tide in a Dam Reservoir, Wat. Sci. Tech., 37, 211-218 (1998).

2) 小野芳朗・山田正人・宗宮功・小田美光 : 焼却廃棄物中の窒素化合物による遺伝毒性, 廃棄物学会論文誌,9,115-122(1998)

3) 松井康弘,山田正人,井上雄三,河村清史,田中 勝 : し尿・浄化槽汚泥等の液状廃棄物処理施設のライフサイクルインベントリー分析, 土木学会論文集, 706/VII-23,19-29(2002)

 

(6)中島英一郎

1959年生まれ、東京工業大学工学部卒業、現在、国土交通省国土技術政策総合研究所 下水道研究部 下水処理研究室長

主要論文:

1) 高島英二郎、中島英一郎、中田穂積、石川泰裕、久保田勝一、苧木新一郎 : 都市における水辺環境の形成、下水道協会誌, 35(1998)

2) 中島英一郎 : 下水処理水の安全性評価に対する取組み、下水道協会誌, 39(2002)

3) 川嶋幸徳、中島英一郎、平出亮輔 : 下水道事業の評価へのLCA導入に向けた国土交通省の取組み、環境工学研究講演集、第38回環境工学フォーラム(2001)

 

(7〉八木一行

1959年生まれ、名古屋大学大学院理学研究科博士前期課程修了、現在、独立行政法人農業環境技術研究所 温室効果ガスチーム長

主要論文:

1) Yagi, K.: Mitigation options for methane emissions in rice, In ‘Encyclopedia of Soil Science’ , edited by R.LaI, Marcel Dekker, Inc., 814-818 (2002)

2) Yan X., Hosen, Y. & Yagi, K.: Nitrous oxide and nitric oxide emissions from maize field plots as affected by N fertilizer type and application method. Biol. Fertil. Soils, 34, 297-303 (2001)

3) Yao, H., Yagi, K., and Nouchi, L: Importance of physical plant properties on methane transport through several rice cultivars, Plant and Soil, 222, 83-93 (2000)

 

(8)石塚成宏

1966生まれ、東京大学農学部部卒業、現在、農水省森林総合研究所 北海道支所 土壌化学研究室研究員

主要論文:

1) Ishizuka, S., Sakata, T. and Ishizuka, K. : Methane oxidation in Japanese forest soils. Soil Biol. and Biochem. 32, 769-777 (2000)

2) 石塚成宏・阪田匡司・谷川東子・石塚和裕:落葉広葉樹林におけるN2O生成とその空間的異質性,日本林学会誌 82, 62-71 (2000)

3) Ishizuka, S., Tsuruta, H., and Murdiyarso, D.: An intensive field study on CO2, CH4 and N2O emissions from soils at four land-use types in Sumatra, Indonesia, Global Biogeochem. Cycles, 16 , 1049-1056 (2002) .

 

(9)寺田文典

1955年生まれ、東北大学農学部卒業、現在、農水省独立行政法人畜産草地研究所 家畜生理栄養部 反すう家畜代謝研究室長

主要論文:

1) Shibata, M., F.Terada, M.Kurihara, T.Nishida, K.Iwasakki : Estimation of methane production in ruminants. Anim.Sci.Technol. (Jpn.), 64:790-796 (1993)

2) 寺田文典・栗原光規・西田武弘・塩谷 繁:泌乳牛における窒素排泄量の推定,日本畜産学会報, 68,163-168(1997)

3) M Islam, H Abe, Y Hayashi, F Terada : Effects of feeding Italianrygrass with com on rumen environment, nutrient digestibility, methane emission, and energy and nitrogen utilization at two intake levels by goats. Small Ruminant Research, 38, 165-174 (2000)

 

10)塩谷 繁

1959年生まれ、新潟大学農学部卒業、現在、農水省独立行政法人九州沖縄農業研究センター畜産飼料作研究部 環境生理研究室長

主要論文:

1) Shioya, S., Tanaka, M., Iwama, Y. and Kamiya, M. : Proc.GGAA,346-349 (2001)

2) Shioya, S., Kamiya, M., Iwama, Y. and Tanaka, M. : Kyushu Agri. Res.,Vo164,103 (2002)

3) Shioya, S., Kamiya, M., Iwama, Y. and Tanaka, M. : Kyushu Agri. Res.,Vo164,134 (2002)