課題名

H-3 中国における土地利用長期変化のメカニズムとその影響に関する研究

課題代表者名

大坪 国順 (環境省国立環境研究所水土壌圏環境部上席研究官)

研究期間

平成10−12年度

合計予算額

77,259千円(うち12年度 22,612千円)

研究体制

(1) 地図化手法による中国の土地利用長期変化予測に関する研究

(国立環境研究所、地質調査所、システム総合研究所、山梨大学教育人間科学部)

(2) 衛星画像とGIS手法を用いた華東地域の都市拡大に伴う土地利用変化に関する研究

(中華人民共和国武漢測絵科技研究所、国立環境研究所、東京大学大学院農学生命科学研究科)

(3) 北部・東北部地域における土地利用が環境に及ぼす悪影響に関する研究

(中華人民共和国水文地質工程地質研究所、地質調査所)

(4) 中国北部・東北部地域の持続可能診断用ディジタル地図セットの構築に関する研究

(中国科学院自然資源総合考察委員会、国立環境研究所、北海道教育大学旭川校)

研究概要

1.序(研究背景等)

 本研究課題はLU/GECLand Use for Global Environmental Conservation)プロジェクトの第2期に位置付けられるものである。LU/GECの最終目標は、アジア・太平洋地域における持続可能な土地利用のあり方を検討し、土地利用の観点から地球環境保全のための適切な政策オプションを提案することにある。LU/GECは、IGBP/IHDPの共同コアプロジェクトであるLUCCのサイエンスプランに沿ったアジア地域の土地利用・被覆変化プロジェクトとして、LUCC Research Projectsに認定された。本研究はLU/GEC2期として、中国に対象地域を絞って、土地利用長期変化のメカニズムの解明と予測される土地利用変化に帰因する環境影響を明らかにしようとするものである。LU/GEC1期の研究成果から言えることは、\府の食糧自給政策のため、経済の急発展にも関わらず、耕作地面積は全国的には微減傾向で留まり、⊃邑増加による食糧需要の増大分は、単収の増加によりカバーされてきた。将来は、中国全体で、都市的利用地は増加、草原は減少、耕作地は微増という予測結果となったが、これは土地生産性に限界値を設定していないこと、都市化に食われた耕作地分は草原が耕作地に転換されると仮定したためと考えられる。

 今回、北部・東北部地域と華東地域を研究対象に選んだ理由は、仝獣歪敢困ら、耕作地が減ったのは華北、華東、広東省の経済発展地域で、草原が耕作地に転換されたのは北部・東北部地域であること、∈8紊気蕕謀垰垈修進み、農業生産性もそろそろ限界値に近づいていること、森林保護政策のため増大する人口を自前で賄うためには大規模な草原の農地への転用が予想されることなどで、い茲辰董∨棉堯ε賈棉地域には草原が広く分布するので有力な研究対象候補であり、イ泙拭農地への転用が必要な面積は、米倉の地域での今後の穀物生産減少量と密接に関係するので、米倉地域として華東地域も重要な研究対象となる。

 

2.研究目的

 本研究課題の目的は、次の3つである。|羚颪留茣瀉楼茵米辰鵬敕戝楼茵砲繁棉堯東北部地域に対象を絞り、両地域の何処で、どのような土地利用変化が起こったか、それは何故かを定量的に解析する。⇔消楼茲砲いて中長期的にどのような持続性を阻む現象が起こるかを予測し、2kmメッシュの地図上に表示する。E攵躪喃僉∈叔化等の環境破壊を回避し持続性のある土地利用を模索した場合のグローバルな食糧供給の面での影響を検討する。

 本研究課題の特徴は、次の3つである。‥效詫用変化に関して、中国の持続的な場所を選定して集中的にケース・スタディを行うこと。地図上に何処で何が起こるかを表示出来る(Georeferenced)アプローチ採用すること。9颯譽戰襪亮匆顱Ψ从囘な因子が特定地域の社会・経済的かつ自然科学的問題を誘発し、それが国さらにはグローバルにフィードバックされる問題を取り扱うことである。

 食糧自給の観点から3つのシナリオがある。)棉堯ε賈棉瑤料雜兇涼藁蓮蔽碓面明囘たりの穀物生産力)が十分大きければ、将来的にも食糧自給は可能かもしれない。△靴し、草地の地力が小さい場合は、華東地域で消滅した耕地面積の数倍の面積を大々的に開墾するか、さもなければ大量輸入せざるをえない(穀物自給政策の転換)。よって、以下を実施する。)棉堯ε賈銘楼茲料霖呂涼藁亙布を、気候、土壌、水分条件から定量化する。地下水資源の涸渇に問題に絞って環境問題を検討する。持続的土地利用のために自給政策を転換した場合、必要穀物輸入量の定量化とその供給元を検討する。

 

 

3.研究の内容・成果

(1)地図化手法による中国の土地利用長期変化予測に関する研究

1)20kmメッシュ地図を用いた中国全体を対象とした食糧生産量と需給量のバランスの解析

 中国全域における1990年代と1925年代の食糧生産量と消費量のアンバランスについの分布を20kmメッシュで検討した。まず、生産量算定の基礎となる耕地面積を評価するために、自然条件から決まる中国全土の潜在耕地分布のマップを20劵瓮奪轡綫催戮悩鄒するとともに、各省における土地利用変化の方向性を解析し、メッシュ毎の土地利用変化を取り扱えるモデルを開発した。一方、消費量算定の基礎データとして、1990年代と2025年代までの人口分布を20劵瓮奪轡綫催戮膿篦蠅靴拭1990年代の生産量分布については、県単位で得られている農業センサスデータを基に人口偏在配分法を適用して20kmメッシュに配分した。一方、需要分布については、県単位で穀物毎の消費量を見積、同じく人口偏在配分法で20kmメッシュに配分した。これらを基に生産量と消費量から見た食糧のバランスマップを作成し、その背景や傾向を検討した。2025年代の生産量分布については、2025年代の生産量と分布の予測については、省毎に生産量を予測し、1990年代の生産量分布を基に20kmメッシュに配分した。消費量については、シナリオで与えた2025年代の一人当たりの食物摂取量と先に求めた人口分布予測図を基に20kmメッシュ図を作製した。これらを基に2025年代の生産・消費バランスマップを作製した。

 また、メッシュ間の食糧の移出入を考慮した場合の各メッシュの食糧需供バランスについても考慮した。市場メカニズムを導入した場合、中国全体で見れば生産量が需要量を上回っていても経済発展が著しい地域に食糧の偏在化が進む可能性が示された。

2)2kmメッシュ地図を用いた問題地域の土地利用変化の予測

 華東地域としては都市拡大のメカニズムを精査するために蘇州市(city)、錫山市(municipality)、錫山市内の4つの建制鎮(administrative town)の各レベルでの都市域拡大に関する現地調査を行った。都市拡大に関する統計資料、地図、衛星画像、インタビューを通じて各レベルでの都市拡大要因を解析し、サブテーマ2の華東地域での都市拡大モデルの基礎資料とした。

 北部・東北部としては、東北部の三省(遼寧、吉林、黒竜江)を対象として、県(county)レベルの統計データを用いて土地利用変化の時間的・空間的変化特性を抽出し、土地利用変化と社会経済的因子との関係を分析した。その分析結果を考慮して大都市郊外の土地利用変化と農村地区の土地利用変化のモデル化を行った。モデル化に必要なデータ・知見を収集するために現地調査を上記三省に対して実施し、農業発展に対する郷(村)レベルでの指導者の役割、技術移転の重要さが浮き彫りとなった。

(2)衛星画像とGIS手法を用いた華東地域の都市拡大に伴う土地利用変化の解析に関する研究

 衛星データ、現地調査、人口動態および都市計画資料を基に、土地利用変化(都市拡大、優良農地減少)プロセスを解析し、企業活動の活発化に伴う人口増加に誘発される人口移動・集中−都市地域拡大−農地減少予測モデルを構築した。開発したモデルと米生産性と一人当たり米摂取量に関する中国側の設定値を用いて、華東地域における2020年次の米の生産・消費量のバランスマップを作成した。

 華東地域の中小都市の拡大モデルとしては拡散モデルを適用した。即ち、都市人口の拡がりを外部からの人口の流出入がある拡散現象と捉えて、その拡がりから都市拡大を見積もるという方法である。1975198019851990年のランドサットTMデータから解析した都市面積拡大の経年変化と統計資料の解析結果から、拡がりの程度を支配する拡散係数が郷鎮企業生産量および都市の属する県の面積の関係式を見い出した。都市拡大の将来予測は、人口とGDP成長(郷鎮企業の成長)についての過去のトレンドがそのまま続くというシナリオのもとで計算された。開発した人口分布モデルと都市拡大モデルを蘇州市に適用し、過去から現在までの蘇州市の都市拡大の経年変化を再現性を確認した上で、華東域全域にモデルを適用した。

(3)北部、東北部地域における土地利用が環境に及ぼす悪影響に関する研究

 河北平原は半乾燥の気候区に属している。今後、土地利用の度合が益々高くなり、水資源の需要は増加し続けると考えられる。水資源の確保は21世紀の農工業発展のキーポイントになると考えられる。本研究では、地下水のパラメータを正確に把握して地下水収支の解析を行うと共に、浅層と深層の地下水流動に関する数学モデルを構築して地下水賦存量(資源量)の変動予測を行った。

 収集した資料に基づいた1980年代の収支計算結果によれば、河北平原の浅層地下水涵養量は、年間合計101.14x108tで降水の浸透が主な涵養源であり、年間消失(排出)量は合計105.2x108tで、主に地下水の揚水による。帯水層貯留量の年間変化量は3.88x108tとなり若干の地下水位の低下が起こっている。

 浅層と深層の地下水流動に関する数学モデル中の一部のパラメータについては、1985年から5年間の地下水位変動を最もよく再現するように決めた。そのパラメータ値を用いて、1990年以降の地下水位変動を計算して再現性をチェックし、本モデルが河北平原における地下水位分布の将来予測に適用できることを確認した上で、2030年までの地下水揚水シナリオに与えて、河北平原の浅層及び深層の地下水位(水頭)の将来変化を予測した。計算結果によれば、揚水量を今後ゼロとしたシナリオの場合、平原中央部と沿岸域では、10年後には地下水位が回復して3m前後で一定となるが、平原西部では回復に30年はかかる結果となった。揚水量を1994年の実績で一定としたシナリオや揚水量増加のトレンドがこのまま伸びるシナリオの場合には、2030年には平原西部では人口100200万人の都市を中心に浅層・深層両帯水層が、また平原東部では深層帯水層が深刻な事態を迎えることが懸念され結果となった。一方、平原中央部と沿岸域における適量の浅層自由地下水の揚水は、この地域の土壌の塩類化防止に有効であると考えられた。

(4)中国北部・東北部地域の持続性可能診断用デジタル地図セットの構築に関する研究

 中国北部・東北部は、中国の主要な食糧生産基地の一つである。本地域における土地生産性の維持もしくは向上は、21世紀の中国の食糧需給や持続的な農業発展にとって非常に重要なことと考えられる。本研究では、この地域における地形、気象、土壌、土地被覆および土地利用等の1-kmデジタル地図セットを含む土地生産性地理情報システム(GIS)を構築した。このシステムは1kmメッシュでの気象、土地利用、土壌、土壌水分等一連のデジタルマップと、種々の制限因子下での土地潜在生産性を評価する一連のサブモデルとを含んでいる。これらを基に水分不足指数などいくつかの有効係数を求める新たなモデルを開発し、それぞれ制限条件下での各主要食糧作物の潜在生産性、即ち、光合生産性、光温生産性、気候生産性、および土地生産性など及び可能増産量を推定し、1kmメッシュデジタルマップを作成した。

 その結果から以下のことが分かった。(ア)土地潜在生産性から見ると、東北地域の東部平原区はイネ、中部はトウモロコシ、北部と東部山区はダイズの最適栽培区である。(イ)増産可能量から見ると、温度条件の改善による増産可能量は南西から北東へ次第に減少する。(ウ)水分条件の改善による増産可能量は西部の乾燥地域と東南部の低湿地域で大きいが、中部平原区で小さい。(エ)農業技術の改善による増産可能量の分布は複雑であるが、全般的に東から西へ、北から南へ増大する。(オ)1979-1996年の間の収穫量の増加傾向から、当該地域の全域にわたって光温生産性を実現するのには50-60年を要すると見積もられた。

 また、ほぼ全域で土地潜在生産性が1996年の実生産高より高いという結果を踏まえて、未開発地の合理的な開墾、水使用効率の改良、土壌栄養の保持法などについていくつかの提案を行った。

 

4.考察

(1)地図化手法による中国の土地利用長期変化予測に関する研究

1)20kmメッシュ地図を用いた中国全体を対象とした食糧生産量と需給量のバランス解析

 中国全土の主要三穀物(米、小麦、とうもろこし)の生産量と消費量のバランスを見積もったところ、1990年代も2000年代も全体としては生産量が消費量を上回る結果となった。特に2025年代も生産量が大きく上回る結果となったのはレスター・ブラウンなどの予測とは異なるが、主な要因は、一人当たりの消費量の見積の違いと考えられる。FAOIIASAの研究でも、経済発展に伴い嗜好品の消費は増えるが、穀物消費は減少する結果となっており、今回はこのようなシナリオを用いている。いづれにしても、中国における今後の食生活のパターンの動向を精度良く予測することが重要となる。なお、今回、2025年代でも中国においては生産量が消費量を上回る結果となり、食糧自給政策を転換する必要性はないことになり、その影響については検討しなかった。

2)2kmメッシュの地図を用いた問題地域の土地利用変化の予測

 華東地域(長江最下流域)での都市域拡大のメカニズムを明らかにしたが、本地域では経済発展と都市域拡大の諸因子がうまく絡み合って好循環(good cycle)が生じたことが明らかとなったが、この好循環が中国の他の地域でも生じうるかは、今後の検討が必要である。

 東北部地域での農業発展は目覚ましいものがあるが、その多くは未利用地の開墾と生産性拡大努力で実現されたもので、野生生物等の棲息環境保全とはトレード・オフの関係にある。その他いくつかの点で、長期的には環境悪化が懸念される潜在的要因が見受けられる。

(2)衛星画像とGIS手法を用いた華東地域の都市拡大に伴う土地利用変化の解析に関する研究

 本地域では、研究当初予想した程の都市域拡大に帰因する穀物供給の不足の予測結果とはならなかった。その理由は、食糧生産のための農地面積の減少量がそれほどでもなかったこと、穀物生産性の継続的向上を仮定したことなどによる。前者については、野菜や果実栽培のための農地転換の影響を考慮する必要がある。

(3)北部・東北部地域における土地利用が環境に及ぼす影響に関する研究

 河北平原の水資源の涸渇問題はこのまま行けば深刻な事態に陥るのはほぼ間違いないと思われる。南水北調計画はこの問題を解消するねらいもあると考えられるが、大規模な導水事業による新たな環境問題の発生はアラル海を始め世界各地で見られることであり、十分な事前アセスメントの必要性を強調したい。また、別の持続的水利用の道を探る研究も重要となろう。

(4)中国北部・東北部地域の持続性可能診断用ディジタル地図セットの構築に関する研究

 北部・東北部地域について穀物毎に潜在生産性を1kmメッシュ精度で詳細に評価した。穀物毎に可能増産量のマップを作製するためには、穀物毎の実生産量の詳細な分布図が必要となるが、現時点では県単位(数十kmメッシュ)の粗いデータしか整備されていない。今後は、郷鎮レベルでの穀物毎の生産量のデータベースの整備が必要と考えられる。

5.研究者略歴

課題代表者:大坪国順

1951年生まれ、信州大学大学院終了、京都大学工学博士、

現在、環境省国立環境研究所水土壌圏環境部上席研究官

主要論文:・Edition "Land Use for Global Environmental Conservation (LU/GEC)-

            Final Report of the LU/GEC First Phase (1995-1997) -, CGER -I032-'99, (1999).

     ・Edition "LU/GECプロジェクト報告書 V", CGER-REPORT, CGER-I038-'99, P.167, (1999).

     ・Infuluence of Intensive Land Use on Groundwater Resources in the Hebei Plain, China, Land Use and Cover Change, Science Publisher Inc., 225-237, (2001).

 

サブテーマ代表者:

(1):大坪国順(同上)

 

(2):李 霖(リ・リン)

1960年生まれ、武漢測絵科技大学博士課程修了

平成1011年度 エコ・フロンティア・フェロー

現在、中国武漢測絵科技大学教授

主要論文:・Data Aggregation on Spatial Objects. in "Proceedings of 'Geoinformatics'96 Wuhan' International Symposium" , 214-222, (1996).

     ・Map Design System based on Interactive Environment, in

       "Remote Sensing in China" , 318-324, (1996).

 

(3):張 兆吉(ザン・ザオジ)

1963年生まれ、張春地質学院総合情報鉱産予測研究所博士課程修了

平成1012年度 エコ・フロンティア・フェロー

現在、中国地質鉱産部水文地質工程地質研究所

主要論文:・中国モウス砂漠における土壌の反射率と水分量に関する現地実験ハイドロロジー、日本水文科学会誌、(1996).

     ・中国の河北平原における地下水資源の現状と将来予測、土木学会水工学論文集、第45巻、361-366, (2001).

     ・中国河北平原における過度な土地利用活動が地下水資源へ及ぼす影響、環境科学会誌、14(3), 297-304, 2001.

 

(4):王 勤学(ワン・クゥインエ)

1965年生まれ、北海道大学大学院地球環境科学研究科博士課程修了

平成1012年度 エコ・フロンティア・フェロー

現在、中国科学院自然資源総合考察委員会 研究員

主要論文:・肖 平・王 勤学、中国における1949年以降の食糧生産の変化とその要因、地理学評論、(1999).

     ・中国における砂塵あらしの増加と土地利用変化、土木学会誌、vol. 85, 64-67, 2000.

     ・Relationship between Agricultural Land Use Change and Socioeconomic Factors in North-East China in Recent Decades, Land Use and Cover Change, Science Publisher Inc., 239-246, (2001).