第3章目次に戻る平成16年度(2004年度)版 「化学物質と環境」
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[3]ドリン類(アルドリン、ディルドリン、エンドリン)
【平成15年度調査媒体:水質、底質、生物、大気】
  
調査の経緯及び実施状況
 

 ドリン類は有機塩素系殺虫剤として使われてきた。
 アルドリンは、日本では土壌害虫の駆除に使用されていたが、昭和46年以降実質的に使用は中止された。農薬取締法に基づく登録は昭和50年に失効し、昭和56年10月には化学物質審査規制法に基づく第1種特定化学物質に指定され、製造、販売、使用が禁止となり、その使用が全面的に制限されることとなった。

 

 ディルドリンの農薬としての使用は、昭和30年代がピークであったと言われ、昭和46年に農薬取締法に基づく土壌残留性農薬に指定され使用範囲が制限され、昭和48年には同法に基づく登録が失効した。しかし、ディルドリンはその後も白蟻防除剤として使われていた。昭和56年10月、化学物質審査規制法に基づく第1種特定化学物質に指定され、農薬としての規制と併せて、その使用が全面的に中止されることとなった。

 

 エンドリンは、殺虫剤、殺鼠剤として利用されたが、昭和51年に農薬取締法に基づく登録は失効した。昭和56年10月に化学物質審査規制法に基づく第1種特定化学物質に指定され、製造・販売・使用が禁止となり、農薬としての規制と併せて、その使用は全面的に制限された。

 

 過去の本件調査において、ディルドリンは「生物モニタリング」で昭和53年度から平成8年度までの毎年と平成10、12、13年度に生物媒体(貝類、魚類、鳥類)について調査を実施し、「水質・底質モニタリング」で水質は昭和61年度から平成10年度まで、底質は昭和61年度から平成13年度の全期間に亘って調査を実施している。また、アルドリン及びエンドリンは「生物モニタリング」で貝類、魚類及び鳥類について昭和53年度から平成元年度までの毎年と平成3、5年度に調査を実施している。

 

 環境省内の他調査としては、「環境ホルモン戦略計画SPEED’98」(1998年5月。2000年11月改訂)に基づいた「内分泌撹乱化学物質に係る環境実態調査」2) において平成10年度以降調査を実施している。

 
  環境省内の他調査の結果
 
調査結果

 平成15年度のモニタリング調査において、ドリン類は多くの環境媒体から検出された。
 アルドリンの測定結果は、水質で nd~3.8 pg/L(幾何平均値 0.9 pg/L)、底質で nd~1,000 pg/g-dry(同 17 pg/g-dry)、貝類で nd~51 pg/g-wet(同 tr(1.6) pg/g-wet)、魚類で nd~tr(1.9) pg/g-wet(同 nd)、鳥類で不検出、大気で温暖期 nd~28 pg/m3 (同 1.5 pg/m3)、寒冷期 0.030~6.9 pg/m3 (同 0.55 pg/m3)であった。
 ディルドリンの測定結果は、水質で 9.7~510 pg/L(幾何平均値 57 pg/L)、底質で nd~9,100 pg/g-dry(同 59 pg/g-dry)、貝類で 46~78,000 pg/g-wet(同 410 pg/g-wet)、魚類で 29~1,000 pg/g-wet(同 210 pg/g-wet)、鳥類で 790~2,200 pg/g-wet(同 1,300 pg/g-wet)、 大気で温暖期 2.1 ~260 pg/m3(同 19 pg/m3)、寒冷期 tr(0.82)~110 pg/m3(同 5.7 pg/m3)であった。
 エンドリンの測定結果は、水質で 0.7~78 pg/L(幾何平均値 5.7 pg/L)、底質で nd~29,000 pg/g-dry(同 11 pg/g-dry)、貝類で 6.3~5,000 pg/g-wet(同 36 pg/g-wet)、魚類で nd~180 pg/g-wet(同 14 pg/g-wet)、鳥類で 5.4~96 pg/g-wet(同 21 pg/g-wet)、大気で温暖期 0.081~6.2 pg/m3(同 0.74 pg/m3)、寒冷期 0.042~2.1 pg/m3(同 0.23 pg/m3)であった。

 
評価
 アルドリン
 

 水質及び底質は、平成14年度からモニタリングを開始したため残留状況の傾向は判断できないが、広範な地点で残留が認められる。

アルドリン 実施
年度
幾何
平均値
中央値 最大値 最小値 定量 [検出]
下限値
  検出頻度
検体 地点
水質
(pg/L)
14 0.69 0.90 18 nd 0.6   [0.2]   93/114 37/38
15 0.9 0.9 3.8 nd 0.6   [0.2] 34/36 34/36
底質
(pg/g-dry)
14 12 12 570 nd 6   [2] 149/189 56/63
15 17 18 1,000 nd 2   [0.6] 178/186 60/62
 

  貝類は、平成5年度まで検出下限値(1,000 pg/g-wet)未満であり、平成6年度から平成13年度は調査を実施しなかった。平成14年度は定量下限値 4.2 pg/g-wet、検出下限値 1.4 pg/g-wet、平成15年度は定量下限値 2.5 pg/g-wet、検出下限値 0.84 pg/g-wetにおいて同等の濃度水準で検出された。過去の検出下限値が高いため残留状況の傾向の判断は困難であるが、残留が認められる。

  魚類は、平成5年度までほとんどが検出下限値(1,000 pg/g-wet)未満であり、平成6年度から平成13年度は調査を実施しなかった。平成15年度は定量下限値 2.5 pg/g-wet、検出下限値 0.84 pg/g-wetにおいて、定量下限値未満ながら16地点から検出された。過去の検出下限値が高いため残留状況の傾向の判断は困難であるが、残留が認められる。

  鳥類は、昭和53年度に検出されて以降、平成5年度まで検出下限値(1,000 pg/g-wet)未満であり、平成6年度以降未調査であったため残留状況の傾向は判断できない。平成14年度、平成15年度はともに不検出であった。

アルドリン 実施年度 幾何
平均値
中央値 最大値 最小値 定量 [検出]
下限値
  検出頻度
検体 地点
貝類
(pg/g-wet)
14 tr(1.7) nd tr(34) nd 4.2 [1.4]   12/38 4/8
15 tr(1.6) tr(0.85) 51 nd 2.5 [0.84] 15/30 3/6
魚類
(pg/g-wet)
14 nd nd tr(2.0) nd 4.2 [1.4] 1/70 1/14
15 nd nd tr(1.9) nd 2.5 [0.84] 16/70 7/14
鳥類
(pg/g-wet)
14 nd nd nd nd 4.2 [1.4] 0/10 0/2
15 nd nd nd nd 2.5 [0.84] 0/10 0/2

 大気は、平成14年度からモニタリングを開始したため残留状況の傾向は判断できないが、広範な地点で残留が認められる。

アルドリン 実施年度 幾何
平均値
中央値 最大値 最小値 定量 [検出]
下限値
  検出頻度
検体 地点
大気
(pg/m3)
14 tr(0.030) nd 3.2 nd 0.060 [0.020]   41/102 19/34
15寒冷期 0.55 0.44 6.9 0.030 0.023 [0.0077] 34/34 34/34
 
 ディルドリン
 

 水質は、平成13年度まで検出下限値(10,000 pg/L程度)未満であった。平成14年度は定量下限値 1.8 pg/L、検出下限値 0.6 pg/L、平成15年度は定量下限値 0.7 pg/L、検出下限値 0.3 pg/Lにおいて全地点で検出された。過去の検出下限値が高いため残留状況の傾向の判断は困難であるが、広範な地点で残留が認められる。

ディルドリン 実施年度 幾何
平均値
中央値 最大値 最小値 定量 [検出]
下限値
  検出頻度
検体 地点
水質
(pg/L)
14 41 41 940 3.3 1.8 [0.6]   114/114 38/38
15 57 57 510 9.7 0.7 [0.3] 36/36 36/36
 

 底質は、平成13年度までほとんどが検出下限値(1,000 pg/g-dry程度)未満であった。平成14年度は定量下限値 3 pg/g-dry、検出下限値 1 pg/g-dry、平成15年度は定量下限値 4 pg/g-dry、検出下限値 2 pg/g-dryにおいて全地点、ほとんどの検体から検出された。過去の検出下限値が高いため残留状況の傾向の判断は困難であるが、広範な地点で残留が認められる。

ディルドリン 実施年度 幾何
平均値
中央値 最大値 最小値 定量 [検出]
下限値
  検出頻度
検体 地点
底質
(pg/g-dry)
14 63 51 2,300 4 3   [1]   189/189 63/63
15 59 56 9,100 nd 4   [2] 184/186 62/62
 

 貝類及び魚類は、調査開始当初から最近に至るまで残留状況は減少傾向にあるが、平成14年度は定量下限値 12 pg/g-wet、検出下限値 4 pg/g-wet、平成15年度は定量下限値 4.8 pg/g-wet、検出下限値 1.6 pg/g-wetにおいて全地点・全検体から検出され、依然として広範な地点で残留が認められる。

 

 鳥類は、地点数が2地点と少ないことに加え調査地点の変更もあり、調査開始当初からの残留状況の傾向の判断は困難である。近年の残留状況は横ばい傾向であり、依然として残留が認められる。

ディルドリン 実施年度 幾何
平均値
中央値 最大値 最小値 定量 [検出]
下限値
  検出頻度
検体 地点
貝類
(pg/g-wet)
14 490 390 190,000 tr(7) 12  [4]   38/38 8/8
15 410 160 78,000 46 4.8 [1.6] 30/30 6/6
魚類
(pg/g-wet)
14 280 270 2,400 46 12  [4] 70/70 14/14
15 210 200 1,000 29 4.8 [1.6] 70/70 14/14
鳥類
(pg/g-wet)
14 1,200 1,100 1,700 820 12  [4] 10/10 2/2
15 1,300 1,400 2,200 790 4.8 [1.6] 10/10 2/2
 

  大気は、平成14年度からモニタリングを開始したため残留状況の傾向は判断できないが、広範な地点で残留が認められる。

ディルドリン 実施年度 幾何
平均値
中央値 最大値 最小値 定量 [検出]
下限値
  検出頻度
検体 地点
大気
(pg/m3)
14 5.6 5.4 110 0.73 0.60 [0.20]   102/102 34/34
15寒冷期 5.7 5.2 110 tr(0.82) 2.1 [0.70] 34/34 34/34
 
 エンドリン
 

 水質及び底質は、平成14年度からモニタリングを開始したため、残留状況の傾向は判断できないが、広範な地点で残留が認められる。

エンドリン 実施
年度
幾何
平均値
中央値 最大値 最小値 定量 [検出]
下限値
  検出頻度
検体 地点
水質
(pg/L)
14 4.7 5.5 31 nd 6.0 [2.0]   101/114 36/38
15 5.7 6.0 78 0.7 0.7 [0.3] 36/36 36/36
底質
(pg/g-dry)
14 9 10 19,000 nd 6   [2] 141/189 54/63
15 11 11 29,000 nd 5   [2] 150/186 53/62
 

 貝類は、平成5年度まで検出下限値 1,000 pg/g-wet において特定地域で検出されていたが、平成6年度以降未調査であった。平成14年度は定量下限値 18 pg/g-wet、検出下限値 6 pg/g-wetにおいて大部分の地点から検出され、平成15年度は定量下限値 4.8 pg/g-wet、検出下限値 1.6 pg/g-wetにおいて全地点・全検体から検出されたことから、他の地域にも広範に残留していることが認められた。

 魚類は、平成5年度までほとんどが検出下限値(1,000pg/g-wet程度)未満であり、平成6年度以降未調査であった。平成14年度は定量下限値 18 pg/g-wet、検出下限値 6 pg/g-wetにおいて多くの地点・検体から検出され、平成15年度は定量下限値 4.8 pg/g-wet、検出下限値 1.6 pg/g-wetにおいて全地点・全検体から検出された。過去の検出下限値が高いため残留状況の傾向の判断は困難であるが、広範な地点で残留が認められる。

 鳥類は、平成5年度まで検出下限値(1,000 pg/g-wet程度)未満であり、平成6年度以降未調査であった。平成14年度は定量下限値 18 pg/g-wet、検出下限値 6 pg/g-wetにおいて多くの地点・検体から検出され、平成15年度は定量下限値 4.8 pg/g-wet、検出下限値 1.6 pg/g-wetにおいて全地点・全検体から検出された。過去の検出下限値が高いため残留状況の傾向の判断は困難であるが、残留が認められる。

エンドリン 実施年度 幾何
平均値
中央値 最大値 最小値 定量 [検出]
下限値
  検出頻度
検体 地点
貝類
(pg/g-wet)
14 44 27 12,000 nd 18  [6]   35/38 7/8
15 36 21 5,000 6.3 4.8 [1.6] 30/30 6/6
魚類
(pg/g-wet)
14 19 24 180 nd 18  [6] 54/70 13/14
15 14 10 180 nd 4.8 [1.6] 67/70 14/14
鳥類
(pg/g-wet)
14 22 52 99 nd 18   [6] 7/10 2/2
15 21 30 96 5.4 4.8 [1.6] 10/10 2/2
 

 大気は、平成14年度からモニタリングを開始したため残留状況の傾向は判断できないが、広範な地点で残留が認められる。

エンドリン 実施年度 幾何
平均値
中央値 最大値 最小値 定量 [検出]
下限値
  検出頻度
検体 地点
大気
(pg/m3)
14 0.22 0.28 2.5 nd 0.090 [0.030]   90/102 32/34
15寒冷期 0.23 0.20 2.1 0.042 0.042 [0.014] 34/34 34/34
 

  アルドリン、ディルドリン、エンドリンは、POPs条約の対象物質であり、全地球的な汚染監視の観点からも、今後さらにモニタリングを継続し、その消長を追跡する必要がある。

 ○ 平成15年度アルドリンの検出状況  経年変化図
媒体
()内は単位
幾何
平均値
中央値 70%値 80%値 90%値 95%値 最大値 定量[検出]
下限値
  検出頻度
検体 地点
水質
(pg/L)
0.9 0.9 1.7 1.9 2.4 2.9 3.8 0.6 [0.2]   34/36 34/36
底質
(pg/g-dry)
17 18 57 100 260 390 1,000 2   [0.6] 178/186 60/62
生物:貝類
(pg/g-wet)
tr(1.6) tr(0.85) tr(2.3) 3.4 44 46 51 2.5 [0.84] 15/30 3/6
生物:魚類
(pg/g-wet)
nd nd tr(0.68) tr(0.88) tr(1.2) tr(1.4) tr(1.9) 2.5 [0.84] 16/70 7/14
生物:鳥類
(pg/g-wet)
nd nd nd nd nd nd nd 2.5 [0.84] 0/10 0/2
大気
(pg/m3
温暖期 1.5 1.9 3.1 3.9 5.5 14 28 0.023 [0.077] 34/35 34/35
寒冷期 0.55 0.44 1.1 1.8 3.5 4.3 6.9 34/34 34/34
 ○ 平成15年度ディルドリンの検出状況  経年変化図
媒体
()内は単位
幾何
平均値
中央値 70%値 80%値 90%値 95%値 最大値 定量[検出]
下限値
  検出頻度
検体 地点
水質
(pg/L)
57 57 120 140 270 360 510 0.7 [0.3]   36/36 36/36
底質
(pg/g-dry)
59 56 160 240 460 680 9,100 4    [2] 184/186 62/62
生物:貝類
(pg/g-wet)
410 160 2,000 2,200 18,000 67,000 78,000 4.8 [1.6] 30/30 6/6
生物:魚類
(pg/g-wet)
210 200 470 610 750 880 1,000 4.8 [1.6] 70/70 14/14
生物:鳥類
(pg/g-wet)
1,300 1,400 1,500 1,500 1,500 2,200 2,200 4.8 [1.6] 10/10 2/2
大気
(pg/m3
温暖期 19 22 37 41 56 210 260 2.1 [0.7] 35/35 35/35
寒冷期 5.7 5.2 7.7 13 15 82 110 34/34 34/34
 ○ 平成15年度エンドリンの検出状況  経年変化図
媒体
()内は単位
幾何
平均値
中央値 70%値 80%値 90%値 95%値 最大値 定量[検出]
下限値
  検出頻度
検体 地点
水質
(pg/L)
5.7 6.0 11 12 15 32 78   0.7 [0.3]   36/36 36/36
底質
(pg/g-dry)
11 11 26 36 71 150 29,000 5    [2] 150/186 53/62
生物:貝類
(pg/g-wet)
36 21 36 41 1,300 4,900 5,000 4.8 [1.6] 30/30 6/6
生物:魚類
(pg/g-wet)
14 10 45 66 79 95 180 4.8 [1.6] 67/70 14/14
生物:鳥類
(pg/g-wet)
21 30 62 80 85 96 96 4.8 [1.6] 10/10 2/2
大気
(pg/m3
温暖期 0.74 0.95 1.3 1.6 3.1 4.1 6.2 0.042 [0.014] 35/35 35/35
寒冷期 0.23 0.20 0.34 0.37 0.75 1.9 2.1 34/34 34/34
 
  [4]DDT類へ

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