3 平成10年度 指定化学物質等検討調査結果の概要
(1) 調査目的
化学物質審査規制法における指定化学物質は、環境中の残留状況等によって有害性調査の指示がなされ、その結果、有害性等により人の健康被害を生ずるおそれが認められれば、第二種特定化学物質に指定され、製造・輸入予定数量の事前届出のほか、必要に応じ製造・輸入量の制限等が行われる。
このため、環境庁においては、指定化学物質及び第二種特定化学物質についての一般環境中の残留状況を把握することを目的として、「指定化学物質等環境残留性検討調査」を昭和63年度から開始し、その後、調査地点の拡大や測定精度の向上等を図ってきた。さらに平成2年度から、測定値について統一検出
限界処理等を行うとともに、新たに暴露経路調査(日常生活において、人がさらされている媒体別の化学物質量に関する調査)を開始すると同時に、調査名を「指定化学物質等検討調査」と改めている。
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(2) 調査の概要
1) 調査対象物質及び媒体
平成10年3月末までに指定された指定化学物質等について、製造・輸入量、物理化学的性状等を考慮に入れて、以下の物質、媒体を選定した。
(調査対象物質) |
(媒 体) |
(ア) トリクロロエチレン(注1) |
室内空気、食事 |
(イ) テトラクロロエチレン(注1) |
室内空気、食事 |
(ウ) 四塩化炭素(注1) |
大気、室内空気、食事 |
(エ) クロロホルム |
大気、室内空気、食事 |
(オ) 1,2-ジクロロエタン |
大気、室内空気、食事 |
(カ) 1,2-ジクロロプロパン |
大気、室内空気、食事 |
(キ) 1,4-ジオキサン |
水質、底質 |
(ク) 4,4'-ジアミノジフェニルメタン |
水質、底質 |
(ケ) トリブチルスズ化合物(TBT)(注2) |
水質、底質 |
(コ) トルフェニルスズ化合物(TPT)(注3) |
水質、底質 |
|
(注1)平成元年4月、第二種特定化学物質に指定された。
(注2)TBTOは平成2年1月、第一種特定化学物質に、TBTOを除くTBT化合物は
平成2年9月、第二種特定化学物質に指定された。
(注3)平成2年1月、第二種特定化学物質に指定された。
2) 調査対象地点(【環境残留性(大気)、暴露経路:図6、環境残留性(水系):図7】)
環境残留性調査では、指定化学物質等の一般環境中での残留状況を把握するため、特定の発生源の影響を直接受けない地点を調査対象地点とした。また、暴露経路調査の対象世帯の地点設定については、環境残留性調査(大気系)の調査地点と大気の状態が可能な限り同一の地点を選定した。
なお、各試料採取は秋期(9〜11月)に実施し、食事試料については、同一人が1日に経口的に摂取するもの全てを試料として採取し、朝食、昼食、夕食は陰膳方式により採取した。
(ア) 環境残留性調査(水質、底質):
36地点(海域20地点、湖沼4地点、河川12地点) 【図7】
(イ) 環境残留性調査(大気):
33地点 (ウ) 暴露経路調査(室内空気、食事):9地点各3世帯 【図6】
3) 分析法
(ア) GC/MS-SIM: |
1,2-ジクロロエタン、1,2-ジクロロプロパン
(大気、室内空気、食事)
トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン
(室内空気)
四塩化炭素、クロロホルム(大気、室内空気)
1,4-ジオキサン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、TBT、TPT (水質、底質)
|
(イ) GC-ECD: |
トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、
四塩化炭素、クロロホルム(食事) |
4) 統一検出限界処理 【統一検出限界値一覧:表7(Excel97版はこちら)】
試料の性状、利用可能な測定装置等が異なるため、各機関での検出限界は必ずしも同一ではないが、調査全体を評価する立場から、測定値について統一検出限界処理を行った。
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(3) 調査結果
環境残留性調査結果を【表8 (Excel97版はこちら)】、暴露経路調査結果を【表9
(Excel版はこちら)】に示す。なお、TBT及びTPTの調査結果については、「4 平成10年度有機スズ化合物に関する環境調査結果の概要」の項を参照されたい。
また、大気及び室内空気からの暴露量は、各々の検出値(濃度)に15m3/人・日(人の一人1日当たりの呼吸量)を乗じて算出したものである。
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(4) 調査結果の考察
平成10年度における調査結果をとりまとめ、考察を加えると次のとおりである。
1) トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレン
(ア) トリクロロエチレンは金属脱脂洗浄剤、溶剤等として、また、テトラクロロエチレンはドライクリーニング溶剤、金属脱脂洗浄剤等として用いられている。これら2物質は、昭和62年5月に指定化学物質に指定され、その後、平成元年4月に第二種特定化学物質に指定された。また、平成元年10月から水質汚濁防止法に基づいて排水規制及び地下水浸透規制が行われ、平成5年3月には水質環境基準項目に追加された。他方、大気に関しては、平成5年4月に大気環境指針(暫定値)が定められ、平成9年2月に大気環境基準が定められた。
これら2物質については、昭和63年度から水質、底質及び大気について調査を開始し、平成元年度からは昭和63年度に検出頻度及び濃度の低かった水質及び底質を調査対象から外し、平成9年度からは大気環境基準項目に追加され、大気汚染の状況が常時監視されることとなった大気を調査対象から外した。また、平成2年度からは暴露経路調査も併せて行っている。
平成10年度においては、暴露経路調査を実施した。
(イ)(トリクロロエチレンの調査結果)
暴露経路調査においては、室内空気からの暴露の範囲は3.6〜100μg/人・日(H9:1.2〜70μg/人・日)であり、食事を介しての暴露の範囲はnd〜trμg/人・日(H9:nd〜0.97)であった。暴露量に関して地点差はあるものの、いずれの地点もほとんどが室内空気由来による暴露であった。
これまでの調査結果と比較すると、これらの暴露状況に大きな変化 認められなかった。
(テトラクロロエチレンの調査結果)
暴露経路調査においては、室内空気からの暴露の範囲は2.1〜96μg/人・日(H9:5.9〜67μg/人・日)であり、食事からの暴露の範囲は、nd〜0.5μg/人・日(H9:nd〜0.69)であった。暴露量に関して地点差はあるものの、いずれの地点もほとんどが室内空気由来による暴露であった。
これまでの調査結果と比較すると、暴露状況に大きな変化は認められなかった。
(ウ) トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンについては、環境中に広範囲に残留していることから、環境汚染の状況を監視するため、今後とも引き続き調査を実施していくことが必要である。ただし、暴露量として低いレベルが続いている暴露経路調査(食事)については、一定期間(3〜5年)をおいた調査によりその傾向を把握していくことが可能と考えられる。
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2) 四塩化炭素
(ア) 四塩化炭素は化学工業原料等として用いられている。昭和62年7月に指定化学物質に指定され、その後、平成元年4月、第二種特定化学物質に指定された。また、平成5年3月には水質環境基準項目に追加された。なお、我が国では、モントリオール議定書に基づき、平成7年末で製造が全廃されている。
四塩化炭素については、昭和63年度から水質、底質及び大気について調査を開始し、平成元年度からは昭和63年度に検出頻度及び濃度の低かった水質及び底質を調査対象から外し、大気についてのみ調査を継続している。また、平成2年度から暴露経路調査も併せて行っている。
平成10年度においても、大気について調査を実施するとともに暴露経路調査を実施した。
(イ) 大気からの検出範囲は0.24〜2.1μg/m3(H9:0.012〜2.4μg/m3)、検出頻度は130検体中130検体(H9:128検体中128検体)、幾何平均値は0.68μg/m3(H9:0.62μg/m3)であった。地点別検出頻度は33地点中33地点(H9:34地点中34地点)であった。
暴露経路調査においては、大気又は室内空気からの暴露の範囲は6.3〜26μg/人・日(H9:3.3〜31μg/人・日)であり、食事を介しての暴露の範囲はnd〜tr(H9:nd〜0.58μg/人・日)であった。暴露量に関して地点差はあるものの、いずれの地点もほとんどが大気及び室内空気由来による暴露であった。また、大気と室内空気には顕著な差はみられなかった。
これまでの調査結果と比較すると、残留状況及び暴露状況に大きな変化は認められなかった。
(ウ) 四塩化炭素については、環境中に比較的高い濃度で広範囲に残留していることから、環境汚染の状況を注意深く監視するため、今後とも引続き調査を実施していくことが必要である。ただし、暴露量として低いレベルが続いている暴露経路調査(食事)については、一定期間(3〜5年)をおいた調査によりその傾向を把握していくことが可能と考えられる。
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3) クロロホルム
(ア) クロロホルムは合成樹脂の原料、溶剤等として用いられている。昭和62年7月に指定化学物質に指定された。また、平成5年3月には、水質要監視項目に指定された。
クロロホルムについては、昭和63年度から水質、底質及び大気について調査を開始し、平成元年度からは昭和63年度に検出頻度及び濃度の低かった水質及び底質を調査対象から外し、大気についてのみ調査を継続している。また、平成3年度から暴露経路調査も併せて行っている。
平成10年度においても、大気について調査を実施するとともに暴露経路調査を実施した。
(イ) 大気からの検出範囲は0.046〜11μg/m3(H9:nd〜5μg/m3)、検出頻度は126検体中126検体(H9:134検体中122検体)、幾何平均値は0.31μg/m3(H9:0.54μg/m3)であった。地点別検出頻度は33地点中33地点(H9:34地点中33地点)であった。
暴露経路調査においては、大気又は室内空気からの暴露の範囲は1.9〜110μg/人・日(H9:2.8〜62μg/人・日)、食事からの暴露の範囲は3.4〜14μg/人・日(H9:3.6〜23μg/人・日)であった。
暴露量に関して地点差はあるものの、いずれの地点も大気、室内空気及び食事の各媒体に由来する暴露であった。また、大気と室内空気には顕著な差はみられなかった。
これまでの調査結果と比較すると、残留状況及び暴露状況に大きな変化は認められなかった。
(ウ) クロロホルムについては、環境中に比較的高い濃度で広範囲に残留していることから、環境汚染の状況を注意深く監視するため、今後とも引続き調査を実施していくことが必要である。
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4) 1,2-ジクロロエタン
(ア) 1,2-ジクロロエタンは塩ビモノマー原料等として用いられている。
1,2-ジクロロエタンは昭和62年7月に指定化学物質に指定された。さらに、平成5年3月には、水質環境基準項目に追加された。
1,2-ジクロロエタンについては、平成元年度から水質、底質及び大気について調査を開始し、水質環境基準項目に追加され水質汚濁の状況が常時監視されることとなったこと及び平成4年度に検出頻度及び濃度の低かったことから、水質及び底質に関しては調査対象から外して、平成5年度から大気についてのみの調査とした。また、大気からの検出頻度が高い傾向がみられたため、平成6年度からは暴露経路調査を開始した。
平成10年度においても、大気について調査を実施するとともに暴露経路調査を実施した。
(イ) 大気からの検出範囲は0.0048〜1.2μg/m3(H9:tr〜2.7μg/m3)、検出頻度は102検体中102検体(H9:97検体中96検体)、幾何平均値は0.084μg/m3(H9:0.075μg/m3)であった。地点別検出頻度は32地点中32地点(H9:32地点中31地点)であった。
暴露経路調査においては、大気又は室内空気からの暴露の範囲は0.38〜8.8μg/人・日(H9:tr〜13μg/人・日)、食事を介しての暴露の範囲はnd〜trμg/人・日(H9:nd〜1.8μg/人・日)であった。
暴露量に関して地点差はあるものの、いずれの地点もほとんどが大気及び室内空気由来による暴露であった。また、大気と室内空気には顕著な差はみられなかった。
これまでの調査結果と比較すると、残留状況及び暴露状況に大きな変化は認められなかった。
(ウ) 1,2-ジクロロエタンについては、環境中に広範囲に残留していることから、環境汚染の状況を監視するため、今後とも引続き調査を実施していくことが必要である。ただし、暴露量として低いレベルが続いている暴露経路調査(食事)については、一定期間(3〜5年)をおいた調査によりその傾向を把握していくことが可能と考えられる。
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5) 1,2-ジクロロプロパン
(ア) 1,2-ジクロロプロパンは油脂・アスファルト溶剤等として用いられている。昭和63年3月に指定化学物質に指定された。また、平成5年3月には水質要監視項目に指定された。
1,2-ジクロロプロパンについては、平成元年度から水質、底質及び大気について調査を開始し、平成2年度に検出頻度及び濃度の低かった水質及び底質を調査対象から外し、平成3年度からは大気についてのみ調査を実施してきた。また、大気からの検出頻度が高い傾向がみられたため、平成6年度からは暴露経路調査を開始した。
平成10年度においても、大気について調査を実施するとともに暴露経路調査を実施した。
(イ) 大気からの検出範囲はtr〜0.72μg/m3(H9:nd〜1.9μg/m3)、検出頻度は86検体中82検体(H9:97検体中93検体)、幾何平均値は0.02μg/m3(H9:0.033μg/m3)であった。地点別検出頻度は30地点中29地点(H9:32地点中31地点)であった。
暴露経路調査においては、大気又は室内空気からの暴露の範囲は0.13〜7μg/人・日(H9:0.052〜6.8μg/人・日)、食事試料からは平成7年度以降不検出が続いている。
暴露量に関して地点差はあるものの、いずれの地点も大気及び室内空気由来による暴露であった。また、大気と室内空気には顕著な差はみられなかった。
これまでの調査結果と比較すると、残留状況及び暴露状況に大きな変化は認められなかった。
(ウ) 1,2-ジクロロプロパンについては、環境中に広範囲に残留していることから、環境汚染の状況を監視するため、今後とも引続き調査を実施していくことが必要である。ただし、暴露量として低いレベルが続いている暴露経路調査(食事)については、一定期間(3〜5年)をおいた調査によりその傾向を把握していくことが可能と考えられる。
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6) 1,4-ジオキサン
(ア) 1,4-ジオキサンは各種工業用溶剤として用いられている。昭和62年10月に指定化学物質に指定された。1,4-ジオキサンについては、平成元年度から調査対象とし、水質及び底質について調査を継続している。
平成10年度においても、水質及び底質について調査を実施した。
(イ) 水質からの検出範囲はnd〜5.3ng/ml(H9:nd〜42.8ng/ml)、検出頻度は103検体中63検体(H9:102検体中70検体)、幾何平均値は0.18ng/ml(H9:0.28ng/ml)であり、地点別検出頻度は35地点中24地点(H9:34地点中24地点)であった。
底質からの検出範囲はnd〜0.051μg/g-dry(H9:nd〜0.041μg/g-dry)、検出頻度は108検体中5検体(H9:105検体中4検体)、幾何平均値は0.0019μg/g-dry(H9:0.0017μg/g-dry)であり、地点別検出頻度は36地点中2地点(H9:35地点中1地点)であった。
水質、底質ともこれまでの調査結果と比較すると、残留状況に大きな変化は認められなかった。
(ウ) 1,4-ジオキサンについては、環境中に広範囲に残留していることから、環境汚染の状況を監視するため、今後とも引続き調査を実施していくことが必要である。
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7) 4,4'-ジアミノジフェニルメタン
(ア) 4,4'-ジアミノジフェニルメタンは、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の合成原料として用いられるほか、エポキシ樹脂の硬化剤、ポリウレタンの共重合物などに用いられている。
平成元年3月に指定化学物質に指定された。平成元年度に初めて水質及び底質について調査されたが、いずれの媒体からも僅少での検出であった。平成10年度は水質及び底質について調査を行なった。
(イ) 水質からは検出されなかった。 底質からの検出範囲はnd〜2.1μg/g-dry(H7:nd〜0.88μg/g-dry)、検出頻度は97検体中31検体(H7:69検体中14検体)、幾何平均は0.015μg/g-dry(H7:0.012μg/g-dry)であり、地点別検出頻度は33地点中15地点(H7:23地点中6地点)であった。
(ウ) 4,4'-ジアミノジフェニルメタンについては、水質からは前回調査(平成7年度)と同様検出されなかった。
底質からは、前回調査より検出頻度が高くなっているが、これは、平成10年度調査では、統一検出限界値が下がったことによるものである。
検出濃度レベルは現時点では特に問題を示唆するものではないが、検出レベルが上昇しているため、今後、製造・輸入量の動向を見つつ、一定期間(3〜5年)をおいて調査を実施することが適当であると考えられる。
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