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4 平成10年度 有機スズ化合物に関する環境調査結果の概要

「平成10年度生物モニタリング」及び「平成10年度指定化学物質等検討調査」から有機スズ化合物に関する部分を抜粋しまとめたものである。

 (1)調査内容
 (2)平成10年度 生物モニタリング結果(有機スズ化合物関連部分)の概要
 (3)平成10年度 指定化学物質等検討調査結果(有機スズ化合物関連部分)の概要
 (4)調査結果の評価

(1) 調査内容

 環境庁が実施している化学物質環境安全性総点検調査の結果、有機スズ化合物による全国的な環境汚染が明らかになり、トリブチルスズ化合物については昭和60年度から、トリフェニルスズ化合物については平成元年度から生物(魚類、貝類、鳥類)を指標とした環境汚染の経年監視(生物モニタリング)を実施している。また、これらの調査結果等を踏まえ、昭和63年4月から平成元年3月の間にトリブチルスズ化合物13物質、トリフェニルスズ化合物7物質が化学物質審査規制法に基づく指定化学物質に指定されたため、昭和63年度から水質及び底質についても継続的な監視を指定化学物質等検討調査において実施している。
 なお、平成2年、有機スズ化合物のうち、トリブチルスズ化合物の一種であるビス(トリブチルスズ)=オキシド(TBTO)が化学物質審査規制法に基づく第一種特定化学物質に指定され、また、トリフェニルスズ化合物7物質及びTBTOを除くトリブチルスズ化合物13物質が同法に基づく指定化学物質から第二種特定化学物質に指定されている。

 

(2) 平成10年度 生物モニタリング結果(有機スズ化合物関連部分)の概要

 1)調査対象物質

有機スズ化合物のうち、トリブチルスズ化合物及びトリフェニルスズ化合物。

 2)調査対象生物及び調査地点【生物モニタリングの調査地点及び採取生物種:図5

 魚類8種、貝類2種及び鳥類2種の計12種を全国20地点(生物種別にみれば、魚類14地点、貝類6地点、鳥類2地点の延べ22地点)で調査した。

 3)分析方法の概略

 (ア) 分析に供した試料の概要

 各地点において採取生物1種につき5検体を調製した。なお、1個体では1検体分の必要量を採取出来ないもの(例えば,ムラサキイガイ)はさらに多数の個体をもって1検体とした。
 各個体については、次に掲げる部位を採取し、分析用検体とした。

魚類
筋肉の部分
貝類
むき身の部分
鳥類
胸筋の部分

 (イ)分析法

 GC−ECD又はGC−FPDにより分析を実施した。
 ただし、他の成分との判別が不明のときは、GC/MSにより定性及び定量を行うこととした。

 4)調査結果

 調査結果を表10に示す。(Excel97版はこちら
 トリブチルスズ化合物は、魚類及び貝類から検出され、これまで同様、鳥類からは検出されなかった。トリブチルスズ化合物の魚類及び貝類からの検出範囲は、nd〜0.11μg/g-wet(H9:nd〜0.24μg/g-wet)、(いずれもTBTO(ビス(トリブチルスズ)=オキシド)換算値)で、検出頻度は、20地点中8地点(H9:20地点中8地点)、100検体中27検体(H9:100検体中31検体)であった。
 トリフェニルスズ化合物は、魚類から検出され、貝類及び鳥類からは検出されなかった。トリフェニルスズ化合物の魚類からの検出範囲は、nd〜0.05μg/g-wet(H9:nd〜0.12μg/g-wet)(いずれもTPTCl(トリフェニルスズ=クロリド)換算値)で、検出頻度は、14地点中6地点(H9:14地点中5地点)、70検体中14検体(H9:70検体中19検体)であった。

 

(3) 平成10年度指定化学物質等検討調査結果(有機スズ化合物関連部分)の概要

 1)調査対象物質

 有機スズ化合物のうち、トリブチルスズ化合物及びトリフェニルスズ化合物。

 2)調査媒体及び調査地点【指定化学物質等検討調査地点:図7

 水質及び底質について、一般環境中での残留状況を把握するため、特定の発生源の影響を直接受けないような調査地点を設定し、全国36地点で調査を実施した。

 3)分析方法の概略

 環境残留性調査における水質及び底質の調査について各地点ごとに3検体ずつ、GC/MS−SIMにより分析を行った。 統一検出限界値は、環境残留性調査における水質について、トリブチルスズ化合物が0.003μg/l、トリフェニルスズ化合物が0.001μg/l、同じく底質について、トリブチルスズ化合物が0.0008μg/g-dry、トリフェニルスズ化合物が0.001μg/g-dryとした。

 4)調査結果

 調査結果を表10 に示す。(Excel97版はこちら
 トリブチルスズ化合物は、水質及び底質から検出された。水質からの検出範囲はnd〜0.008μg/l(H9:nd〜0.009μg/l)、検出頻度は76検体中20検体(H9:107検体中21検体)、地点別の検出頻度は26地点中9地点(H9:36地点中11地点)であった。底質からの検出範囲はnd〜0.73μg/g-dry(H9:nd〜0.24μg/g-dry)、検出頻度は105検体中86検体(H9:105検体中85検体)、地点別検出頻度は35地点中31地点(H9:35地点中30地点)であった。
 トリフェニルスズ化合物は、水質及び底質から検出された。水質からの検出範囲はnd〜0.0015μg/l(H9:不検出)、検出頻度は102検体中4検体(H9:108検体中0検体)、地点別の検出頻度は32地点中3地点(H9:36地点中0地点)であった。また、水質からの統一検出限界値を平成9年度の値(H9:0.01μg/l)として処理した場合の検出状況は不検出であった。底質からの検出範囲はnd〜0.065μg/g-dry(H9:nd〜0.28ng/g-dry)、検出頻度は94検体中54検体(H9:91検体中36検体)、地点別の検出頻度は33地点中21地点(H9:31地点中16地点)であった。

 

(4) 調査結果の評価

 1)トリブチルスズ化合物

 トリブチルスズ化合物は、環境中に広範囲に残留しており、その汚染レベルは、底質においては概ね横ばい、生物及び水質において、横ばいないし改善の傾向にある。
 現在の汚染レベルが特に危険な状況にあるとは考えられないが、引続き環境汚染対策を推進するとともに環境汚染状況を監視していく必要がある。また、内分泌かく乱作用を有すると疑われる化学物質との指摘があることなどから関連の情報を含め、毒性関連知見の収集に努めることも必要である。

 2)トリフェニルスズ化合物

 トリフェニルスズ化合物は、環境中に広範囲に残留しており、その汚染レベルは、近年では水質については改善、生物及び底質については横ばいの傾向にある。
 現在のトリフェニルスズ化合物の生産状況*を考慮すれば、汚染状況は更に改善されていくものと期待されるが、今後も引続き、環境汚染対策を継続するとともに、環境汚染状況を監視していく必要がある。また、内分泌かく乱作用を有すると疑われる化学物質との指摘があることなどから関連の情報を含め、毒性関連知見の収集に努めることも必要である。

*:国内における開放系用途の生産/使用はほとんどないこと。


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