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第10回国際シンポジウム開催の報告

2007年12月9日・10日、「平成19年度化学物質の環境リスクに関する国際・Vンポジウム」を埼玉県さいたま市で開催しました。

9日(日)のシンポジウムでは、並木正芳 環境大臣政務官からの開会挨拶に続き、橋本光男 埼玉県副知事からの協力者代表挨拶、加藤修一 参議院議員からの来賓挨拶を頂戴しました。

並木正芳環境大臣政務官 橋本光男埼玉県副知事 加藤修一 参議院議員
並木正芳環境大臣政務官 橋本光男埼玉県副知事 加藤修一 参議院議員


シンポジウム
「化学物質の内分泌かく乱作用について~10年間のあゆみ~」

パート1 基調講演

海外における化学物質の内分泌かく乱作用に関する取組

 続いて、「海外における化学物質の内分泌かく乱作用に関する取組」というテーマでパート1基調講演を行いました。総合司会に明治大学 北野大氏を迎え、「WHOの取組」を国立医薬品食品衛生研究所 井上達氏、「OECDの取組」を?残留農薬研究所 青山博昭氏、「米国の取組」を米国環境保護庁 Jim Kariya氏、「EUの取組」をドイツ環境庁 Hans Christian Stolzenberg氏よりそれぞれご講演いただきました。

北野 大氏
北野 大氏

WHO の取組 井上 達氏 OECD の取組 青山 博昭 氏
WHO の取組
井上 達氏
OECD の取組
青山 博昭 氏
米国の取組 Jim Kariya 氏 EU の取組 Hans Chiritian Stolzenberg 氏
米国の取組
Jim Kariya 氏
EU の取組
Hans Chiritian Stolzenberg 氏

パート2 総括

化学物質の内分泌かく乱作用に関する研究について

続くパート 2 では、まず
「化学物質の内分泌かく乱作用について~ 10 年間のあゆみ~」と題して、 10 年間の内分泌かく乱作用に関する研究成果等をビデオやスライドを用いて紹介し ました。


<< VTR[1] >>

「化学物質の内分泌かく乱作用」の問題についての研究のきっかけ

【魚の異変について】

 イギリス・ロンドン北部を流れるリー川で1978年と1980年にコイ科の魚であるローチのオスの精巣の中に卵細胞を持った個体が発見された。その後、イギリス農水食糧省などがニジマスを使って研究を行い、本来、オスの血中には認められないと考えられていた卵黄タンパクが発見された。下水処理場から放出されたなんらかの物質がその原因ではないかと疑われ、川の中に女性ホルモンと同じ作用のある物質がないかどうかを調べる研究が始まった。

【貝類の異変について】

 巻貝類の一部においてメスにオスの生殖器官が形成され発達する現象が1960年代末頃から報告されるようになり、船底塗料として用いられてきた有機スズ化合物との関係が疑われた。日本でも国立環境研究所などが巻貝のイボニシなどを対象とした研究を実施。全国調査の結果、97地点中94地点でメスのイボニシにオスの生殖器官が形成され発達する現象が観察された。

【人への懸念】

 1992年、デンマークの研究グループは欧米を中心とした20か国のおよそ15,000人分のデータをもとに1930年代から1990年までのおよそ50年間に健康な男性の精液中の平均精子濃度が58%減少しているとの研究報告をし、その原因として・サ学物質の内分泌かく乱作用による影響の可能性を指摘した。
  また、1996年、アメリカのシーア・コルボーンらによって『奪われし未来』という本が発行され、化学物質が野生生物に対して深刻な影響を与えている事例を取り上げ、人に対しても同じ懸念があるのではないかと訴え、世界的に大きな反響を呼んだ。

【環境省の対応】

 環境省では1998年に化学物質の内分泌かく乱作用問題への対応方針として 『環境ホルモン戦略計画SPEED’98 』を策定し、調査研究に本格的に乗り出した。


<<スライド>>

『環境ホルモン戦略計画SPEED’98 』の策定から10年。 これまでの研究成果の状況をスライドで紹介する。

【低用量作用】

 WHOは 「大人の場合は、ばく露に対する反応が生理的な変動範囲に含まれるため、検出できない可能性がある」としており、環境省においては、 「低用量問題」について、現状では特に問題となる状況ではないと考えるものの、引き続き研究レベルの情報収集を継続するとともに、環境中濃度の実態把握等についても積極的に推進していくとしている。

【魚類の懸念についてのその後の研究】

 イギリスではローチやニジマスに女性ホルモンに似た作用を引き起こした物質の探索が行われた。その結果、し尿由来の女性ホルモンそのものやその分解物質、また経口避妊薬の成分や工業用洗剤の原料であるノニルフェノールなどがその原因物質であろうと考えられるようになった。
  環境省ではメダカを用いた試験を36物質について実施した。工業用洗剤原料であるノニルフェノールとオクチルフェノールは本物の女性ホルモンであるエストラジオールよりは弱いながらもメダカに対して内分泌かく乱作用を有することが強く推察された。既に使われていない殺虫剤のDDTと塗料や合成樹脂の原料であるビスフェノールAにも、さらに弱いながら、メダカに対して内分泌かく乱作用を有することが推察された。ただし、これら以外の32物質では明らかな内分泌かく乱作用は認められなかった。

【貝類の懸念についてのその後の研究】

 メス巻貝の生殖器官の異常については国立環境研究所などの研究により有機スズ化合物との関連がみいだされているが、現在は、製造、使用されていない。環境省は、有機スズ化合物について魚類への影響及びほ乳類への影響を確認するために動物試験を実施したが、通常ばく露するような濃度においては明らかな内分泌かく乱作用は認められなかった。

【人への懸念についてのその後の研究】

 環境省においてはヒトの精子濃度に加え、ヒトの先天性異常発生、出生比率、泌尿生殖器への影響、精巣重量及び精子形成状態に関する総合的な研究等を行った。 その結果、懸念された事象と特定の化学物質ばく露との明らかな因果関係は認められなかった。
  厚生労働省の「内分泌かく乱化学物質の健康影響に関する検討会中間報告書追補その2(平成17年3月)」では、「精子数低下については、化学物質の高濃度ばく露群での質の低下について、複数の報告があったが内分泌かく乱作用によることの関連を支持するには 依然として知見は不十分である。」としている。また、WHOでは「特定の地域や都市における低下を示した調査研究もあるものの低下を見いだせなかったとする調査研究もあることから地域的傾向が一部にはあっても世界的傾向となっていないことが示唆される」としている。このため日本では懸念された状況ではないと考えられる。
  環境省では ヒト影響を推定するため、ラットを用いた試験を36物質について実施したが、ヒト推定ばく露量を考慮した用量での明らかな内分泌かく乱作用は認められていない状況である。


<< VTR [2] >>

【環境省の取り組み】

 1998年に策定された『環境ホルモン戦略計画SPEED’98』では、調査物質の優先リストに記載された物質が、あたかも内分泌かく乱作用を持つ物質であるかのように誤解されてしまったことや、この戦略計画が物質の有害性を重視した方針であったことを反省し、2005年、新たに『ExTEND2005 』を策定した。ここでは取り組みの柱として野生生物の観察、化学物質の環境中濃度の実態調査、基盤的研究の推進、試験法の開発、リスク・コミュニケーションの推進等を掲げ、これらの取り組みを総合的に推進している。

【国際共同研究】

 現在、日本は、OECDが進めている化学物質の内分泌かく乱作用に関する試験法の開発等に積極的に参加し、国際貢献にも大きく寄与している。
 また、1999年、日英での共同研究を行うことで合意し、下水処理場から放出された 女性ホルモンなどの実態把握、魚類やカエルに対する化学物質の内分泌かく乱作用による影響等について共同研究を実施している。
 さらに、2004年には環境保護に関する日米合同企画調整委員会でアメリカと二国間の協力を進めることに同意し、今年度からは魚類に対する化学物質の内分泌かく乱作用に関する試験法の開発に取り組んでいる。

【現在の取り組み】

 化学物質の内分泌かく乱作用についての理解がより一層深まるように、広く国民にこの分野の最新の科学的な知見を説明するとともに、様々な分野の人々のリスク・コミュニケーションを図っていくことが求められており、環境省は、ホームページの活用や国際シンポジウムを定期的に開催している。また、環境中における化学物質の濃度の実態把握、幅広い基礎研究や地道な野生生物の観察など、科学的知見を集積していく。今後とも、的を絞った重点的かつ総合的な取り組みを行うことにより、より確かな情報に基づいた知見の集積を効率的に行い、環境の保全に役立てていきたい。
 以上の映像資料等の内容を踏まえ、パネルディスカッションへと移りました。司会は引き続き 北野 大氏、パネリストは基礎生物学研究所 井口 泰泉氏、国立医薬品食品衛生研究所 井上 達氏、慶應義塾大学 吉川 肇子氏、(社)日本化学工業協会 岩本 公宏氏、主婦連合会 有田 芳子氏、及び環境省環境保健部環境安全課 木村 博承氏でした。パネルディスカッションにおいては、今後の研究方針やリスク・コミュニケーション等について、議論が深められました。

パネルディスカッション風景
パネルディスカッションの様子(*)

(*)パネルディスカッションの様子を動画でご覧いただけます。
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 【QuickTime】 1/4[140MB]   2/4[50MB]   3/4[57MB]   4/4[37MB]  

セッション

10日(月)は、国内だけでなく、イギリス、アメリカ、韓国といった国外からも研究者や行政関係者を招いて、セッションを行いました。

◆セッション1:
「化学物質の内分泌かく乱作用に関する基礎的研究野生生物と環境・水界生態系への影響」

セッションコーディネーター:基礎生物学研究所 井口 泰泉氏 

◇ 有機スズによる巻貝類の内分泌かく乱:分子メカニズムから個体群影響まで
~独立行政法人国立環境研究所 堀口 敏宏氏~

◇ AHR-CYP1A シグナル伝達系の種多様性:野生生物を対象としたダイオキシン類のリスク評価を目指して
~愛媛大学 沿岸環境科学研究センター 岩田 久人氏 ~

◇ in vivo 試験による内分泌かく乱様化学物質の野生生物に対する影響評価
~ 独立行政法人国立環境研究所 鑪迫 典久氏~

◇イギリスの河川における野生魚類の雌性化
~ イギリスブルーネル大学 Susan Jobling氏~

◆セッション2:
「化学物質の内分泌かく乱作用に関する基礎的研究 In Vivo /In Vitro 試験系における試験研究の現況」

セッションコーディネーター: 東京大学 遠山 千春氏

◇ 内分泌かく乱に関わる健康影響研究の動向と方向性
~ 独立行政法人国立環境研究所 米元 純三氏~

In vivo / in vitro 試験系における試験研究の現況と将来への提言
~ 群馬大学 鯉淵 典之氏~

◇ 内分泌かく乱化学物質問題研究の現状・問題点、及び今後の展開
~ 国立医薬品食品衛生研究所 菅野 純氏~

◆セッション3:
「小児環境保健に関する疫学調査について」

セッションコーディネーター: 東北大学 佐藤 洋氏

◇ 小児環境保健に関する日本の取り組み
~京都大学 内山 巌雄氏~

◇ 環境化学物質の次世代影響に関するコーホート研究―「小児の環境と健康に関する北海道研究」から
~北海道大学 岸 玲子氏~

◇ 全米子供調査の概要
~米国環境保護庁 James Quackenboss氏~

◇ 母子健康環境センター(MOCHE)の紹介:韓国における多中心縦断的研究
~韓国梨花女子大学 Eunhee Ha氏~


テーマ別セッションにおいては、スピーカーからの発表を基に、多様な意見交換がなされました。

セッション1 セッション2 セッション3
セッション1 セッション2 セッション3

関連展示

 シンポジウム会場では、環境省、埼玉県、さいたま市、環境ホルモン学会、社団法人日本化学工業協会ならびに財団法人世界自然保護基金ジャパンによる映像・パネル展示が行われました。

環境省 展示 埼玉県・さいたま市 展示
環境省 展示 埼玉県・さいたま市 展示
展示の様子
展示の様子

配布物

 


参加者データ:
12月9日(日):472名
 (参加人数:一般432名・報道4名・関係団体20名・講演者16名)
12月10日(月):379名
 (参加人数:一般341名・関係者/関係団体20名・講演者18名)

なお、基調講演やセッション等で使用されたスライドは、環境省ホームページに掲載しています。
(→http://www.env.go.jp/chemi/end/index3.html

 

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