グッドライフアワード
環境省
環境省 > グッドライフアワード > レポート一覧 > 「アーバン・シード・バンク里山BONSAI」プロジェクト
第3回グッドライフアワード環境大臣賞優秀賞

株式会社環境ビジネスエージェンシー

「アーバン・シード・バンク里山BONSAI」プロジェクト

「シード・バンク」とは土壌の中に埋もれて休眠している植物の種の集団のこと。『「アーバン・シード・バンク里山BONSAI」プロジェクト』は、手入れをして太陽の光を取り戻した里山の森で芽吹いた在来種の苗を、センス良く寄せ植えした「BONSAI」として販売。都会の空間に潤いをもたらすために活用しようとする取組です。


里山で芽吹いた在来種の木々を都会の潤いのために!
ムービーもご覧ください(これから先は、環境省サーバーを離れます)

里山に芽吹いた在来種の「BONSAI」で都市にやすらぎと潤いを!

活動のきっかけは?
荒れて暗くなった森を手入れすると……

里山は人々の暮らしに寄り添って、薪や炭などのエネルギー源、また山菜やキノコなど食材供給源として活用されてきました。里山は、人の手が入ることによって美しい森が守られます。ところが、化石燃料や電気の普及とともに生活スタイルが変化し次第に里山は放置されるようになってしまいました。バランスのとれた里山との需要と供給が崩れ、今、日本全国では人々の暮らしから見放され、生態系のバランスを崩し、真っ暗に荒れてしまった里山が増えています。

「アーバン・シード・バンク里山BONSAI」プロジェクトのきっかけとなったのは、平成17年(2005)にスタートした『プレゼントツリー』という取組でした。「人生の記念日に樹を植えよう!」を合い言葉として、全国各地の中山間地にある被災林や再植林放棄地等の荒れた森に都市部の人達が記念樹を植えることで、山や森を再生し、植栽をきっかけに人が通う森となり、地域振興に繋げようというプロジェクトです。

NPO法人と両輪でこのプレゼントツリーのプロジェクトを進めていた株式会社環境ビジネスエージェンシーに、熱海市内の里山の活用を打診する連絡があったのは平成20年(2008)のことでした。この里山の森は、ある企業が所有しているものの長年放置したままになっていて荒れ果てた状態でした。当初は自治体に相談して引き受け先の林業業者を探そうとしましたが、熱海市内ではすでに林業が途絶えており、まったく受け皿がありませんでした。

環境ビジネスエージェンシーの鈴木敦子社長は、自らが立ち上げたNPO法人でこの里山の森を所有して活用していくことを決め、平成22年(2010)から、『プレゼントツリー熱海の森』として再生活動に着手しました。

神奈川県の森林インストラクターなどの協力を得て、それまで荒れ放題で晴天の昼間でも真っ暗だった森を手入れすることで、地面に太陽の光が届くようになりました。すると、地面に埋もれたまま休眠していた在来種の木々の種が次々と発芽することに気が付きました。プレゼントツリーは森に新たな苗を植えていく取組ですが、植樹するまでもなく、きちんと手入れすることで、森には新しい命が芽吹き、育っていくのです。

「手入れした森に芽生えた苗を、都市の緑化に活用することができれば、持続可能な里山との関係がつくれるのではないだろうか」

鈴木さんのひらめきから「アーバン・シード・バンク」のプロジェクトがスタートしたのです。


荒廃した森は昼間でもまっ暗なままでした。

プレゼントツリーの取組で里山の
森を手入れすると……


シードバンクから次々と新しい芽吹きが!

プレゼントツリーの森は、全国に広がっています。
どんな取組を?
里山の苗を寄せ植えにして商品化

「アーバン・シード・バンク」プロジェクトでは、熱海の森で採取した在来種の木々の芽を山麓の圃場で苗に育て、神奈川県平塚市内にある障がい者就労支援施設などの力を借りて「里山BONSAI」に仕上げます。都市で暮らす人たちがそれを購入することで、持続可能な里山保全活動を支援することができるだけでなく、障がい者の雇用支援にも繋がる仕組みになっているのです。

主力商品ともいえる里山BONSAI「ひこばえタイプ」は、間伐材の丸太をくり抜いたプランターを使っています。注文ごとに、熱海の森で採取した苗と、平塚市内の「進和学園」(福祉施設)で栽培された苗を組み合わせ、3種類ほどの在来種を寄せ植えにしていくので、ひとつひとつが個性的な「小さな里山」が出来上がります。

ちなみに、「ひこばえ(蘖)」とは、樹木の切り株から生えてくる芽のこと。かつての里山に多く育っていたコナラ、クヌギなどの落葉広葉樹は、伐採してもひこばえによって循環し続け、里山の森が維持されてきたといわれています。里山BONSAI「ひこばえタイプ」は、里山の森林保全への思いを込めた、プロジェクトの看板アイテムとなっています。

里山BONSAI「パレットタイプ」は、街路やビル街の広場などに設置することを想定した大型のもの。これも木枠などの材料には国産間伐材を使って里山の資源を活かしています。素材を揃えた木製ベンチなどを自由に組み合わせることができ、オリジナルの里山空間を作ることができます。パレットに座ると、木のぬくもりと里山の木々に囲まれ、ひとときの安らぎを感じられます。

金網のカゴに木々などを植え込んだ「里山ユニット」は、上面だけでなく4つの側面も緑化できます。耐久性に優れメンテナンスもしやすいよう工夫されています。自由度の高い設置が可能で、狭いスペースにも対応できます。

商品化の体制が整って間もない現在、環境ビジネスエージェンシーが運営するネット通販のほかに購入できるショップなどはまだ少ないですが、大手百貨店のECサイトなどでも購入できるようになっています。販路を拡大し、たくさんの方々のもとに「里山」を届けられるようにすることが、プロジェクトの当面の目標です。


里山BONSAI「ひこばえタイプ」

里山BONSAI「パレットタイプ」


里山ユニット

樹種名のプレートも添えられます。
成功のポイントは?
「里山を守る!」人々の思いが集結!

「熱海の森」を守るための作業や圃場での育苗などは、全国森林インストラクター神奈川会の佐藤憲隆さんを中心に、ボランティアの方々が参加しています。月に一度くらいのペースで山に入り、間伐や下草刈り、歩道の整備などを行って里山を守りながら、圃場では苗を育てています。佐藤さんは定年退職後「森を守る活動に取り組みたい」という思いから『森林インストラクター』の資格を取得。2010年から、「熱海の森」のフォレストマネージャーを担当してきました。

「里山BONSAI」の様々な監修を行っているのはガーデンキュレーターとして活躍する小島理恵さん(株式会社 Q−GARDEN 代表取締役)です。間伐材のプランターを考案し、植え込みに使う土の調合や、表面に貼る苔の種類の選定など、商品としての完成度を高めるための監修をしています。小島さんはかねてからオーガニック・ガーデンの普及に取り組んでおり、その活動を通じて鈴木さんと意気投合。この「アーバン・シード・バンク」プロジェクトの監修を引き受けることになりました。

社会福祉法人進和学園は、神奈川県平塚市周辺の森で拾ったドングリから苗を育てて、各地の植樹などに提供する「いのちの森づくり」という取組を続けています。「プレゼントツリー」プロジェクトでも進和学園の苗を利用していた縁があり、「アーバン・シード・バンク」プロジェクトでは、熱海の森の苗とともに進和学園で育てた苗を使い、間伐材の丸太プランターに植え込んで「ひこばえタイプ」を仕上げる作業を担当しています。

進和学園は昭和49年(1974)から、故本田宗一郎氏らの応援を受けて本田技研工業の自動車部品製造を続けている障がい者就労施設です。「いのちの森づくり」の活動は進和学園の関連会社で営業窓口の役割を果たす株式会社研進がプロデュースして活動を広げてきました。進和学園で育苗などに携わる『どんぐりブラザーズ』のみなさんが「アーバン・シード・バンク」プロジェクトでも重要な役割を果たしています。

取り組みを支える人たちのネットワークは、株式会社環境ビジネスエージェンシーと、その関連団体である認定NPO法人環境リレーションズ研究所が「プレゼントツリー」をはじめとする森林保全に取り組んできたことで築かれてきたものです。里山を復活させ、都市に緑の潤いをもたらし、その活動が障がい者支援にも繋がっていく。「アーバン・シード・バンク」の取組は、里山の森を守るという大勢の思いを繋ぐ、持続可能な「ビジネスモデル」になっているのです。


森林インストラクターの佐藤憲隆さん。

ガーデンキュレーターの小島理恵さん。


「ひこばえタイプ」を作っている進和学園の
みなさんと、環境ビジネスエージェンシー
鈴木敦子社長(前列中央)。

里山BONSAIは、ひとつひとつが手作りです。
レポート
全国の里山を「アーバン・シード・バンク」に!

取材では、実際に「熱海の森」を訪れました。環境ビジネスエージェンシーの担当者から事前に「森は急斜面です」と聞いてはいましたが、想像以上の急斜面。途中、斜面を滑り落ちないようにロープが張られた箇所もあり、ちょっとしたフィールドアスレチック気分です。網代の海を見下ろせる尾根の広場には、約10m四方の巨大ハンモックがしつらえてありました。「熱海の森」では定期的に里山活動体験ツアーなども開催していて、参加する子どもたちも森の山道へのチャレンジを楽しんでいるそうです。

里山の山麓にあるビニールハウスの圃場では、森の「シードバンク」から芽生えた約2000本の苗が大事に育てられていました。苗はアオハダ、アラカシ、シロタモ、アセビ、マンリョウ、コナラ、ムラサキシキブ、コアジサイなど、在来種のものばかり。名前を知らない木もあるでしょうが、「里山BONSAI」には樹種名を書いたプレートが添えられます。

熱海の森から取材車で海沿いの道を移動して、平塚市の進和学園へ。『どんぐりブラザーズ』の作業場であるビニールハウスでは、実際に「ひこばえタイプ」を作る様子を見せていただきました。どんな木を植えるかは、花が咲くもの、実が付くもの、落葉するものなど、様々な里山の風景を想像しながら樹種やレイアウトを考えます。

里山の森林保全、圃場での育苗、障がい者支援施設での製造と、一連の流れがビジネスモデルとして確立されていることを実感できる取材になりました。

熱海の森と進和学園の苗を使った「里山BONSAI」は、植生の撹乱を防ぐため、販売地域が東日本の太平洋側に限定されています。でも、地域限定であることはプロジェクトにとってデメリットではありません。 これまでの植生を無視した植栽や外来種の大量流入で崩れてしまった生態系。改めてきちんと見直すことで絶滅危惧種を守らなければいけません。

「里山の荒廃は全国で共通の課題です。また、林業と関わりの薄い中山間地の里山は、資金面や担い手の高齢化などで保全活動を続けていきにくいのが現実です。また森を守るためにはコストがかかります。『アーバン・シード・バンク』プロジェクトは、里山の木々を魅力的な商品にすることによって資金を得て、持続可能な森林保全活動を広げていける可能性を秘めています。また、全国各地の里山で活用できるビジネスモデルになっています。全国の里山ボランティアや障がい者福祉作業所と連携し、その地域に不可欠な里山再生活動として全国展開を目指していきたいと思っています」(株式会社環境ビジネスエージェンシー 鈴木敦子社長)

「アーバン・シード・バンク」この取組が全国各地に広がって、荒れていた里山に明るい光が差し込むことを期待しています。


熱海の森は、想像以上の急斜面!

尾根の広場には巨大なハンモックがありました。


尾根からは網代の海を見渡せます。

山麓の圃場では、約2000本の苗が
育てられていました。


ネットショップでの購入時にはある
程度の要望をリクエストできます。

小さな「里山」が街に広がるといいですね!
▲ ページ上部へ