グッドライフアワード
環境省
環境省 > グッドライフアワード > レポート一覧 > バラで被災地を変える〜スーパー植物を利用した環境修復型農業〜
第3回グッドライフアワード環境大臣賞グッドライフ特別賞

宮城県農業高等学校科学部復興プロジェクトチーム

バラで被災地を変える〜スーパー植物を利用した環境修復型農業〜

津波で全壊した学校の校庭で生き残り、翌年、美しい花を咲かせた桜の木。新校舎への植樹を目指してスタートした桜の保存プロジェクトは、被災地の「環境修復型農業」へのチャレンジへと発展しています。ツーリーという実が付く野バラを活用した6次産業化を目指し、地域と連携した取組が続いています。


部室に集まってくれた科学部のみなさん
ムービーもご覧ください(これから先は、環境省サーバーを離れます)

桜の保存&植樹と「環境修復型農業」へのチャレンジ!

活動のきっかけは?
校庭で生き残った桜を保存して新校舎への植樹を目指す

宮城県農業高校は明治18年(1885)に宮城農学校として開校した伝統ある農業高校です。平成23年(2011)の東日本大震災が発生した当時、学校があったのは仙台空港や閖上浜に近い名取市の沿岸部。津波を受けて校舎は全壊してしまいました。被災後、県内の高校に間借りして授業を続け、津波から半年後の9月からは現在(2017年3月)の仮設校舎で授業を行っています。

被災した生徒や学校関係者を勇気づけてくれたのは、津波にのまれた校庭で生き残り、花を咲かせた桜でした。平成24年(2012)の春、校庭の桜を復興のシンボルとして未来へ残すための復興プロジェクトがスタートしたのです。

科学部の部員を中心として始まったプロジェクトは、校庭の桜の組織から培養した苗を育て、新校舎への植樹を目指すものでした。さらに、当時の校舎に近い名取市内閖上地区の小塚原南集会所に桜を植樹(平成24年11月)するなど、ともに復興を目指す地域との結びつきが生まれていきました。

平成27年(2015)の3月には、名取市から続く長い防波堤とともに、津波に対する多重防御のためのインフラとして整備されつつある岩沼市内の「千年希望の丘」二野倉公園に、学校で育てた桜の苗を提供して地区の住民の方々も参加する植樹会が実施されました。


東日本大震災の津波で校舎が被災。

小塚原南集会所に桜を植樹。


千年希望の丘で行われた植樹会。

生き残った桜の組織を部室で培養
どんな取組を?
津波を受けた農地を活用する方法を模索

プロジェクトで育てた桜の苗木の無料進呈などの活動を続け、地域の方々との結びつきが深まる中で、塩害などによる被災した農地の厳しい現実とも直面します。

科学部のメンバーは、塩害や沿岸部特有の強風に負けない植樹や栽培方法を研究して宮農通信『サクランド』と名付けた手作りのリーフレットを作成して配布。桜の栽培方法だけではなく、ハマダイコンやハマナス、そして「ツーリー(刺梨)」という実がなる野バラなど、津波の被害にあった農地の環境回復にも役立つ栽培種目を紹介してきました。

津波被災地では農地の整備が進みつつあるものの、塩害の影響は深刻です。耐塩性があり、表土を流された農地を再び豊かにしていくために、昆虫や土壌中の微生物などを集めて新たな生態系を育てていくことに役立つ作物を探し出すことが、重要な課題でした。試行錯誤を繰り返すうち、作物候補の中でもツーリーが様々な条件を満たす「スーパー植物」であることがわかってきます。

桜の植樹活動から始まった復興プロジェクトは、地域と連携した科学部員たちの真摯な取組のうちに「スーパー植物を利用した環境修復型農業」へのチャレンジへと発展してきたのです。


科学部で発行している『サクランド』

被災地での苗の配布活動。


様々な場所で植樹を実施。

かつて高校があった場所。
成功のポイントは?
ビタミンCが豊富なツーリーの実で6次産業化を目指す

ツーリーは塩害にも強いバラの一種で、ひと株から500〜1000個ほども採れるピンポン玉ほどの大きさの実は、豊富なビタミンCやポリフェノールを含んでいます。科学部では宮農通信『サクランド』などを通じてツーリーの植え付けや栽培方法とともに、ジャムのレシピなどの活用方法を紹介。名取市や仙台市などで苗木を配布するなどして、ツーリーの栽培を広げる取組をしてきました。

また、ツーリーの実をフリーズドライで乾燥させて粉末にして、ティーバックに詰めた『宮農産バラの果実茶』を開発。市内のイベントで販売するなど、被災農家がツーリーを育てて6次産業化するための取組にもチャレンジを続けています。

2016年の秋には、閖上地区の農事組合法人『小塚原ファームランド』(代表:引地長一さん)がツーリー栽培の意義に賛同して本格的に栽培を始めました。ツーリーは低木に育つ多年草。本格的な収穫までには植え付けから3年ほどかかるそうですが、ニュースを知った飲料メーカーからすでに商品化のオファーがあるなど、新たな作物としての可能性が広がり始めています。


ツーリーの実。

手作りで「バラの果実茶」を開発!


袋詰めも一つ一つ手作業です。

閖上の農地にツーリーを植え付け。
レポート
歴代の部員たちが活動を受け継ぎながら進化中!

取材に伺った日、名取市内の気温は氷点下。時折雪が舞う寒い土曜日の朝でしたが、科学部のメンバーたちが桜を植樹した「千年希望の丘」などで行う作業に同行しました。

復興のシンボルとして元気に花を咲かせて欲しい桜ですが、この場所は沿岸部特有の強風が吹き、せっかくの落ち葉が飛ばされて肥料になってくれないため、元気に育ちにくいのが課題です。強風への対策として、木の根元に細い竹や網で囲いを作っており、この日はその改良を行う作業でした。

閖上地区の小塚原南集会所で顧問の尾形政幸先生や科学部のメンバーと落ち合いました。まずは、集会所に近い小平さんというお宅で、庭に生えている細い竹を分けていただき、地面に打ち込む杭にするため、40cmほどの長さに切り揃えます。

その作業が終わると、杭にした竹を積み込んだ車で復興工事が進む沿岸の道を走り、岩沼市内の千年希望の丘へ。ここでは、間隔が広くてうまく落ち葉を溜めることができなかった杭と網を改良し、数cmごとの小さな間隔でぎっしりと竹杭を打ち込んでいく作業を行いました。また、植樹した桜の根元の土壌を採取。学校の部室に持ち帰って分析します。

昼食を挟んで仮設校舎の科学部部室に伺うと、白衣に着替えた部員のみなさんがすでに作業を始めていました。培養棚には桜の組織から育てている苗が並び、土壌の分析などを行うための機器も巧みに使いこなしています。桜の苗を培養し、塩害に強い作物を探し、栽培方法などを試行錯誤して検証して広く被災地の社会に伝えていく。「バラで被災地を変える〜スーパー植物を利用した環境修復型農業〜」は、農業高校ならではの有意義な取組であることが実感できました。

今はまだ県の農業施設内にある仮設校舎ですが、平成30年(2019)4月には新校舎が完成する予定になっているそうです。その頃には、閖上地区の畑に植えられたツーリーが、たくさんの花を咲かせ、たくさんの実を付けるようになることでしょう。


小平さん宅でいただいた竹を切り分けます。

桜が植樹されている閖上地区の集会所。


竹杭を打ち込む作業中。

改良型の囲いが完成!


千年希望の丘の植樹地。津波避難用の
高台が造成されています。

凍てついた地面を掘って調査用の土壌を採取。


仮設校舎の部室で持ち帰った土を分析します。
▲ ページ上部へ