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第3回グッドライフアワード環境大臣賞優秀賞

特定非営利活動法人 智頭町森のようちえん まるたんぼう

智頭町 森のようちえん

森のようちえんとは、森や川など野外のフィールドを活用してのびのびと子どもたちを育む保育スタイルのこと。デンマークやドイツから広がったといわれ、近年、日本でも全国各地でさまざまな取組が始まっています。智頭町で取組を行っている森のようちえん『まるたんぼう』は、行政ともしっかり連携。「まるたんぼうモデル」とも呼べる着実な活動を続けています。


ムービーもご覧ください(これから先は、環境省サーバーを離れます)

自然のフィールドがようちえんの園庭です!

活動のきっかけは?
豊かな森で遊んだことを誇れる人に育ってほしい!

鳥取県智頭町は人口およそ7000人の町。鳥取市街からはクルマで約1時間。鳥取砂丘の砂を運んだといわれる千代川(せんだいがわ)の流れをたどるようにして、山懐へと走ります。その千代川の源流があるのも智頭町の山の中。豊かな森が広がる、一見、日本のどこにでもありそうな静かで小さな町です。

森のようちえん『まるたんぼう』がスタートしたのは2009年4月のこと。『まるたんぼう』の代表を務める西村早栄子さんが2006年に智頭町へ移住。智頭のまちづくりを考え、行政と連携して予算を付け、実現していこうという『100人委員会』に参加したことがそもそものきっかけでした。

ご夫婦で林業関係の仕事をされている西村さんは、デンマークで始まった「森のようちえん」という方法を知っていました。そこで、移住した家の近所で3人の男の子の子育て中だったご家族と意気投合。またタイミング良く就任した寺谷誠一郎町長が「いいアイデアには予算をつけて応援する」という施策を打ち出しました。さらに、近隣の保育園関係者などとの出会いが生まれ、心強い仲間が増えていくという好運な出来事が積み重なって、『智頭町に森のようちえんをつくる会』を立ち上げたのです。

深い山と森に囲まれた智頭のような土地柄でも、最近の普通の育児環境では、自然体験は乏しいまま育つ子どもが多いのが現状です。木登りをしたり、花や虫とふれあって、ときにはカエルやヘビを捕まえる。自然の中でさまざまな体験を積みながら、のびのびとたくましい子どもに育って欲しい。そして、川で生まれた魚が海に出て、再び遡上してくるように、智頭の森で育った子どもが大人になったら、また智頭の森を子育ての場に選んで欲しい。『まるたんぼう』は、そんな思いを抱く人たちが集まってスタートしたのです。


たおやかな山並みに抱かれた智頭の森。

鳥取砂丘も『まるたんぼう』の遠足の場所。


子どもは木登りも大好き。
どんな取り組みを?
目的は「たくましい体」と「しなかやな心」を育むこと

『まるたんぼう』の園児は3歳から5歳まで。1学年の定員は10名で、月曜日から金曜日までの預かり保育を行っています。古民家を利用した『まるたんぼうハウス』という拠点はありますが、雨や雪が降る日でも、子どもたちが過ごすのはほとんどの日が森の中。智頭町内の14カ所の森や原っぱ、集落、野外施設などが『まるたんぼう』のフィールドとして使えるよう、集落の自治体や森の地権者の方々が協力を約束してくれています。

かつて因幡街道と、備前街道が合流する地にあった智頭宿には、今も古い町並みが残っています。その町の一角、国の重要文化財に指定されている石谷家住宅に隣接する醤油蔵の跡地が毎朝の集合場所。保護者と一緒に集まった子どもたちが、その日遊びたい森のフィールドを自分たちで話し合って決めるのが『まるたんぼう』の一日のスタートです。

保育方針のポイントは3か条。

「自然のなかでのびのびと」
美しい智頭の森を学び舎として、自然そのものを遊び道具として、子どもたちの興味や関心を尊重した保育を行っています。

「その子のペースでゆっくりと」
子どもそれぞれの個性や感性、気持ちを大切にして「信じて待つ」ことをモットーにした保育を行っています。子どもだけでなく、親や保育士もともに育ち合うことを大切にしています。

「楽しく仲良くたくましく」
子ども同士の世界を大切にして、子どもたちが自ら考えて解決するのを尊重します。人との関わりや知恵を学び、自分と仲間を大切にできる子どもを育てます。

大切なのは「子どもの育ちを信じる」こと。「たくましい体」と「しなかやな心」を育むことが、『まるたんぼう』の目的です。


重要文化財の石谷家住宅。

集合場所は旧街道に面した醤油蔵の跡地。


智頭町内のいろんな森がフィールドです。

園児バスで今日の遊び場へ出発!
成功のポイントは?
親も一緒に成長していくことが大切

森の中で遊んでいれば、時には転んでケガをしたり、蜂に刺されてしまうこともあります。もちろん子どもたちも保育士も傷害保険などには加入していますが、子どもたちを預ける親が『まるたんぼう』の理念や現場を知り、理解することは不可欠です。たとえば子どもがケガをしてしまったとしても、子どもたちが毎日どんな場所でどのように過ごし、保育士などのスタッフがどのように子どもたちと接して見守っているかを、知っておいてもらうことが大切なのです。

実は「見守る保育」で難しいのは、大人がつい口出ししてしまうこと。子育て中のお母さんたちにとって「危ないからやめなさい」と言いたいのを我慢するのはなかなか難しいことです。『まるたんぼう』では『ハチドリの会』という母の会、『焚き火の会』という父の会を設けて、保護者も一緒に見守る保育に参加して、理解を深めてもらえるように取り組んでいます。またこうした保護者の会のイベントや、『山観日』と名付けた父兄参観日のほか、年間に最低でも2回は日常の森での保育に参加することが、保護者の義務になっているそうです。

『まるたんぼう』は森の「ようちえん」とはなっていますが、実際は、いわゆる「届出保育施設」です。近年全国で問題になっているように、こうした保育施設は予算不足などの課題を抱えがち。でも『まるたんぼう』の場合は、智頭町や鳥取県といった地元自治体としっかり連携して、さまざまな補助金や交付金を活用できていることが、大きな特徴になっています。

森で遊び、お弁当を食べた子どもたちは午後1時ごろには集合場所に戻って保護者が迎えにきます。普通の届出保育施設であればこれ以上のサービスはなかなか難しいことなのですが、この『まるたんぼう』では、拠点である『まるたんぼうハウス』を利用して午後2時ごろから5時頃までの託児サービスを行ったり、立派な園児バスをもつことができています。保護者が子どもを預けやすく、スタッフにとっても働きやすい状態をつくれているのは、素晴らしいことだと感じます。

保護者の中には『まるたんぼう』で子どもを育てるために、鳥取県外から智頭町に移住してきた人がたくさんいます。町などのサポートはあるものの、当然、移住後の仕事は自分で探さなければいけません。子育てをきっかけに両親自らが人生を見つめ直しているということです。また智頭町としても、『まるたんぼう』という魅力的な保育施設があることで、若い移住者夫婦と子どもたちという新しい活力を迎え入れることができているのです。






レポート
泣いても、転んでも、優しく見守る保育士さん

山登りや、地元のお年寄りからものづくり(畑の作業や料理などを含めて)を教わるなど、さまざまな行事が行われる日も多いそうですが、取材に伺ったのは『まるたんぼう』にとっては日常の保育スタイルである「お散歩」の日。この日、遊び場所を決める役割を任された年長さんが選んだのは、14カ所あるフィールドの中で「惣地(そうち)」という山あいの集落を抜けたところにある森でした。

出発時の天気はあいにくの小雨でしたが、子どもたちは元気いっぱい。林道入り口でしばしスタッフさんのギターに合わせてお遊戯で遊んだ後は、思い思いにいくつかのグループに分かれて、ほんとうに「お散歩」が始まりました。保育士さんが行き先を指示したりすることもありません。これは、取材撮影が難しい! やむを得ず、わんぱくそうな園児が多く、山道を登り始めたグループを見守りながら付いていくことにしました。

遠足ではなくお散歩なので、特に目的地があるわけでもありません。なかには、いきなり道に座り込んでお弁当を食べ始める子もいたりして……。また、数人の子どもが束になってパンツをずり下ろし、大泣きを始めた子がいたのですが、その時も保育士さんは何も言いません。そのうちに、さっきまでパンツを下ろそうといたずらしていた子どもが「ごめんね」と謝り、また別の子が「大丈夫?」と頭をなでて……。しばらくすると、何事もなかったように仲良く遊び始める様子に感心させられました。

今回の取材には、グッドライフアワード実行委員の中井徳太郎委員と大葉ナナコ委員も一緒に伺いました。二人の実行委員には便宜上取材班と一緒に歩いてもらったのですが、ある女の子が雨に濡れた葉っぱをブローチのように服に貼り付ける遊びに夢中になって、中井委員も大葉委員も、葉っぱのアクセサリーまみれになってしまったのでした。

西村さんから「子どもたちに干渉しないで」と取材時の注意を聞いていましたが、こうして子どもたちから遊んできたり、甘えてきたりするのであれば、それをそのまま受け入れるのも見守り保育ということです。東京から森をのぞきに行ったわれわれにとっても、楽しい時間になりました。

開園3年目から『まるたんぼう』は定員オーバーが続いたことから、2013年には智頭町で2つ目となる森のようちえん『すぎぼっくり』がスタート。2014年には『森のようちえん まるたんぼう付属学校 新田サドベリースクール』の取組が始まっています。

新田サドベリースクールは、6歳〜18歳の子どもたちを対象にして「先生も授業もテストも成績評価」もない自由な学びの場。生徒たちは校舎である古民家と周辺の森の中でのびのびと、自分のやりたいことを見つけて一日を過ごします。「ようちえん」の付属学校という発想もユニークです。『まるたんぼう』から『サドベリースクール』へ。西村さんと、その仲間のみなさんの思い描いた育児と教育についての夢の樹木が、智頭町の森で着々とその枝を広げつつあるのです。

日本全国には、智頭町と同じように豊かな森や自然がありながら、高齢化や過疎化で悩んでいる町が少なくありません。森のようちえん『まるたんぼう』の取組は、のびのびと子どもを育てるだけでなく、町の元気を取り戻し、ひいては豊かな森を守っていくことにも繋がる素晴らしいモデルケースといえるでしょう。


<智頭町 森のようちえん まるたんぼう >
公式サイト http://marutanbou.org/


葉っぱのアクセサリーがいっぱいの
大葉ナナコ実行委員。

中井徳太郎実行委員にも!

スタッフさんのギターで
お遊戯タイムもあります。

林道の轍が残る原っぱで、いきなり
お弁当タイムが始まりました。

口出しせずとも子どもたちは助け合います。

刃物を使ったり……

火を扱うことにもチャレンジ。


代表の西村早栄子さんと実行委員のお二人。

小川に面した古民家が『まるたんぼうハウス』

午後の託児をしながら、その日の子どもたちの
様子を話し合うスタッフのミーティングは、
とても大切な時間です。

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