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グッドライフアワード2015 環境大臣賞 優秀賞

アニマルパスウェイ研究会

森と命を繋ぐ歩道橋「アニマルパスウェイ」の開発と普及

『グッドライフアワード2015』で環境大臣賞優秀賞を受賞した『アニマルパスウェイ研究会』。『森と命を繋ぐ歩道橋「アニマルパスウェイ」の開発と普及』という取り組みは、森の樹上で生活する小動物のために「アニマルパスウェイ」と名付けた「歩道橋」を普及させることを目指しています!

ムービーもご覧ください(これから先は、環境省サーバーを離れます)
ヤマネやリスを守り、自然と向き合う暮らしを目指す!
活動のきっかけは?
ライフワークが呼んだ共感からスタート!

取り組みのきっかけとなったのは『アニマルパスウェイ研究会』の会長である湊秋作さんの熱意でした。学生時代から国の天然記念物であるニホンヤマネに魅せられた湊さん。20年以上、和歌山県で小学校の先生として働いている間も、八ヶ岳南麓などの森に通い詰め、ライフワークとしてヤマネの研究を続けてきました。

転機が訪れたのは2004(平成16)年。経団連自然保護協議会に所属する建設関連企業とNPOなどの懇談会が開かれて、湊さんが森を分断する道路と樹上で暮らす小動物の問題を提起しました。

日本の森林率は約68%といわれています。道路の総延長距離は約127万km。ヤマネやリスといった樹上で暮らす小さな動物の行動範囲は意外と広く、道路によって森が分断されると、エサが足りなくなったり、近親交配で種の劣化につながってしまう懸念があるのです。また、道路を横断しようとした動物がクルマにひかれてしまう「ロードキル」の問題も深刻でした。

湊さんの思いに賛同した、大成建設や清水建設といった企業、そして清里の清泉寮で知られる公益財団法人キープ協会や、ニホンヤマネ保護研究グループの人たちが集結して『アニマルパスウェイ研究会』の取り組みがスタートしました。


2号機建設のために集まったボランティアのみなさん。

この中を、ヤマネやリスが通ります!


森を貫く道が、動物の命を脅かしています。

『アニマルパスウェイ研究会』会長の湊秋作さん。
どんな取り組みを?
ヤマネやリスが使ってくれる「歩道橋」を作る!

1998年ごろ、湊さんが研究を続けていた八ヶ岳南麓に、ヤマネが暮らす森を分断する広い道路が建設されました。冬眠していたヤマネが逃げることもできずブルドーザーに踏みつぶされてしまうような工事が行われたことに憤慨した湊さんは、建設主体の自治体(山梨県)に意見して、道路標識と組み合わせた「ヤマネブリッジ」の設置を実現させたのです。とはいえ、頑丈な鉄骨を組み合わせた橋の建設費はおよそ2000万円。広く普及させていくには高額過ぎました。

「もっと安く安全に、ヤマネやリスが利用してくれるものが作れないか」。『アニマルパスウェイ研究会』では、賛同するゼネコンなどの協力で材料や構造を検討、約2年半の実証実験を重ねて「アニマルパスウェイ」を完成させました。アニマルパスウェイの建設費用はヤマネブリッジの約1/10。これなら、地方自治体が管轄する道路にも設置できる現実的なコストです。

ヤマネが暮らす森を分断している道はどこなのか。リスやヤマネにパスウェイを利用してもらうために適切な設置場所はどこなのか。『アニマルパスウェイ研究会』は細密な調査と検討を行って、現在では山梨県北杜市内の八ヶ岳南麓に「1号機」と「2号機」を設置。さらに、栃木県の「那須平成の森」の中の道路にもアニマルパスウェイが設置されています。

また、設置したアニマルパスウェイにはカメラを設置して24時間体制のモニタリングを実施。録画された膨大な動画データを手作業でチェックして見つけ出した動物たちの様子が、研究会と活動をともにする『アニマルパスウェイと野生生物の会』の公式サイト(http://www.animalpathway.com/)でたくさん公開されています。ぜひチェックしてみてください。


パスウェイを渡るニホンリス。

夜行性のヤマネの姿は赤外線カメラで撮影します。


清泉寮近くに設置されている1号機。

清里高原道路のヤマネブリッジ。
成功のポイントは?
賛同者の知恵と熱意で森と動物を守る!

清里のキープ協会には、ヤマネの生態やアニマルパスウェイを紹介する「やまねミュージアム」があります。館長を務めるのは湊さん。ヤマネのような単一の小動物を紹介するテーマミュージアムの存在は、全国、いえ、世界でも珍しいのではないでしょうか。キープ協会をはじめ、大成建設や清水建設といった高度な技術力をもつ企業の賛同を得て、やるべきことを進めてきた湊さんの「熱意」が、まずはこの取り組みがうまくいっている最大のポイントといえるでしょう。

『アニマルパスウェイ研究会』と『アニマルパスウェイと野生生物の会』の代表幹事として、取り組みの事務的な仕事をこなしている大竹公一さんは、元大成建設の社員で、定年退職後の今はパスウェイの普及や広報活動に精力を傾けています。大竹さんがヤマネに魅せられ、大手ゼネコンがCSR活動の一環として関わり続けていけるのは、ヤマネやリスといった小さな森の動物を守ることが、自然と人が共生するための「行動」として、とても象徴的で効果を実感できる取り組みだから、ともいえるでしょう。

さらに、実際にアニマルパスウェイを設置するのは道路の建設主体である国や地方自治体です。自然保護がいかに社会的に大切なテーマで、約200万円という現実的なコストで建設できるアニマルパスウェイを開発したからといって、公的な予算で動物のための施設を建設するのは簡単なことではないはずです。

実際のアニマルパスウェイの建設にあたっては、『アニマルパスウェイと野生生物の会』を軸に、ニホンヤマネ保護研究グループなどが力を合わせて周辺の森の調査を行います。その結果をもとに「ここに設置するべき」という適切な提言をして、共感の輪を広げてきたからこそ、着々とアニマルパスウェイの設置が進んできたのです。


代表幹事の大竹公一さん。

ミュージアムにはヤマネグッズもいっぱいです。


キープ協会にある『やまねミュージアム』。

栃木県那須平成の森のアニマルパスウェイ。
レポート
森とヤマネを守るさまざまな活動も実施中!

取材ではキープ協会の『やまねミュージアム』を訪ねました。小さな博物館ですが、館内はヤマネに関する展示やグッズがいっぱいです。周辺は、まさにヤマネやリスが暮らす森。清泉寮のすぐ近くの道路には、アニマルパスウェイの1号機が設置されています。案内してくれたのは研究員の岩渕真奈美さん。大学を卒業して、本当は学校の教師になるつもりだったのが「たまたま出会ったヤマネに魅せられて」この仕事を続けているそうです。

『やまねミュージアム』は、誰でも気軽に訪れることができる活動の発信拠点であると同時に、実際にヤマネを保護するための研究の拠点でもあります。また、一般の参加者を募り、巣箱の設置や、木から木へヤマネやリスが移動するための枝をわたす作業などの活動も行っています。

また、ちょうど保護されていたヤマネが冬眠している様子を見ることができました。実際のヤマネを見るのはもちろん初めてのこと。落ち葉に埋もれていたのを写真を撮影するために掘り出したので「本当はもう目覚めてるんですけど、体温が上がるまで動けないんですよ」とのこと。しっぽまできれいに丸まって眠る、でも、内心はきっと「早く起きなきゃ」と焦りまくっているヤマネくんの姿(ごめんね、ヤマネくん!)を、しっかり写真に撮らせてもらいました。

アニマルパスウェイの設置は、今、イギリスやデンマークなど世界にも広がり始めているそうです。どこにでも設置すればいいというものではありませんが、アニマルパスウェイの存在や意義を知り、身近な森に生きる動物たちのことを考えることは、持続可能な社会の実現にとって大切です。日本中のいろんな森に、アニマルパスウェイが架けられる日が、きっとやってくることでしょう。
やまねミュージアムからアニマルパスウェイ1号機までは、歩いて散策もできる距離。清里に行く機会があったら、ぜひ訪ねてみてください。


研究員の岩渕真奈美さんに案内していただきました。

芯だけになっているのがリスが食べたマツボックリ。

取材に伺った時、まだヤマネは冬眠中でした。

企業とのコラボなど、さまざまな活動が
広がっています。
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