個人・企業・行政などが連携
愛知県名古屋市で実施されている『おかえりやさいプロジェクト』。生ごみを堆肥にリサイクルして、その堆肥で育てた野菜が市内のスーパーやレストランに戻ってくるという取り組みです。第1回グッドライフアワードで、グッドライフ特別賞に輝きました。2014年12月に実施された「おかえりやさい」を巡るバスツアーを取材してきました。
1999年に名古屋市は『ごみ非常事態宣言』を出しています。ごみ処分のために干潟を埋め立てる計画が、環境保護のために中止になったことがきっかけです。この出来事をきっかけに、名古屋市ではごみを減量するための積極的な取り組みが始まりました。
2007年、ごみ問題解決のために、市民も参加して第4次一般廃棄物処理計画の策定を話し合う中で、当時、名古屋大学エコトピア科学研究所特認講師だった岡山朋子さん(現在は大正大学人間学部准教授)が議長を務める生ごみ分科会で「リサイクルの輪を繋げなければいけない」「循環を視える化しよう」といったことが話し合われました。その時の市民たちが中心となって、2008年にスタートしたのが『おかえりやさいプロジェクト』です。
『おかえりやさい』というプロジェクト名は、メンバーとして話し合いに参加していた主婦の方のアイデアということです。「おかえりぼーや」と名付けられたキャラクターも誕生し、名古屋ならではのエコ野菜ブランドとして多くの市民がファンになってくれているそうです。
レストランやスーパーなどの事業者から出た生ごみを、焼却せずに収集車がリサイクル施設へ運搬。そこで生まれた堆肥を使って地元の農家が野菜を作り、その野菜がまたレストランやスーパーに戻る。そしてプロジェクトの趣旨を理解した市民がその野菜を買ったり、レストランで食事をする。
『おかえりやさい』プロジェクトは、さまざまな事業者や市民が一体となった野菜(食べ物)が循環する仕組みです。おかえりやさいブランドの野菜は名古屋近郊の生産者が作ったもの。生ごみ堆肥を使うことで減農薬で、輸送コストなどがかからない地産地消の野菜であることも、環境への負荷が少ないポイントです。
プロジェクトの公式サイトでは、おかえりやさいを買える店や、食べられるレストランのリストが紹介されています。
この日のバスツアーでは、畑、生ごみリサイクル施設、スーパー、レストラン(ホテル)など、取り組みの鍵になっている場所を巡りました。生ごみから堆肥を作る『バイオプラザなごや』(熊本清掃社)の社長である村平光士郎さんが「この取り組みは、私たちだけでは成立しません。一人では、何もできないんです」と話してくださいました。
野菜を作る農家の方には、安心して食べられる付加価値の高い野菜を作りたいという思いがあります。スーパーやレストランでも「おかえりやさい」は人気です。取り組みに関わるすべての人たちが、環境のために我慢したり、行政からの押しつけで仕方なく協力するのではなく、おかえりやさいの価値を認めてより魅力的なものにするために力を合わせていることが、この取り組みが成功し、広がりつつある秘訣といえるでしょう。
もちろん、おかえりやさいの価値を理解して、スーパーで野菜を買ったり、レストランの料理を選ぶ一般消費者の存在は、取り組みの成功に欠かすことができません。おかえりやさいを選んで買ったり食べたりするだけで、取り組みを応援することができるのです。
市民が発案して市民が本気で取り組んで、行政がそれをサポートする。おかえりやさいの取り組みは、まさに市民が自ら取り組む活動のすばらしいお手本です。
この日、参加者のみなさんが乗り込んだバス『ジュンちゃん号』は、名古屋市がレジ袋有料化による収益金(レジ袋の代金から原価を引いたもの)から寄付を受けて購入したもの。さまざまな取り組みが連携して、新しい取り組みの発展に結びついているということです。
スーパー『覚王山フランテ』では、開店前の店内に並べられたおかえりやさいや、スーパーの業務で出る生ごみ収集の様子を見学し、参加者全員にブロッコリーのお土産までいただきました。
実際に野菜が作られている畑では、農園主の山口義博さんがおかえりやさい作りのポイントや、野菜作りへの思いを聞かせてくださいました。山口さんが主宰する体験農園『野菜のにこにこ教室』では、ちょうど旬を迎えていた春菊を参加者が収穫してこれもお土産に。ツアーの最後は『ウェスティンナゴヤキャッスル』で、おかえりやさいの料理も並んだランチブッフェ。まさに、おいしい体験バスツアーとなりました。
「ランチなどのブッフェだけでなく、ご要望に応じて宴会などでもおかえりやさいを使うこともあります。私たちのホテルでは2009年からこの取り組みに参加しています。季節限定でのご提供にはなりますが、関心をもって賛同してくださるお客様の言葉をいただくのがうれしいですね」((株)ナゴヤキャッスル総務部環境担当課長の鴻野亜弥子さん)
ごみを減らしながら、地産地消の新しいブランドを育てる『おかえりやさいプロジェクト』の方法は、いろんな町で参考にできるのではないでしょうか。全国に広がっていくといいですね。