環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成27年版 図で見る環境・循環型社会・生物多様性白書状況>第2部 各分野の施策等に関する報告>第1章 低炭素社会の構築

第2部 各分野の施策等に関する報告

第1章 低炭素社会の構築

1 地球温暖化問題の現状

(1)地球温暖化の現況と今後の見通し

 気候変動に関する政府間パネル(以下「IPCC」という。)は、2014年(平成26年)に取りまとめた第5次評価報告書統合報告書において、以下の内容を公表しました。斜体で示した可能性及び確信度の表現は、表1-1-B及び表1-1-Cのとおりです。

○観測された変化及びその原因

・気候システムの温暖化については疑う余地がない。

・人為起源の温室効果ガスの排出が20世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な原因であった可能性が極めて高い

・ここ数十年、気候変動は、全ての大陸と海洋にわたり、自然及び人間システムに影響を与えている。

○将来の気候変動、リスク及び影響

・温室効果ガスの継続的な排出は、更なる温暖化と気候システムの全ての要素に長期にわたる変化をもたらし、それにより、人々や生態系にとって深刻で広範囲にわたる不可逆的な影響を生じる可能性が高まる。

・21世紀終盤及びその後の世界平均の地表面の温暖化の大部分は二酸化炭素の累積排出量によって決められる(表1-1-A)。

・地上気温は、評価された全ての排出シナリオにおいて21世紀にわたって上昇すると予測される(図1-1-A)。

表1-1-A 人為的な温暖化を2℃未満(注1)に抑える確率と累積二酸化炭素排出量の関係

図1-1-A 世界平均地上気温※の変化

・多くの地域で、熱波がより頻繁に発生し、また、より長く続き、極端な降水がより強くまたより頻繁となる可能性が非常に高い

・海洋では、温暖化と酸性化、世界平均海面水位の上昇が続くだろう。

・気候変動の多くの特徴及び関連する影響は、たとえ温室効果ガスの人為的な排出が停止したとしても、何世紀にもわたって持続するだろう。

○適応、緩和、持続可能な開発に向けた将来経路

・適応及び緩和は、気候変動のリスクを低減し管理するための相互補完的な戦略である。

・現行を上回る追加的な緩和努力がないと、たとえ適応があったとしても、21世紀末までの温暖化が、深刻で広範にわたる不可逆的な影響を世界全体にもたらすリスクは、高いレベルから非常に高い水準に達するだろう(確信度が高い)。

・産業革命以前と比べて温暖化を2℃未満に抑制する可能性が高い緩和経路は複数ある。これらの経路の場合には、CO2及びその他の長寿命温室効果ガスについて、今後数十年間にわたり大幅に排出を削減し、21世紀末までに排出をほぼゼロにすることを要するであろう。

○適応及び緩和

 適応や緩和の効果的な実施は、全ての規模での政策と協力次第であり、他の社会的目標に適応や緩和がリンクされた統合的対応を通じて強化され得る。

表1-1-B 第5次評価報告書における可能性の表現について

表1-1-C 第5次評価報告書における確信度の表現について

 日本の状況に関しては、気象庁によると、日本の年平均気温は、1898年(明治31年)から2014年(平成26年)の期間に、100年あたり1.14℃の割合で上昇しています。日本においても、気候の変動が農林水産業、生態系、水資源、人の健康などに影響を与えることが予想されています。

(2)日本の温室効果ガスの排出状況

 日本の2013年度(平成25年度)の温室効果ガス総排出量は、約14億800万CO2トンでした。前年度(平成24年度)の総排出量(13億9,000万CO2トン)と比べると、火力発電における石炭の消費量の増加や、業務その他部門における電力や石油製品の消費量の増加によりエネルギー起源二酸化炭素の排出量が増加したことなどから、1.2%増加しました。また、2005年度(平成17年度)の総排出量(13億9,700万CO2トン)と比べると0.8%、1990年度(平成2年度)の総排出量(12億7,000万CO2トン)と比べると10.8%増加しました(図1-1-B)。

図1-1-B 日本の温室効果ガス排出量

 温室効果ガスごとに見ると、2013年度(平成25年度)の二酸化炭素排出量は13億1,100万CO2トン(2005年度(平成17年度)比0.5%増加)でした。その内訳を部門別に見ると産業部門からの排出量は4億2,900万CO2トン(同6.0%減少)でした。また、運輸部門からの排出量は2億2,500万CO2トン(同6.3%減少)でした。業務その他部門からの排出量は2億7,900万CO2トン(同16.7%増加)でした。家庭部門からの排出量は2億100万CO2トン(同11.9%増加)でした(図1-1-C図1-1-D)。

図1-1-C 二酸化炭素排出量の部門別内訳

図1-1-D 部門別エネルギー起源二酸化炭素排出量の推移

 二酸化炭素以外の温室効果ガス排出量については、メタン排出量は3,600万CO2トン(同7.5%減少)、一酸化二窒素排出量は2,250万CO2トン(同12.0%減少)、HFCs排出量は3,180万CO2トン(同149.7%増加)、PFCs排出量は330万CO2トン(同62.0%減少)、SF6排出量は220万CO2トン(同57.2%減少)となりました。なお、2013年度(平成25年度)の算定から、新たに三ふっ化窒素(以下「NF3」という。)を温室効果ガスとして追加し、NF3排出量は140万CO2トン(同8.9%増加)でした。また、一部のHFCs、PFCsも、算定の対象に追加しました。

 また、2013年度(平成25年度)の森林等吸収源による二酸化炭素の吸収量は、約6,100万CO2トンでした。

2 地球温暖化対策に係る国際的枠組みの下での取組

(1)気候変動枠組条約に基づく取組

ア 京都議定書(1997年(平成9年)採択)

 1997年(平成9年)に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3。以下、締約国会議を「COP」という。なお、本章における締約国会議(COP)は、気候変動枠組条約締約国会議を指す)において京都議定書が採択され、2005年(平成17年)2月16日に発効しました。2013年(平成25年)12月末現在、191か国及び欧州連合(EU)が京都議定書を締結しています(日本は2002年(平成14年)6月4日に締結)。なお、米国は2001年(平成13年)に京都議定書への不参加を表明し削減義務を負っていません。

 京都議定書は、先進国に対して法的拘束力のある温室効果ガス削減の数値目標を設定し、また柔軟性措置としての京都メカニズム等について定めています。2008年(平成20年)から2012年(平成24年)までの第一約束期間においては、日本は1990年(平成2年)に比べて6%、EU加盟国全体では同8%等の削減目標が課されましたが、中国やインドなどの途上国等に対しては数値目標による削減義務は課せられておりません。2014年(平成26年)4月に発表した2012年度(平成24年度)の日本の温室効果ガス排出量の確定値では、森林等吸収源や京都メカニズムクレジットを加味すると、京都議定書第一約束期間の5か年平均で基準年比8.4%減となり、京都議定書の目標(同6%減)を達成することとなります。

 また、2012年(平成24年)11月から12月にかけて行われた京都議定書第8回締約国会議(COP/MOP8。以下、京都議定書締約国会議を「COP/MOP」という。)においては、2013年(平成25年)から2020年(平成32年)までの第二約束期間の各国の削減目標が新たに定められました。しかし、世界の二酸化炭素排出量のうち、第二約束期間で削減義務を負う国の排出量の割合は現在では15%程度に過ぎません(図1-2-A)。現在、京都議定書締約国のうち、第一約束期間で排出削減義務を負う国の排出量は世界の4分の1に過ぎず、こうした枠組みを固定化することは我が国が目指す公平かつ実効的な国際枠組みにつながらないことから、我が国は第二約束期間に参加しないこととしました。

図1-2-A 世界のエネルギー起源二酸化炭素の国別排出量(2012年)

イ 最近の交渉状況

 2014年(平成26年)12月にペルー・リマで開催されたCOP20及びCOP/MOP10では、「気候行動のためのリマ声明」が採択されました。

 このCOP決定において、気候変動に関する国際連合枠組条約(以下「気候変動枠組条約」という。)第2条の目的(大気中の温室効果ガスの濃度安定化)達成に向けて約束草案を提出し、その内容を現在のものよりも進んだものとすること、適応計画の取組を提出すること又は約束草案に適応の要素を含めるよう検討すること、約束草案に含む事前情報については、参照値(基準年等)・期間・対象範囲・カバー率等を内容とすることができることとされました。また、各国が提出した約束草案を事務局がウェブサイト(https://unfccc.int/focus/indc_portal/items/8766.php(別ウィンドウ))に掲載するとともに、2015年(平成27年)11月1日までに各国の約束草案を総計した効果についての統合報告書を作成すること等が決定されました。

 新たな枠組みの交渉テキストの要素については、緩和、適応、資金、技術開発・移転、行動と支援の透明性、キャパシティ・ビルディングの各要素について、各国の主張を俯瞰(ふかん)できる文書を作成して上記COP決定の別添とし、今後これについて更なる検討を行うことが決定されました。

 また、緑の気候基金への初期動員(102億ドル)を歓迎するなどのCOP決定が採択されました。我が国は、国会の承認が得られれば、15億ドルを拠出することを発表しました。

 さらに、我が国は、「2050年までに世界全体で50%減、先進国全体で80%減」という目標を改めて掲げるとともに、約束草案を出来るだけ早期に提出することを目指すこと、我が国の技術を活用した世界全体の排出削減への貢献、途上国の緩和行動及び適応に関する支援、資金支援等を進めていくことを表明しました。

 なお、COP21はフランス・パリで開催されることとなり、モロッコがCOP22の議長国を務める意思があることを表明しました。

3 地球温暖化に関する国内対策

 平成25年3月15日に、地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年法律第117号。以下「地球温暖化対策推進法」という。)に基づき設置された、地球温暖化対策推進本部において、「当面の地球温暖化対策に関する方針」が決定されました。この方針において、平成25年度以降、気候変動枠組条約の下でのカンクン合意に基づき、2020年(平成32年)までの削減目標の登録と、その達成に向けた進捗の国際的な報告・検証を通じて、引き続き地球温暖化対策に積極的に取り組んでいくこととされました。

 平成25年11月15日に開催された地球温暖化対策推進本部においては、2020年度(平成32年度)の我が国における温室効果ガス排出削減目標として、2005年度(平成17年度)比で3.8%減とすることを環境大臣が報告し、本部員の理解を得ました。この目標は、原子力発電の活用の在り方を含めたエネルギー政策及びエネルギーミックスが検討中であることを踏まえ、原子力発電による温室効果ガスの削減効果を含めずに設定した現時点での目標であり、今後、エネルギー政策やエネルギーミックスの検討の進展を踏まえて見直し、確定的な目標を設定することとしています。

 これを踏まえ、従来の1990年(平成2年)比25%削減目標に代わる目標として、気候変動枠組条約事務局に登録するとともに、同年12月には本目標を踏まえた対策・施策を盛り込んだ隔年報告書を気候変動枠組条約事務局へ提出しました。

 地球温暖化対策推進法第8条に基づく地球温暖化対策計画については、今後、エネルギーミックスの検討が進展し、確定的な目標を設定できるようになった時点において、地球温暖化対策推進本部決定、閣議決定することとしています。

 また、2020年(平成32年)以降の温室効果ガス削減目標案の検討を加速化するため、平成26年10月に、中央環境審議会地球環境部会2020年以降の地球温暖化対策検討小委員会・産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会約束草案検討ワーキンググループ合同会合を立ち上げました。2020年(平成32年)以降の温室効果ガス削減目標案については、各国の動向や将来枠組みに係る議論の状況、エネルギー政策やエネルギーミックスに係る国内の検討状況等を踏まえて、できるだけ早く取りまとめることを目指して、検討を深めました。

第2章 生物多様性の保全及び持続可能な利用

1 生物多様性の現状

(1)世界における現状

ア COP12における愛知目標の中間評価

 2014年(平成26年)10月に韓国・ピョンチャンで開催された生物多様性条約第12回締約国会議(COP12。以下、締約国会議を「COP」という。なお、本章における締約国会議(COP)は、生物多様性条約締約国会議を指す)において、主要議題の1つとして、「生物多様性戦略計画2011-2020(以下「戦略計画」という。)」及び愛知目標の中間評価が行われました。その評価に当たっては、生物多様性条約事務局により作成され、公表された地球規模生物多様性概況第4版(以下「GBO4」という。)が参照されました。

 GBO4は、各国から提出された第5回国別報告書、生物多様性国家戦略、既存の生物多様性に関する研究やデータを分析し、戦略計画及び愛知目標の達成状況及び今後の達成見込みについて分析した報告書で、COP12における戦略計画及び愛知目標の中間評価に関する基礎資料として作成されました。各目標については入手可能なデータに基づき、将来予測やシナリオ分析が実施された上で今後の達成見込みについて分析されましたが、結果として、ほとんどの愛知目標は現状のまま施策を進めても達成することができず、目標達成に向けて緊急で効果的な行動が必要であることが確認されました。GBO4の結果概要は下記のとおりです。

[1]ほとんどの愛知目標の要素について達成に向けた進捗が見られたものの、生物多様性に対する圧力を軽減し、その継続する減少を防ぐための緊急的で有効な行動が執られない限り、そうした進捗は目標の達成には不十分。現時点で達成が見込まれるのは愛知目標11(陸域の保護地域面積)、16(名古屋議定書)及び17(生物多様性国家戦略の改定)のみ。

[2]愛知目標の達成は、飢餓や貧困対策、人間の保健の向上、エネルギー・食料・清浄な水の持続可能な提供の確保や、気候変動の緩和と適応の促進、砂漠化や土地の劣化への対処、災害に対する脆(ぜい)弱性の軽減に貢献。これらは国連のポスト2015年開発アジェンダや持続可能な開発目標にも寄与。

[3]愛知目標を達成するための行動は統合的に実施されるべき。特に生物多様性損失の根本原因への対処、生物多様性国家戦略・実施計画の策定と実施、情報の更なる生成・共有等の横断的な目標に対する行動は、他の目標の達成に特に強く影響。

[4]愛知目標の達成には、国レベルでの法的、政策的な枠組み、これらの枠組みと整合性のとれた社会経済的なインセンティブ、先住民の社会及び地域社会の効果的な参加を含む市民及びステークホルダーの参画、モニタリング、そしてコンプライアンス等が重要。また、これらの行動の効果的な実施には、省庁横断の一貫した政策が必要。

[5]戦略計画の実施と条約の目的の達成のためには、政治・市民の双方で支持を広げることが必要。そのためには、政府やステークホルダーが生物多様性と生態系サービスの価値を認識することが必要。

[6]戦略計画の実施に向けた行動を強化し、政府・経済・社会において生物多様性を主流化し、様々な多国間環境条約の実施における相乗効果を可能にするためには、あらゆるレベルでの協働が必要。

[7]科学技術協力の強化により戦略計画の実施を支援することができる。途上国には更なる能力育成支援や技術移転が必要。

[8]戦略計画の実施には、愛知目標20(資源動員)に従い、あらゆる財源から動員された資源が実質的に増加することが必要。

 我が国は、生物多様性条約事務局への拠出を通じてGBO4の作成を支援しました。また、愛知目標に沿って改訂した我が国の生物多様性国家戦略に関する点検結果を踏まえて、平成26年3月に第5回国別報告書を条約事務局に提出しました。さらに、GBO4のレビュープロセスに積極的に参加することにより、国連生物多様性の10年日本委員会(UNDB-J)や生物多様性国家戦略の策定プロセス等、日本の事例が多く紹介されました。また、生物多様性条約事務局に設置した生物多様性日本基金を通じ、途上国の国別報告書及び生物多様性国家戦略の策定支援を行い、GBO4の根拠資料の充実にも貢献しました。

 会議では、GBO4の結果を踏まえ、愛知目標の達成に向けた進展があった一方で、目標の達成には緊急で効果的な施策の追加が必要であることが認識され、GBO4の結果概要に留意するとともに、各締約国に対して同報告書に掲げられた各目標の達成に当たっての優先行動リストについて活用を奨励する決議が採択されました。我が国も、中間評価を踏まえ、「生物多様性国家戦略2012-2020」の実施にますます力を入れる必要があります。

(2)生物多様性の観点からの気候変動の適応策の推進

 「生物多様性国家戦略2012-2020」では、生物多様性の第4の危機として、新たに地球温暖化など地球環境の変化による危機を位置付けています。また、愛知目標においても、気候変動の緩和と適応への貢献が目標の1つになっています。平成26年3月に公表された、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書においては、「ここ数十年で、すべての大陸と海洋において、気候変動が自然及び人間システムへの影響を引き起こしている」とされています。我が国は、既に現れている影響や今後中長期的に避けることのできない影響への対処(適応)の観点から、政府全体の取組を適応計画として取りまとめることとしており、計画策定に向けて、平成27年3月に中央環境審議会において、「日本における気候変動による影響の評価に関する報告と今後の課題について(意見具申)」が取りまとめられました。

 同意見具申は、自然生態系への影響を、陸域・淡水・沿岸・海洋の各生態系と生物季節、分布・個体群の変動の各項目について、自然生態系そのものに及ぶ影響と生態系サービスに及ぶ影響の2つに大別して評価が行われました。自然生態系そのものに及ぶ影響としては、ハイマツやブナ林の分布適域の面積が21世紀末に減少するなど、現在及び将来の陸域における植物の分布適域の変化、ニホンジカなど一部の野生鳥獣の生息域の拡大、サンゴ礁の減少・消滅、最高水温が3℃上昇すると冷水魚の生息適地の面積が現在の約半分に減少する等の河川の生物相への影響など、多岐にわたり重大な影響が出る可能性が指摘されています。生態系サービスに及ぶ影響については、生態系サービスの研究が最近始まったものであること、定量化が難しいことなどから、総じて既存の研究事例が少なく、現状では評価ができないという結果になりました。今後は生態系サービスへの影響に関する研究を進めていくことが重要となります。

 影響の程度、発現時期は、地域、生態系、種により異なると考えられますが、気候変動により気温や降水量等の環境条件が変化することに応じて、我が国の生物多様性の状況は全体として変化していくと考えられます。生物多様性の減少や生態系サービスの低下を軽減するためには、気候変動の影響に対して自然や人間社会の在り方を調整する適応策を検討する必要があります。また、気候変動による影響は世界全体の緩和策の進展と密接な関係があり、気候変動がより早い速度で進んだり、その程度が大きかったりする場合は、適応でも対応できない可能性(適応の限界)があります。生態系は温室効果ガス吸収機能を有しているため、生態系の保全や再生は気候変動の緩和にも貢献します。生態系を上手に活用することで、緩和と適応の相乗効果を引き出すことが重要です。

 これらを踏まえ、環境省では、生物多様性分野における適応に関し、[1]気候変動が生物多様性に与える影響を低減するための適応、[2]適応策による生物多様性への負の影響の最小化、[3]生態系を活用した適応策の検討の3つの視点に着目して検討を行っています。

(3)抜本的な鳥獣管理の推進

 我が国には700種以上の鳥獣(哺乳類・鳥類)が生息しており、それぞれの鳥獣は、自然環境を構成する重要な要素の1つとして、欠くことのできない存在です。しかし、近年、ニホンジカやイノシシなどの一部の鳥獣については、急速に生息数が増加するとともに生息域が拡大し、その結果、自然環境や農林水産業、生活環境への被害が拡大・深刻化しています(図2-1-A)。

図2-1-A ニホンジカの推定個体数(北海道※を除く)

 平成25年12月には、環境省と農林水産省が共同で「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」を取りまとめ、この中で、当面の目標として、ニホンジカ、イノシシの個体数を10年後(平成35年度)までに半減させることを目指すこととしました。

 これらを受け、平成26年5月、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律の一部を改正する法律(平成26年法律第46号。以下「鳥獣保護法の一部を改正する法律」という。)が第186回国会において成立し、公布されました。これにより、法の目的に「鳥獣の管理」(増加しすぎた鳥獣を適正に減らすこと)を位置付け、法の題名が鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(平成14年法律第88号。以下「鳥獣保護法」という。)から鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(以下「鳥獣保護管理法」という。)に改められました。また、環境大臣が指定した鳥獣について、都道府県又は国が捕獲を行う事業を新たに創設するなど、「鳥獣の管理」のための新たな措置が導入されることとなりました(図2-1-B)。

図2-1-B 鳥獣保護法の改正概要

 法律の改正を受け、鳥獣の保護及び管理を図るための事業を実施するための基本的な指針(以下「基本指針」という。)の変更について、中央環境審議会自然環境部会において検討が行われ、変更案について同年10月に答申がなされました。そして、この答申を踏まえた新たな基本指針が、同年12月に公布されました。また、鳥獣保護法の一部を改正する法律の施行(平成27年5月29日)に向け、政省令の改正等を進めました。

 また、平成27年度税制改正において、生態系等に深刻な被害を及ぼす鳥獣の捕獲の担い手を確保するため、狩猟税の減免措置を新たに講じることとなり、必要な法令整備を行いました。

 さらに、都道府県による科学的・計画的な鳥獣の管理を支援するため、統計手法を用いて、ニホンジカについては都府県別に、イノシシについては広域ブロック別に、個体数推定及び将来予測を実施することにより、都道府県による科学的・計画的な鳥獣の管理を支援しました。

2 東日本大震災からの復興・再生に向けた自然共生社会づくりの取組

(1)三陸復興国立公園を核としたグリーン復興

ア 三陸復興国立公園に関する取組

 平成25年5月に創設した三陸復興国立公園については、平成27年3月に南三陸金華山国定公園を新たに編入しました。みちのく潮風トレイルについては、25年11月に開通した青森県八戸市蕪島から岩手県久慈市小袖の区間(約100km)で踏破証明書の発行による利用促進を図ったほか、26年10月には福島県新地町・相馬市の区間(約50km)を新たに開通しました。また、岩手・宮城・福島県内の5つの地域を対象とした復興エコツーリズム推進モデル事業、地震・津波による自然環境への影響の把握と「重要自然マップ」として地図化する(第1部第2章コラムを参照)などの情報発信といったグリーン復興プロジェクトを推進しました。

イ 公園施設の整備

 三陸復興国立公園の主要な利用拠点において、防災機能を強化しつつ、被災した公園利用施設の再整備を推進しました。岩手県宮古市では、中の浜の野営場跡地を、震災遺構の保存・展示のための「震災メモリアルパーク中の浜」として再整備を行い、平成26年5月に利用を再開しました(写真2-2-A)。青森県八戸市では、種差海岸に利用拠点となるインフォメーションセンターを整備し、平成26年7月に開館しました。

写真2-2-A 「震災メモリアルパーク中の浜」開園式典の様子

第3章 循環型社会の形成

1 廃棄物等の発生、循環的な利用及び処分の現状

(1)我が国の物質フロー

ア 我が国の物質フロー

 私たちがどれだけの資源を採取、消費、廃棄しているかを知ることが、循環型社会を構築するための第一歩となります。

 第三次循環型社会形成推進基本計画(以下「第三次循環基本計画」という。)では、発生抑制、再使用、再生利用、処分等の各対策がバランス良く進展した循環型社会の形成を図るために、物質フロー(物の流れ)の異なる断面である「入口」、「循環」、「出口」に関する指標にそれぞれ目標を設定しています。

 以下では、物質フロー会計(MFA)を基に、我が国の経済社会における物質フローの全体像とそこから浮き彫りにされる問題点、第三次循環基本計画で設定した物質フロー指標に関する目標の状況について概観します。

(ア)我が国の物質フローの概観

 我が国の物質フロー(平成24年度)は、図3-1-Aのとおりです。

図3-1-A 我が国における物質フロー(平成24年度)

(イ)我が国の物質フロー指標に関する目標の設定

 第三次循環基本計画では、物資フローの「入口」、「循環」、「出口」に関する3つの指標について目標を設定しています。

 それぞれの指標についての目標年次は、平成32年度としています。各指標について、最新の達成状況を見ると、以下のとおりです。

[1]資源生産性(=GDP/天然資源等投入量)(図3-1-B

 平成32年度において、資源生産性を46万円/トンとすることを目標としています(平成12年度の約25万円/トンからおおむね8割向上)。平成24年度の資源生産性は約38.0万円/トンであり、平成12年度と比べ約54%上昇しました。しかし、平成22年度以降は横ばいとなっており、平成23年度と比べると若干減少しています。

図3-1-B 資源生産性の推移

[2]循環利用率(=循環利用量/(循環利用量+天然資源等投入量))(図3-1-C

 平成32年度において、循環利用率を17%とすることを目標としています(平成12年度の約10%からおおむね7割向上)。平成12年度と比べ、平成24年度の循環利用率は約5.3ポイント上昇しました。平成22年度までは上昇していましたが、平成23年度以降は横ばいとなっています。

図3-1-C 循環利用率の推移

[3]最終処分量(=廃棄物の埋立量)(図3-1-D

 平成32年度において、最終処分量を1,700万トンとすることを目標としています(平成12年度の約5,600万トンからおおむね70%減)。平成12年度と比べ、平成24年度の最終処分量は約68%減少しました。ただし、平成23年度と比べると増加しています。

図3-1-D 最終処分量の推移

イ 廃棄物の排出量

(ア)一般廃棄物(ごみ)の処理の状況

 平成25年度におけるごみ処理のフローは、図3-1-Eのとおりです。

図3-1-E 全国のごみ処理のフロー(平成25年度)

(イ)産業廃棄物の処理の状況

 平成24年度における産業廃棄物の処理の流れ、業種別排出量は、図3-1-Fのとおりです。この中で記された、再生利用量は、直接再生利用される量と中間処理された後に発生する処理残さのうち再生利用される量を足し合わせた量を示しています。また、最終処分量は、直接最終処分される量と中間処理後の処理残さのうち処分される量を合わせた量を示しています。

図3-1-F 産業廃棄物の処理の流れ(平成24年度)

 産業廃棄物の排出量を業種別に見ると、排出量が多い3業種は、電気・ガス・熱供給・水道業、農業・林業、建設業となっています。この上位3業種で総排出量の約7割を占めています(図3-1-G)。

図3-1-G 産業廃棄物の業種別排出量(平成24年度)

2 東日本大震災により生じた災害廃棄物及び放射性物質に汚染された廃棄物の処理

(1)放射性物質に汚染された廃棄物の処理

 東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故により放出された放射性物質によって汚染された廃棄物については、平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法(平成23年法律第110号。以下「放射性物質汚染対処特別措置法」という。)等に基づき、適正かつ安全に処理を進めることとなっています。福島県内の国直轄で処理を進める汚染廃棄物対策地域では、平成25年12月の対策地域内廃棄物処理計画の見直しにおいて、帰還の妨げとなる廃棄物の仮置場への搬入完了目標を市町村ごとに設定しました。

 平成26年度には各市町村で仮置場の整備を進め、南相馬市、双葉町、飯舘村、川俣町及び葛尾村においては、帰還困難区域を除いて、帰還の妨げとなる廃棄物の仮置場への搬入について、一部の家の片づけごみを除き完了しました。仮設焼却施設については、7市町村において設置を予定しており、飯舘村小宮地区、川内村、富岡町及び南相馬市において稼働を開始し、葛尾村、浪江町及び飯舘村蕨平地区でも建設工事を進めました。

 さらに、福島県内の放射性物質汚染対処特別措置法に基づく指定廃棄物のうち、放射能濃度10万ベクレル/kg以下のものについては、既存の管理型処分場であるフクシマエコテックを活用して埋立処分する計画であり、地元の富岡町及び楢葉町の当局や議会への説明を経て、平成26年4月に楢葉町、6月に富岡町に対し住民説明会を開催しました。

 また、放射能濃度10万ベクレル/kg超の指定廃棄物を搬入する予定の中間貯蔵施設の整備については、平成26年5月から6月にかけて、福島県、候補地の大熊町・双葉町に、住民説明会の意見等を踏まえた財政措置を含む、国の考え方の全体像を提示しました。同年9月に知事より中間貯蔵施設の建設受入れを容認する旨、両町長より地権者への説明を了承する旨が伝達され、同年9月末から10月中旬にかけて地権者を対象にした説明会を開催しました。

 保管が長期化すると、腐敗や臭気等のおそれがある下水汚泥や農林業系副産物等の指定廃棄物については、焼却等の減容化事業を行うことになっています。減容化事業のうち、福島市堀河町終末処理場については、平成26年10月末をもって運転を終了しました。また、鮫川村内で発生し処理が滞っている農林業系副産物等の処理実証事業については、平成26年度も継続して行いました。

 福島県外の放射性物質汚染対処特別措置法に基づく指定廃棄物については、一時保管がひっ迫している宮城県、栃木県、千葉県、茨城県、群馬県の5県において、国が各県内で早期に処理するための調整を行っています。このうち、宮城県については、平成26年1月に3か所の詳細調査候補地(栗原市深山嶽、大和町下原、加美町田代岳)を公表し、同年8月に詳細調査を開始しました。また、栃木県については、平成26年7月に1か所(塩谷町寺島入)を、千葉県については、平成27年4月に1か所(千葉市中央区蘇我)を、それぞれ詳細調査候補地として公表しました。

 再生利用可能な廃棄物については、放射線量の測定を行い、処理業者が受入れ可能と確認した物について引渡しを行いました。また、飼料中の放射性セシウムについては、その暫定許容値を定め、引き続き都道府県等に周知徹底等を図っています。肥料については、汚泥肥料を含めた全ての肥料の放射性セシウム暫定許容値を400ベクレル/kgと定め、引き続き都道府県等に周知徹底を図るとともに、16都県で生産される汚泥肥料の放射性セシウム濃度の測定を実施しました。なお、平成26年4月から平成26年9月までの測定実績は47点でした。

第4章 大気環境、水環境、土壌環境等の保全

1 大気環境の保全対策

(1)大気環境の監視・観測体制の整備

ア 国設大気測定網

 大気汚染の状況を全国的な視野で把握するとともに、大気保全施策の推進等に必要な基礎資料を得るため、国設大気環境測定所(9か所)及び国設自動車交通環境測定所(9か所)を設置し、測定を行っています。これらの測定所は、地方公共団体が設置する大気環境常時監視測定局の基準局、大気環境の常時監視に係る試験局、国として測定すべき物質等(有害大気汚染物質)の測定局、大気汚染物質のバックグラウンド測定局としての機能を有しています。

 加えて、国内における酸性雨や越境大気汚染の長期的な影響を把握することを目的として、「越境大気汚染・酸性雨長期モニタリング計画(平成26年3月改訂)」に基づくモニタリングを離島など遠隔地域を中心に全国24か所で実施しています。

(2)微小粒子状物質(PM2.5)対策

 PM2.5は、原因物質と発生源が多岐にわたり、生成機構は複雑であるなど解明すべき課題が残されています。

 平成25年12月に取りまとめた「PM2.5に関する総合的な取組(政策パッケージ)」に基づき、排出抑制対策の基盤となる発生源情報の整備や生成機構の解明等、シミュレーションモデルの高度化等を進めつつ、国民の安全・安心の確保、環境基準の達成、アジア地域における清浄な大気の共有を目標とした取組を進めています。

 今後、適切なPM2.5対策を進めていくために、中央環境審議会の微小粒子状物質等専門委員会において、平成27年3月に、PM2.5の国内における当面の排出抑制策の在り方について、中間取りまとめが行われました。

 PM2.5濃度が上昇した場合における注意喚起等については、環境省が設置した「微小粒子状物質(PM2.5)に関する専門家会合」において、「注意喚起のための暫定的な指針」が取りまとめられ、この指針に基づき、都道府県等において注意喚起の運用や情報提供が実施されています。平成26年11月に、注意喚起の解除に関する判断方法の追加等、運用の一部見直しを行いました。

 国際的には、平成25年に開催された第15回日中韓三カ国環境大臣会合(TEMM15)において、我が国の提案により大気汚染に関する三か国政策対話を設置することが合意され、以後、毎年開催しています。

(3)多様な有害物質による健康影響の防止

ア 石綿対策

 大気汚染防止法(昭和43年法律第97号。以下「大防法」という。)では、吹付け石綿や石綿(アスベスト)を含有する断熱材、保温材及び耐火被覆材を使用する全ての建築物その他の工作物の解体等作業について作業基準等を定め、石綿の大気環境への飛散防止対策に取り組んでいます。また、石綿の飛散防止対策の更なる強化を図るため、大防法を改正し、特定粉じん排出等作業を伴う建設工事の届出義務者の変更、事前調査を義務化しました。

2 水環境の保全対策

(1)環境基準の設定等

 水質汚濁に係る環境基準のうち、健康項目については、現在、カドミウム、鉛等の重金属類、トリクロロエチレン等の有機塩素系化合物、シマジン等の農薬など、公共用水域において27項目、地下水において28項目が設定されています。さらに、要監視項目(公共用水域:26項目、地下水:24項目)等、環境基準項目以外の項目の水質測定や知見の集積を行いました。平成26年11月17日には、公共用水域及び地下水におけるトリクロロエチレンの基準値の改訂を行いました。

 生活環境項目については、生物化学的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(以下「COD」という。)、溶存酸素量(以下「DO」という。)、全窒素、全りん、全亜鉛等の基準が定められており、利水目的から水域ごとに環境基準の類型指定を行っています。また、底層溶存酸素量(以下「底層DO」という。)及び沿岸透明度に係る環境基準設定について中央環境審議会水環境部会において審議を進めました。

(2)公共用水域における水環境の保全対策

ア 湖沼

 湖沼については、富栄養化対策として、水質汚濁防止法(昭和45年法律第138号。以下「水濁法」という。)に基づき、窒素及びりんに係る排水規制を実施しており、窒素規制対象湖沼は320、りん規制対象湖沼は1,393となっております。また、湖沼の窒素及びりんに係る環境基準について、琵琶湖等合計119水域について類型指定を行っています。

 水濁法の規制のみでは水質保全が十分でない湖沼については、湖沼水質保全特別措置法(昭和59年法律第61号)によって、環境基準の確保の緊要な湖沼を指定して、湖沼水質保全計画を策定し(図4-2-A)、下水道整備、河川浄化等の水質の保全に資する事業、各種汚濁源に対する規制等の措置等を推進しています。また、湖沼の底層DOと透明度改善等の対策手法に関する検討を行いました。

図4-2-A 湖沼水質保全特別措置法に基づく11指定湖沼位置図

イ 閉鎖性海域

(ア)水質総量削減

 広域的な閉鎖性海域のうち、人口、産業等が集中し排水の濃度規制のみでは環境基準を達成維持することが困難な海域である東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海を対象に、COD、窒素含有量及びりん含有量を対象項目として、当該海域に流入する総量の削減を図る水質総量削減を実施しています。具体的には、一定規模以上の工場・事業場から排出される汚濁負荷量について、都府県知事が定める総量規制基準の遵守指導による産業排水対策を行うとともに、地域の実情に応じ、下水道、浄化槽、農業集落排水施設、コミュニティ・プラントなどの整備等による生活排水対策、合流式下水道の改善その他の対策を引き続き推進しました。

 そこで、平成26年度を目標年度とする第7次水質総量削減では、平成23年6月に策定した「化学的酸素要求量、窒素含有量及びりん含有量に係る総量削減基本方針」に基づき、平成24年2月に関係20都府県において総量削減計画が策定され、平成26年4月1日より全ての事業場に対して新たな総量規制基準の適用が開始されました。

 これまでの取組の結果、陸域からの汚濁負荷量は着実に減少し、これらの閉鎖性海域の水質は改善傾向にありますが、COD、全窒素・全りんの環境基準達成率は海域ごとに異なり(図4-2-B)、赤潮や貧酸素水塊といった問題が依然として発生しています。また、「豊かな海」の観点から、干潟・藻場の保全・再生等を通じた生物の多様性及び生産性の確保等の重要性も指摘されています。

 このような状況及び課題等を踏まえ、第8次水質総量削減の在り方について中央環境審議会に諮問し、総量削減専門委員会において審議を進めています。

図4-2-B 広域的な閉鎖性海域における環境基準達成率の推移(全窒素・全りん)

3 土壌環境の保全対策

(1)土壌汚染対策

 土壌汚染対策法(平成14年法律第53号)に基づき、平成25年度には、有害物質使用特定施設が廃止された土地の調査241件、一定規模以上の土地の形質変更の届出の際に、土壌汚染のおそれがあると都道府県知事等が認め実施された調査149件、自主調査307件の合計697件行われ、同法施行以降の調査件数は、平成25年度までに、4,077件となりました。調査の結果、土壌溶出量基準等を超過しており、かつ土壌汚染の摂取経路があり、健康被害が生ずるおそれがあるため汚染の除去等の措置が必要な地域(以下「要措置区域」という。)として、平成25年度末現在270件指定されています(270件のうち134件は解除)。また、土壌溶出量基準等を超過したものの、土壌汚染の摂取経路がなく、汚染の除去等の措置が不要な地域(形質変更時要届出区域)として、1,836件指定されています(1,836件のうち677件は解除)(図4-3-A)。

図4-3-A 土壌汚染対策法の施行状況

 要措置区域等において土地の形質の変更を行う場合には、都道府県等への届出が行われるほか、汚染土壌を搬出する場合には、汚染土壌処理施設への搬出が行われることにより、汚染された土地の適切な管理がなされるよう推進しました。

 また、土壌汚染の調査を実施する機関は、土壌汚染対策法に基づき調査を適確に実施するため環境大臣の指定を受ける必要がありますが、現在699件がこの指定を受けています。また、指定調査機関には、技術管理者の設置が義務付けられており、その資格取得のための土壌汚染調査技術管理者試験を平成26年11月に実施しました。

 また、低コスト・低負荷型の調査・対策技術の普及を促進するための調査等を行いました。

(2) 農用地の土壌汚染対策

 基準値以上の特定有害物質(カドミウム、銅及びヒ素)が検出された、又は検出されるおそれが著しい地域(以下「基準値以上検出等地域」という。)の累計面積は、平成25年度末現在7,592haであり、このうち、対策地域の指定がなされた地域の累計面積は6,577haになります。また、対策事業等(県単独事業、転用を含む)が平成25年度に56.7haの対策が完了したことから、完了している地域は6,962haであり、基準値以上検出等地域の面積の91.7%になります。農用地土壌汚染対策地域においては、対策事業等が完了するまでの暫定対策として、カドミウム含有量が食品衛生法(昭和22年法律第233号)の規格基準を上回る米の生産を防止するための措置が講じられています。また、農用地土壌から農作物へのカドミウム吸収抑制技術等の開発、実証及び普及を実施しました。

4 放射性物質による汚染の除去等の取組

 東日本大震災に伴う原子力発電所の事故によって放出された放射性物質による環境の汚染が生じており、これによる人の健康又は生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することが喫緊の課題となっていることを踏まえ、平成23年8月に、平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法(平成23年法律第110号。以下「放射性物質汚染対処特措法」という。)が公布され、平成24年1月1日に全面施行されました。平成23年11月には同法に基づく基本方針が閣議決定され、環境の汚染の状況についての監視・測定、事故由来放射性物質により汚染された廃棄物の処理、土壌等の除染等の措置等に係る考え方が取りまとめられました。また、同年12月には同法に基づく政省令やガイドラインが策定されました。

 放射性物質汚染対処特措法に基づき、国が除染を実施する除染特別地域については、市町村ごとに策定する特別地域内除染実施計画に従って除染事業を進めることとしており、福島県下の11市町村を指定しています。平成25年6月末までに、そのうち10市町村(田村市、楢葉町、川内村、南相馬市、飯舘村、川俣町、葛尾村、浪江町、大熊町、富岡町)について、同計画を策定し、同年9月に実施した除染の進捗状況についての総点検を踏まえ、一部の市町村については同年12月に同計画を見直しました。また、双葉町については平成26年7月に計画を策定しました。

 平成27年3月末までに、田村市、楢葉町、川内村及び大熊町の全体、葛尾村及び川俣町の宅地部分並びに常磐自動車道については、計画に基づく除染が終了し、飯舘村の宅地部分についても計画に基づく除染がおおむね終了しました。南相馬市、飯舘村、浪江町、富岡町及び双葉町の全体並びに川俣町及び葛尾村の宅地以外については同計画に基づき、除染を進めています。

 また、市町村が中心となって除染を実施する汚染状況重点調査地域については、市町村が除染実施計画を策定し、除染事業を進めることとされており、8県94市町村において除染実施計画が策定され(平成27年3月末現在)、各地で除染作業が進められています。これらについては、公共施設等の8割以上で除染が実施されるなど着実な進捗が見られており、計画した除染が終了した市町村も見られるところです。

 平成24年1月の放射性物質汚染対処特措法の全面施行に伴い、除染事業を進めるため、同年1月に、福島県に福島環境再生事務所を開設するなど、体制の強化を図り、福島県などにおける除染や汚染廃棄物処理を推進しています。また、福島県と共同で除染情報プラザを設置し、除染に関する情報の提供及び専門家派遣、移動展示などを行っています。

 この他にも、除染作業等に活用し得る技術を発掘し、除染効果、経済性、安全性等を確認するため、除染技術実証事業などを進めています。さらに、国際機関等と連携・協力し、除染の経験・知見の共有等も行っています。

 また、福島県内の除染に伴い発生した土壌や廃棄物等を安全かつ集中的に管理・保管する中間貯蔵施設については、候補地におけるボーリング調査等の結果や、学識経験者から構成される検討会での議論等を踏まえて、平成25年12月に福島県並びに大熊町、双葉町、楢葉町及び富岡町に対して、中間貯蔵施設の案等を提示して受入れの要請を行いました。この案について、平成26年2月に福島県知事より、中間貯蔵施設を大熊町及び双葉町に集約すること等の申入れがあり、これに対し、同年3月に計画面積を変えることなく、中間貯蔵施設を大熊町及び双葉町に集約すること等の回答を行いました。その後、大熊町及び双葉町の両町民を対象とした住民説明会を同年5月から6月にかけて福島県内及び県外で合計16回開催しました。そこで様々な意見があり、この意見も踏まえ、同年7月から8月にかけて福島県並びに大熊町及び双葉町に対して、住民説明会での意見等を踏まえた国の考え方の全体像を提示しました。これを受けて、同年9月に福島県知事より施設の建設受入れを容認する旨、大熊町長及び双葉町長より知事の考えを重く受け止め、地権者への説明を了承する旨が国に伝達されました。同時に施設への搬入に当たっては、県外最終処分の法案の成立、施設及び輸送に関する安全性等の5項目の確認を求められました。同年9月から10月に施設予定地の地権者を対象とした説明会を福島県内及び県外で合計12回開催しました。

 施設への搬入に当たっての確認事項の1つである、県外最終処分の法案の成立については、日本環境安全事業株式会社法の一部を改正する法律(平成26年法律第120号)が同年11月に成立し、同年12月に施行され、この改正により、国の責務として、中間貯蔵開始後30年以内に、福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずること、国の委託に基づき中間貯蔵施設の管理運営を中間貯蔵・環境安全事業株式会社が行うことができること等が定められました。

 他の確認事項のうち、輸送に関する安全性等については、同年11月に輸送基本計画を取りまとめ、平成27年1月に輸送実施計画を取りまとめ、本格的な搬入に向けて、安全かつ確実に輸送を実施できることを確認するため、おおむね1年程度パイロット輸送を行うこととしました。また、福島県並びに大熊町及び双葉町に対して講ずることとしていた、新規かつ追加的な財政措置である中間貯蔵施設等に係る交付金等の予算化については、平成26年度補正予算及び平成27年度本予算に計上しました(同補正予算については本年2月3日に成立)。

 平成26年12月に大熊町から、平成27年1月に双葉町から、建設の受入れが容認されました。

 同年1月16日には、福島県からの5項目の確認事項が確認された場合には東日本大震災から5年目を迎えるまでに搬入が開始できるように全力で取り組む等の中間貯蔵施設への搬入開始時期の見通しについて公表しました。そして、同年2月8日に福島県に対して、搬入に当たって確認が必要な5項目に係る取組状況等を説明し、搬入について、速やかな判断をお願いしました。同年2月25日には、福島県並びに大熊町及び双葉町から搬入の受入れについて国に伝達があり、福島県、大熊町及び双葉町並びに環境省の間で安全協定を締結しました。同日に、大熊町及び双葉町から搬入開始を3月12日以降にすること等について申入れがありました。

 この申入れを重く受け止め、3月13日に大熊町の仮置場から、3月25日に双葉町の仮置場から中間貯蔵施設内の保管場への除去土壌等のパイロット輸送を開始しました。

第5章 化学物質の環境リスクの評価・管理

1 化学物質の環境リスクの管理

(1)化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律に基づく取組

 持続可能な開発に関する世界サミット(WSSD)における「2020年(平成32年)までに、化学物質による人の健康や環境への著しい悪影響を最小化する」という目標を踏まえて、平成21年5月に化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(昭和48年法律第117号。以下「化学物質審査規制法」という。)が改正されました。改正された化学物質審査規制法では、包括的な化学物質の管理を行うため、法制定以前に製造・輸入が行われていた既存化学物質を含む一般化学物質等を対象に、まずは、リスクがないとは言えない化学物質を絞り込んで優先評価化学物質に指定した上で、それらについて段階的に情報収集を求め、国がリスク評価を行う効果的、効率的な体系が導入されました。平成27年4月1日時点で、優先評価化学物質177物質が指定されています。また、優先評価化学物質については段階的に詳細なリスク評価を進めており、平成26年度までに42物質について「リスク評価(1次)評価Ⅱ」に着手し、3物質について評価Ⅱの評価結果を審議しました。

 一方、新たに製造・輸入される新規化学物質については、平成26年度は、600件(うち低生産新規化学物質は233件)の届出を事前審査しました。また、平成26年6月に新規化学物質の製造又は輸入に係る届出等に関する省令を改正し、新たに少量中間物等新規化学物質確認制度を創設しました(同年10月1日施行)。

 さらに、平成23年4月及び平成25年5月に開催された残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)締約国会議の議論を踏まえ、平成26年3月に化学物質審査規制法施行令を改正し、新たに条約上の廃絶対象とすることが決定されたエンドスルファン及びヘキサブロモシクロドデカンを第一種特定化学物質に指定(同年5月1日施行)するとともに、ヘキサブロモシクロドデカンが使用されている場合に輸入することができない製品として繊維用難燃処理薬剤等を指定(同年10月1日施行)しました。

(2)特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律に基づく取組

 特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(平成11年法律第86号)(化学物質排出把握管理促進法)に基づく化学物質排出移動量届出制度(PRTR制度)については、同法施行後の第13回目の届出として、事業者が把握した平成25年度の排出量等が都道府県経由で国へ届け出られました。届出された個別事業所のデータ、その集計結果及び国が行った届出対象外の排出源(届出対象外の事業者、家庭、自動車等)からの排出量の推計結果を、平成27年3月に公表しました。また、平成22年度から、個別事業所ごとのPRTRデータをインターネット地図上に分かりやすく表示し、ウェブサイト(http://www2.env.go.jp/chemi/prtr/prtrmap/(別ウィンドウ))で公開しています。

2 小児環境保健への取組

 近年、小児に対する環境リスクが増大しているのではないかと懸念されていることを踏まえ、平成22年度より全国で10万組の親子を対象とした大規模かつ長期の出生コホート調査「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」を開始しました。母体血や臍(さい)帯血、母乳などの生体試料を採取保存・分析するとともに、子供が13歳に達するまで質問票による追跡調査を行い、子供の健康に影響を与える環境要因を明らかにすることとしています(http://www.env.go.jp/chemi/ceh/(別ウィンドウ))。

 独立行政法人国立環境研究所がコアセンターとしてデータの解析や試料の分析及び調査全体の取りまとめを、独立行政法人国立成育医療研究センターがメディカルサポートセンターとして医学的な支援を行い、公募により指定した全国15地域のユニットセンターが、参加者募集や生まれてくる子供達の追跡調査を行っています。平成26年度は、既に実施している質問票による追跡調査に加え、全国調査10万人の中から抽出された5,000人程度を対象とした、環境試料の採取を行う詳細調査を開始しました。

3 国際的動向と日本の取組

(1)水銀に関する水俣条約

 2009年(平成21年)の第25回国連環境計画(UNEP)管理理事会において水銀によるリスク削減のための条約を制定すべきことが決議されたことを受け、5回の政府間交渉会議(INC)を経て、2013年(平成25年)10月、熊本市・水俣市で開催された外交会議において、「水銀に関する水俣条約(Minamata Convention on Mercury)」が採択されました。我が国は、水俣病と同様の健康被害や環境破壊が世界のいずれの国でも繰り返されることのないよう、同条約の国際交渉に積極的に参加してきたほか、外交会議においても日本政府として途上国支援や我が国の水銀対策技術の展開等の条約早期発効に向けた積極的な取組を表明しました。また、2014年(平成26年)9月、国連総会期間中の国連本部(米国・ニューヨーク市)において、我が国はウルグアイ、スイス及び米国とともに条約への署名・締結を促進するサイドイベントを開催し、望月環境大臣が条約の更なる推進を世界に強く呼び掛け、署名・締結国数の増加に貢献しました。

 同条約の採択を受けて、我が国では条約を早期に締結するとともに、条約の趣旨を踏まえた包括的な水銀対策の実施を推進すべく、平成26年3月に中央環境審議会に「水銀に関する水俣条約を踏まえた今後の水銀対策について」が諮問され、平成26年12月~平成27年2月に関係する部会の下での審議を踏まえ、答申が取りまとめられました。同答申を踏まえ、条約を担保するための措置等を講ずる「水銀による環境の汚染の防止に関する法律案」及び「大気汚染防止法の一部を改正する法律案」が平成27年3月10日に閣議決定されました。

 また、我が国における大気中の水銀のバックグラウンド濃度を把握するため、平成19年度から沖縄県辺戸岬で大気中の水銀等の濃度をモニタリングしており、平成26年9月にデータ公表を行いました。

第6章 各種施策の基盤、各主体の参加及び国際協力に係る施策

1 環境影響評価等

(1)戦略的環境アセスメントの導入

 環境保全上の支障を未然に防止するため、環境基本法(平成5年法律第91号)第19条では、国は環境に影響を及ぼすと認められる施策の策定・実施に当たって、環境保全について配慮しなければならないと規定されており、上位の計画や政策段階の戦略的環境アセスメントについて我が国での導入に向けた検討を行いました。

(2)環境影響評価の実施

ア 環境影響評価法に基づく環境影響審査の実施等

 環境影響評価法(平成9年法律第81号)は、道路、ダム、鉄道、飛行場、発電所、埋立・干拓、土地区画整理事業等の開発事業のうち、規模が大きく、環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある事業について環境影響評価の手続の実施を義務付けています。同法に基づき、平成27年3月末までに計355件の事業について手続が実施されました。そのうち、26年度においては、新たに34件の手続を開始、また、16件が手続完了し、環境配慮の徹底が図られました(表6-1-A)。

表6-1-A 環境影響評価法に基づき実施された環境影響評価の施行状況

 環境影響評価の信頼性の確保や評価技術の質の向上に資することを目的として、調査・予測等に係る技術手法の開発を推進するとともに、国・地方公共団体等の環境影響評価事例や制度及び技術の基礎的知識の情報等を集積し、インターネット等を活用して国民や地方公共団体等への情報支援を行いました。

 特に、石炭火力発電所については「東京電力の火力電源入札に関する関係局長級会議取りまとめ(平成25年4月25日)」以降6件の配慮書が提出され、これらについて、同取りまとめを踏まえ、最新鋭の高効率技術が採用の有無や国の目標・計画との整合性などについて、環境影響評価手続を通じて審査しました。

イ 環境影響評価の迅速化に関する取組

 火力発電所のリプレースや風力・地熱発電所の設置の事業に係る環境影響評価手続について、従来3~4年程度要していた期間を、火力発電所のリプレースについては最短1年強まで短縮、風力・地熱発電所の設置についてはおおむね半減させることを目指すこととしています。

 これらについて、自治体の協力を得て、経済産業省と共に、運用上の取組により、対象となった案件の迅速化について、おおむね想定のとおりに国の審査期間の短縮を実現しました。また、風力・地熱発電所については、質の高い環境影響評価を効率的に実施できるよう、風況等から判断し風力発電等の適地と考えられる地域の環境情報(貴重な動植物の生息・生育状況等の情報)や環境影響評価に関連する技術情報の収集・整理を行い、これらの情報を「環境アセスメント環境基礎情報データベースシステム」(https://www2.env.go.jp/eiadb/(別ウィンドウ))を通じて公開しました。

ウ 環境影響評価法における放射性物質に係る対応について

 環境影響評価法等個別環境法で規定されている放射性物質による環境汚染に係る適用除外規定を削除する、放射性物質による環境の汚染の防止のための関係法律の整備に関する法律(平成25年法律第60号)が第183回通常国会で成立しました。

 これにより、環境影響評価法が改正され、放射性物質による環境の汚染を防止するため、環境影響評価手続の対象に放射性物質による環境への影響を含めることとなりました(平成27年6月1日施行)。このため、「環境影響評価の基本的事項等に関する技術検討委員会」を開催し、平成26年6月に報告書を取りまとめ、上記報告書の内容を踏まえ、平成26年6月27日に基本的事項を改正しました。同基本的事項を踏まえて、事業種毎の主務省令が順次改正されているところです。また、事業者が環境影響評価の際に参考とする、放射性物質に係る調査等の手法や環境保全措置の内容について、「環境影響評価技術ガイド(放射性物質)」として取りまとめました。

2 環境保健対策、公害紛争処理等及び環境犯罪対策

(1)健康被害の救済及び予防

ア 公害健康被害の補償・予防等

(ア)水俣病

 水俣病は、熊本県水俣湾周辺において昭和31年5月に、新潟県阿賀野川流域において40年5月に公式に確認されたものであり、四肢末梢の感覚障害、運動失調、求心性視野狭窄(さく)、中枢性聴力障害を主要症状とする中枢神経系疾患です。それぞれチッソ株式会社、昭和電工株式会社の工場から排出されたメチル水銀化合物が魚介類に蓄積し、それを経口摂取することによって起こった中毒性中枢神経系疾患であることが昭和43年に政府の統一見解として発表されました。

 水俣病の認定は、公健法に基づき行われており、平成27年3月末までの被認定者数は、2,979人(熊本県1,785人、鹿児島県492人、新潟県702人)で、このうち生存者は、594人(熊本県305人、鹿児島県117人、新潟県172人)となっています。

3 原子力利用における安全の確保

(1)原子力規制行政に対する信頼の確保

 原子力規制委員会は、東京電力福島第一原子力発電所の事故の教訓を踏まえて設置された経緯を踏まえ、国民からの信頼性の向上に向けて、継続的に原子力規制行政の信頼の確保に取り組んでいくことが極めて重要であると認識しています。原子力規制委員会は、原子力利用に対する確かな規制を通じて、人と環境を守るという使命を果たすため、科学的・技術的見地から、公正・中立に、かつ独立して意思決定を行うこと、その際、多様な意見を聴くことによって独善的にならないように留意すること、形式主義を排し、現場を重視する姿勢を貫き、真に実効ある規制を追求すること、意思決定のプロセスを含め、規制に関わる情報の開示を徹底し、透明性を確保することを組織理念として、様々な政策課題に取り組んでいます。

ア 独立性・中立性・透明性の確保、コミュニケーションの充実

 平成25年度に引き続き、原子力規制委員会は、組織理念に基づき、科学的・技術的見地から公正・中立に、かつ独立して意思決定を行いました。同時に、外部とのコミュニケーションの充実のため、各種検討会合等において外部有識者を構成員に含め、その知見を活用するとともに、それ以外の専門家や関係事業者からのヒアリングも積極的に実施しました。さらに、原子力規制委員会は、行政手続法(平成5年法律第88号)に基づくパブリックコメント及び同法に基づかない任意のパブリックコメントを計14件実施し、広く国民の意見を募集しました。また、九州電力川内原子力発電所の原子炉設置変更許可後には、立地自治体である鹿児島県内の市町計5か所で開催された住民説明会に出席し、審査結果の説明を行いました。さらに、関西電力高浜発電所の原子炉設置変更許可後には、審査結果に関する説明ビデオを作成し、高浜町によりケーブルテレビで公表され、また、原子力規制委員会のウェブサイトに公表しました。

 中立性の確保については、平成24年9月に決定した原子力規制委員会委員の行動規範や外部有識者の選定に当たっての要件等を遵守し、業務を遂行しています。平成26年9月19日に新たに委員に就任した田中知委員及び石渡委員についても、就任前直近3年間の寄付等の必要な情報は就任日に公開しました。

 透明性の確保については、原子力規制委員会及び各種検討会合等の議事録及び資料の公開に加えインターネット動画サイトによる生中継、委員3人以上が参加する規制に関わる打合せ及び被規制者との面談の概要等の公開、幅広い報道機関に対する積極的な記者会見(原子力規制委員会委員長定例会見は週1回、原子力規制庁定例ブリーフィングは週2回)等を継続し、意思決定の透明性を確保しています。

イ 原子力規制委員会及び内閣府原子力防災担当の体制の見直し

 平成26年10月14日、政府全体の原子力防災体制の充実・強化のため、地域の原子力防災の充実・強化に係る業務等を原子力規制委員会職員が内閣府職員を併任し実施していた従前の体制が見直され、専任の内閣府政策統括官(原子力防災担当)組織が発足しました。一方で、原子力規制委員会としても従前の放射線防護対策部を廃止し、新しく核セキュリティ・核物質防護、放射線対策等の業務を総括する審議官として、核物質・放射線総括審議官を長官官房に設置し、核物質・放射線総括審議官の下に放射線防護グループを設置しました。

 また、平成27年1月15日には、原子力発電所周辺地域における緊急時モニタリング体制を充実・強化するため、5人の定員を措置しました。

 平成27年3月31日現在の定員は964名、平成26年度予算は631億7,200万円(補正後)です。