環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成26年版 図で見る環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第1章>第4節 持続可能な社会の基盤となる環境教育の取組

第4節 持続可能な社会の基盤となる環境教育の取組

1 「国連ESDの10年」と環境教育

 2002年(平成14年)のヨハネスブルグ・サミットにおける我が国の提案をきっかけに、2005年(平成17年)からの10年を「国連持続可能な開発のための教育の10年」(以下「国連ESDの10年」という。)と定めることが2002年(平成14年)の第57回国連総会本会議で採択されました。現在、世界中がESD(Education for Sustainable Development:持続可能な開発のための教育(以下「ESD」という。))に取り組んでいます。

ESDの考え方

 「持続可能な開発」とは、「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、現在の世代のニーズを満たすような社会づくり」のことを意味しています。これを実現するためには、私達一人ひとりが日常生活や経済活動の場で、世界の人々や将来世代、環境との関係性の中で生きていることを認識し、行動を変革する必要があります。そのための教育がESDです。また、「持続可能な開発のための教育」の中の「教育」は、「学校などの公的教育のみならず、社会教育、文化活動、企業内研修、地域活動などあらゆる教育や学び」という意味を含みます。そのため、学校や企業、地域住民、行政、NPOなど多様な立場や世代の人々が対象となります。また、対象分野も狭い意味の環境教育のみならず、防災・人権など多岐にわたります。

 「国連ESDの10年」の最終年となる2014年(平成26年)11月には、提唱国である我が国で、最終年を締めくくる「持続可能な開発のための教育(ESD)に関するユネスコ世界会議」(以下「ESDに関するユネスコ世界会議」という。)が開催されます。我が国をはじめ世界各国における「国連ESDの10年」の活動を振り返るとともに、2015年(平成27年)以降のESD推進方策について議論し、ESDのさらなる発展を目指すものです。岡山県岡山市で、国連機関、研究者、学校関係者などの各種ステークホルダーの会合が開催され、その議論の結果は愛知県名古屋市での会合に反映されます。愛知県名古屋市では、閣僚級会合、全体会議の取りまとめ会合などが開催されます。環境省では、「ESDに関するユネスコ世界会議」の開催を控え、「国連ESDの10年」後の環境教育をはじめ関連する国内のESDの取組の推進方策を検討するため、平成26年1月から有識者の参画を得て「国連『ESDの10年』後の環境教育推進方策懇談会」を開催しています。

2 ESDを担う主体のつながり ~+ESDプロジェクト~

 我が国では、平成18年3月に決定した「我が国における『国連持続可能な開発のための教育の10年』実施計画」(以下「国内実施計画」という。)に基づき、これまでESDを進めてきました。そして、平成21年までの前半5年間の我が国の取組を振り返り、平成23年6月に国内実施計画を改訂しました。改訂では、より一層ESDを推進するために、ESDの「見える化」、「つながる化」を推進することなどが盛り込まれ、環境省でも平成22年度末から、関係省庁やESDを推進する多くの民間団体などさまざまな主体と連携し、ESD活動の見える化・つながる化を図る「+ESDプロジェクト」をスタートさせました。

+ESDのロゴマーク

 このプロジェクトは、各地域において実践されているESDの趣旨に合致した活動を掘り起こし、ESD活動としてこれらの活動の登録を促してデータベース化し、「+ESDプロジェクト」ウェブサイトにおいて発信する、というものなどです。ウェブサイトでは、活動分野や団体名別に活動内容を検索することが可能であるとともに、登録されている団体と連絡を取ることもできます。

 「+ESDのホームページ」 http://www.p-esd.go.jp/(別ウィンドウ)

3 次世代を担う子供達への環境教育

(1)ユネスコスクールにおける環境教育

 ユネスコスクールとは、ユネスコ憲章に示された「正義・自由・平和のための教育」、「国際平和と人類の共通の福祉」などの理想を実践するとしてユネスコに承認された既存の学校です。世界180か国で約9,700校の学校が指定されている中、我が国では平成26年3月末時点で675校の幼稚園、小学校・中学校、高等学校、大学などがユネスコスクールとして承認されています。ユネスコスクールとして承認されるには、それぞれの学校が自校の特色ある取組などを記述した申請書をユネスコ本部に提出する必要があります。

 我が国では、ユネスコスクールをESDの推進拠点と位置付けています。ユネスコスクールでは、ESDの研究・実践に取り組み、その成果を積極的に発信することを通じてESDの理念の普及を進めています。そのために、ESDを通じて育てたい資質や能力を明確にし、総合的な学習の時間を中心とした教科横断的な学習計画を立てるなどの取組を行っています。

(2)地域の過去の経験に学ぶ環境教育 ~公害教育~

 我が国は、戦後の高度経済成長の結果、飛躍的な発展を遂げましたが、重化学工業化によって工場から排出された汚染物質によって環境汚染が進み、公害とそれに伴う深刻な健康被害を引き起こしました。このような背景から、子供達を公害から守り、子供達の公害問題に対する認識を高めることなどを目的として公害教育が始まり、現在でも各地で行われています。

 四大公害病の一つでもあり、世界に類例のない被害をもたらした水俣病についての教育も行われています。熊本県では、水俣病の正しい理解を広め、差別や偏見を許さない心情や態度を育み、環境問題への関心を高め、その解決に意欲的にかかわろうとする態度や能力を育成するため、平成23年4月から「水俣に学ぶ肥後っ子教室」を実施しています。この教室では、小学5年生が、水俣病や環境モデル都市である水俣市について事前学習を行い、水俣市立水俣病資料館などの現地を訪問した後にその学習成果をまとめ、保護者や地域に発信するなどの事後学習を行うものです。熊本県内すべての公立小学校で実施されており、現地での語り部の方の講話や環境学習を通じて、水俣病に対する正しい理解を深めるとともに、公害被害から環境再生へと立ち上がる水俣の姿を体験的に学んでいます。

水俣市環境学習資料集

 さらに水俣市では、平成23年3月に「水俣市環境学習資料集」を作成し、この資料を用いて小学校から中学校まで水俣病についての学習を系統的に行っています。例えば、中学3年生では、「『水俣病の教訓を活かす』生き方について考えよう」という学習を行っています。この学習では、生徒それぞれが水俣病に関する学習を振り返り、「水俣病の教訓を生かす」とはどういうことかを自分で考えた後、環境に配慮したものづくりや地域再生の最前線で活躍している「環境マイスター」などの「ゲストティーチャー」のお話を聞きます。最後に、生徒が自ら考えたことにゲストティーチャーの思いを加え、自分なりの「水俣病の教訓を生かす」生き方についてまとめ、発表します。このような学習によって、子供達がふるさとの水俣を誇りに思い、持続可能な社会を構成する一人として、豊かな人生を歩むきっかけの一つとなることを目指しています。

(3) 体験を通じた環境教育

 環境教育の目的は、持続可能な社会の実現に向けて具体的な行動に結び付けることです。そのためには、単なる知識の修得だけではなく、自然体験、社会体験、生活体験などの実体験を通じた経験が重要です。そのため、体験を通じたさまざまな環境教育が進められています。

ア 学校施設を利用した環境教育

 我が国では、平成9年度から「エコスクールパイロット・モデル事業」を実施しています。「エコスクール」とは、太陽光発電設備等の再生可能エネルギー設備の導入や校舎の断熱性の向上、内装などに地域の木材を利用するなど、環境を考慮して整備された学校施設のことです。この事業では、公立学校を対象に、エコスクールとして整備する学校をモデル校として認定し、財政面での支援を行っています。

 平成26年3月までに1,484校が認定されています。ある小学校では、環境教育の教材として太陽光発電設備を活用しており、児童達が校舎に設置された太陽光発電設備が稼働しているのを間近に目にしながらその仕組みを学んでいます。

太陽光発電について学ぶ子供達

イ 子ども農山漁村交流プロジェクト

 最近の子供達の自然体験活動が減少していることを受け、我が国では、小学生が農山漁村に宿泊して農林水産業を体験することを支援し、自然環境の大切さを実感させることなどを目指した「子ども農山漁村交流プロジェクト」を平成20年度から実施しています。

 このプロジェクトでは、現地の自治体や企業、農林漁業者などからなる受入地域協議会と、参加を希望する小学校との間の調整により、参加校と受入先を決めます。参加が決まった小学生は、受入れ先の農林水産業を営んでいる方々のお宅に宿泊し、田植えなどの作業の手伝いや、ハイキングなどを通じて豊かな自然や農林水産業を体験します。また、宿泊先の家族と一緒に食事をともにするなど、地域の方々と交流することで、田舎の生活や文化を学びます。平成21年に公表されたアンケート結果によると、この事業を通じて、「命の大切さが高まった」、「環境保全意識が向上した」などの成果が挙げられています。平成24年12月末までに、延べ約12万4千人の小学生がこのプロジェクトに参加しています。

田植えをする子供達

気候変動キャンペーン Fun to Share

 環境問題の一つとして地球全体の気候変動問題があることはすでに述べたとおりですが、一人ひとりがこの問題を正しく認識し、行動に移していくため、我が国では、気候変動問題をテーマとした「気候変動キャンペーン」を平成26年3月に立ち上げました。

 気候変動キャンペーンでは、企業、団体、地域社会、国民一人ひとりが連携してライフスタイル・イノベーションに繋がる情報・技術・知恵を共有し、連鎖的に拡げていくことで我が国全体として豊かな低炭素社会を実現していくことを目指しています。

 具体的な取組として、公式ホームページやソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の活用などにより、各主体の取組情報を共有する場を設けることとしています。また、説明力と発信力のある専門家などによりIPCC報告書をベースに気候変動についての分かりやすい情報発信を行う「IPCCリポート コミュニケーター」事業を展開していくこととしています。

気候変動キャンペーンのロゴマーク

 気候変動キャンペーンの取組によって、環境問題に対する私たち一人ひとりの理解が深まり、具体的な行動へと繋がるきっかけをつくるという意味で、本文で述べた環境教育の第一歩となることが期待されます。