環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成24年版 図で見る環境・循環型社会・生物多様性白書状況>第2部 各分野の施策等に関する報告

第2部 各分野の施策等に関する報告

 環境・循環型社会・生物多様性白書では、各分野の施策等に関する報告について、

次のような章立てで報告しています。

 第1章 低炭素社会の構築

 第2章 生物多様性の保全及び持続可能な利用

 第3章 循環型社会の構築に向けて

 第4章 大気環境、水環境、土壌環境等の保全

 第5章 化学物質の環境リスクの評価・管理

 第6章 各種施策の基盤、各主体の参加及び国際協力に係る施策

1 低炭素社会の構築

(1)問題の概要

 近年の人間活動の拡大に伴って二酸化炭素、メタン等の温室効果ガスが人為的に大量に大気中に排出されることで、地球が過度に温暖化するおそれが生じています。特に二酸化炭素は、化石燃料の燃焼などによって膨大な量が人為的に排出されています。わが国が排出する温室効果ガスのうち、二酸化炭素の排出が全体の排出量の約95%を占めています。


日本が排出する温室効果ガスの内訳(2010年単年度)

(2)地球温暖化の現況と今後の見通し

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2007年(平成19年)に取りまとめた第4次評価報告書によると、世界平均地上気温は1906~2005年の間に0.74(0.56~0.92)℃上昇し、20世紀を通じて平均海面水位は17(12~22)cm上昇しました。(注:( )の中の数字は、90%の確からしさで起きる可能性のある値の範囲を示している。)また、最近50年間の気温上昇の速度は、過去100年間のほぼ2倍に増大しており、海面上昇の速度も近年ではより大きくなっています。同報告では、気候システムに地球温暖化が起こっていると断定するとともに、20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは人為起源の温室効果ガス濃度の観測された増加によってもたらされた可能性が非常に高いとしています。

 また、同報告では、世界全体の経済成長や人口、技術開発、経済・エネルギー構造等の動向について複数のシナリオに基づく将来予測を行っており、1980年から1999年までに比べ、21世紀末(2090年~2099年)の平均気温上昇は、環境の保全と経済の発展が地球規模で両立する社会では、約1.8(1.1~2.9)℃とする一方、高度経済成長が続く中で化石エネルギー源を重視した社会では約4.0(2.4~6.4)℃と予測しています。

 同報告では、新しい知見として、地球温暖化により、大気中の二酸化炭素の陸地と海洋への取り込みが減少するため、地球温暖化が一層進行すると予測されています(気候-炭素循環のフィードバック)。また、大気中の二酸化炭素濃度の上昇に伴いすでに海面が平均でpH0.1酸性化し、21世紀中にさらにpHで0.14~0.35の酸性化が進行すると予測されています。


地球温暖化の影響の現状

 また、気象庁によると、日本の年平均気温は、100年あたり1.15℃の割合で上昇しています。日本においても、気候の変動が農林水産業、生態系、水資源、人の健康などに影響を与えることが予想されています。

(3)日本の温室効果ガスの排出状況

 日本の2010年度(平成22年度)の温室効果ガス総排出量は、約12億5,800万トン*(注:以下「*」は二酸化炭素換算)でした。京都議定書の規定による基準年(1990年度。ただし、HFCs、PFCs及びSF6については1995年。)の総排出量(12億6,100万トン*)と比べ、0.3%下回っています。また、前年度と比べると4.2%の増加となっています。


日本の温室効果ガス排出量

 温室効果ガスごとにみると、2010年度の二酸化炭素排出量は11億9,200万トン(基準年比4.2%増加)でした。その内訳を部門別にみると産業部門からの排出量は4億2,200万トン(同12.5%減少)でした。また、運輸部門からの排出量は2億3,200万トン(同6.7%増加)でした。業務その他部門からの排出量は2億1,700万トン(同31.9%増加)でした。家庭部門からの排出量は1億7,200万トン(同34.8%増加)でした。


二酸化炭素排出量の部門別内訳


部門別エネルギー起源二酸化炭素排出量の推移

 二酸化炭素以外の温室効果ガス排出量については、メタン排出量は2,040万トン*(同38.8%減少)、一酸化二窒素排出量は2,210万トン*(同32.4%減少)となりました。また、HFCs排出量は1,830万トン*(同9.7%減少)、PFCs排出量は340万トン*(同75.8%減少)、SF6排出量は190万トン*(同89.0%減少)となりました。


各種温室効果ガス(エネルギー起源二酸化炭素以外)の排出量

(4)フロン等の現状

 CFC、HCFC、ハロン、臭化メチル等の化学物質によって、オゾン層の破壊は今も続いています。オゾン層破壊の結果、地上に到達する有害な紫外線(UV-B)が増加し、皮膚ガンや白内障等の健康被害の発生や、植物の生育の阻害等を引き起こす懸念があります。また、オゾン層破壊物質の多くは強力な温室効果ガスでもあり、地球温暖化への影響も懸念されます。

 オゾン層破壊物質は、1989年(平成元年)以降、オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書(以下「モントリオール議定書」という。)に基づき規制が行われています。その結果、代表的な物質の1つであるCFC-12の北半球中緯度における大気中濃度は、わが国の観測では緩やかな減少の兆しが見られます。一方、国際的にCFCからの代替が進むHCFC及びオゾン層を破壊しないものの温室効果の高いガスであるHFCの大気中濃度は増加の傾向にあります。

 オゾン全量は、1980年代から1990年代前半にかけて地球規模で大きく減少した後、現在も減少した状態が続いています。また、2010年(平成22年)の南極域上空のオゾンホールの最大面積は、1990年(平成2年)以降では3番目に小さい規模でした。しかし、オゾンホールの規模は年々変動が大きく、現時点ではオゾンホールに縮小の兆しがあるとは判断できず、南極域のオゾン層は依然として深刻な状況にあります。モントリオール議定書科学評価パネルの「オゾン層破壊の科学アセスメント:2010年」によると、南極域のオゾン層が1980年(昭和55年)以前の状態に戻るのは今世紀後半と予測されています。


南極上空のオゾンホールの面積の推移

2 生物多様性の保全及び持続可能な利用

 2010年(平成22年)10月に愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)から早一年が経過し、本年10月にはインド・ハイデラバードで第11回締約国会議(COP11)が開催されます。ここでは、生物多様性の保全と持続可能な利用の実現に向けたCOP10後の動きを中心に見ていきます。

(1)愛知目標と生物多様性国家戦略

 COP10では、生物多様性に関する2011年以降の新たな世界目標として愛知目標が採択されました。愛知目標では、[1]生物多様性の社会への主流化、[2]生物多様性への直接的な圧力の減少と持続可能な利用の促進、[3]生態系、種及び遺伝子の多様性の保全と生物多様性の状況の改善、[4]生物多様性及び生態系サービスから得られる恩恵の強化、[5]参加型計画立案、知識管理、能力開発を通じた実施の強化からなる5つの戦略目標のもと、計20の個別目標が掲げられています。この5つの戦略目標は環境などの問題と政策や対策との間の動的な関係を把握するためのモデルであるDPSIRモデルに準拠したものとなっています。DPSIRはそれぞれ、[1]人間社会における根本的原因(Driver)、[2]問題の直接的原因となる圧力(Pressure)、[3]それによって生じる影響(Impact)、[4]影響を受けて変化する生物多様性などの状態(State)、[5]それに対する社会側の対策や政策(Response)となっており、生物多様性の損失を止めるためには多角的な取組が必要とされていることがわかります。また、愛知目標では個別目標ごとに目標年が設定され、一部の個別目標では具体的な数値目標も設けられています。ただし、愛知目標は生物多様性条約全体の取組を進めるための柔軟な枠組みと位置づけられており、各締約国は生物多様性の状況や取組の優先度等に応じて国別目標を設定し、各国の生物多様性国家戦略の中に組み込んでいくことが求められています。

(2)各国における生物多様性国家戦略

 愛知目標では「2015年(平成27年)までに、各締約国が、効果的で、参加型の改定生物多様性及び行動計画を策定し、政策手段として採用し、実施している。」ことが愛知目標の1つとされており、各国でも愛知目標を踏まえた生物多様性国家戦略の策定を進めていくことが求められています。生物多様性条約事務局によると、生物多様性条約の全締約国の約9割にあたる173か国で生物多様性国家戦略が策定されていますが、イギリス、フランス、オーストラリアなどの締約国と欧州連合(EU)では、COP10後に生物多様性国家戦略の策定が行われています。例えば、イギリスでは「Biodiversity 2020」と呼ばれる生物多様性国家戦略を策定し、2020年までの10年間における生物多様性政策の戦略的な方向性を示しています。同戦略では、陸域における生態系ネットワークの構築強化や2016年(平成28年)末までに領海の25%を含む海洋保護区のネットワークを構築すること、新たな革新的資金メカニズムの開発や生物多様性の価値を官民の両セクターの意思決定に組み込んでいくこと等を優先的に取り組むべき行動として明らかにし、それらの行動と2020年(平成32年)までに達成すべき目標や愛知目標との関係を明らかにするなどしています。EUでは欧州における生物多様性の状態を保護し、改善するための新しい戦略として「EU biodiversity strategy to 2020(2020年までのEUにおける生物多様性戦略)」を策定しています。同戦略では生物多様性及び生態系サービスが重大な経済的価値を有しているという認識のもと、生物多様性の損失や生態系サービスの劣化を防ぐため、「自然の保全と再生」、「生態系と生態系サービスの維持・向上」、「生物多様性の維持・向上に対する農業及び林業の貢献の強化」、「水産資源の持続可能な利用の確保」、「外来種の管理」、「地球規模での生物多様性損失防止への貢献」の6つの戦略目標と20の個別目標が掲げられています。オーストラリアでは2010年から2030年を計画期間とする生物多様性保全戦略が策定されており、同戦略では測定可能で目標年を明らかにした国別目標を設定等するとともに、2015年(平成27年)には同戦略の実施状況を点検し、必要に応じて見直しを行うこととしています。このように、既にいくつかの国々や地域で愛知目標を踏まえた生物多様性国家戦略の策定とその実施に向けた取組が進められています。

(3) わが国における生物多様性国家戦略

 わが国では平成7年に最初の生物多様性国家戦略が決定され、平成14年と平成19年に見直しが行われました。当初、生物多様性国家戦略は生物多様性条約に基づくものとして策定されてきましたが、平成20年には生物多様性基本法が制定され、生物多様性国家戦略の策定が法定化されました。このため、平成22年3月には生物多様性条約と生物多様性基本法の双方に基づくものとして生物多様性国家戦略2010が閣議決定されました。生物多様性国家戦略2010では平成19年に策定された第三次生物多様性国家戦略を基本として、COP10に向けて実施すべき取組を視野に施策の充実等を図りました。同戦略の計画期間はおおむね平成24年度までとされ、COP10の成果も踏まえて見直しに着手することとされていることから、わが国では平成24年10月にインド・ハイデラバードで開催されるCOP11を目指し、生物多様性国家戦略の改定を行うこととしています。また、生物多様性国家戦略の実施状況については毎年点検することとされており、生物多様性国家戦略2010についても平成23年度に点検を実施しました。点検ではおおむね平成24年度までの間に重点的に取り組むべき施策の大きな方向性として生物多様性国家戦略2010に示されている4つの基本戦略([1]生物多様性を社会に浸透させる、[2]地域における人と自然の関係を再構築する、[3]森・里・川・海のつながりを確保する、[4]地球規模の視野を持って行動する)毎に達成状況を点検するとともに、政府の行動計画として生物多様性の保全と持続可能な利用を実現するため体系的に網羅した約720 の具体的施策毎に進捗状況及び今後の課題等について点検を行いました。このうち、数値目標を設定した具体的施策から4つの基本戦略の達成状況をみてみると、既に目標達成をしたものもありますが、その多くは進捗がみられるものの、引き続き、目標達成に向けた取組が必要となっています。


数値目標からみた基本戦略の達成状況

 COP10では、2050年までに自然と共生する世界を実現することが長期目標(Vision)として採択されました。この自然との共生という概念はわが国から提案したものですが、平成23年3月に発生した東日本大震災では、自然は人間に様々な恩恵をもたらす反面、時として脅威となり、その脅威に対して人間はなす術がないということを改めて認識することとなりました。これまでの自然共生社会はどちらかというと自然の脆弱性やその恩恵を前提とした自然を対象としてきたといえますが、今後は自然が「恵みと脅威」という二面性を有するものであることを前提として人と自然との関係性を捉えなおしていくことが不可欠といえます。このため、環境省では生物多様性国家戦略の改定に先立ち、今後の自然共生社会のあり方について幅広い観点からご意見を伺うことを目的に8名の有識者からなる「人と自然との共生懇談会」を開催し、平成23年7月から12月にかけて計6回の懇談会を開催しました。懇談会では、自然のメカニズムやこれまでの歴史を考慮した視点が大切であることや、人と自然との共生を実現していくためには常にグローバルな視点を持ち、ローカルな課題に対応していくこと、これまでの生物多様性の議論では種の絶滅に注目することが多く、数や分布で生物の存在価値を論じてきたが、国土、時代、ライフスタイル、人口構造といったそれぞれの特徴によって、生物多様性の価値と保全の仕方は異なっており、生物多様性の中に人間もいるという観点でのライフスタイルづくりを進め、教育や地域づくりに活かしていくことが必要であるといったことなど、多岐にわたる意見が出されました。また、平成23年10月から11月にかけて全国8か所で生物多様性地方座談会を開催し、地方公共団体、企業、研究機関、NGO、関係省庁などの様々な主体によって進められている生物多様性に関する取組について情報共有を図るとともに、意見交換を行いました。生物多様性国家戦略の改定については、本年1月に中央環境審議会に諮問を行い、現在、COP11までの完成を目指して検討を行っていますが、その中では愛知目標の達成に向けたわが国のロードマップを示すとともに、策定後は生物多様性国家戦略に掲げられた取組を着実に実施していくこととしています。

3 循環型社会の構築に向けて

(1)わが国の物質フロー

 循環型社会を構築するためには、私たちがどれだけの資源を採取、消費、廃棄しているかを知ることが第一歩となります。

 また、第2次循環型社会形成推進基本計画(平成20年3月閣議決定。以下「循環型社会基本計画」という。)では、発生抑制、再使用、再生利用、処分等の各対策がバランス良く進展した循環型社会の形成を図るために、この物質フロー(ものの流れ)の異なる断面である「入口」、「循環」、「出口」に関する指標に目標を設定しています。

 以下では、わが国の経済社会におけるものの流れ全体を把握する物質フロー会計(MFA:Material Flow Accounts)を基に、わが国における物質フローの全体像とそこから浮き彫りにされる問題点、循環型社会基本計画で設定した物質フロー指標に関する目標の状況について概観します。

ア わが国の物質フローの概観

 わが国の物質フロー(平成21年度)を概観すると、15.4億トンの総物質投入量があり、5.4億トンが建物や社会インフラなどの形で蓄積されています。また1.7億トンが製品等の形で輸出され、4.4億トンがエネルギー消費及び工業プロセスで排出され、5.6億トンの廃棄物等が発生しているという状況です。このうち循環利用されるのは2.3億トンで、これは、総物質投入量の15.0%に当たります。


わが国における物質フロー(平成21年度)

 わが国の物質フローについての詳細は以下のとおりです。

「総物質投入量」について

 平成21年度の総物質投入量は15.4億トンで、平成12年度の21.4億トンから6億トン減少しています。

「天然資源等投入量」について

 天然資源等投入量とは国産・輸入天然資源及び輸入製品の量を指し、直接物質投入量(DMI:Direct Material Input)とも呼ばれます。

 平成21年度の天然資源等投入量は、国内、輸入をあわせて13.1億トン(6.1億トン(国内分)+7.0億トン(輸入分))と推計されます。これは平成12年度の19.3億トン(11.3億トン(国内分)+8.0億トン(輸入分))から6.2億トン減少しています。

 天然資源等投入量の減少要因は主に土石系資源投入量の減少によるものが大きく、大規模公共事業の変動を反映していると考えられます。また、短期的には平成20年秋に起こった世界金融危機の影響等により、日本国内に投入される天然資源が大きく減少しています。

 さらに、この天然資源等投入量には、隠れたフロー(資源採取等に伴い目的の資源以外に採取・採掘されるかまたは廃棄物などとして排出される物質。)を含んでいません。今後は、隠れたフローや資源採取段階に使用したエネルギー資源等も含む総物質関与量(TMR)を意識しつつ、資源生産性を高め、現在の資源採取の水準をさらに減らしていく必要があります。

イ わが国の物質フロー指標に関する目標の設定

 第2次循環型社会基本計画では、物資フローの「入口」、「循環」、「出口」に関する3つの指標について新たに目標設定しています。

 それぞれの指標についての目標年次は平成27年度としています。各指標について、最新の達成状況をみると以下のとおりです。

1)資源生産性(=GDP/天然資源等投入量)

 資源生産性を平成27年度において、約42万円/トンとすることを目標としています(平成12年度[約26万円/トン]からおおむね6割向上)。なお、平成21年度は約40.3万円/トンでした。ただし、土石系資源を除いた資源生産性については、安定的な上昇は見られないことから(平成12年度約58万円/トン、平成21年度68万円/トン)、限りある天然資源の消費を抑制し、より効率的な資源利用を行う必要があります。


資源生産性の推移

2)循環利用率(=循環利用量/(循環利用量+天然資源等投入量))

 循環利用率を平成27年度において、約14~15%とすることを目標としています(平成12年度[約10%]からおおむね4~5割向上)。なお、平成21年度は約14.9%であり、2年連続で目標を達成しています。これは、長期的に見れば循環利用量の増加と天然資源等投入量の減少に起因するものです。ただし、平成20、21年度は、平成20年秋に起こった世界金融危機の影響等により、日本国内に投入される天然資源が大きく減少したことが増加要因となっています。このため、景気動向にかかわらず循環利用率を向上させ、引き続き目標の達成を維持することが重要です。


循環利用率の推移

3)最終処分量(=廃棄物の埋立量)

 最終処分量を平成27年度において、約23百万トンとすることを目標としています(平成12年度[約56百万トン]からおおむね60%減)。なお、平成21年度は約19百万トンであり、2年連続で目標を達成しています。ただし、平成20、21年度は、循環利用率と同様に世界金融危機の影響等を受けた可能性もあります。このため、景気動向にかかわらず、3Rの取組を徹底することにより、最終処分量を削減し、引き続き目標の達成を維持する必要があります。


最終処分量の推移

(2)廃棄物の排出量

ア 廃棄物の区分

 「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(廃棄物処理法)では、廃棄物とは自ら利用したり他人に有償で譲り渡したりすることができないために不要になったものであって、ごみ、粗大ごみ、燃えがら、汚泥、ふん尿などの汚物又は不要物で、固形状又は液状のものをいいます

 廃棄物は、大きく一般廃棄物と産業廃棄物の2つに区分されています。産業廃棄物は、事業活動に伴って生じた廃棄物のうち、法律で定められた20種類のものと輸入された廃棄物をいいます。

 一般廃棄物は産業廃棄物以外の廃棄物を指し、し尿のほか主に家庭から発生する家庭系ごみであり、オフィスや飲食店から発生する事業系ごみも含んでいます。


廃棄物の区分

イ 一般廃棄物(ごみ)の処理の状況

 平成22年度におけるごみの総排出量*1は4,536万トン(前年度比1.9%減)、1人1日当たりのごみ排出量は976グラム(前年度比1.8%減)となっています。

 (注)東日本大震災により南三陸町(宮城県)の実績が欠損である。

 *1「ごみ総排出量」=「収集ごみ量+直接搬入ごみ量+集団回収量」

 これらのごみのうち、生活系ごみと事業系ごみの排出割合を見ると、生活系ごみが3,239万トン(約70%)、事業系ごみが1,297万トン(約30%)となっています。

 ごみは、直接あるいは中間処理を行って資源化されるもの、焼却などによって減量化されるもの、処理せずに直接埋め立てられるものに大別されます。


全国のごみ処理のフロー(平成22年度)

 ごみの総処理量のうち、中間処理されるごみは全体の排出量の約88%に当たる3,996万トンとなっています。中間処理施設としては、焼却施設のほか、資源化を行うための施設(資源化施設)、堆肥をつくる施設(高速堆肥化施設)、飼料をつくる施設(飼料化施設)、メタンガスを回収する施設(メタン回収施設)などがあります。中間処理施設に搬入されたごみは、処理の結果、455万トンが再生利用され、直接資源化されたものや集団回収されたものとあわせると、総資源化量は945万トンになります。ごみの総処理量に対する割合(リサイクル率)は、平成2年度の5.3%から平成22年度の20.8%に大きく増加しています。中間処理量のうち、直接焼却されるごみの量は3,380万トン(全体処理量の79.0%:直接焼却率)であり、焼却をはじめとした中間処理によって減量されるごみの量は3,124万トン(全体処理量の73.0%)にもなります。また、焼却施設には、発電施設や熱供給施設などが併設されて、発電、熱利用等有効利用が行われている事例も増加しています。

 一方、直接最終処分される廃棄物、焼却残さ(ばいじんや焼却灰)、焼却以外の中間処理施設の処理残さをあわせたものが最終処分場に埋め立てられる量になります。直接最終処分量は約66万トンで、総排出量の1.5%となっており、また、これに焼却残さと処理残さをあわせた最終処分量の総量は484万トンであり、どちらも年々減少しています。

ウ 一般廃棄物(し尿)の処理の状況

 平成22年度の水洗化人口は1億1,719万人で、そのうち公共下水道人口が8,886万人、浄化槽人口が2,803万人(うち合併処理人口は1,437万人)です。また非水洗化人口は1,011万人で、そのうち計画収集人口が998万人、自家処理人口が13万人です。

 総人口の約3割(非水洗化人口及び浄化槽人口)から排出されたし尿及び浄化槽汚泥の量(計画処理量)は2,320万kLで、年々減少しています。そのほとんどは水分ですが、1kLを1トンに換算して単純にごみの総排出量と比較すると、その数値が大きいことが分かります。それらのし尿及び汚泥はし尿処理施設で2,168万kL、ごみ堆肥化施設及びメタン化施設で3万kL、下水道投入で135万kL、農地還元で7万kL、そのほかで7万kLが処理されています。

 なお、下水道終末処理場から下水処理の過程で排出される下水汚泥は産業廃棄物として計上されます。

エ 産業廃棄物の処理の状況

 平成21年度における全国の産業廃棄物の総排出量は約3億8,975万トンとなっています。

 そのうち再生利用量が約2億0,671万トン(全体の53%)、中間処理による減量化量が約1億6,944万トン(43%)、最終処分量が約1,359万トン(3%)となっています。再生利用量は、直接再生利用される量と中間処理された後に発生する処理残さのうち再生利用される量を足しあわせた量になります。また、最終処分量は、直接最終処分される量と中間処理後の処理残さのうち処分される量をあわせた量になります。


産業廃棄物の処理の流れ(平成21年度)

 産業廃棄物の排出量を業種別に見ると、排出量の最も多い業種が電気・ガス・熱供給・水道業、農業、建設業となっています。この上位3業種で総排出量の約6割を占めています。

 産業廃棄物の排出量を種類別に見ると、汚泥の排出量が最も多く、全体の4割程度を占めています。これに次いで、動物のふん尿、がれき類となっています。これらの上位3種類の排出量が総排出量の8割を占めています。


産業廃棄物の業種別排出量(平成21年度)

4 大気環境、水環境、土壌環境等の保全

(1)大気環境の保全対策

 大気汚染の状況を全国的な視野で把握するとともに、大気保全施策の推進等に必要な基礎資料を得るため、国設大気環境測定所(9か所)及び国設自動車交通環境測定所(10か所)を設置し、測定を行っています。これらの測定所は、地方公共団体が設置する大気環境常時監視測定局の基準局、大気環境の常時監視に係る試験局、国として測定すべき物質等(有害大気汚染物質)の測定局、大気汚染物質のバックグラウンド測定局としての機能を有しています。

 加えて、国内における酸性雨や越境大気汚染の長期的な影響を把握することを目的として、「越境大気汚染・酸性雨長期モニタリング計画(平成21年3月改訂)」に基づくモニタリングを離島など遠隔地域を中心に全国27か所で実施しています。

 また、環境放射線等モニタリング調査として、離島等(全国10か所)の人による影響の少ない地域において大気中の放射線等のモニタリングを実施しており、その調査結果を、ホームページ「環境放射線等モニタリングデータ公開システム(環境放射線等モニタリングデータ公開システム(別ウィンドウ))」で情報提供しています。

 都道府県等では、一般局及び自排局において、大気汚染防止法(昭和43年法律第97号。以下「大防法」という。)に基づく大気の汚染状況を常時監視しています。

 また、国は、そのデータ(速報値)を「大気汚染物質広域監視システム(愛称:そらまめ君)」によりリアルタイムに収集し、インターネット及び携帯電話用サイトで情報提供しています。

 さらに、微小粒子状物質(PM2.5)の環境基準の設定に伴い、大防法に基づく大気の汚染の状況の常時監視に用いるPM2.5の自動測定機の標準測定方法との等価性の評価を行っています。


二酸化窒素の環境基準達成状況の推移(平成18年度~22年度)

浮遊粒子状物質の環境基準達成状況の推移(平成18年度~22年度)

(2)水環境の保全対策

ア 環境基準の設定等

 水質汚濁に係る環境基準のうち、健康項目については、現在、カドミウム、鉛等の重金属類、トリクロロエチレン等の有機塩素系化合物、シマジン等の農薬など、公共用水域において27項目、地下水において28項目が設定されています。平成23年度にはカドミウムの基準値を見直しました。さらに、要監視項目(公共用水域:26項目、地下水:24項目)等、環境基準項目以外の項目の水質測定や知見の集積を行いました。

 生活環境項目については、BOD、COD、溶存酸素量(DO)、全窒素、全りん、全亜鉛等の基準が定められており、利水目的から水域ごとに環境基準の類型指定を行っています。また、水質の評価に加えて、地域の特性に応じ良好な水環境を実感できる指標として「水辺のすこやかさ指標(みずしるべ)」を取りまとめて普及を推進しました。さらに、海域・湖沼の下層DO等の環境基準設定に向けた連続測定を実施しました。

 生活環境項目のうち、水生生物の保全に係る水質環境基準については、平成23年度には国が類型指定する水域のうち、東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海の一部水域について類型指定に係る検討を行いました。また、水生生物の保全に係る水質環境基準項目として、ノニルフェノールについて検討を行いました。

イ 公共用水域における水環境の保全対策(湖沼・閉鎖性海域)

 湖沼については、富栄養化対策として、水濁法に基づき、窒素及びりんに係る排水規制を実施しており、窒素規制対象湖沼は320、りん規制対象湖沼は1,393です。また、環境省においては、湖沼の窒素及びりんに係る環境基準について、琵琶湖等合計117水域について類型指定を行っています。

 また、水濁法の規制のみでは水質保全が十分でない湖沼については、湖沼水質保全特別措置法(昭和59年法律第61号)によって、環境基準の確保の緊要な湖沼を指定して、湖沼水質保全計画を策定し、下水道整備、河川浄化等の水質の保全に資する事業、各種汚濁源に対する規制等の措置等を推進しています。また、湖沼の汚濁機構解明、窒素・りん比率変動の影響、ヨシ等の水質への自然浄化機能についての調査を実施しました。


湖沼水質保全特別措置法に基づく11指定湖沼位置図


湖沼水質保全計画策定状況一覧(平成23年度現在)

 広域的な閉鎖性海域のうち、人口、産業等が集中し排水の濃度規制のみでは環境基準を達成維持することが困難な海域である東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海を対象に、COD、窒素含有量及びりん含有量を対象項目として、当該海域に流入する総量の削減を図る水質総量削減を実施しています。具体的には、一定規模以上の工場・事業場から排出される汚濁負荷量について、都府県知事が定める総量規制基準の遵守指導による産業排水対策を行うとともに、地域の実情に応じ、下水道、浄化槽、農業集落排水施設、コミュニティ・プラントなどの整備等による生活排水対策、合流式下水道の改善その他の対策を引き続き推進しました。

 その結果、これらの閉鎖性海域の水質は改善傾向にありますが、COD、全窒素・全りんの環境基準達成率は十分な状況になく(ただし、大阪湾を除く瀬戸内海における全窒素・全りんの環境基準はおおむね達成)、富栄養化に伴う問題が依然として発生しています。


三海域の環境基準達成率の推移(全窒素・全りん)

(3)土壌環境の保全対策

ア 市街地等の土壌汚染対策

 土壌汚染対策法に基づき、有害物質使用特定施設が廃止された土地等の調査が実施されました。同法施行以降の調査件数は、平成23年3月末までに、1,686件であり、調査の結果、指定基準を超過して指定区域に指定された件数は710件(うち330件はすでに汚染の除去等の措置が講じられ指定の全部の区域が解除)となっています。

イ 農用地土壌汚染対策

 基準値以上検出等地域7,575haのうち平成23年3月末現在までに6,577ha(72地域)が農用地土壌汚染対策地域として指定され、そのうち6,492ha(72地域)において農用地土壌汚染対策計画が策定され、6,651ha(進ちょく率87.8%)で対策事業等が完了しました。


年度別の土壌汚染判明事例件数

5 化学物質の環境リスクの評価・管理

(1)化学物質の環境中の残留実態の現状

 現代の社会においては、さまざまな産業活動や日常生活に多種多様な化学物質が利用され、私たちの生活に利便を提供しています。また、物の焼却などに伴い非意図的に発生する化学物質もあります。化学物質の中には、その製造、流通、使用、廃棄の各段階で適切な管理が行われない場合に環境汚染を引き起こし、人の健康や生態系に有害な影響を及ぼすものがあります。

 化学物質の一般環境中の残留状況については、化学物質環境実態調査を行い、「化学物質と環境」(http://www.env.go.jp/chemi/kurohon/(別ウィンドウ))として公表しています。平成14年度からは、本調査の結果が環境中の化学物質対策に積極的に有効活用されるよう、施策に直結した調査対象物質選定と調査の充実を図っており、23年度においては、[1]初期環境調査、[2]詳細環境調査及び[3]モニタリング調査の3つの体系を基本として調査を実施しました)。これらの調査結果は、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(昭和48年法律第117号。以下「化学物質審査規制法」という。)の規制対象物質の追加、特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(平成11年法律第86号。以下「化学物質排出把握管理促進法」という。)の指定化学物質の指定の検討、環境リスク評価の実施のための基礎資料など、各種の化学物質関連施策に活用されています。

(2)化学物質の環境リスク評価の推進

 環境施策上のニーズや前述の化学物質環境実態調査の結果等を踏まえ、化学物質の環境経由ばく露に関する人の健康や生態系に有害な影響を及ぼすおそれ(環境リスク)についての評価を行っています。その取組の一つとして、平成23年度に環境リスク初期評価等の第10次取りまとめを行いました。この中では、17物質について健康リスク及び生態リスクの初期評価を行い、さらに追加2物質について生態リスク初期評価を行いました。その結果、環境リスク初期評価について3物質、加えて行った生態リスク初期評価について1物質が、相対的にリスクが高い可能性があり「詳細な評価を行う候補」と判定されました。

 なお、生態系に対する影響に関する知見をさらに充実させるため、経済協力開発機構(OECD)のテストガイドラインを踏まえて実施している藻類、ミジンコ、魚類等を用いた生態影響試験を、平成23年度は8物質について行いました。

 また、平成21年5月に化学物質審査規制法が改正されたことを受け、化学物質審査規制法に基づき環境リスクを評価する手法等について検討しました。

 さらに、ナノ材料については、その動態、有害性、環境リスクに関する知見を早急に整備する必要があることから、国内外におけるナノ材料に対する取組に関する知見の集積や、ナノ材料に係る環境上適正な管理技術の検討のための情報収集等を行いました。


化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律のポイント

(3)化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律に基づく取組

ア 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律に基づく取組

 化学物質審査規制法に基づき、平成23年度は、新規化学物質の製造・輸入について764件(うち低生産量新規化学物質については311件)の届出があり、事前審査を行いました。

イ 特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律に基づく取組

 化学物質排出把握管理促進法に基づくPRTR制度(化学物質排出移動量届出制度)については、同法施行後の第10回目の届出として、平成22年度に事業者が把握した排出量等が都道府県経由で国へ届け出られました。届出された個別事業所のデータ、その集計結果及び国が行った届出対象外の排出源(届出対象外の事業者、家庭、自動車等)からの排出量の推計結果を、平成24年3月に公表しました。

ウ ダイオキシン類問題への取組

 平成22年度のダイオキシンに係る環境調査結果は表のとおりです。


平成22年度ダイオキシン類に係る環境調査結果(モニタリングデータ)(概要)

 また、平成23年度の一日摂取量調査において、平成22年度に人が一日に食事及び環境中から平均的に摂取したダイオキシン類の量は、体重1kg当たり約0.83pg-TEQと推定されました※食事からのダイオキシン類の摂取量は0.81pg-TEQです。この数値は経年的な減少傾向から大きく外れるものではなく、耐容一日摂取量の4pg-TEQ/kg/日を下回っています。


日本におけるダイオキシン類の1人1日摂取量(平成22年度)


食品からのダイオキシン類の1日摂取量の経年変化


ダイオキシン類の排出総量の推移

6 各種施策の基盤、各主体の参加及び国際協力に係る施策

(1)政府の総合的な取組

ア 環境保全経費

 各府省の予算のうち環境保全に関係する予算については、環境保全に係る施策が政府全体として効率的、効果的に展開されるよう、環境省において見積り方針の調整を行って各府省に示すとともに、環境保全経費として取りまとめました。平成24年度予算における環境保全経費の総額は、1兆5,318億円となっています。

イ 環境基本計画の見直し

 平成23年3月7日、環境大臣から中央環境審議会に対して環境基本計画の見直しについて諮問がなされました。その後、約1年に及ぶ審議を経て、環境大臣に新計画案についての答申が提出され、この答申を受けて、平成24年4月27日に第4次となる環境基本計画が閣議決定されました。本計画では、今後の環境政策の展開の方向として、「政策領域の統合による持続可能な社会の構築」「国際情勢に的確に対応した戦略をもった取組の強化」「持続可能な社会の基盤となる国土・自然の維持・形成」「地域をはじめ様々な場における多様な主体による行動と協働の推進」といった4つの方向性が掲げられました。この方向に沿って、「経済・社会のグリーン化とグリーン・イノベーションの推進」等の3つの事象横断的な分野と「地球温暖化に関する取組」等の6つの事象面で分けた分野からなる9つの重点分野をはじめとした施策が示されています。これらに加え、東日本大震災及び原子力発電所事故を踏まえ、エネルギー・温暖化対策の一体的な見直し、災害廃棄物処理、放射性物質による環境汚染対策等についても、記述されています。

(2)環境影響評価等

 環境影響評価法(平成9年法律第81号)は、道路、ダム、鉄道、飛行場、発電所、埋立・干拓、土地区画整理事業等の開発事業のうち、規模が大きく、環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある事業について環境影響評価の手続の実施を義務付けています。同法に基づき、平成24年3月末までに計203件の事業について手続が実施されました。そのうち、23年度においては、新たに7件の手続開始、また、4件が手続完了し、環境配慮の徹底が図られました。


環境影響評価法に基づき実施された環境影響評価の施行状況

(3)水俣病対策をめぐる現状

 平成16年の関西訴訟最高裁判決後、最大で8,282人(保健手帳の交付による取り下げ等を除く。)の公健法の認定申請が行われ、また、28,364人に新たに保健手帳(平成22年7月申請受付終了)が交付されています。さらに、新たに国賠訴訟が6件提起されました。

 このような新たな救済を求める者の増加を受け、水俣病被害者の新たな救済策の具体化に向けた検討が進められ、民主党、自民党、公明党の三党の合意により、平成21年7月に「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法(平成21年法律第81号。以下「水俣病被害者救済特措法」という。)」が成立し、公布・施行されました。その後、平成22年4月に水俣病被害者救済特措法の救済措置の方針(以下「救済措置の方針」という。)を閣議決定しました。この「救済措置の方針」に基づき、四肢末梢優位の感覚障害又は全身性の感覚障害を有すると認められる方に対して、関係事業者から一時金が支給されるとともに、水俣病総合対策医療事業により、水俣病被害者手帳を交付し、医療費の自己負担分や療養手当等の支給を行っています。また、これに該当しなかった方であっても、一定の感覚障害を有すると認められる方に対しても、水俣病被害者手帳を交付し、医療費の自己負担分等の支給を行っています。

 同年5月1日には、水俣病犠牲者慰霊式に鳩山総理大臣(当時)が歴代総理大臣として初めて出席し、祈りの言葉を捧げました。さらに同日、救済措置の方針に基づく給付申請の受付を開始し、平成22年10月には水俣病被害者救済特措法に基づく一時金の支給が開始されています。

 平成24年3月末までの救済措置申請者数は53,062人(熊本県35,259人、鹿児島県16,477人、新潟県1,326人)となっています。

 また、申請受付の時期については、平成24年2月3日の環境大臣の決定により、同年7月31日までと定められました。

 なお、認定患者の方々への補償責任を確実に果たしつつ、同法や和解に基づく一時金の支払いを行うため、同法に基づき、チッソ(株)を平成22年7月に特定事業者に指定し、同年12月にはチッソ(株)の事業再編計画を認可しました。

 また、裁判で争っている団体の一部とは和解協議を行い、平成22年3月には熊本地方裁判所から提示された所見を、原告及び被告双方が受け入れ、和解の基本的合意が成立しました。これと同様に新潟地方裁判所、大阪地方裁判所、東京地方裁判所でも和解の基本的合意が成立し、これを踏まえて、和解に向けた手続きが進められ、平成23年3月に各裁判所において、和解が成立しました。

 さらに、水俣市主催の「みなまた環境まちづくり研究会」に参加、支援するなど、救済措置の方針に基づき、水俣病発生地域の医療・福祉の充実や地域の再生・振興等を推進しています。


水俣病特措法に基づく救済措置


 環境省では、公式確認から50年以上経た水俣病問題を解決するために、平成21年に成立した「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法(平成21年法律第81号)」に基づき、救済を必要とする方々に対する救済措置を実施しています。

 この救済措置は、早期にあたう限りの救済を果たすという見地から、平成22年5月1日からその申請受付が開始され、平成24年7月31日まで申請を受け付けることとなっています。

 平成24年3月までに、申請件数は5万件を超え、多くの方から申請を頂いているところです。あたう限りの救済を果たすためには、今回の救済措置について、「知らなかった」「手を挙げられなかった」という方がいないように、申請期限までに、国、関係自治体、関係事業者が協力して、さらに徹底した周知広報を行うこととしています。心当たりのある方は、是非とも手を挙げていただくようお願いします。

 今回の救済措置の対象となる方は、昭和30年代から40年代前半に、水俣湾もしくはその周辺水域、または阿賀野川の周辺にお住まいだった方のうち、当時、その地域でメチル水銀を含んだ魚などをたくさん食べた方で、一定の症状(例えば、手足の先の方の感覚が鈍いなど)をお持ちの方となります。

 申請先は、当時お住まいだった熊本県、鹿児島県、新潟県のいずれかになります。(現在これらの県にお住まいでない方も、当時お住まいだった県に申請できます。)

 申請書類は、環境省の専用ホームページから入手できるほか、各県の窓口にも請求していただけます。


環境省 水俣病申請 検索

 なお、水俣病問題を解決するためには、公健法の認定患者の補償に万全を期し、高齢化が進む胎児性患者とその御家族の方など、みなさんが安心して住み慣れた地域で暮らしていけるよう、医療・福祉施策を進めるとともに、地域の絆の修復、地域の再生・融和(もやい直し)によって、地域の活性化を図ることが必要です。


救済措置のチラシ



水俣のいま


 水俣市は、水俣病という世界でも類例のない悲惨な公害を二度と繰り返さないために、その経験と教訓を活かし、未曾有の公害という負の遺産をプラスの資産に価値転換すべく、平成4年に「環境モデル都市づくり宣言」を行い、環境に関するさまざまな取組を行ってきました。その結果、日本でもトップクラスの家庭ごみ分別(現在24種類)によるリデュース・リユース・リサイクルが進み、エコタウンへのリサイクル産業の集積にもつながっています。また、水俣病の経験と教訓を、国内のみならず国外にも積極的に発信するなどして、地域内外の環境人材育成を図るための拠点となっています。このようなさまざまな取組の積み重ねが評価され、NGOなどによる「環境首都コンテスト」において、水俣市は全国総合第1位を過去4回獲得し、平成23年3月に全国で唯一の「日本の環境首都」の称号を獲得しました。

 水俣市は、平成22年度から環境を原動力とした地域の振興を更に進めていますが、環境省としても、平成24年度から開始される「環境首都水俣創造事業」等を通じて、全力で支援していくこととしています。

 さらに、水俣病と同様の健康被害や環境破壊が世界のいずれの国でも繰り返されることのないよう、国際的な水銀汚染の防止のための条約の制定に向けた国際交渉に積極的に貢献し、平成25年後半にわが国で開催予定の外交会議にて「水俣条約」としての採択を目指すこととしています。


水俣のいま


(4)地球環境保全等に関する国際協力等の推進

 地球環境問題に対処するため、[1]国際機関の活動への支援、[2]条約・議定書の国際交渉への積極的参加、[3]諸外国との協力、[4]開発途上地域への支援を積極的に行っています