環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成24年版 図で見る環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第1章>第3節 社会経済活動と環境負荷

第3節 社会経済活動と環境負荷

 経済成長を維持しながら環境負荷を下げる社会経済づくりを進めることが、世界全体の潮流になっている中で、UNEPのグリーン経済やOECDのグリーン成長のあり方は、我が国における環境と経済の統合的な発展に向けた取組の推進においても参考となります。ここでは、OECDにおけるグリーン成長指標の体系を踏まえ、世界と我が国における環境と経済に関する統計的なデータを比較しながら、我が国の環境・経済・社会の構造の概況を見てみましょう。

1 環境負荷物質の排出と社会経済活動

 経済成長に伴う環境負荷の程度を計測することは、環境と経済を統合的にとらえた取組の進捗状況を知るための基本的な情報となります。これに関し、1990年以降の我が国のGDPの伸びと、二酸化炭素の排出量との関係や、硫黄酸化物、窒素酸化物、廃棄物といった環境負荷物質の排出量との関係を見てみましょう。


GDPの伸びと、二酸化炭素排出量その他主な環境負荷物質の排出量の推移(1990年比)

 地球温暖化の原因となる二酸化炭素について、世界全体では、経済の成長とともに二酸化炭素の排出量も増大する傾向にあり、特に開発途上国の二酸化炭素排出量の増加が著しいことから、地球温暖化対策に取り組む必要性はますます高まっています。

 図「経済成長と二酸化炭素排出量の変遷(1971~2009)」は、人口1人当たりのGDPと二酸化炭素の排出量の関係の推移を国別に見たもので、右上への傾きが大きいほど経済成長に対する二酸化炭素の排出量の伸びが大きい状況であることを示しています。中国においては、経済成長に伴う二酸化炭素の排出量の伸びが著しいことが分かります。韓国も同様の傾向を示しており、経済成長に伴う二酸化炭素の排出が抑制されていない状況がうかがえます。


経済成長と二酸化炭素排出量の変遷(1971~2009)

 先進国の中には、スウェーデンのように、経済成長をしながら、二酸化炭素の排出量を減少させている国があります。我が国においては、二酸化炭素の総量は、2007年頃まで増加傾向にありましたが、おおむね、経済力を成長・維持しながらも二酸化炭素の排出量を抑制してきました。

 以上のデータからは、世界全体の傾向として、経済成長と二酸化炭素の排出量の増加を切り離す(デカップリング)にはいたっていないものの、一部の国に見られるように、経済力を低下させずに地球温暖化による環境負荷も軽減し得ることを示唆しています。一方で、近年経済成長が著しい中国、インド等の国々については、経済成長に伴う二酸化炭素排出量の増加傾向が著しいことから、これらの国々は、成長の過程で地球温暖化対策に貢献し得る余地が多く残されていると考えられます。また、開発途上国の中でも経済成長を達成できないでいる国々との差が拡大しており、今後、これらの国々の格差の是正と環境問題をどのように考えていくかが、世界全体での大きな課題となっています。

 このような傾向は、二酸化炭素の排出量だけではなく、廃棄物についても同様の状況を見ることができます。アジア地域において、経済成長に伴って廃棄物量が増大することが見込まれています。その中にあって、我が国においては、経済成長を遂げながら廃棄物量は大きく増加していません。


人口1人当たり廃棄物発生量と1人当たりGDPの関係

 我が国は、アジアをはじめとする世界のこのような状況を踏まえながら、システム・技術の革新や需給の構造を低炭素社会づくりに繋がるものに変えていくことによって、経済の成長と環境負荷の軽減を同時に達成する社会のあり方を追求し、我が国の有する高度な技術やシステムを一層高めつつ、いかに世界のグリーン経済に貢献するかを考えていく必要があります。

2 資源の利用と社会経済活動

(1)資源生産性とマテリアルフロー

 効率的な資源の活用の程度は、単位当たりの資源がどの程度の経済的価値を生み出したかを示す資源生産性によって評価されます。資源生産性は資源の生産国で低く、サービス産業の活発な国では高くなる傾向にあるものの、一般的には、資源生産性が高い国ほど、効率の高い生産活動を行う社会経済構造となっていると考えることができます。図「主な国の資源生産性(非金属鉱物系を除く)」からは、我が国は世界の中でも資源生産性の高い国であることが分かります。


主な国の資源生産性(砂利等の非金属鉱物系を除く)

 図「我が国のGDPと物質のフロー」は、この傾向を詳細に見るために、我が国の物質フローとGDPの伸び率について1990年比で比較したものです。GDPの増加とともに化石燃料の投入量は増加している一方、砂利等を含む鉱物資源やバイオマス、水資源の投入量は減少していることが分かります。公共事業等による社会インフラの整備が落ち着き、新たな資源の投入が抑えられていることがその主な要因として考えられます。我が国においては、社会経済活動に投入される物質の量は減少しているものの、化石燃料由来のエネルギー消費は増加の傾向にあります。


我が国のGDPと物質のフロー

(2)生物多様性と社会経済活動

ア)生態系を構成する基本的な単位としての生物の「種の多様性」

 「生態系の多様性」、「種の多様性」、「遺伝子の多様性」の3つの側面のうち、「種の多様性」は、生態系の基本的な構成要素である生物の種に注目しています。どのような生物の種でも、生息している場所で栄養を摂取し、繁殖して、次世代に生命を繋いでいます。そのため、生物多様性について理解をするに当たって、どの種が、どのくらい、どこに生息しているのかという情報は、最も基礎的で重要な情報となります。以下では、哺乳類と両生類の分布を見てみましょう。


世界の哺乳類及び両生類の分布状況(国別の固有種数/生息種数)

 国際自然保護連合(IUCN)によると、哺乳類は世界で約5,500種、両生類は、約6,700種が確認されています。哺乳類も両生類も、どちらも熱帯地方を中心に多くの種が分布しています。国別の生息種数をみると、哺乳類について、1位のインドネシアで約670種、2位のブラジルで約650種、3位の中国で約550種、日本は144種で世界74位となります。両生類では、1位のブラジルで約800種、2位のコロンビアで約710種、3位のエクアドルで約470種、日本は56種で世界54位となります。

 哺乳類の固有種率を国別に見てみると、1位はマダガスカルの81%、2位はオーストラリアの71%、3位はフィリピンの55%、日本は30%で世界8位に浮上します。両生類についても同様に見てみると、種数こそ多くありませんが、ジャマイカ、セイシェル等の島国で100%の固有種率となり、日本は80%が固有種で世界11位に浮上します。このように、我が国は、世界でも有数の固有種の割合の高い国であることが分かります。

 このように、国別の生息種数に注目するのか、国別の固有種率に注目するのかで、地図の見え方が大きく異なります。図中において、固有種数の多い国に注目すると、国土の広さ等による国内の生態系の多様性を示唆し、固有種率の多い国に注目するとその国が有する独特の生態系を示唆します。

 図「我が国のほ乳類の固有種の種数分布及び維管束植物における日本固有種の固有種指数」の色の濃い箇所は、我が国に生育する固有の脊椎動物、維管束植物が多く分布する地域を示しています。このような地域は、地球規模で種の多様性を保全する上で、重要な場所であると考えられます。こうした情報は、世界全体や国土の中で、生物多様性の保全上どの地域が重要かを抽出するために、有用な指標の一つとなります。


我が国の脊椎動物の固有種の種数分布及び維管束植物における日本固有種の固有種指数

(3)社会経済活動と森林資源

ア)農地の開発と森林の減少

 人間の社会経済活動と土地改変の関係という観点から、森林と耕地の関係を見てみましょう。1990年代以降、アフリカ、南アメリカ、東南アジアの熱帯地域を中心に農地面積が拡大して森林面積は減少する傾向にあります。これは、東アジア、ヨーロッパ、北アメリカの森林面積が、現状維持もしくは微増の傾向を示しているのに比べて、熱帯地域における森林の改変が著しい状況を示唆しています。


地域別農地・森林面積の推移

 アフリカ、南アメリカ、東南アジアにおいて農地が増加して森林が減少するという傾向は、この地域の社会経済の状況に強く影響されています。特に、1990年代に飢餓の問題を抱えていた国々の森林は、この20年間で耕地開発の影響を強く受けています。図「1990年代に飢餓を抱えていた国々における森林面積と耕地面積の変化率」は、1990年代初めに国内の栄養不足人口率が20%を超えていた主な国について、森林面積と耕地面積の変化率(2009年/1990年)を国別に見た図です。この図からは、飢餓を抱えている多くの国において、この20年間で森林面積が減少傾向にある国が多いことが分かります。なかでも、アフリカの多くの国においては、森林の減少が耕地の増加を伴っていることから、食料の不足を背景とした耕地開発による森林の改変が進行している状況がうかがえます。


1990年代に飢餓を抱えていた国々における森林面積と耕地面積の変化率(2009/1990)

 我が国と関係の深い近隣のアジア諸国では、一部を除き、熱帯林を有する多くの国で耕地面積の増加と森林面積の減少がみられます。特にインドネシアやマレーシアでは、近年、世界的なパーム油の生産量の増加とともにパーム油の原料となるヤシの生産面積が増加しており、熱帯林減少の大きな原因となっています。


日本の近隣国等の森林・耕地面積の変化率(2009/1990)

(4)社会経済活動と水資源

 水資源は、環境・経済・社会の問題と密接に関係があります。国際連合教育科学文化機関(UNESCO)によると、世界の人口の増加に伴って世界の取水量も増大し、2025年までに2000年比で32%増加すると考えられています。水は食料生産に欠くことのできない資源である一方、近年の飼料作物の需要の増大によって、各地で深刻な水不足が懸念されています。また、社会経済活動から排出される水質汚濁物質は悪臭や衛生面での環境問題を引き起こすのみならず、閉鎖性水域などの富栄養化を進め、従来の生態系を損ねることもあります。また、気候変動による干ばつと洪水の頻度の増加も深刻です。


世界の人口推移と世界の取水量推移

 水資源は、人間の生活に欠かせない資源です。水資源は、地球上に偏在しており、その95%が海洋に、2%が氷河などの氷の状態で存在しており、淡水の状態で存在しているのは1%程度にしか過ぎません。そのため、人々が淡水資源にいかにアクセスできるかが重要な視点になります。国民1人当たりの淡水資源量を見ると、アフリカ等で極めて深刻な水不足状態にあることが分かります。また、水の消費に伴う排水が適正に処理されるかも重要です。下水の処理が適正に行われているかという点について、アフリカ、インド等、深刻な状況にあることが分かります。


世界の安全な水へのアクセスと、衛生施設の整備状況

(5)地下資源の採掘と持続可能性

ア)限りある金属資源

 現在、私たちの身近にある製品には、様々な金属資源が使われています。これらの金属資源は、国内ではほとんど採掘されておらず、海外の鉱山に頼っています。具体的には、我が国は、様々な製品を製造するため、毎年、鉄鉱石約1億3,000万トン、銅鉱石約500万トン、アルミニウム約100万トン、亜鉛鉱約100万トンを輸入しており、世界有数の金属資源輸入国となっています。

 他方で、金属資源を採掘することのできる場所は限られており、また、そこで採掘することのできる生産量にも限りがあります。現在確認されている鉱山の2010年時点での年間生産量で埋蔵量を割った現時点での可採年数は、鉄鉱石66年、銅鉱石40年、鉛鉱21年、亜鉛鉱21年になると米国地質調査所は試算しています。可採年数は、新たな鉱山発見や、価格の上昇による需給逼迫等により伸張する場合もありますが、例えば、鉄鉱石の可採年数は、1990年時点では166年でしたので、この20年間で約3分の1になってしまったことになります。

 また、これまでの間に採掘した資源の量(地上資源)と現時点で確認されている今後採掘可能な鉱山の埋蔵量(地下資源)を比較すると、すでに金や銀については、地下資源よりも地上資源のほうが多くなっています(2004年時点で、金は地上資源9.3万t、地下資源4.2万tであり、銀は地上資源63万t、地下資源27万tと推計できます)。


主な金属の地上資源と地下資源の推計量(%値は地上資源比率)

 鉱物資源の品位低下も進んでいます。一般に採掘される鉱物資源の品位は、地表部分で採掘されるものよりも、深層部で採掘されるもののほうが低い傾向にあります。近年、既存鉱山の採掘が進んだ結果、深層部で採掘するケースが増加しており、例えば、我が国に輸入される銅鉱石の品位(鉱石(精鉱)中の銅含有量の割合)は、2001年の32.5%から、2008年の29.0%に低下しています。鉱物資源の品位の低下は、生産コストの上昇を招くほか、精製に必要となるエネルギーや不純物の増加に伴う環境への影響も懸念されます。

 さらに、現在、開発途上国の経済発展や人口増加により、世界全体の金属資源の需要は増加しており、今後もこの傾向は続くと考えられます。


世界の粗鋼生産量と鉄価格(ドル)の推移

世界の銅(地金)消費量と銅価格(ドル)の推移

 このような様々な需給要因を背景に、近年、金属資源の価格は上昇しています。UNEPが設立した持続可能な資源管理に関する国際パネルは、これまでの世界の経済成長は安価な資源に支えられてきたものの、近年の資源価格は逆に上昇しており、今後はより効率的に資源を利用するため、持続可能性を持ったシステム・技術の革新を速やかに成し遂げる必要があるとのレポートを出しています。

イ)レアメタル

 世界的な精密機械の普及等に伴い、有用性が高い一方で希少性も高いレアメタルに関する注目が高まっています。レアメタルは、それぞれ耐熱性、耐食性、蛍光性に優れるなど特殊な性質を有しており、自動車、IT製品などの精密機械の原材料等として、幅広く使用されています。


レアメタルの用途

 他方で、レアメタルはベースメタルの副産物として産出されるケースが多く、その供給構造は脆弱なものとなっています。例えば、亜鉛鉱には少量の鉄やレアメタルが含まれており、亜鉛の生産工程である培焼工程を経た後に、硫酸溶液に溶かして鉄を分離することで、残ったレアメタル原料がつくられます。このレアメタル原料から、個別のレアメタルを精製していきます。このような状況にあるため、レアメタルの需給により生産を調整することができず、亜鉛の生産動向によって供給量が左右されてしまいます。したがって、例えば、液晶ディスプレイの電極の需要が大きく増加したとしても、インジウムの天然資源供給量をその分増加させることは困難なのです。

 また、レアメタルの産出国を見ると、その多くが全埋蔵量の半分以上を上位3カ国が占めるなど特定の国に偏在しています。このため、中国のレアアースの輸出制限の例にみられるように、主要産出国のレアメタル輸出政策の変更により、我が国の経済活動が影響を受けるおそれがあるのです。


非鉄金属資源の埋蔵と上位産出国

 以上のような特殊な需給事情により、レアメタルの価格は、安定的かつ大量に供給できる体制が整備されている鉄や銅などのベースメタルと比較して、極めて不安定なものとなっています。図「レアメタルの国際価格の推移(実勢価格)」は、2000年時点の価格を100として、数種のレアメタルの価格変動を示したものです。簿膜型太陽光パネルやコピー機の感光ドラムに使われるセレンや、鉄鋼・特殊鋼の添加剤として使われるモリブデンの価格は、開発途上国の旺盛な需要や各地で相次いだ鉱山での事故による停止・減産などによって供給不足になり、2005年に急激に高騰しましたが、その後、金融危機に伴う景気後退の影響等を要因として大きく下落しています。


レアメタルの国際価格の推移(実勢価格)

 このように、一般的に、レアメタルの需給構造は不安定なものとなっており、安定供給の確保が大きな課題となっています。

3 環境分野における経済の動向

 資源制約の克服と環境負荷の解消をはかりながら経済成長や不平等の解消も達成する社会の実現に向けて、我が国の貢献のあり方を考えるためには、環境分野における経済状況について、我が国の強みを評価することが重要です。ここでは、環境分野における市場規模の推移、環境分野の特許の状況、技術革新を進める金融や政府の試験研究への支援、さらに、短期的な経済の景況感の観測から、我が国の環境分野における経済状況を概観します。

(1)我が国における環境分野の市場規模

 アメリカの民間会社の推計によると、環境産業の範囲や分類が異なりますが、2000年から2008年までの環境産業の世界市場は年率4%強の割合で伸びています。2009年には世界的な経済危機を受けマイナス成長が見られたものの、2011年以降は再び3%強の成長を続けるものと予測されています。これを地域別に見ると、2008年から2012年にかけてアジアが最も大きく成長し、約200億ドルの市場拡大が見込まれます。


地域別で見た世界の環境市場

 我が国の市場規模について、環境省では、OECDの環境分類に基づき、我が国における環境産業の市場規模及び雇用規模について調査を行っています。この調査によれば、平成12年度以降、我が国における環境産業の市場規模及び雇用規模は継続して拡大基調にあります。平成21年度について見ると、世界的な経済危機の影響で、前年度に比べてやや減少傾向にあるものの、環境分野の市場規模及び雇用規模は、それぞれ約69兆円、約185万人と推計されます。


環境産業の市場・雇用規模の推移

(2)環境分野の特許

 我が国の環境技術力について特許登録件数から見ると、環境分野における企業・公的機関・大学等科学技術研究費の増加傾向を背景に、我が国で登録される環境分野の特許件数は上昇傾向にあり、平成21年には2,000件を超えました。また、国別に見ると、アメリカや欧州における環境分野の特許件数がほぼ横ばい傾向にある一方で、近年、中国における環境分野の特許登録件数が増加傾向にあります。


環境分野の特許登録件数(日本及び主要国)と、科学技術研究費(日本)

 また、大気・水質管理、廃棄物管理、地球温暖化対策などの各分野においても、我が国の特許登録件数は高い水準に位置しています。特に、地球温暖化対策分野に関する特許登録件数を詳細に見てみると、我が国は電気自動車・ハイブリッド車、省エネ建築・省エネ機器の各項目で高いことが分かります。再生可能エネルギーの特許登録件数ではアメリカやドイツが高い水準となっています。


地球温暖化対策関連技術の特許登録件数(2010)

(3)イノベーションを支える資金の運用等

 環境問題の解決に資する新たな技術等は、各主体の積極的な取組が無くしては生まれません。

 日本銀行では、デフレ克服へ向けた中長期的な成長軌道を引き上げていくことを目的に、2010年(平成22年)6月「成長基盤強化を支援するための資金供給」を開始しました。これは、政府の新成長戦略等に掲げられた18分野などへの取組方針を提出した金融機関に対し、融資実績を踏まえて低利資金を供給するものです。同年4~12月の累計投融資額をみると、環境・エネルギー分野における融資実行額は最多の6,719億円と全体の3割近くに達しており、成長分野として期待を集めていることがうかがわれます。今後は、金融機関が新たな成長事業を見つけ、育成する「目利き」機能を発揮し、環境・エネルギー分野の中でも有望である一方でリスクを伴う新たな技術開発や事業化などへの資金供給を通じ、次代を担う事業への発展を支援していくことが望まれます。


成長基盤強化分野別の投融資実行状況

4 生活の質と環境

 持続可能な社会の実現のため、環境や経済的な指標だけではなく、人々の暮らしの質を評価する必要性が様々な方面から指摘されています。この生活の質という観点での指標の作成については世界的な試みが進められており、2011年に公表されたOECD「暮らしはどうか?(How's Life?)」における生活の質に関する指標群は、2010年に公表された「グリーン成長指標」と並んで、環境・経済・社会の持続可能性の状況を計測するための指標群として重要な位置を占めています。OECDの「How's Life?」における「よりよい暮らし指標(better life index)」では、生活の質に関してOECD加盟国等34カ国について国際間比較が行われています。これによると、オーストラリア、カナダ、スウェーデン等の国が上位に、チリ、メキシコ、トルコ等の国が下位となり、日本は中位に位置づけられるという結果となっています。

 このOECDにおける生活の質に関する指標群については、環境の側面の評価をグリーン成長指標にゆだねていることもあり、大気汚染の状況のみが環境関係の指標として選定されているなど、やや環境に関する指標が手薄な面があります。また、指標群としてどのような指標を選定するかによって算出結果が大きく変わる問題もあります。これに関して、環境省で実施した環境経済の政策研究においては、OECDが用いた21指標に加え、環境・社会の側面の主観的な豊かさ指標等を加味して8指標を追加し、指標の算出方法を見直して算定し直したところ、評価対象国の中での順位に大きな違いが出ることを示されました。


OECD「よりよい暮らし指標」の指標群・算定方法を見直した試算結果

 生活の質の評価についての国際的な取組は始まったばかりであり、課題が大きいものの、経済的な側面だけではなく、環境や社会の状況も加味した真の豊かさとは何かを追求する姿勢は、今後ますます国際的な潮流となると考えられます。