第3節 100年先を見て足元で育ちつつある新しい芽

 持続可能な社会は、温室効果ガスの大幅な削減による低炭素社会、3Rと廃棄物の適正処理が進んだ循環型社会、自然の恵みを享受し継承する自然共生社会を同時に実現しなくてはなりません。

 ここでは、第一に、複数の環境保全効果を発揮するような環境対策の技術的な側面に着目し、これからの環境技術のあり方を考察します。第二に、環境対策が、個人の力や社会全体の力がうまく結集されて大きな効果を発揮する側面に着目し、相互に協力し合って行われている環境対策から、私たちの取組が目指すべき方向を考えます。

1 環境対策の技術面での相乗効果

(1)メタンガス化により削減される廃棄物と二酸化炭素排出量

 わが国の廃棄物系バイオマス(家畜排泄物、下水汚泥、黒液、廃棄紙、食品廃棄物、建築発生木材、製材工場等残材)は、平成20年において、約30,000万トンと見込まれています。そのうち、食品廃棄物は年間約1,900万トン発生し、約1,400万トンが焼却・埋立処分されています。本来食べられるにもかかわらず廃棄されている食品が年間500~900万トンにものぼると言われています。

 削減しようとしても発生してしまう食品廃棄物は、循環資源として再生利用することが望まれます。具体的な方法としては、飼料・肥料化やエネルギー利用などがあります。エネルギー利用の方法としては、主に、発酵、ガス化及び直接燃焼の3つがあり、ここでは、含水率の高い生ごみ等の食品廃棄物に適しているメタン発酵について紹介します。

 メタン発酵(メタンガス化)とは、メタン菌等の微生物の働きにより、生ごみなどの有機物をメタン発酵させてメタンなどを生成し、発生したバイオガスを回収する方法です。


メタン発酵施設における代表的な処理フロー

 政府としては、市町村を対象にした「循環型社会形成推進交付金」による支援や、メタンガス化施設の整備に必要な情報提供と支援を目的とした「メタンガス化(生ごみメタン)施設整備マニュアル(平成20年1月)」の作成など、メタンガス化施設の整備を促進しています。


メタン発酵処理施設


 食品廃棄物のメタンガス化を行っている会社では食品製造・加工業やレストラン、デパート、コンビニエンスストア等から食品廃棄物を1日約110トン受け入れメタン発酵を行い、バイオガスを回収しています。バイオガスより取り出したメタンガスは燃料電池及びガスエンジンで使用し、1日およそ24,000kWh(約2,400世帯分の電気量に相当)の発電を行っています。また、そのうちの約60%は外部に売電しています。この発電による二酸化炭素削減効果は1日当たり14トンになります。

 メタン発酵を行う場合には、メタン発酵に適さないプラスチックなどの異物の混入をできるだけ少なくすることが望ましいのですが、メタンガス化を行っている会社では3基の投入口と破砕・選別機により食品廃棄物を破砕し、不適物と生ごみに分別しているため、レストランなどで食品廃棄物を排出する際の分別は簡単な作業のみで済んでいます。


処理している食品廃棄物例



(2)自然共生社会に係る取組と二酸化炭素排出量の削減

 わが国の未利用バイオマス(農作物非食用部、林地残材)の賦存量は、平成20年時点で、約2,200万トンと見込まれています。こうしたバイオマスの活用は、大気中に新たな二酸化炭素を放出しないことから地球温暖化対策にも資するものです。

 神奈川県の秦野市表丹沢野外活動センターでは、ボランティアなどと協働で周辺の里地里山の整備を行っており、活動の際に生じた伐採木を木質バイオマスボイラーの燃料として利用し、周辺施設の暖房や給湯を行っています。これによって年間約1,000m3のチップ材が利用され、約2万Lの灯油の削減効果が見込まれています。


秦野市表丹沢野外活動センターの木質バイオマスボイラー

 熊本県の阿蘇の草原は、約22,000ヘクタールもの広大な草原景観を有し、この雄大な景観が年間約1,800万人以上の観光客を楽しませています。一方で、化学肥料の普及など営農形態の変化や農業従事者の減少・高齢化が、景観や草原生態系の生物多様性の劣化などを招いてきました。

 このため、平成11年から、ボランティアによる野焼きの実施など、地域の様々な主体が連携した草原の維持に取り組み、近年は、未利用であった秋以降の枯れた野草を収集・ガス化し、既存の温水プールとその付帯設備へ電気と熱を供給する取組もはじまっています。


阿蘇草原における採草


(3)木材の有効利用等による循環型社会と自然共生社会の実現

 ア 循環型社会と自然共生社会の実現

 (ア)間伐材等の利用

 近年、わが国では間伐等の手入れが行き届かない森林が増えるなどにより、森林の機能の低下が危ぶまれています。間伐材を含め国産木材を有効利用することで、「植える→育てる→収穫する」という森林のサイクルを循環させ、金属や化石燃料などの枯渇性資源の使用量を減らし、循環型社会をはじめ、低炭素社会や自然共生社会の形成にも貢献します。

 国内の森林で生じる間伐材や端材を有効活用するため、紙製の飲料容器(カートカン)が開発されています。「日本の森林を育むこと」の重要性を広く国民に知らせることを目的として、飲料メーカーや関連企業を中心とした「森を育む紙製飲料容器普及協議会(もりかみ協議会)」が普及を進めています。カートカンは、原料として間伐材を含む国産材を30%以上利用し、内面に金属フィルムを貼っていないため、そのままトイレットペーパー等紙製品へのリサイクルが可能です。平成19年度の生産量は約1億7,000万本で、これは、500mL以下飲料容器の約0.3%に相当(もりかみ協議会調べ)します。

 また、集成材は、若年の間伐材等これまで限られた用途でしか使用できなかった材料を、建材、壁材、家具等の幅広い用途で使用することを可能にします。

 ある構造用集成材製造業者では、国産の木材を用いて集成材を作り、様々な形状の建物を建てています。また、集成材を製造するだけではなく、集成材製造時に発生した木屑を利用して木質ペレットの製造やバイオマス発電を行っています。この取組は、自然を守り、化石燃料等の消費量と廃棄物の削減に貢献する取組です。

 さらに、コピー用紙での間伐材利用について、国は、グリーン購入法に基づき、環境に配慮した物品の基準を定め、優先的に調達する中で取り組みを進めます。従来は古紙パルプ配合率100%のコピー用紙しか購入できませんでしたが、基準が改訂され、平成21年度からは古紙パルプ配合率が70%以上であれば間伐材等を利用したものも調達することができるようになりました。一部の製紙メーカーにおいては、間伐材を利用したコピー用紙の開発に成功し、市場に供給しています。


構造用集成材製造業者における木質バイオマス利活用の概要


集成材の利用例

 (イ)海の森

 東京都は、東京湾にある最終処分場(ごみと建設発生土の埋立地)で、市民・企業・NPOによる植樹活動を通じて、88ヘクタールの緑あふれる森に生まれ変わらせる「海の森」プロジェクトを進めています。本プロジェクトでは、都内の小学生やボランティアがドングリから育てた苗木や市民・企業等の募金により購入した苗木を植樹するなど民間と行政との協働による森づくりを行っています。植樹を行う土には都内の公園や街路樹の剪定枝葉から作った堆肥や建設発生土を利用しており、資源循環型の森づくりが進められています。この場所は自然共生やリサイクルに貢献する場所としてよみがえろうとしています。


海の森プロジェクト 植樹をする参加者

2 個人や社会の力を結集する環境対策

(1)低炭素社会をめざす個人や地域の取組

 低炭素社会を実現するには、自分自身の暮らしの中でのエネルギー消費について認識し、エネルギー多消費型の生活をエネルギー消費の少ない生活へ転換していくことが必要です。多くの消費者が需要の方法や量を変えることが、供給側の取り組みも促す大きな力になります。

 ア チーム力の結集

 地球温暖化防止のための国民運動「チーム・マイナス6%」では、「めざせ!1人、1日、1kgCO2削減」キャンペーンとして、国民からの「私のチャレンジ宣言」の受付等を行っています。個人が、毎日の生活の中でできる地球温暖化防止メニューから「実践してみよう」と思うものを選び、1人1日1kgの二酸化炭素排出量削減を目指そうとする取組です。この運動の事務局が参加者に行ったアンケート調査では、実践しているエコ活動は、1人当たり平均17項目、二酸化炭素削減量は、1日平均1,023gでした。平成21年4月末現在の参加者が約100万5千人ですので、参加者が削減した二酸化炭素削減量は、調査のとおりの成果が出ているとすれば年間約37万5,000トンと推計されます。

 「夏の冷房時の温度設定を26℃から28℃に2℃高くする」(76.0%)、「ゴミの分別を徹底し、廃プラスチックをリサイクルする」(71.8%)、等が多く実践されている一方で、「白熱電球を蛍光ランプに取り替える」(43.2%)、「古いエアコンを省エネタイプに買い換える」(16.0%)、等、買い換えや新規購入を伴うエコ活動は実践されにくい傾向があります。


私のチャレンジ宣言「多くの参加者が実践しているメニュー」

 イ 認証製品等の環境ラベリングを活用した取組

 (ア)生物多様性に配慮した認証製品等

 わが国の農林水産業においても、生物多様性に配慮した持続可能な森林・漁業経営によって生産された林産・水産物を認証する制度の活用などが各地で進められるようになっています。人工林の占める割合が大きく、零細な森林所有者が多いわが国の実状に合わせた森林認証制度を運用する『緑の循環』認証会議(SGEC)が平成15年に設立されています。こうした認証制度による国内の認証森林面積は、平成12年の森林管理協議会(FSC)の取得以来増加を続け、平成21年3月末現在、107件、約120万ヘクタールあります。これは、わが国の人工林面積の約1割に当たります。

 平成9年に設立された海洋管理協議会(MSC)は、漁獲量や種類、期間、漁法などに一定のルールを定め、漁業資源を枯渇させずに持続的に利用する漁業を国際的に認証しています。平成21年3月末現在、MSCの認証漁業は41件で、認証された水産物は約500万トンに達し、これは世界の食用水産物漁獲量の約7%に当たります。わが国では、平成20年に京都府機船底曳網漁業連合会がズワイガニとアカガレイの底引き網でアジア初のMSC漁業認証を取得しました。国内の漁業認証制度としては、平成19年に(社)大日本水産会が設立した「マリン・エコラベル・ジャパン」があり、平成20年に日本海ベニズワイガニが認証されています。


日本の漁業認証の状況

 (イ)グリーン購入による環境配慮

 全国の1874の地方公共団体を対象に実施した「平成19年度地方公共団体のグリーン購入に関するアンケート調査結果」によると、何らかの方法で、グリーン購入に「組織的に取り組んでいる」とした団体は、担当者レベルでの配慮まで含めると87.1%となり、ほとんどの地方公共団体においてグリーン購入に取り組んでいる結果となりました。

 また、製品選択の情報の充実に必要な仕組みとしては、「環境にやさしい製品を認定しマーク表示する制度」を挙げた人が最も多く、次いで「製品情報の比較方法や表現方法の標準化・共通化」が挙げられました。この結果から、環境ラベリングが製品選択に重要な役割を果たすと考えられます。


物品・役務のグリーン購入の製品選択時における必要な仕組み

 ウ 二酸化炭素を削減するための需要と供給の結節

 低炭素社会のために自分から率先して取り組む手法の一つとして、近年、カーボン・オフセットが注目されています。カーボン・オフセットは、主体間の協力によって二酸化炭素を削減します。市民、企業、NPO/NGO、地方公共団体、政府などの社会の構成員が、まず自らの温室効果ガスの排出量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行います。その上で削減が困難な部分の排出量を、他の場所で実現した温室効果ガスの排出削減・吸収量等を購入するなどにより、排出量の全部又は一部を埋め合わせる活動です。

 カーボン・オフセットの商品・サービスや取組は様々な場面に広がっています。神戸で開催されたG8環境大臣会合のカーボン・オフセットの取組は、排出された約512トンの二酸化炭素排出量を、グリーン電力証書の購入や韓国やインドにおける風力発電事業によるCDMクレジットの購入でオフセットしています。また、販売価格(55円)のうちの5円を寄付金として購入者が負担し、CDMクレジットの購入などに充てる年賀状(カーボン・オフセット年賀状)も平成20年には、約1,500万枚購入されました。

 このような取り組み以外にも、様々な商品やサービスにおいて、クレジットの購入等が温室効果ガス排出量の削減に結びつく取組が始まっています。

 ある地方銀行では、利用者が定期預金をすると、預金受入銀行が預金額の一定割合(0.1%)分の排出枠を5年間にわたり購入し、それを日本政府へ無償譲渡しています。当初募集予定金額の60億円を超える62億3千万円の預金があり、初年度分として2,000トンが日本政府に無償譲渡されました。この銀行では、さらに、その預金を温室効果ガスの排出削減を行う事業者に融資する等、融資面でも環境配慮を進めています。このほか、特定の通信販売事業者から商品を購入して宅配便を利用する際に、商品購入者がCDMクレジットの代金の一部を負担する宅配便サービスや、会員ポイントをためて、風力発電事業で創出されたCDMクレジットと交換することで、コンビニエンスストアから国に排出枠が移転される仕組みのコンビニ会員カードなど多様な商品・サービスが生まれています。


星は、もっとたくさん見えるはず


 環境省は毎年、「CO2削減/ライトダウンキャンペーン」を呼びかけ、ライトアップ施設等の電気を消すことを呼びかけています。平成20年は、キャンペーンの初日と最終日(6月21日と7月7日)に、全国のライトアップ施設等の一斉消灯を呼びかけました。特に7月7日は、2008年北海道洞爺湖サミットの開催初日であったことを受け、低炭素社会づくり行動計画に「クールアース・デー」として位置づけられ、「七夕ライトダウン」を始めとする様々なイベントを全国に呼びかけることとしました。照明を消すことは、地球温暖化の防止や省エネルギーに繋がるほか、光害の防止にもなります。特に、温暖化の防止や省エネルギーは、その効果を直接見ることは難しいですが、不要な電気を消した夜は、星空がいつもより明るく輝いて見えるかもしれません。キャンペーンそのものが短期間で終わったとしても、こうした取組をきっかけに、普段の生活で電気の使用を控えたりする次の行動につながることが期待されます。

 平成20年10月、山梨県の甲府盆地では、「第10回ライトダウン甲府バレー」が行われました。「街の明かりを消してきれいな星空をとりもどそう」と10年間続いているイベントです。午後8時から9時の1時間、甲府盆地の夜景がずいぶん暗くなりました。

 ライトダウンは、地球温暖化防止等に貢献し、夜空を眺めながら、一人一人が環境問題を考えるきっかけにもなります。ライトダウンを行うためには、地域ぐるみの賛同と行動がなければなりません。星の見える夜空の暗さは、そうした地域の意志の表れといえましょう。私たちの身の周りにも、不要な照明があるのではないでしょうか。2009年は世界天文年です。全国でこのような取組が一斉に行われれば、日本の夜空はもっと美しく見えることでしょう。また、それに伴い、二酸化炭素の排出量も減っていくことが期待できます。


ライトダウン前の甲府盆地夜景


ライトダウン中の甲府盆地夜景



(2)地域づくりと連携した環境負荷削減効果の高い取組

 環境対策は、個々の主体がすぐに取り組めるものもあれば、中長期的な視点でまちづくり、地域づくりから変えていくことも重要です。まちそのものを環境負荷の少ない構造にすることで、個々の主体の環境保全努力は大きな実を結びます。また、こうしたまちづくりをきっかけに地域が活性化することも期待されます。

 ア 各主体の協力で作られるコンパクトシティ

 青森市では、市街地の拡大に伴い、除雪費など多額の行政支出を余儀なくされたことをきっかけに、平成11年にコンパクトシティの形成を基本理念に掲げた青森都市計画マスタープランを策定し、郊外開発を抑制した都市整備が進めています。中心部は、徒歩と公共交通による移動が可能な交通体系を基本とするなど、エリア別の交通体系を定めています。

 青森市のコンパクトシティ形成の環境面での効果を全国の中核市と比較すると、青森市では平成11年から平成17年の間に、乗用車からの二酸化炭素の排出量が25パーセント削減され、他の中核市より大きな削減割合となっています。この間、一人当たりトリップ(移動)数は増加しているものの、トリップ当たり走行距離が大きく減少しており、コンパクトシティの形成により一定の成果が現われているとも考えられます。さらに、一人当たりの乗用車でのトリップ数を減少させるには、自動車の移動に替わる公共交通機関の充実等が重要です。


平成11年から17年までの中核市における自動車に起因する二酸化炭素排出量の変化


交通体系の違いを意識した青森市のコンパクトシティのあり方


平成17年及び11年の青森市における乗用車の走行の状況

 このように、広範な関係者の協力により地域の利益に根差した動きを広げていけば、環境負荷が少なく活気にあふれた地域社会づくりが進むものと期待されます。

 イ 街区の造り替えによる環境負荷の低減

 (ア)住宅地の熱環境改善による二酸化炭素の排出削減と快適性の向上

 都市全体の構造より少し狭い街区単位での環境改善の効果をみてみましょう。具体的には、温室効果ガス削減と都市の快適性や生活の質の向上を両立するために、密集した住宅地で熱環境を改善する方法とその効果を検証します。

 このシミュレーションでは、緑地や屋上緑化で緑地率を向上させ、小川を再生してその水を利用し、建物の断熱性能の向上と日射を防ぐ構造を採用するなど、街区全体で熱を蓄えにくくしています。一方で、専有部分と共有部分を合わせた居住空間を既存街区より約2割増やして生活の質を向上させており、熱環境の改善と先進的な設備・機器の導入による大幅な二酸化炭素の削減と豊かな生活空間の両立を図っているのが特徴です。

 後に全体イメージと改善点を示している新しい街区について、真夏の晴天日の電力消費がピークになる条件でシミュレーションしたところ、屋外の熱環境対策と建物の次世代省エネ基準への対応により、個々の住宅の冷房に係る電力等が削減され、二酸化炭素排出量は2010年に導入可能な最先端機器を利用した効果と併せて約85%削減されました。2030年頃に普及していると考えられる機器の場合は、高効率の太陽光発電の効果も加わり、100%削減された上でさらに20%の余剰電力が生じることが分かりました。また、大気への顕熱の指標であるHIPの値が日中で30℃から15℃まで下がり、日没後は0℃程度となり、顕熱の放出はほぼゼロになります。つまり、この街区は夜間にヒートアイランド現象を起こすような蓄熱が少ないと言えます。省エネ対策は、高効率機器の導入だけでなく、長期的な視点に立つと、街の構造から検討することが大切です。


既存街区のイメージ 新しい街区の全体イメージと改善点 新しい住棟の仕様 導入予定の建物性能(設備機器) 全戸の家族構成 夏季日中(12時)の表面温度分布 1日の生活パターン(タイプB) 夏季日没後(20時)の表面温度分布


ヒートアイランドポテンシャルの日変化(夏季晴天日) 夏季・冬季におけるエネルギー消費量と二酸化炭素排出量 生活空間の熱的快適性(MRT)の状況

 (イ)温室効果ガス排出削減の目標を掲げたまちづくり

 実際のまちづくりで進められている温室効果ガス排出削減を目指した取組を見ると、地域が一体となって取り組む街づくりにおいては、関係者の個々の取り組みを促すだけでなく、地方公共団体が主導して関係者の連携と協力を図ることが特に重要です。これにより、地域で共有する環境目標の達成が計画的に進み、併せて地域活性化も期待できます。

 a 地域のまちづくりにおける配慮

  ―二酸化炭素排出原単位の削減目標を盛り込んだ飯田橋駅西口地区のまちづくり―

 東京都千代田区は、平成19年12月「千代田区地球温暖化対策条例」を制定し、中期目標として2020年までに、区内の二酸化炭素排出量を1990年比で25%削減することとしています。同区では、電力会社による二酸化炭素排出原単位の削減対策に加え、区内の中小既築ビルの省エネルギー対策、街区・地区の面的対策を重点的に進めるとともに、再生可能エネルギーなどの導入を促進して目標を達成することとしています。特に、既築ビルの省エネルギー化を進めるため、大企業に蓄積されている省エネルギーの手法やそのコスト・ベネフィットなどの情報を中小ビルに活かすなどのグリーンストック作戦を展開していくこととしています。同区は、平成21年1月、内閣官房地域活性化統合事務局により、環境モデル都市として選定されました。

 さらに、同年3月には、環境モデル都市として温室効果ガスを1990年比で2020年に25%、2050年に50%削減するという目標を達成するための環境モデル都市行動計画も策定し、公表しています。

 平成20年には、地球温暖化対策推進法が改正され、都道府県並びに指定都市、中核市及び特例市は、地方公共団体実行計画において、その区域の自然的社会的条件に応じて温室効果ガスの排出の抑制等を行うための施策に関する事項を定めることとされ、また、都市計画その他の温室効果ガスの排出抑制等に関係のある施策について、当該施策の目的の達成との調和を図りつつ地方公共団体実行計画と連携して温室効果ガスの排出の抑制等が行われるよう配意することになりましたが、その他の市区町村についても、都市計画等と連携した温室効果ガスの削減が期待されます。

 千代田区の飯田橋駅西口地区は、5つの鉄道路線が結節する都心有数の交通の要衝である飯田橋駅前に位置し、新たな業務、居住機能の集積が進んでいる地区です。同区では同地区の開発を街の魅力向上につなげるための基盤整備を目指し、平成20年6月に都市計画法(昭和43年法律第100号)に基づく「飯田橋駅西口地区 地区計画」を決定しました。

 同地区計画においては、区全体の地球温暖化対策を牽引する取組として、建物の省エネルギー化や二酸化炭素の削減、地区内建物間での連携によるトータルな環境負荷低減を推進することとしています。また、周辺地区との連携を推進して、地区周辺を含めた環境対策を図ることも目指しています。

 加えて、千代田区においては、今後、飯田橋駅西口地区の再開発に当たり、地球温暖化防止条例、環境モデル都市行動計画等と飯田橋駅西口地区地区計画と相まって、建築物の機能更新の際には、エネルギー使用の合理化を図るとともに、資源の適正利用等の環境改善に向けた取組を計画的に進めていくことにしています。特に、二酸化炭素の排出削減について地区内の平均二酸化炭素排出原単位を、原則として、区内の業務部門に係る平均二酸化炭素排出原単位の6割以下とすることとしています。

 地区内では建物の省エネルギー対策として、高断熱ガラスによる熱負荷低減、省電力照明の使用を実施するほか、緑化、保水性舗装等を実施することにより、上述した業務部門の原単位の削減を実現し、2012年(平成24年)には、容積率の緩和による建物の床面積の増大を見込んでも、地区内の建物からの二酸化炭素排出総量を現行区域における総量と比較して5%以内の増加に抑えることを目指しています。

 さらに、千代田区では、事業者等と連携協力を図りつつ、同地区における建物からの二酸化炭素排出総量を2020年には1990年ベースより約25%削減することを目標とし、地区内に生じた廃熱の周辺地区における利用、周辺地区に集中的に設置した太陽光発電装置による電力の地区内における利用、地区内及び周辺地区の建物におけるエネルギー使用量データをコンピュータシステムにより収集し、収集したデータを基に専門家による省エネルギーに関するアドバイスを行うエリアエネルギーマネジメントシステムの導入などの対策を行うことにしています。

 b 民間ディベロッパーと市役所との協働による工場跡地再開発

  ―二酸化炭素排出量及び夜間のヒートアイランド負荷の低減を目指す摂津市南千里丘地区の再開発―

 大阪府摂津市では、新駅を設置する私鉄会社と民間活力を導入したまちづくりに関する提案を行った民間事業者と市役所の三者間で「南千里丘まちづくり地球温暖化対策モデル地区に関する覚書」が締結され、地球温暖化対策の実現に向けて、関係者が協力して街づくりを進めています。同地域では、2013年春頃のまちびらきの時点で、大阪地域の平均的な住宅や業務用施設等を前提に推計した二酸化炭素排出量の現状値に比べ、25%の削減を目指しています。また、ヒートアイランド対策として、夜間の熱負荷量を現状より12W/m2削減することを目標としています。

 目標達成に向けた取組として、民間事業者による住宅・業務施設における白熱灯の蛍光灯ランプへの変更、住民によるトップランナー家電への更新、駐車場の削減による公共交通機関の利用促進、市役所による道路歩道部等での連続的な植栽設置、透水性アスファルト舗装等の実施、雨水利用、省エネ方式の照明灯設置、照明灯等への太陽光発電パネルの設置、建物敷地内での植栽による緑化率(緑被率)の最低25%確保等が計画されています。現在、これらの目標値の設定や対策効果の評価手法に関する検討が行われているところです。

 まちの玄関口となる新駅(摂津市駅)では、駅に起因する二酸化炭素排出量をゼロにするわが国初の「カーボン・ニュートラル・ステーション」への取組が進められています。新駅から排出される二酸化炭素排出量は年間約65トンと推計されており、そのうち約35トン(排出量の54%)は太陽光発電の導入やLED照明などの省エネルギー機器の採用などにより削減し、直接的に削減困難な約30トン(排出量の46%)は排出削減クレジットの購入等で相殺し、新駅の二酸化炭素排出量をゼロにする予定です。


南千里丘まちづくり構想土地利用ゾーン概要図(案)

 ウ 行政、民間団体などの協働で進める環境教育と実践

 地域の環境保全の取組をまちづくりや地域づくりと一体となって進めていくためには、多様な立場の人々の参加と協力が不可欠です。各地域の行政と市民、関連する取組を行っている民間団体や、学校等の教育機関、事業者等が互いに積極的に協力して取り組むパートナーとなって力を合わせていくこと、すなわち「協働」が重要です。そのためには、そのような協働による持続可能な地域作りを担う人材を、育成していくことも大きな課題になっています。

 (ア)埼玉県東松山市の環境まちづくり

 埼玉県東松山市では、行政と民間団体とが互いに対等の立場で協力することなどを内容とする「協定」を結んでまちづくりを進めていることで有名です。同市では、単に協定を結ぶことが目的とはされず、実際に力を合わせることが不可欠な主体が積極的に役割を果たすことに力点を置いて協定が結ばれています。

 例えば、障害者の作業所で作ったリサイクル製品の販路拡大については、福祉関係者との付き合いの中だけでは、なかなか実現が困難でしたが、環境イベントに参加したところ、それまで全く売れなかった廃油石けんが飛ぶように売れました。その後、障害者団体は、更にモデル地区での廃食油の回収などにも参加した後、協定に参加してもらうことになりました。

 このように、実際の活動等を通じた協働の実績を踏まえた相互のルールとして協定を検討し、その検討結果を確認する形で協定を締結したことが、協定といった対等関係に立つ、一見拘束力の弱いルールが個々の地域における具体的な役割分担に関しては、より強い力を発揮することになっていることが注目されます。

 (イ)大阪府「西淀川ESD協議会」における持続可能なまちづくりへの取組

 わが国の提案で開始された「国連持続可能な開発のための教育(ESD)の10年」の下、世界の国々で取組が進められています。環境省では、平成18年度から3年間、地域におけるESDの実践モデルをつくるため、持続可能な地域づくりに向けた課題に取り組む地域を公募し、支援を行いました。

 モデル地域の1つ、大阪府「西淀川ESD協議会」では、持続可能なまちづくりの実現を目指す事業に取り組んでいます。協議会のメンバーである大阪府立西淀川高等学校では、必修科目「環境」の授業で「菜の花プロジェクト」(菜の花を栽培し、採取した油で調理を行い、その廃油で自動車を走らせ、排出された二酸化炭素を菜の花が吸収するという循環型のプロジェクト)に取り組みました。放課後には高校生達が自主的に同好会活動を行い、公害地域の再生を目指す財団法人公害地域再生センター(あおぞら財団)を中心に、地元の大学や中学校、行政、社会教育施設、自治会、ガールスカウトなど他の協議会メンバーと連携しながら、活動の場を広げています。このように、「ESDによる持続可能な地域づくり」をキーワードにした地域と教育機関等との連携の下、まちづくりが進み、また、生きた環境教育が進むという相乗効果が生まれています。


「菜の花プロジェクト」

 また、環境省では、これらモデル地域の取組の詳細やモデル事業でESDを進めるためのヒントを紹介した「地域から、学ぶ・つなぐ39のヒント」を取りまとめています。

 エ 農業団体との協働によるエネルギーの供給

 平成19年に新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法(平成9年法律第37号)が改正され、出力1,000kW以下の小水力発電が、新エネルギーとして新たに加えられたことから、地方公共団体を中心に導入に向けた動きが広がっています。小水力発電の特徴としては、建設時の環境改変などの負荷が少なく、短期間で設置が可能であること、地方分散の小電力需要に臨機応変に対応が可能であることなどが挙げられます。

 長野県大町市は、平成19年に、(財)新エネルギー財団とNEDOの補助を受けて、小水力発電施設整備事業を始めました。これは、町川用水路の未利用落差を有効利用するもので、使用水量をすべて町川に放流する流れ込み式の発電所です。町川は水量が豊富で安定的に採水でき、最大1.1m3/sを取水し、急勾配な地形(有効落差16.0m、水圧管延長83.7m)を利用して、最大出力140kWの発電が可能です。発電した電力は、近隣のし尿処理場で自家消費され、年間550tの二酸化炭素発生が抑制されることから、環境・エネルギーの学習の場としても期待されています。また、大町市に活動拠点をおく「NPO地域づくり工房」は、大町市内の2カ所に小水力発電実験施設を設置し、地元の漁業協同組合との契約で小水力発電所を整備しています。

 これらの大町市の取組は全国からも注目され、各地からエコツアーや視察研修で多くの人々が訪れ、地域の活性化にもつながっています。

 オ 地域特性を踏まえた汚水処理施設の整備による健全な水環境の保全・創出

 河川や湖沼等の健全な水環境を保全し、公衆衛生や生活環境を向上させるためには、地域の生活基盤である汚水処理施設を整備し、家庭や工場等から排出される汚水を適切に処理することが重要です。平成19年度末時点の汚水処理人口普及率は、全国平均で約84%に達しており、全人口の約7割を下水道、約1割を浄化槽や農業集落排水施設等で担っています。一方で、地方都市の郊外部や中小市町村等においては、依然として約2000万人にのぼる未普及人口を抱えており、早急な汚水処理施設の整備が望まれています。


都市規模別の汚水処理人口普及率(平成19年度末)

 また、水質保全上重要な湖沼等の閉鎖性水域においては、汚水処理施設の普及を重点的に推進するとともに、富栄養化により赤潮・青潮の発生が問題となっていることから、その原因となる窒素・リンを除去するために高度処理の導入を推進しています。

 汚水処理施設の整備については、一般的に、家屋間の距離が離れている人口分散地では、個別処理である浄化槽が経済的であり、人口密度が高くなるにつれて集合処理である下水道や農業集落排水施設等が経済的となります。このため、各都道府県で策定する汚水処理に係る総合的な計画である「都道府県構想」について、近年の人口減少傾向等の社会情勢の変化も踏まえた経済性や水質保全上の重要性等の地域特性を十分に反映し、適切な汚水処理施設を整備するよう、早急な見直しを推進しています。


集合処理と個別処理の区域分けの考え方

 汚水処理施設の普及により、例えば河川や湖沼に浮かぶ泡や臭いの減少等の水環境の改善に加えて、地域の生活・社会基盤の整備による定住促進や産業振興、観光地の魅力の向上など、地域の活性化に貢献しています。

 さらに、汚水処理の過程で発生するバイオガスや汚泥等のバイオマスは、エネルギーや資源としての有効利用が図られており、処理水についても、水洗トイレ用水への利用に加えて、せせらぎ用水や河川の水量の維持にも活用されるなど、貴重な資源の循環利用を図っています。


乗用車のCO2排出量を削減する―低燃費車や公共交通への転換―


 運輸部門はエネルギー起源二酸化炭素排出量の約2割、その中で自動車からの排出が約9割、さらに自家用乗用車(以下、「乗用車」という。)はその約6割を占めます。つまり乗用車は運輸部門のうち約半分の二酸化炭素を排出しています。少し前を振り返ってみると、わが国では、1990年代に乗用車の大型化と台数の増加が進み、乗用車の走行キロ燃費が低下したため、結果として運輸部門全体の二酸化炭素排出量を押し上げることとなりました。その後、2000年代に入ると低燃費車が増加し、走行キロ燃費が向上したため、二酸化炭素排出量が頭打ちとなっています。


自家用乗用車の走行キロ燃費

 この背景としては、上図のとおり複数の要因が考えられます。例えば、自動車税低減(平成元年)が普通乗用車(いわゆる3ナンバー)の増加要因となり、自動車税制のグリーン化(平成13年から本格実施)が低燃費車の普及を進める要因となるなど、税制もその要因の一つとして関係したと考えられます。

 乗用車起源の二酸化炭素排出量は、10年ほど前まで、増加傾向を続けていましたが、2000年代に入り乗用車の旅客輸送量が頭打ちとなったため、減少傾向となりました。今後も排出削減を続けていくためには、走行キロ燃費の改善や燃料の低炭素化に加えて、輸送効率の改善やモーダルシフト(手段転換)により乗用車の走行量を削減し、また、集約型の土地利用やITの活用により旅客輸送量そのものを抑えることで、利便性や生産性を向上させつつCO2排出量を減らすデカップリングを進めていくことが求められます。


自家用乗用車起源の二酸化炭素排出量と輸送旅客量の関係

 乗用車からの二酸化炭素の排出を削減するには、低燃費車や公共交通へ転換する方法があります。

 まず、地域内の通勤や買い物など身近な自動車利用に関して二酸化炭素排出を削減する効果について見ていきましょう。(独)国立環境研究所が行った「身近な交通の見直しによる環境改善に関する研究」によると、次世代電気自動車の実路走行試験により、ガソリン軽自動車(4速自動変速機)から電気自動車(2人乗り)への乗り換えで約6~7割、ガソリン軽自動車(無段変速機)から電気自動車(2人乗り)への乗換えで約5~6割の二酸化炭素排出削減が期待できるとの結果でした。

 また、低炭素社会づくり行動計画では、2020年に新車販売の2台に1台を次世代自動車にすることを目指していますが、同研究所では、ハイブリッド乗用車の急速な普及を進めた場合の二酸化炭素排出削減効果を試算しています。その試算では、2020年までに乗用車の新車販売が全てハイブリッド乗用車となって、その普及率が40%に達した場合、運輸部門の二酸化炭素が基準年比で約3%の削減になると推計しています。


軽乗用車から次世代電気自動車への乗り換えによるCO2削減効果

 次に、乗用車から公共交通への転換が進んでいる例を見てみましょう。富山県富山市では、モータリゼーション等による富山港線の利用者数減が運行本数を減らし、さらに利用者数が減るという悪循環を絶つため、当該路線(6.5km)につながる路面電車化した路線を新設(1.1km)し、本格的なLRTとして再生を図りました。富山市は自動車への依存率が全国的にみても高く、交通手段別分担率は、自動車が約72%、公共交通機関は4.2%にとどまっていました。富山港線のLRT化後、平日の1日平均利用者数は、JR西日本時代の約2,200人から平成18年には約4,900人(2.2倍)に増えました。休日の1日平均利用者数も5.3倍に増加し、特に高齢者の利用割合が高くなっています。また、バスや自動車からの乗換えが平日で約25%、休日で約22%に上り、自動車利用による二酸化炭素排出が削減されたと考えられます。富山市のLRT導入は、公共交通を軸とするコンパクトなまちづくり、自動車交通に依存しない低炭素都市の形成だけでなく、少子・高齢化時代におけるバリアフリー都市の形成、観光客や住宅着工件数の増加等の経済効果など多方面に効果が見られました。


運輸部門の二酸化炭素排出量の削減シナリオ



(3)地域での地産地消等の取組

 ア わが国のフード・マイレージの状況

 わが国の食糧自給率はカロリーベースで約4割、木材自給率は約2割に過ぎず、私たちの暮らしは、多くの輸入品によって支えられています。

 食料の輸送に伴う環境負荷を表す指標として、食料の輸送量(トン)と輸送距離(km)を掛けた「フード・マイレージ」という考え方があります。生産地と消費地が遠くなるほど輸送のエネルギーが多く必要となり、地球環境に大きな負荷を与えることがわかります。平成12年の農林水産省の試算によると、わが国のフード・マイレージの総量は、世界でも群を抜いて大きく、また、フード・マイレージを総輸入量と平均輸送距離でみると、わが国の食料輸入量はフランスを除く欧米各国の7~8割の水準ですが、平均輸送距離をみると、欧米各国はわが国の2~4割にとどまっています。つまり、わが国の食料輸入の特徴としては、その量の多さに加え、諸外国と比べてかなりの長距離輸送を行っていることが分かります。


各国の輸入食料のフード・マイレージの比較


各国の食料輸入と平均輸送距離


主要生鮮野菜4品目の輸入量とフード・マイレージの推移

 わが国の主要生鮮野菜のうち、代表的な4品目のフード・マイレージの推移を上記の図に示します。この4品目を仮にすべて国内産に置き換えたとすると、海外輸送に伴う二酸化炭素を3千トン程度削減できます。

 イ 地域産木質バイオマスによるエネルギー供給

 木質バイオマスは、再生可能エネルギーとしてその利用拡大が期待されています。仮に国内の平成17年時点における未利用バイオマス(製材工場等残材、建設発生木材、林地残材)約600万トンの約40%にあたる約240万トンを利用した場合の温室効果ガスの削減効果を算定してみます。240万トンの未利用バイオマスを木質ペレットに加工して利用すると仮定した場合、灯油に換算すると114万kLに相当します。北海道、東北地方の約610万世帯での年間灯油消費量が約565万kL(平成19年)であることから、仮にこれを木質ペレットで置き換えた場合、約20%の世帯の石油ストーブに相当します。灯油の消費量が多い北海道、東北地方に割り当てた場合の試算ですので、各地で木質ペレットが普及すれば、多くの世帯の燃料を置き換えることが可能と考えられます。ペレットストーブと石油ストーブについて初期費用及び運転費用を比較すると、ペレットストーブは温室効果ガス削減に貢献する一方、普及によりコストを抑える等の対策が必要と考えられます。


ペレットストーブと石油ストーブのコスト比較

 ウ 地域の生きものを活かした取組

 (ア)コウノトリが運ぶ地域の活性化

 平成17年9月に、兵庫県豊岡市で、人工繁殖させたコウノトリが試験放鳥されました。昭和46年に豊岡市で国内最後の野生のコウノトリが死亡してから34年ぶりのことで、野外で一度絶滅した野生動物を、野生復帰させるわが国では初めての試みでした。豊岡市では、試験放鳥に先立つ平成17年3月に「豊岡市環境経済戦略」を策定しました。これは、コウノトリをシンボルとして、環境と経済をともに発展させることを目的として、「豊岡型地産地消の推進」、「豊岡型環境創造型農業の推進」、「コウノトリツーリズムの展開」、「環境経済型企業の集積」及び「自然エネルギーの利用」の5本の柱からなります。

 具体的には、コウノトリの餌となる多様な生きものを育む無農薬や減農薬による水稲栽培があげられます。[1]無農薬や減農薬、[2]化学肥料の削減及び[3]田んぼに水を張る期間を長くすることなどによる「コウノトリ育む農法」を確立し、この農法によって生産された米を「コウノトリ育む米」として販売しています。雑草や水の管理に手間がかかるため、通常の米よりも3~6割程度高い価格で販売されていますが、売れ行きは好調で、他地域の大手量販店でも販売されています。この農法による作付面積は、平成16年度は約16ヘクタールでしたが、平成20年度には183ヘクタールまで広がっています。

 観光面でも効果があり、豊岡市立コウノトリ文化館の来館者が、平成16年度の約12万人から平成20年度には約42万人に増加しました。慶応大学経済学部大沼教授のグループによると、コウノトリを目的とした旅行者の旅費や土産代は、年間総額約12~30億円にのぼると試算されています。


豊岡市立コウノトリ文化館の来館者数


田んぼで餌をついばむコウノトリ

 (イ)有害鳥獣や外来種を資源として活かす

 シカやイノシシなど地域的に増加した野生鳥獣や、オオクチバスやブルーギルなどの外来魚による農林水産業や生態系への被害は依然として深刻です。こうした被害を防止するため、各地で野生鳥獣や外来魚の駆除が行われていますが、近年、これらの捕獲した動物を食品やペットフード、飼料などとして有効利用しようとする取組が各地で進められています。近年の中山間地域でのシカやイノシシなどの分布域を見てみると、分布が拡大し、農林水産業や生態系に大きな被害を与えています。野生鳥獣による農作物被害額は、年間185億円(平成19年度)にのぼり、被害の軽減に向けて生息環境の整備や有害鳥獣駆除などが行われていますが、捕獲数は年々増加し、平成17年度には、全国でシカ約19万頭、イノシシ約22万頭が捕獲されています。


シカとイノシシの全国捕獲数の推移

 北海道では、エゾシカの分布域の拡大や生息数の増加により農林業被害が急増し、年間30億円前後の被害が報告されています。こうした中、北海道は捕獲したエゾシカの有効活用を保護管理の一環として位置付け、平成18年にエゾシカ衛生処理マニュアルを作成しました。平成19年度には約12,000頭のエゾシカが食肉処理されています。また、島根県美郷町では、平成12年から町を中心にイノシシ肉の資源化を進め、地域ブランド「おおち山くじら」を立ち上げ、捕獲から精肉までの処理システムを構築し、加工食品やペットフードなどの販売をしています。

 外来種の活用としては、オオクチバスやブルーギルの防除の取組が各地で行われています。多いところでは年間数百トンにものぼる捕獲個体を埋め立て処分してきました。こうした捕獲個体の肥料や飼料としての利用は、域外から持ち込まれる肥料や飼料の量を減少させ、水域の富栄養化を防止する取組にもつながっています。滋賀県では、平成14年度から琵琶湖の外来種を年間440~570トン駆除しており、これらを魚粉に加工して販売するなど有効利用を図るとともに、食用化の検討もなされています。



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