第2節 環境対策と世界の経済、国内の経済

 平成20年後半以降の世界的な不況下で、景気回復を優先して環境対策を後回しにするのではなく、不況を乗り切る鍵を環境対策に求める動きが世界的に広がっています。いわゆる「グリーン・ニューディール」と呼ばれる政策です。ここでは、環境対策へと向かう国際機関や各国の動向、わが国におけるグリーン・ニューディール施策の最近の動向をとらえ、また、国境を超えた物の流れや環境対策における協調を通じて、わが国と他の国々とが密接に関わっていることについて論じます。

1 環境対策が牽引する世界経済

(1)環境対策による経済や雇用への効果

 平成20年9月、UNEP、国際労働機関(ILO)等の国際機関が協力し、「グリーン・ジョブ:持続可能な低炭素社会における働きがいのある人間らしい仕事を目指して」(以下、「グリーン・ジョブ」という。)という環境と経済に係る分析を行った報告書を作成しました。グリーン・ジョブでは、環境の質の保全や回復に貢献する労働を「グリーン雇用」と定義し、今後、世界的に、低炭素で持続可能な経済へと移行していく中で、グリーン雇用の創出が加速される見込みがあるとしています。例えば、2006年の世界での再生可能エネルギーによる雇用量は、風力発電で30万人、太陽光発電で17万人、バイオマス発電で117万4千人等とまとめています。


再生可能エネルギー分野での世界の雇用の見積もり

 さらに、UNEPは2009年の2月には、「グローバル・グリーン・ニューディール」という報告書において、高所得のOECD各国は今後2年間に、炭素依存を減らすための各国における様々な行動に、少なくともGDPの1%を支出することや、国際社会が取り組むべき10項目をまとめ、その実行を求めています。このほかUNEPでは、世界のエコノミストとともに、「グリーン経済イニシアティブ」を始めました。今後、約2年間様々な調査を行い、その結果を踏まえて、各国に提言を行うこととしています。わが国においても、このような環境の価値の経済的評価や、環境対策と雇用の関係等、経済のグリーン化についての検討を進めることが求められています。


(2)各国における環境対策と経済対策の一体的な推進

 アメリカではオバマ大統領が就任し、環境対策にも積極的な姿勢を打ち出しています。平成21年2月に発表された予算教書に盛り込まれたクリーン経済に関する政策では、今後10年で1500億ドルをクリーンエネルギーの分野に投資し、再生可能エネルギー由来の電力の割合を、2025年までに25パーセントにする方向を示しています。また、米国全体でキャップアンドトレードを導入し、温室効果ガスの排出量を2020年までに2005年比14%、2050年までに2005年比83%削減することとしています。同月17日に成立した米国再生・再投資法において、それらの施策が具体化されています。今後2年間で350万人の雇用創出を目指す等、環境対策も活用して経済対策を実施しようとする姿勢が示されています。また、韓国では、今後の経済政策のパッケージが2009年1月に公表されました。4年間で約50兆ウォン(約3兆5,400億円、平成21年1月現在)の公共投資を実施し、96万人の雇用創出を行う予定です。これらの国を始め、環境対策と経済対策を同時に進めようとする取組が、いくつもの国で行われています。

2 環境対策が牽引する日本経済

(1)「緑の経済と社会の変革」

 環境対策を思い切って実行することにより、直面する環境問題に対処するとともに、経済危機を克服するとの観点から、斎藤環境大臣は、平成21年4月20日に「緑の経済と社会の変革」を取りまとめました。


緑の経済と社会の変革の施策内容


(2)「未来開拓戦略による低炭素革命」

 また、麻生総理大臣の指示のもと「未来開拓戦略」が取りまとめられ、経済財政諮問会議において了承されました。「健康長寿」及び「魅力発揮」とともに、環境分野では、太陽光発電・省エネ世界一プラン、エコカー世界最速普及プラン、低炭素交通・都市革命、資源大国実現プランといった「低炭素で世界をリードする国」を2020年におけるわが国の目指すべき将来像の柱の一つとして示しています。


(3) 環境対策により活性化する地域経済

 ア 環境対策が地域経済にもたらす経済、雇用への効果

 環境省では、高知県を例に、2020年に約3割の温室効果ガスを削減することを想定し、太陽光発電の普及や公共交通の利用促進などの対策を講じた場合の地域経済への波及効果を算出しました。この結果、投資額を大きく上回る高い経済効果があると試算されました。

 東京都千代田区では環境モデル都市行動計画において、都心の低炭素化と地方の活性化を両立するため、地方の大型市民風車プロジェクトの支援を行うことを位置づけています。千代田区のこのような取組は、東京都が大規模事業所に対して、排出量取引制度を導入し、グリーン電力等の活用を削減義務の履行手段の一つとして認めたことを受けて実施されることになったものです。このように都市と地域が連携した地球温暖化対策が進み、都市から地方への資金の移転を促すと考えられます。


地球温暖化対策の地域経済への効果

 イ エネルギー需要部門の対策による経済への波及の推計

 業務その他部門及び家庭部門における二酸化炭素排出量は、近年伸びが著しく、第一約束期間の削減目標を目指したエネルギー需要側としての省エネ対策が強く望まれています。そうした対策の具体例の一つとして、仮に省エネ家電である高効率エアコンを導入した場合をみると、平成9年の機器に比べて平成20年の機器は、年間で二酸化炭素を260kg削減し、電気代も19,080円節約できます。家庭部門の二酸化炭素総排出量1億8,000万トン(平成19年度)を単純に1世帯平均とした場合、年間3.4tの排出となりますが、260kgはこの7.6%に当たります。


省エネ型エアコンへの買換え効果

 同じような効果が太陽光発電についても考えられます。太陽光発電の国内累積導入量は、平成19年時点で1,919MWです。一方で、ドイツは3,862MWを有し、平成17年に導入量でドイツに抜かれてからその差が広がっています。低炭素社会づくり行動計画でも既存先進技術の普及として、太陽光発電を2020年に10倍、2030年に40倍に増やすことを目指しています。この目標を実現するには、およそ10年間の間に約12,100MWの太陽光発電を生産しなくてはなりません。また、約12,100MWの太陽電池パネルが設置されたと仮定し、平均稼働率から算出すると年間で121億kWhの発電量が得られると推計されます。これは、約340万世帯の年間消費電力に相当し、家庭部門の二酸化炭素総排出量1億8,000万t(平成19年度)の約4%を削減することになります(※電力排出源単位は、0.453kg-CO2/kWhで計算)。


太陽光発電累積導入量の推移

 また、平成21年4月の麻生総理大臣のスピーチ「新たな成長に向けて」に基づく未来開拓戦略において、太陽光発電の規模を2020年頃に現状の20倍程度に拡大することが目標とされました。この目的の実現を目指し、公共部門等での率先導入を進めるとともに、太陽光の電力を電力会社が買い取る新たな制度を導入します。

 ウ 地球環境問題に取り組む地方公共団体への期待

 地球温暖化対策推進法では、身近な地方公共団体(義務化されたのは特例市以上の約100地方公共団体)が区域の温室効果ガス排出抑制のための地方公共団体実行計画を策定することとされました。各地方公共団体は、同計画に基づき、温室効果ガスの排出削減等を進めることとなります。

 このような対策が雇用創出や地域経済にも良い影響を生んでいる一つの例を見てみましょう。北海道標茶町では、市民と役場職員が地元の大学の知見も得ながら、廃棄物を資源にして地元に新産業を興す「地域ゼロ・エミッション」という構想をつくりました。間伐材と廃プラスチックを原料とする木質複合材の開発・製造等を進め、平成14年に株式会社を設立し事業を始めました。現在も地域で資源を循環させる経営を続け、人口8,500人の町で15人の雇用を維持しています。


(4)低炭素社会づくりに寄与する技術

 温室効果ガス排出量の大幅な削減は、既存技術やその延長戦上にある技術の普及だけでは決して達成できるものではありません。革新的な技術の開発が必要です。低炭素社会づくり行動計画では、「環境エネルギー技術革新計画」等に示された革新的技術を開発することが盛り込まれました。さらに、総合科学技術会議では、平成21年2月「2009年の科学技術政策の重要課題」について取りまとめた中で世界的な金融危機や地球環境問題等の中で、長期的展望をもったイノベーション政策を進める必要があるとされました。「環境エネルギー技術革新計画」に示された技術ロードマップ等の実施に向け、今後5年間で300億ドル程度を投入することとしています。そのうち、重点的に取り組むべきエネルギー革新技術である革新的太陽光発電、ハイブリッド自動車・電気自動車等、革新的製鉄プロセス、先進的原子力発電技術、燃料電池技術、超高効率ヒートポンプ等について、必要な予算を確保して開発を進めることとしています。そのほか、「二酸化炭素回収・貯留(CCS)」も組み合わせて、最終的には石炭火力発電のゼロ・エミッションを目指した石炭利用の高度化も盛り込まれています。これらの技術は、いずれも世界全体で今後の膨大な需要が見込まれ、開発に成功すれば、わが国の国際戦略商品、技術になるものと期待されています。


(5)資源生産性の向上に貢献する技術

 天然資源をふんだんに利用して経済発展することが難しくなり始めた現在、経済発展と環境保全を両立することができる循環的な資源の利用に世界の注目が集まっています。世界的に資源に過度に依存しない経済成長が進むことは、わが国が持つ資源生産性向上に関する優れた技術やシステムが普及するチャンスと考えることができます。次頁の表に挙げるような技術やシステムがアジアを始めとする開発途上国等の循環型社会づくりに活かされることで、世界全体の持続可能な発展に寄与することができます。


(6)環境分野に対する民間投資促進のための条件整備

 こうした環境技術を普及させるためには、機関投資家や個人投資家が環境分野への投融資に積極的に取り組める条件を整備し、SRIやコミュニティファンド等による資金調達を容易にしていくことが重要です。

 SRIとは、財務指標などの経済的側面に限らず、環境への取組やコンプライアンス(法令遵守)、従業員への配慮など企業の社会的な取組を考慮して投資を行うこととされています。

 欧米では、宗教観や倫理観といった理念から導き出されるモラル重視の考え方からSRIが始まり、わが国と比べて年金基金等の機関投資家が積極的に投資を行っています。一方、わが国のSRIは、環境問題への関心の高まりを受けて、平成11年に投資信託の一商品としてエコファンドが設定されたことに始まり、個人向けの投資信託が中心であるため、諸外国より全体額が小さくなっています。European SRI Study 2008によると、平成19年9月末現在のSRI資産総額は、日本が約8,400億円、アメリカが約292兆8,200億円、ヨーロッパ諸国が約407兆800億円でした。

 わが国において、SRIを始めとする環境への投融資を伸ばしていくためには、欧米のSRIなどに関する適切で十分な情報の普及、わが国の実情に合わせた情報開示制度や情報の正確性を確保する仕組みの創設などについて検討し、機関投資家の投資判断に資する取組が必要です。

 また、環境保全に対する市民の意識の高まりを背景として、コミュニティファンド等の取組が広がりつつあります。これは、組合出資などにより市民から調達した資金を原資とし、風力発電や太陽光発電の設置事業への投資や、リサイクルショップの運営など収益性のある社会的事業(コミュニティビジネス)への投融資を行う取組です。政府としても、これらの取組を推進する仕組みなどについて検討していく必要があります。


炭素生産性の向上


 低炭素社会を構築するに当たっては、これまでの大量生産、大量消費、大量廃棄を前提とした経済社会のあり方を見直し、同じ付加価値を生み出すためのエネルギー消費を削減していくというデカップリングを達成していかなくてはなりません。

 平成20年6月に発表されたマッキンゼー・グローバル研究所の分析レポート「炭素生産性に関する挑戦:気候変動抑制と持続可能な成長」の中では、これまで議論されてきた削減シナリオに適合するためには、現在二酸化炭素換算で1トン当たり740ドルの国内総生産となっている世界の炭素生産性を2050年までに10倍程度の7,300ドルまで増加させなければならないとしています。それによる経済的影響については、新たな低炭素化のためのインフラ整備のための投資手法によって違いが出てくるため一概には言えないものの、多くの国で国内総生産の増加が見られるであろうとされました。その上で、低炭素化に向けた改革を推進するための課題として次の5つを上げています。[1]費用対効果の優れた方法でエネルギー効率を高める機会を活用すること、[2]特に電力、石油、ガス部門でエネルギー源の脱炭素化を行うこと、[3]新たな低炭素化技術の開発と普及を加速化すること、[4]事業者と消費者の行動を変化させること、[5]特に世界の森林のような炭素吸収源を保全し、拡大すること。

 わが国の製造業における炭素生産性について考えてみましょう。(独)国立環境研究所が、二酸化炭素を対象に環境負荷の原単位を算出した「産業連関表による環境負荷原単位データブック(3EID)」を基に、炭素排出量1トン当たりの粗付加価値(百万円-2000年実質価格基準)を各産業についてみると、その大小には大きな開きがあります。ここで、その改善度合いをみると、1990年を1として1990年、1995年、2000年の3時点で比較したところ、個々の業種毎に生産性の向上程度には大きな開きがあり、食料品、化学製品、石油・石炭製品、非鉄金属、電気機械の分野については、炭素生産性を増加させていますが、他の分野については、かえって悪化しており、特段の改善努力が期待されます。


わが国の製造業の炭素生産性の推移



日本の代表的な3R技術


環境債務の企業会計への内在化


 今後、環境に配慮した企業活動を伸長し、健全な経済の発展を実現していく中で、企業会計においても環境に関連する会計基準の整備を進めていくことが重要です。

 平成22年度からは、そのような環境に関連する新しい会計制度が始まり、全上場企業に適用されます。平成20年3月31日に企業会計基準委員会が公表した「資産除去債務に関する会計基準」(企業会計基準第18号)等により、上場企業は、今後、土地や建物など保有する固定資産を将来において除去し売却等する際に支払わなければならない費用を「資産除去債務」として負債に計上することとなりました。資産除去債務には、固定資産の除去に当たって、それまでの事業活動に伴い発生した汚染の除去や処理を行う際の費用が含まれます。すなわち、将来の費用総額を把握し、これを減価償却費として各期に配分するため、企業は財務報告等において、環境に係る将来の費用(いわゆる「環境債務」)を含めた資産除去債務をあらかじめ計上することになります。


試算除去債務を組み込んだ貸借対照表のイメージ


制度施行前後の損益計算の比較

 このため、企業が大きな経営方針を定めるに当たって、あらかじめ環境の汚染を防止しようとする等、企業の環境に配慮した行動を促す働きがあり、この制度の導入により、汚染の未然防止や早期適正管理等が進むものと期待されています。また、環境負荷をコストとして把握することにより、各企業における業務の無駄の抑制にもつながります。

 この資産除去債務は、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)及び労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号)の規定に基づく石綿障害予防規則等で規定されているアスベスト建材の除去に係る措置や、ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理に関する特別措置法(平成13年法律65号、以下「PCB特別措置法」という。)で規定されているPCBの適切な処理、さらに土壌汚染対策法で規定されている特定施設廃止時等の調査等を含み、環境分野の具体的な法制度とも密接に関連しています。また、例えばわが国の固定資産の環境汚染の除去費等の費用が全体で数十兆円規模に及ぶと考えられているように、このような汚染の除去費用の一部が財務諸表に記載されることとなる本会計制度の変更は、経済や企業行動に大きな影響を与えます。

 今回の制度改正では、環境汚染の対策のための費用のすべてが資産除去債務として計上されるわけではないなどの点が、企業の環境対策を推し進める上での留意点として掲げられます。このような問題意識から、例えばEUでは、環境債務について、詳細に記述する方向での検討が進められています。わが国でも一部の先進的な企業では計上が義務付けられる資産除去債務の範囲を超えて、将来の環境債務の全体を把握し、開示する動きがみられます。

 今後、このような取組が広がる中で、企業活動における環境保全の取組が進み、個々の企業活動のレベルから環境と経済の統合的な向上が実現していくことが期待されています。


資産除去債務を含めた環境債務の全体を把握・公表している先進事例


3 環境対策における世界経済と日本の関係

 今日、環境問題は国内で完結せず、国境を超えて国際社会全体や多数の相手国と関係するようになっています。資源や原料の調達元における環境負荷を把握し、その負荷にも配慮しながら経済活動を進める等、環境対策においても世界経済を視野に入れた取組が重要になっています。


(1)バイオ燃料の確保に伴う課題

 全世界でのバイオエタノールの生産量は、平成13年の3,100万kLから平成19年の6,400万kLへと生産量が2倍以上増加しています。わが国では、平成19年にサトウキビから砂糖を作る際の副産物や建設廃材等を原料とするバイオエタノールが約30kL、廃食用油を原料とするバイオディーゼル燃料が約1万kL生産されていますが、各国と比較して、まだ生産量は少ない状況です。


世界のバイオエタノール生産量

 京都議定書目標達成計画において、平成22年までに原油換算で50万kLのバイオ燃料を導入することとしており、その達成に向けてさらなる導入の加速が求められます。一方で、バイオ燃料の開発・利用は食料との競合問題や森林破壊等の環境問題等を引き起こす恐れがあり、持続可能な利用や開発を図ることが重要です。こうした状況の中で、現在、EU、アメリカや国際バイオエネルギーパートナーシップ(GBEP)等の国際的な枠組みにおいて、わが国も含む各国の参加の下にバイオ燃料の持続可能性基準等の検討が進められています。例えば、平成20年12月に欧州議会で採択された「再生可能資源由来エネルギーの利用促進に関する欧州議会及び欧州理事会指令」にある「バイオ燃料等の持続性基準」においては、温室効果ガスの削減率、原料の生産地等の持続性基準を満たしたバイオ燃料だけが、導入目標の算定対象とできることなどを定めています。

 わが国においても、次世代バイオ燃料の生産技術の開発はもとより、こうした取組も参考に、持続可能なバイオ燃料の調達を進めて行かなくてはなりません。


2007年の世界のバイオ燃料生産量


(2)製品製造の流れ(サプライチェーン)全体を対象にした海を超えた環境対策

 ある総合化学メーカーでは、個々の製品の資源調達、製造、輸送、使用時、廃棄・リサイクルの各段階で生じる環境負荷を分析し把握する取組を行っています。この分析によると、家電メーカーや自動車メーカーと異なり、製品の使用時より、印刷製版用PS版の原料であるアルミの精錬や、複写機の構造用のスチールなど、資源の調達・加工時の二酸化炭素排出が大きいことが分かりました。例えば、資源の有効利用を目的に、使用済みのPS版を生産工程で投入すると、一から精錬する場合に比べて精錬から製造までの二酸化炭素排出量が74%削減できることから、同社では、海外からわが国に至るまでの製品のライフサイクル全体について、環境負荷を最適な形で合理的に削減する努力を続けています。


総合化学メーカーの二酸化炭素排出量の全体像


廃材アルミのクローズドループリサイクルの流れ


(3)持続可能な利用に結びつく調達の仕組み

 森林は気候変動を緩和するために重要ですが、世界の森林面積は減少を続けており、それに伴って、森林内に蓄えられた炭素が大気中に放出されています。

 森林保全の大きな阻害要因として、違法伐採が指摘されています。違法伐採には、所有権や伐採権がない森林の伐採、許可された伐採量や樹種を守らない伐採などのほか、先住民等の伝統的権利や伐採労働者の安全の観点などから問題があるような形での伐採など様々なものが含まれます。違法伐採は、生産国における森林の減少・劣化、国際市場での安価な流通による輸入国の持続可能な森林経営の阻害等により、世界の森林に大きな負の影響を与えています。わが国が多量の木材を輸入しているインドネシアでは約50%、ロシアでは約20%が違法伐採であるとの調査結果もあります。

 わが国は世界の森林の減少・劣化、違法伐採問題に対して、ODAを活用した技術協力や資金援助を行っています。また、国内では、グリーン購入法(平成12年法律第100号)で、平成18年から違法伐採対策として、「合法性」が証明された木材・木材製品を購入することが規定され、「持続可能性」についても配慮すべき事項とされました。「合法性」の確認は、林野庁のガイドラインに準拠して、以下の3つの方法が使われます。

 [1]森林認証制度を活用する方法

 [2]業界団体の認定を受けた事業者が証明する方法

 [3]事業者独自の取組により証明する方法

 また、森林を持続的に利用する仕組みとして、森林認証制度があります。森林が適切に管理されていることを個々の森林ごとに第三者機関が認証し、その森林から産出された木材を区分管理、ラベル表示することを通じ、消費者が選択的にこれらの木材を購入できるようにする民間主体の制度です。森林認証プログラム(PEFC)、森林管理協議会(FSC)、『緑の循環』認証会議(SGEC)などがあります。わが国における森林認証制度の認知度はまだ高いとはいえませんが、世界的には認証を受けた森林の面積が増加しており、生産国の森林認証への取組は着実に進んでいます。例えば、マレーシアの木材生産は、マレー半島とボルネオ島の北部の大きく2つに分かれていますが、ヨーロッパが主要な輸出先とされるマレー半島の森林(森林として管理計画に計上されている永久森林)では約97%が認証されています。他方、わが国が主要な輸出先とされるボルネオ島北部では0.9%しか認証されていません。私たちは、世界有数の木材輸入国として、合法性が証明された木材を選択的かつ積極的に利用することで、生産国の生物多様性の保全及び持続可能な利用に貢献することが求められています。


森林管理協議会(FSC)の認証森林面積


(4)途上国の公害克服と温暖化対策を同時に進める環境対策(コベネフィット対策)への協力

 新興国においては、急速な経済成長を遂げた一方で大気汚染や水質汚濁といった環境問題が深刻で緊急な課題となっています。環境汚染対策は、その工夫次第によっては温室効果ガスの削減にもつなげることができ、途上国が必要とする環境汚染対策と世界で取り組まなくてはならない温暖化対策の双方に役立ちます。わが国は、環境問題の解消と温暖化対策の促進という二つの問題解決を同時に図る取組を「コベネフィット・アプローチ」として、途上国はもとより国際社会に対しても、その採用を提唱してきました。平成20年度は、2件の事業を採用し、マレーシア及びタイにおいて着手したところです。


コベネフィットアプローチの概念


(5)循環型社会の形成に向けたわが国の経験・技術の展開

 アジアの開発途上国では、急速な都市化や人口集中により、廃棄物の散乱や無秩序な投棄が起こっています。また、処分場や家庭から有価物を回収し、生計を立てているウェイストピッカー(拾い人)と呼ばれる人々により、環境上・健康上不適切な形でリサイクルが行われている事例も存在します。また、経済成長が目覚ましい東アジア諸国の都市部等では、廃棄物収集・処理システムが整備される一方で、廃棄物の発生量そのものが増加しています。さらに、事業活動に伴う廃棄物処理やリサイクルについても、技術や情報が十分ではなく、不適切に行われている例が多く、廃棄物の発生抑制や循環利用及び適正な処理を強化することがますます重要です。


処分場で暮らすウェイストピッカー

 そのような中でわが国は、近年急速に都市化が進み、ゴミの収集量が増大しているハノイ市において、平成18年11月から3年間の予定で(独)国際協力機構(JICA)を通して、廃棄物管理に関する協力を進めています。都市ゴミの約半分を生ごみが占めることから、モデル地区において、生ごみの分別収集・リサイクル(コンポスト化)を導入し、3Rに関する普及活動や環境教育を行った結果、処分場への生ごみ搬入量が湿重量ベースで59%減少しました。

 わが国が廃棄物の処理やリサイクルに関する事業を途上国において展開する際の課題には、進んだ技術の導入に要する資金及び施設の維持管理に必要な人材や物資の不足、適正な廃棄物処理や循環型社会の形成に係る意義やメリットへの認識不足、実効性のある規制がないという制度上の問題などがあります。また、廃棄物の流れに関する情報の不足、知的財産の保護が未整備であるなども挙げられます。

 わが国の経験や技術を効果的に展開するには、適正な廃棄物処理や循環型社会の形成に係る意義やメリットを理解してもらい、廃棄物の排出者の行動を変えるインセンティブを与えることが重要です。


(6)環境人材の育成に向けた施策の展開

 アジアの急速な経済成長・工業化に伴う環境問題に対応し、長期的な視点で持続可能な社会づくりを担う人材が強く求められています。平成17年からの10年は、わが国の提案に基づき「国連持続可能な開発のための教育の10年(ESDの10年)」と位置づけられ、世界各国で持続可能な社会づくりのための人材育成が進められています。環境省では「日本を含むアジアにおいて自らの体験や倫理観を基盤とし、環境問題の重要性・緊急性について自ら考え、各人の専門性を活かして職業活動や市民生活等を通じて持続可能な社会づくりに取り組む強い意志を持ち、行動する人材(環境人材)」の育成に必要な方策を検討し、平成20年3月に「持続可能なアジアに向けた大学における環境人材育成ビジョン」を策定しました。この具体化のため「アジア環境人材育成イニシアティブ」として、平成20年度からわが国の大学・大学院が企業、行政、NPOやアジアの大学等と連携・協力して行う「環境人材育成のための大学教育プログラム開発事業」を実施しています。



前ページ 目次 次ページ