総説2 循環型社会の構築に向け転換期を迎えた世界と我が国の取組

第1節 循環型社会の構築に向け転換期を迎えた世界と我が国の取組

 21世紀は、環境の世紀と呼ばれていますが、アジアをはじめとして、開発途上国も急速に経済成長しつつあり、これとともに膨大な廃棄物が発生するようになってきています。また、廃棄物問題の深刻化とともに、資源需要の増大により需給のひっ迫が予想される各種資源の確保や地球温暖化問題も視野に入れることが必要となりつつあります。

 このような中で、我が国が江戸期に形成していた原始循環型社会について、再評価を行うとともに、2000年を前後して、新たな循環型社会を創出しつつあるプロセスについて検証します。我が国が経験してきた歩みは、多くの技術、制度、システムを生み出しており、我が国の今後のさらなる循環型社会づくりの展開のみならず、「もったいない」の考え方に即した低炭素社会、自然共生社会との統合的な取組、開発途上国等関係国の今後の施策づくりに大きく貢献できるのではないかと思われます。

1 国際的な廃棄物等の状況

 アジアを中心とした国際的な経済成長と人口増加に伴って、世界的に廃棄物の発生量が増大しています。

 経済協力開発機構(OECD)加盟国の一般廃棄物発生量に関する将来予測(OECD2030年への環境の概観)によれば、2005年(平成17年)時点でOECD加盟国の廃棄物の総排出量は1980年比で約1.7倍であり、2025年には同じく約2.2倍になると見積もっています。

 また、廃棄物の種類も、医療系廃棄物や、使用済みテレビやパソコン、冷蔵庫などの廃電気電子製品(E-waste)など多様化しています。


世界の廃棄物排出量の将来予測(2000年-2050年)


OECD諸国等における1人1日あたりの一般廃棄物の排出量(2005年)


(1) 廃棄物等の国境を越えたリサイクル

 中国などの旺盛な資源需要を反映して、天然資源の価格の高騰が生じています。また、金属くずや古紙、廃プラスチックなど有価で流通している循環資源については、中国を始めとした東アジア諸国の経済発展に伴う資源需要の増大につれて、これらの国々への輸出量が近年急増してきています。

 一方、国際的な循環資源の越境移動については、いくつかの重要な課題も上げられます。市場原理による循環資源の輸出に伴う国外への資源流出は国内のリサイクル産業の停滞・空洞化にもつながりかねず、長年かけて構築してきた我が国の廃棄物処理・リサイクル体制の安定的な維持・強化に支障を及ぼすとの懸念も指摘されています。


主な地域・資源種別の地球規模での資源採取の状況(1980年、2002年、2020年)


(2) 国際社会と我が国の取組 

 我が国は2004年のG8シーアイランドサミットにおいて、資源の有効利用を通じて環境と経済の両立を図る3R(廃棄物の発生抑制(リデュースReduce)、再使用(リユースReuse)、再生利用(リサイクルRecycle))を通じて循環型社会の構築を国際的に推進する「3Rイニシアティブ」を提唱しました。これはG8の新たなイニシアティブとして合意され、『持続可能な開発のための科学技術:「3R」行動計画及び実施の進捗』が発表されました。

 2005年4月の「3Rイニシアティブ閣僚会合」(東京)以降、「3Rイニシアティブ」が本格的に開始され、我が国は「3Rを通じた循環型社会の構築を国際的に推進するための日本の行動計画」(ゴミゼロ国際化行動計画)を発表しました。

 2008年4月には「資源効率性に関するOECD-UNEP国際会議」がパリで開催され、各国における取組のベストプラクティスの共有や資源効率性を向上させる取組が非常に重要であることが確認されました。また、OECD環境大臣会合においても、天然資源の消費抑制と環境負荷の低減の観点から、3Rへの取組や資源生産性の向上が極めて重要であると言う認識が再確認されました。


物質フロー情報の使用例と政策目標との関連

 これらの今後の世界の枠組み作りに貢献する上での指針として、我が国は、国内外挙げて取り組むべき環境政策の方向を明示した「21世紀環境立国戦略」を平成19年6月に閣議決定しました。この中で、今後1、2年で重点的に着手すべき8つの戦略の一つとして、「3Rを通じた循環型社会の構築」を掲げています。具体的には、「アジアでの循環型社会の構築に向けた取組」や「日本提唱の3RイニシアティブのG8での推進」などを柱としており、前者に関しては、持続可能な資源循環に関する日本の貢献を、東アジアでの循環型社会の構築に向けた基本的な考え方や目標を定めた「東アジア循環型社会ビジョン」の策定につなげ、東アジア全体で適正かつ円滑な資源循環の実現を目指すことなどとしています。

2 循環型社会の構築に向けた我が国の取組

(1) 循環型社会形成推進基本計画の概要

 循環型社会形成推進基本計画(平成15年3月閣議決定。以下、第1次循環型社会基本計画という。)を変更し、平成20年3月に閣議決定しました(以下、第2次循環型社会基本計画という。)。

 第1次循環型社会基本計画の策定以後、環境政策においては第3次環境基本計画(平成18年4月7日閣議決定)及び21世紀環境立国戦略(平成19年6月1日閣議決定)の策定という大きな動きがありました。

 こうした背景を踏まえ、平成19年8月24日に、中央環境審議会より「新たな循環型社会形成推進基本計画の策定のための具体的な指針について」が示され、循環型社会の形成に関し、講ずべき具体的な施策等について、特に重点的に検討する事項が挙げられました。

 具体的には、[1]持続可能な社会の実現に向け、循環型社会と低炭素社会、自然共生社会に向けた取組との統合的な展開、[2]循環型社会の姿を定量的に明確にし、必要に応じて目標水準の再設定や新たな補助指標を導入、[3]地域の特性や循環資源の性質等に応じた最適な規模の循環を形成する「地域循環圏」の構築やリデュース・リユースに関する取組の強化等の3Rの国民運動の展開、[4]国際的な視点から、3Rの推進に関する我が国の制度・技術・経験の国際的発信や東アジアにおける適切な資源循環のための施策の実施、の4点に関して、議論を深め、施策を具体的に示すこととされました。

 本指針を受けて策定した第2次循環型社会基本計画に基づき、今後、関係する施策を総合的に展開していきます。


持続可能な社会に向けた統合的取組の展開


第2次循環型社会基本計画の概要


物質フロー指標及び取組指標の充実


国際的な循環型社会の構築について


(2) 循環型社会形成のための指標及び数値目標

 循環型社会形成の定量的な把握のため、第2次循環型社会基本計画では物質フロー指標及び取組指標を設定しています。

 ア 物質フロー指標

 経済社会におけるものの流れ全体を把握する物質フローを算出し、どれくらいの資源が我が国の経済社会に投入され、そのうちどれだけが社会に蓄積され、エネルギーとして消費され、廃棄物等の発生に回り、発生した廃棄物等のうちどれだけが循環利用され、最終処分されたかという数値を把握し、物質フローの模式図(物質フロー図)を作成しています。


我が国における物質フロー(平成17年度)

 我が国全体の物質フローの「入口」、「循環」、「出口」の3つの断面について、それぞれ3つの指標(資源生産性、循環利用率及び最終処分量)の目標を設定しています。第2次循環型社会基本計画においては、目標年次は平成37年度(2025年度)頃の長期的な社会を見通しつつ、平成27年度(2015年度)に設定しています。

 「入口」については、資源生産性を設定し、平成27年度において約42万円/トンとすることを目標とします。目標値は、平成12年度(約26万円/トン)から概ね6割の向上にあたります。


資源生産性の推移

 「循環」については、循環利用率を設定し、平成27年度において、約14~15%とすることを目標とします。目標値は、平成12年度(約10%)から概ね4~5割の向上にあたります。なお、「経済社会に投入されるものの全体量」は天然資源等投入量と循環利用量の和です。


循環利用率の推移

 「出口」については、最終処分量を設定し、平成27年度において、約23百万トンとすることを目標とします。目標値は、平成12年度(約56百万トン)から概ね60%の削減にあたります。


1990年からの廃棄物の最終処分量の推移


 これら3つの「目標を設定する指標」に加え、[1]土石系資源投入量を除いた資源生産性、[2]低炭素社会への取組との連携、の2つの補助指標について、目標を設定しました。


 また、今後の施策展開の参考となる指標として、「推移をモニターする指標」を導入しました。

 特に効率的利用が必要な枯渇性資源であり、地球温暖化対策の観点から注目する必要のある「化石系資源に関する資源生産性」について計測します。

 地球規模の環境問題に対する認識を深める指標として、「隠れたフロー・TMR」という指標を盛り込みました。資源の採取等に伴い目的の資源以外に採取・採掘されるか又は廃棄物等として排出される「隠れたフロー」を含む関与物質総量(Total Material Requirement。以下「TMR」という。)は、資源利用の持続可能性や地球規模で与える環境負荷を定量的に表すための一つの目安と考えられます。


写真・持続不可能な資源採取の例


写真・資源採取後、植林を行う例 出典:国際連合大学 谷口正次氏


 イ 取組指標

 循環型社会の形成には、国はもとより、あらゆる関係主体がそれぞれの役割を果たしていくことが重要です。物質フロー指標が我が国全体の循環型社会への到達度を図る指標とすれば、取組指標は、関係主体による循環型社会形成のための手段に関する指標と言えます。

 なお、取組指標は、毎年の点検、分析結果を受けて、必要に応じて機動的な変更・拡充を行っていく必要があります。また、これらの指標は、地域における目標設定の参考となることが期待されています。



前ページ 目次 次ページ