第3節 アジア地域等の地球温暖化対策に関する我が国の貢献

1 アジア地域の環境の現状と将来予測

 今後大幅な温室効果ガス削減を実施していくためには、先進国だけでなく開発途上国の協力も不可欠です。特に、アジア地域は、近年経済成長が著しく、大気汚染や酸性雨などの問題も深刻化しており、各国が協力してその克服に貢献していく必要があります。


世界における地域別の経済成長率の推移


(1)中国、インド等の経済成長と温室効果ガス排出量

 現在、アジア諸国は急速な経済発展を続けており、特に、中国とインドの経済成長はめざましく、二酸化炭素排出量は、既に中国がアジア最大の排出国となっており、アメリカ(22.0%)に次ぎ世界第2位(19.0%)、インドも1970年代から排出量を増やし続け、我が国の排出量に迫る勢いとなっています。今後、二酸化炭素排出量は大幅に増加し、2030年には中国がアメリカを上回って世界最大の排出国に、インドもアメリカに次ぎ、第3位になると予測されています。


アジア諸国の二酸化炭素排出量の推移


二酸化炭素排出量上位5か国の将来予測


(2)中国、インド等における公害の状況

 アジア地域では、急速な経済成長等に伴い、様々な環境問題が発生しており、公害対策が急務となっています。特に都市部では大気汚染が深刻化しており、例えば、2004年時点の大気中の粒子状物質濃度が、WHOの大気質指針値の5倍に当たる100μg/m3を超える都市もあります。


アジアの主要都市の粒子状物質(PM)濃度(2004年)


2 我が国の公害克服の経験をアジア等にいかす

(1)基本的な考え方

 我が国がこれまで培った公害防止技術や省エネルギー技術、仕組み等を普及していくことで、アジア諸国等を低炭素社会へと導くことができます。


(2)コベネフィット型温暖化対策

 コベネフィット(相乗便益)とは、開発途上国の開発に対するニーズと地球温暖化防止を行うニーズとの両方を意識し、単一の活動から異なる2つの便益を同時に引き出すことを意味します。特に開発途上国では、公害対策に取り組みながら地球温暖化対策も進めるコベネフィット型温暖化対策が有効と考えられます。

 1997年の「日中環境モデル都市事業」として行われた中国貴陽市における環境改善プロジェクトでは、SOx等の汚染物質と106万7,400トンの二酸化炭素の削減が報告されています。平成19年12月には、中国との間で、コベネフィット型の共同研究・モデル事業を協力して実施することが表明され、また、バリ会議の際には、インドネシアとの間でコベネフィット型の取組に関する共同声明が発表されました。このほか、環境省では平成20年から、アジアの開発途上国における公害対策へのニーズに対応したCDM事業をモデル事業として実施することとしています。


コベネフィット型温暖化対策の考え方


(3) アジアEST(環境的に持続可能な交通)

 アジアの都市部の多くでは、近年急速に都市化が進み、自動車による様々な問題を抱えています。このような状況の中で、2005年から我が国と国連地域開発センター(UNCRD)のイニシアティブで「アジアEST地域フォーラム」が設立されました。2008年3月にシンガポールで行われた第3回フォーラムでは、我が国は今後ともアジア地域が一体となってESTを推進する協力体制、及びアジア諸国のコベネフィット型の取組を支援していく考えを表明しました。


(4)「クールアース・パートナーシップ」による資金援助

 ダボス会議において福田総理大臣は、温室効果ガスの排出削減と経済成長を両立させ気候の安定化に貢献しようとする開発途上国を支援するため、5年間で累計概ね100億ドル程度の資金供給を可能とする新たな資金メカニズム「クールアース・パートナーシップ」の構築を提案しました。クールアース・パートナーシップに基づき我が国とインドネシアとの間で、気候変動対策のための円借款の供与に向けての協議が進められています。また、平成20年1月には鴨下環境大臣がツバルを訪問し、具体的な支援策の検討を約束しました。このほか、平成20年2月にはアフリカのセネガルとマダガスカル、南米のガイアナに対して無償資金協力を行うことを決定しています。


アジア・太平洋地域の水問題と地球温暖化


 安全な飲料水を継続的に利用できない人口は世界で約11億人、とりわけアジア・太平洋地域は約6億人と、最も多くを占めています。地球温暖化が水を通じて人類に及ぼす影響は大きく、今後これらの問題の深刻化が懸念されています。

 平成19年12月、水問題についてアジア・太平洋諸国の首脳級が議論する初めての国際会議「第1回アジア・太平洋水サミット」が開催され、各国が協力して水問題に取り組んでいくことの重要性が確認されました。また、我が国は、アジア・モンスーン地域における水環境に関する情報基盤整備と人材育成を通じた水管理の向上を図るアジア水環境パートナーシップ事業などの取組を行っています。



(5)人材育成支援

 開発途上国において持続可能な社会づくりを進めていくためには、「ひとづくり」も重要な支援策の一つです。我が国は、(独)国際協力機構(JICA)等を通じて、現地の状況のモニタリングを行うほか、現地の人々に対してモニタリングや分析等の技術を伝えていく人材育成に対する支援を行なっています。さらに、環境省では、平成20年3月に「持続可能なアジアに向けた大学における環境人材育成ビジョン」を策定し、環境人材育成支援を進める他、アジア太平洋地域の21か国からなる「アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)」に拠出を行い、「持続可能な開発に向けた開発途上国の研究能力開発・向上プログラム(CAPaBLE)」において、開発途上国の人材育成に貢献しています。


むすび 低炭素社会の構築に向け、転換期を迎えた世界

 地球温暖化は確実に進みつつあり、私たちの地球は今、危機的な状況にあります。このままでは地球規模で生態系が劣化し、水不足や食糧危機、貧困問題などの世界を取り巻く様々な問題がますます深刻化するおそれがあります。ひいては、我々人類の生存基盤そのものも脅かしかねない状況にあり、社会経済の持続可能な発展に支障を来すおそれがあります。地球環境問題は、人間の安全保障の問題とも密接に関連し、人類が直面する最大の試練であると言うこともできるでしょう。そして、この試練を乗り越え、地球の危機を回避し、低炭素社会を構築して、次の世代に引き継いでいけるかどうかは、まさに、今を生きる私たちの決断と行動にゆだねられているのです。

 世界では、平成19年12月の気候変動枠組条約第13回締約国会議におけるバリ行動計画の合意を契機に、地球温暖化に対処するため、各国が深刻な利害対立を乗り越えながら、一丸となって実効性のある合意を積み重ねていく動きが高まっています。しかし各国間で立場や考え方の違いが生じてきており、今後、バリ行動計画で合意された京都議定書第一約束期間後の枠組みの実現に向けて、世界全体で取組を進めていくことは決して容易なことではありません。

 世界がこの問題に取り組むために、我が国は、環境先進国として、国際的な連携に基づく地球温暖化防止に向けた取組を主導していく必要があります。我が国は、自然と調和した生活文化や歴史を有し、また、環境・エネルギー問題を克服するための技術を培ってきました。地球規模で温室効果ガスを削減していくために、我が国には、地球温暖化対策を更に加速させ、同時に、開発途上国に対して我が国の経験をいかした国際協力を展開することが求められているのです。本年7月には、地球温暖化を始めとする環境問題を主要議題とする北海道洞爺湖サミットが開催されることとなっています。我が国は、このサミットにおいて議長国として、世界の温室効果ガス排出量を確実に減らしていくことができるよう、主要排出国全員が参加する仕組みづくりに向けて、責任をもって取り組んでいきます。

 地球温暖化問題は、資源やエネルギーを効率よく利用する努力を行いながら、大量生産、大量消費、大量廃棄型の社会経済活動や生活様式を見直すことを迫るものです。そして、低炭素社会の構築に向けては、社会を構成するあらゆるセクターが、地球の有限性を認識し、温室効果ガスの排出を最小化するための配慮を徹底することが必要です。今、地球の危機を回避するため、現在の社会を構成している一人一人が地球温暖化問題を自分の問題と捉え、直ちに行動を開始することが求められています。



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