第2節 転換期を迎えた世界とこれから

1 バリ行動計画に至るまでの道のり

(1)地球環境問題に対する国際社会のこれまでの歩み

 ア 国連人間環境会議

 国際社会が初めて環境問題を取り上げた1972年の国連人間環境会議では、南北格差が地球環境問題においても深い陰を落とすことを浮き彫りにした形となりました。


 イ 「持続可能な開発」の考え方

 環境政策と開発戦略を統合する枠組みを提供するべく、1987年、ブルントラント委員会最終報告書「我ら共通の未来」において、「持続可能な開発」という考え方が提唱され、その後の地球環境保全のための取組の重要な道しるべとなりました。


 ウ 気候変動枠組条約と京都議定書

 1992年、気候変動枠組条約が採択され、1994年に発効しました。同条約では、開発途上国の温室効果ガス排出量は少ないこと、産業革命以降の温室効果ガスの大部分は先進国によるものであること、各国の地球温暖化対策をめぐる状況や対応能力には差異があることなどから、「共通だが差異ある責任及び各国の能力」の原則に基づき、国ごとに異なる対策を講ずることが合意されました。

 さらに、先進国間の温室効果ガス排出量の削減を約束する京都議定書が、1997年の第3回締約国会議で採択されました。


(2) 今後の課題

 地球温暖化問題についての立場や考え方の違いは、先進国間や開発途上国間にも存在しています。先進国の間には、国別総量目標の決め方や基準年の設定など2013年以降の枠組み構築に関する議論が、あります。また、G77及び中国(国連における開発途上国のグループ)の間にも、近年の急速な経済成長が見込まれる中国やインド、ブラジルなどの新興国、石油輸出国機構(OPEC)とアラブの産油国グループ、地球温暖化の影響(海面上昇)に最も脆弱な小規模島嶼国連合(AOSIS)、アフリカ諸国などのグループがあります。

2 「待ったなし」の状況に追い込まれている人類

 IPCCの第4次評価報告書は、地球温暖化が進行し、その原因が人間活動であることをほぼ断定しました。また、気候変動について、最良のシナリオ(B1)による場合でも、過去の温室効果ガスが直ぐには吸収されないため、今世紀末(2090~2099年)の地球の平均気温は、20世紀末(1980~1999年)と比べ約1.8℃(1.1~2.9℃)上昇すると予測し、緩和策だけでなく、適応策を行わなければ、気候変動のリスクは防げないと指摘しています。同報告書で指摘しているような取り返しのつかない結果を生むリスクを回避するため、予防的な取組方法の考え方に基づき、直ちに世界全体で実効性のある具体的対策を実施すべきときを迎えているのです。


世界規模及び大陸規模の気温変化


今後の気温上昇の予測


3 これからの低炭素社会の構築に向けて

(1)福田総理大臣のダボス会議特別講演

 2008年(平成20年)1月のダボス会議では、地球温暖化について福田総理大臣が特別講演を行い、「クールアース推進構想」を提示し、以下の3点を提案しました。

 [1]2013年以降の枠組みでは、地球全体の温室効果ガスが次の10年から20年の間にピークアウト(増加の頂点を過ぎ減少に転じること)し、2050年には半減させるための方策を早急に検討するため国連に要請するとともに、バリ会議を受け、我が国は、主要排出国と共に、今後の温室効果ガス排出削減について国別総量目標を掲げて取り組む。その際、削減負担の公平さを確保するため、エネルギー効率等をセクター別に割り出し、削減可能量を積み上げること(セクター別アプローチ)等を考える。

 [2]国際環境協力では、エネルギー効率30%改善を世界が共有する目標とすることや、省エネ努力などの開発途上国の排出削減への取組に積極的に協力するとともに、気候変動で深刻な被害を受ける途上国を支援するため、100億ドル規模の資金メカニズム(クールアース・パートナーシップ)を構築する。

 [3]イノベーションでは、温室効果ガスの大幅削減に欠かせない革新的技術の開発と低炭素社会への転換を進め、我が国は今後5年間で300億ドル程度の資金を環境・エネルギー分野の研究開発に投入するとともに、我が国を低炭素社会に転換していくため、あらゆる制度を根本から見直すための検討に着手する。


(2)第4回G20対話

 2008年(平成20年)3月、第4回気候変動、クリーンエネルギー及び持続可能な開発に関する対話(いわゆる「G20対話」)が千葉市で開催されました。この対話は、2005年(平成17年)にイギリスで開催されたグレンイーグルズ・サミットにおける合意をきっかけに立ち上げられたものです。今回の対話は最終回に当たる第4回の対話で、温室効果ガス排出量の多い20か国(G8諸国、中国、インド等の新興国、その他の開発途上国)及び欧州委員会の環境・エネルギー担当閣僚が参加し、地球温暖化問題について意見交換を行いました。ちなみに、この20か国で世界の温室効果ガス排出量の約8割を占めています。今回の対話では、鴨下環境大臣と甘利経済産業大臣が全体の共同議長を務め、地球温暖化問題に対応するための「技術」、「資金及び投資」、「2013年以降の枠組みのあり方」に焦点を当てた議論が各国の大臣レベルで行われました。その結果、実効性のある2013年以降の枠組みの構築に向けて先進国と開発途上国とが一致して取り組んでいくという意識や政治的な機運が高まりました。なお、グレンイーグルズ・サミットにおける合意に基づき、G20対話の成果は2008年7月の北海道洞爺湖サミットで報告される予定です。


(3)北海道洞爺湖サミットに向けて

 バリ行動計画の採択をきっかけに、世界は、地球温暖化問題に対して一丸となって取り組む道を模索し始めました。各国の立場や主張の違いによる対立は依然として残っていますが、これまで京都議定書に不参加であったオーストラリアがバリ会議において同議定書への批准を表明するなど、明るい兆しも見え始めています。

 今年の7月には我が国で北海道洞爺湖サミットが開催され、地球温暖化問題が昨年に引き続き主な議題として取り上げられます。そのため我が国は、5月に主要開発途上国の参加も得て、G8環境大臣会合を神戸で開き、神戸イニシアティブを提唱するなど、準備を進めてきました。先進国自らの削減努力、環境と経済の両立を図る開発途上国や地球温暖化による被害が危惧される国々への支援策などの問題に道筋を付け、地球温暖化問題の解決に向って更に進んでいかなければなりません。我が国は、サミットの議長国として、主要排出国全員が参加する仕組みづくりに、責任を持って取り組んでいきます。



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